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陽芹孝介

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第五章 喪失と独占

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  九条の死……。それは皆に大きな衝撃を与えた。
  葵と歩は一度食堂に戻り、皆に九条の死を伝えた。
  五月と愛は涙し、赤塚や亜美は恐怖に怯えてるようだった。
  祥子の表情も決して明るくなく、マリアはよくわかっていない感じだった。
  しかし、感傷に浸っている暇も無い。
  葵と有紀はすぐに検死を行うべく、九条の部屋に向かった。
  部屋に入ると発見した時と同じで、九条がうつ伏せで倒れている。
  それを見て有紀は言った。
 「やりきれないな……。脱出したら生き返るのは理解しているが……親しき者が…例え一時的とはいえ、死ぬのは…」
  葵は言った。
 「こうして人の気持ちを弄ぶ……許せません…」
  なんとも言えない空気に、二人は包まれたが……有紀は言った。
 「ただ、感傷に浸っている時間も…我々にはない」
 「わかっています……。検死を始めましょう…」
  九条の遺体を仰向けにして、二人は検死を開始した。
  葵は九条の体を触りながら言った。
 「目立った外傷はありませんね……。死後硬直の具合からして…死後7~9時間と、いったところですか…」
  有紀が言った。
 「胃液の臭いが強い……嘔吐していた可能性がある……。となると、死因は薬物によるものかも知れないな…」
  葵は立ち上がり、遺体の周りを調べだした。
  ベットにテーブル、床などを調べ…何かを発見した。
 「これは……ティーカップですね。底に飲料の跡があります。昨夜に飲んだのでしょう…」
  葵はティーカップのとってをハンカチで包み、それを持った。
 「他に飲食の形跡はありませんね…」
  有紀が言った。
 「夕食は皆が食べている……とすれば、それだな」
 「ええ……おそらくは、これに毒物を仕込んだのでしょう……。しかし…」
  有紀が言った。
 「どこで入手したんだ?」
  葵は髪をクルクルさせながら言った。
 「そこです……。この世界に毒物は存在しません…」
  有紀も顎を擦っている。
 「考えられるのは……元々持っていた…」
 「現状、その可能性が高いですが……だとすれば、少し厄介です」
 「そうだな、元々所持していたという事は……犯人は常にそういった物を所持している危険人物か…」
  葵が言った。
 「殺意を持って、この世界に来た…」
  再び二人は沈黙したが、しばらくすると葵が言った。
 「まぁ、確証はないので……。それに薬物を入手する方法があるのかも知れません。可能性の一つとして、押さえておきましょう」
 「そうだな……。後は写真を撮って、一度引き上げよう」
  葵は五月に借りたデジカメで現場を撮った。
  デジカメは宿主が死んだ部屋を、ただ虚しく写した。
  写真を撮り終えた二人は、九条の部屋を出て、食堂に向かった。
  有紀が言った。
 「九条氏を失ったのは痛いぞ…」
 「そうです……まとめる人間が居なくなりましたからね…」
  九条は皆をバランスよく取りまとめていた。
  その九条が居なくなった今、バランスを取る者が居なくなり、脱出派と反対派の対立が激化する事は目に見えていた。
  食堂に戻ると、歩と祥子が口論をしていた。
 「団体行動をしないと危険だぞっ!」 
  歩が祥子に言っている。
  しかし、祥子は引かない。
 「嫌よ……意見の違う人達と、行動なんて一緒にできないわ…」
 「そんな事を言ってる場合じゃ…」
  予想通りの展開だった。
  テーブルを囲い口論してる中に、葵と有紀は入って行った。
  有紀が言った。
 「何を揉めているっ!」
  葵と有紀が戻った事に気付いた祥子は、二人に聞いた。
 「お帰りなさい……。で、死因は?…」
  葵は淡々と答えた。
 「死因は毒物による……おそらくはショック死か、中毒死。死後硬直の具合から、死後7~9時間…と、いったところです」
  歩が言った。
 「おい、葵君…毒物って…」
  葵は淡々と答えた。
 「そうです……この世界にあるはずのない物で、九条さんは死にました…」
  愛が言った。
 「自殺とか…」
  葵は否定した。
 「それはないです……。九条さんの性格上、責任を放棄して、自分だけドロップアウトするとは…考えられないです」
  歩も賛同した。
 「葵君のいう通りだ……。九条が自殺なんてあり得ない。だからこそ団体行動をして、身の完全を確保しないと…」
  しかし、祥子は反論する。
 「それこそ危険じゃないからしら?犯人は私達がまとまった所を……一網打尽するかもしれないわ」
  葵が言った。
 「団体行動を取るのは重要です。犯人が僕たちの中に、いた場合…お互いを見張る事ができます」
  葵の言葉に場は騒然とした。
  そんな中、赤塚が言った。
 「恐ろしい事を言わないで下さいっ!この中に殺人犯が……いるって事ですかっ?」
  赤塚は顔面蒼白だ。
  亜美も言った。
 「12人目がやったんじゃないの?…」
  葵は淡々と答えた。
 「今は全ての可能性があるのが現状です……。12人目の犯行と決めつける事はできません…」
  祥子が言った。
 「だったら尚更、私は団体行動を拒否するわ。殺人犯と行動を共に亜美するくらいなら……死んだ方がましよ…」
  死んだ方がまし……祥子の言葉に皆は黙るしかなかった。
  祥子は続けた。
 「私は部屋に戻るわ。話し合いも平行線だし、ここにいる意味はないわ…」
  歩が言った。
 「しかし、祥子ちゃん…」
  祥子は歩を遮った。
 「私は……九条さんの事をあまり知らない。でも悲しみは共有できる事を覚えていて…」
  そう言うと祥子は食堂を出ていった。
  悲しみは共有できる……。彼女なりに九条の死を、悲しんでいるのか……。
  歩が言った。
 「葵君……どうするんだ?」
  葵は髪をクルクルさせながら言った。
 「確かに祥子さんの言う事にも……一理あります…」
  歩は少し表情を硬くした。
 「葵君まで何を言ってんだよ?」
 「最後まで聞いて下さい……。僕が言うのはあくまでも、効率の話です…」
  五月が言った。
 「効率って、なんの?」
 「脱出調査の効率ですよ……。全員が一つにまとまって、引きこもると…どうしても効率が悪くなります…」
  歩は硬い表情を少し柔らかくした。
 「確かに…そうだ…」
 「それに、最大のポイントは……誰が死んでも、脱出さえすれば…全て解決すると、いう事です」
  亜美が言った。
 「どういう事?」
 「つまり、この中で一人でも生き残って、最後に脱出すれば……全員が生き返ります」
  赤塚が言った。
 「それは最初この世界に来た時に、聞きましたが……本当ですか?」
  葵はキッパリ言った。
 「本当です。これは僕や、歩さんに、有紀さんも既に経験済みです。まぁ死んでしまった場合はここでの記憶は無くなりますが…」
  五月は言った。
 「じゃあ、これからどうするの?」
  葵が言った。
 「僕はこれから全力で脱出方法を考えます。勿論、犯人の特定も同時にね…」
  歩が言った。
 「まさか……一人でやるつもりじゃ?」
  葵が言った。
 「僕もそこまで自信過剰ではありませんよ…」
  有紀が言った。
 「では、どうする?」
 「二手に別れましょう……。調査班と、後方支援班の二手に…」
  歩が言った。
 「後方支援って?」
 「まぁ……屋敷で待機して、食事の準備などです。難しく考えなくていいですよ…」
  有紀が言った。
 「どう別ける?」
  葵は髪をクルクルさせながら言った。
 「そうですね……。調査班はあまり人数をかけない方がいいでしょう……。そうですね……
機動力を考えて、3人がベストでしょう」
  愛が言った。
 「じゃあ、残りが屋敷ね…」
 「そうなります……。僕は調査班に入りますが…異論は?」
  葵の申し出に誰も異論はないようだ。
  葵は皆の反応を見て言った。
 「異論はないようですね……。では、僕とあと二人は…」
  有紀が手を上げた。
 「私が行こう……。歩、お前は屋敷に残れ…」
  歩は言った。
 「何でだよ?」
 「九条氏が居なくなった今、お前はここに残るべきだ。食事の事もあるからな…」
  そう言われると、歩は素直に納得した。
 「わかったよ……。じゃああと一人は…」
  五月が勢いよく手を上げた。
 「はいっ!私、私が行きますっ!」
  歩が言った。
 「五月ちゃん…危険だよ…」
  五月は言った。
 「心配無用です。月島葵の行くとこに五月あり…です」
  言ってる意味はよくわからないが、五月の決意は固そうだ。
  振り分けが決まったところで、葵が言った。
 「とりあえず僕たちは湖へ向かいましょう……。屋敷の方々は陸さんの部屋を見てください…」
  赤塚が言った。
 「何故ですか?」
  葵は口角を上げた。
 「もうすぐ正午です…」
  有紀が言った。
 「リセットのルールか…」
  葵は言った。
 「はい……この世界のリセットのルールも前回と同じか……確認する必要があります」
  歩は言った。
 「わかったよ……。陸君の部屋は俺たちに任せてくれ」
  葵は言った。
 「では、それぞれのやるべき事をやりましょう…」
  葵の号令で皆が立ち上がった。
  そんな中、葵は歩にこっそり声をかけた。
 「歩さん…」
 「ん?…なんだい?」
 「マリアという女性を、監視して下さい…」
  歩は目を見開いた。
 「まさか、彼女が…犯人だと?」
  葵は首を横に振った。
 「いえ、そういうわけでは……。ただ、彼女には何か引っ掛かります」
 「どうしてだい?」
 「死んだ人間が生き返る事を知っていました」
  歩は再び目を見開いた。
 「何だって?でも、彼女は記憶が……戻ったのか?」
 「そういう感じては無さそうです……。ただ、潜在的に覚えているのかも知れません」
 「どういう意味だい?」
 「彼女は、この世界を知っている……。つまり、僕たちとは別に…『以前、アマツカの世界を体験した』か、『彼女がアマツカ』、この二つが考えられます…」
 「それって…」
 「ええ…ですから監視をお願いします…」
  葵は髪をクルクルさせながら言った。
 「前者である事を、祈りましょう…」
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