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第三話 天才美人作家・小笠原桃子の災難
⑦
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サイン会は無事終了し……先程とはうって変わり、ホールには人は少なくなり、先程より静になった。
縁は言った。
「何故……こんな事を……」
咲には先程の怒りの表情はなく、少し諦めたようすだった。
咲は言った。
「さすがね……縁君……。桃子さんがあなたに拘る理由がわかったわ……」
咲は手すりに手を掛けて言った。
「私と桃子さんは良いライバル同士だった……。でも……」
縁は黙って聞いている。
咲は言った。
「あなたが現れてから……彼女の作品は変わったわ……。そうねぇ……何もなかった水槽に美しい魚が入ったように……作品に命が入ったようだった……」
咲の表情は険しくなった。
「そして……桃子さんは有名になった……。でも、私から見れば、そんなものは偽物よっ!」
咲はさらに激しく言った。
「私の方が才能はあるのに……。桃子さんはあなたと言う頭脳が手に入った……運がついた……。彼女には運しかないのよっ!許せない……」
縁は言った。
「どうして立花を殺した?そこまでしなくてよかっただろ?」
咲は笑いながら言った。
「ふふふ……バカな男だったわ……。素直に私の言うように、会場に火を着けておけば……死なずにすんだのに……」
縁は言った。
「やはり立花がイベント妨害を拒んだんだな……」
咲は吐き捨てるように言った。
「拒むどころか……あの男はサイン会に行きたいために、私の事を警察に話すと言ったの……だから殺した……」
「関係の無い人間を殺してまで……あんたは桃子さんを恨んでいたのか?」
「恨み?……ふんっ、彼女が絶望し、私の才能が世間に認められる……当然の事よ」
縁は言った。
「ふざけんなよ……ただのやっかみだろ?あんたは嫉妬してるだけだ」
咲は言った。
「黙れ……」
縁は続けた。
「桃子さんは決して運だけの人じゃないっ!彼女には……口では説明できない、人を惹き付ける不思議な雰囲気がある……あんたも気付いてんだろ?」
「黙れ……」
「あんたはそれに目をそらし、やっかんでるだけだっ!」
咲は激昂した。
「黙れって、言ってんでしょっ!!」
縁は怒鳴った。
「黙らねぇよっ!!あんたみたいな奴に、誰かの可能性を奪う権利なんてないんだよっ!!」
咲は呆然とし、そして歯をギリギリ食い縛った。
「あんたなんかに……あんたに何がわかんの……!?」
すると咲は縁の背後を見て、目を見開いた。
縁もつられるように、後ろを見ると……そこには、桃子がいた。
縁は言った。
「桃子さん……何でここに?……」
縁はこの場に桃子がいることに少しだが動揺した。有村に頼んで、イベント終了後に桃子を安全な場所に保護する手はずになっていたからだ。
桃子はこちらに向かって歩いて来た。
桃子は縁の前に立ち、縁の肩をポンと叩き、咲の元へ歩いて行く……。
縁は慌てて言った。
「待てっ!桃子さん……」
縁の呼び掛けに構わず、桃子は歩く。
すると咲は隠し持っていたナイフを取り出して、桃子に向けた。
咲は言った。
「最初から……最初からこうしていればよかったっ!あんたを……あんたを殺してれば……」
縁は叫んだ。
「よせっ!……行くなっ!桃子さんっ!」
咲は桃子の登場によって錯乱ぎみだ。今、咲に近づくのは危険だ。
桃子はそれでも歩くのを止めない。
そして桃子は咲の目の前に立った。
咲はナイフを構えて震えている。
すると桃子は咲のナイフを持つ手を握り、そして何と……ナイフを自分の左二の腕に突き刺した。
その行動に縁と咲は唖然とした。
桃子の左腕は血がダラダラと流れている。
しかし桃子の表情は変わらない。
すると次の瞬間、桃子は右手で咲の頬をおもいっきり、平手打ちをした。
パァーンッという音が、その場に響いた。
桃子は怒鳴った。
「この……馬鹿者がっ!」
咲は打たれた頬をを押さえて、ただ唖然としている。
桃子はナイフを抜いて投げ捨て、そして桃子は右腕で咲を強く抱き締めた。
桃子は優しい声で言った。
「何故……一人で抱え込んだ?」
咲は言った。
「桃子……さん……」
「気づいてやれなくて……すまない……」
桃子は続けた。
「私の事は……嫌いでも、恨んでもいい……。だから、小節を書くのを……絶対に辞めるな……お前は私の大事な仲間だ」
咲は何から解放されたように、泣き崩れた……。まるで母の胸で泣く、娘のように……。
やがて警察が到着し、有村と今野が咲を連行して行った。
縁は桃子の二の腕を、自分の着ていたシャツで縛って止血した。
「まったく……無茶しやがって……何でこんな真似を?」
桃子はおとなしく縛られながら言った。
「咲が苦しんでいる事に気付かなかった……戒めだ……」
「まったく……すぐに病院へ行くぞ……」
桃子は言った。
「なぁ……縁……」
「何だよ?……」
「お前……私を気遣って、一人で行動したな……部員が犯人だと私が悲しむと思い……」
「何だよ?急に……」
「有村警視から聞いたよ……」
縁は舌打ちをした。
「チッ……有村さん……余計な事を……」
縁は桃子に肩を貸し、二人は立ち上がった。
「さぁ……病院へ行くぞ……」
桃子は縁に言った。
「ありがとう……」
縁は口角を上げて言った。
「らしくねぇぞ……」
……2日後…喫茶店風の声……
「で、桃子ちゃんは?」
有村はコーヒーをすすりながら縁に聞いた。
縁は言った。
「傷は意外と浅かったから……元気さ……」
有村は言った。
「でも……よく時限式発火装置が仕込まれてるってわかったね……」
縁は言った。
「ネットの掲示板の書き込みに書いてあったんだよ……『ぼや騒ぎを起こしたら面白い』ってね……。それで思ったんだ、こいつを利用するってね……」
有村は言った。
「なるほど……それでステージ裏の発火装置に気付いたのか……」
縁は言った。
「咲さんは……どうしてる?」
有村は言った。
「素直に自供してるよ……縁との会話にあった通りさ……」
縁は言った。
「やっぱ……事件は嫌いだ……」
「僕もだよ……事件は起こしたくない……でも、事件が起きてからでないと僕たちは動けない……情けない……」
その時店の扉が開いて客が来た。
巧は言った。
「いらっしゃ……ああ、先生……」
店に来たのは桃子だった。
有村は言った。
「桃子ちゃん……傷はどう?」
桃子の二の腕には包帯が巻かれていた。
「どうって事はない……それより警視殿、この間は世話になった」
「いえいえ……」
桃子は縁に言った。
「縁……凄いぞっ!」
「何が?」
「この間のイベント……300人来ていたようだ……さすがは私のサイン会だ……」
「んだよ……自慢話かよ……」
「まぁ……それもだが……気になった事があってな……」
「気になった事が?」
桃子は顎を擦りながら言った。
「イベントの前の日の夕方、私が醤油を買いに外に出た時に……女性に会った話をしただろ?」
「ああ……綺麗って言ってた……」
「どうやらサイン会に来ていたようなんだ……」
縁は言った。
「なんだ……桃子さんのファンだったのか……」
「それはどうかわからないが……縁の事を知っている感じだったぞ」
「えっ?……何で?」
桃子は言った。
「早口の英語だったから……しっかりとは聞き取れなかったが……確かに『Enishi』と言っていた……」
縁は首を傾げた。
「英語か……しかも女……」
桃子は言った。
「知り合いか?」
「外国人の知り合いは、結構いるけど……顔を見てないからわかんねぇよ。それより、そんな事を言いに来たわけ?」
桃子は言った。
「それだけでわざわざ来るかっ!」
「じゃあ何?」
「今晩……美味い物……食べたくないか?」
縁は警戒した。
「食いたいけど……裏があるんじゃ?」
桃子は少し膨れて言った。
「人聞きの悪い事を言うなっ!今回、縁には随分世話になったからな……その礼だ。縁のお母様も呼んである……」
母の前では桃子は何故か猫を被ってるので、無茶は言わないはずだ。
「わかった……行くっ!」
縁は立ち上がった。
桃子は言った。
「今日は中華だ……美味いところを見つけたんだ……」
「そりゃあ、楽しみだ……」
縁は有村と巧に言った。
「じゃあ、有村さんと、たっくん……また……」
縁と桃子は店から出て行った。
有村は呟いた。
「ほんとに……良いコンビだ……」
もうすぐ夏は終わり、季節は変わるが……あの二人は変わらないと、有村は思っていた。
縁は言った。
「何故……こんな事を……」
咲には先程の怒りの表情はなく、少し諦めたようすだった。
咲は言った。
「さすがね……縁君……。桃子さんがあなたに拘る理由がわかったわ……」
咲は手すりに手を掛けて言った。
「私と桃子さんは良いライバル同士だった……。でも……」
縁は黙って聞いている。
咲は言った。
「あなたが現れてから……彼女の作品は変わったわ……。そうねぇ……何もなかった水槽に美しい魚が入ったように……作品に命が入ったようだった……」
咲の表情は険しくなった。
「そして……桃子さんは有名になった……。でも、私から見れば、そんなものは偽物よっ!」
咲はさらに激しく言った。
「私の方が才能はあるのに……。桃子さんはあなたと言う頭脳が手に入った……運がついた……。彼女には運しかないのよっ!許せない……」
縁は言った。
「どうして立花を殺した?そこまでしなくてよかっただろ?」
咲は笑いながら言った。
「ふふふ……バカな男だったわ……。素直に私の言うように、会場に火を着けておけば……死なずにすんだのに……」
縁は言った。
「やはり立花がイベント妨害を拒んだんだな……」
咲は吐き捨てるように言った。
「拒むどころか……あの男はサイン会に行きたいために、私の事を警察に話すと言ったの……だから殺した……」
「関係の無い人間を殺してまで……あんたは桃子さんを恨んでいたのか?」
「恨み?……ふんっ、彼女が絶望し、私の才能が世間に認められる……当然の事よ」
縁は言った。
「ふざけんなよ……ただのやっかみだろ?あんたは嫉妬してるだけだ」
咲は言った。
「黙れ……」
縁は続けた。
「桃子さんは決して運だけの人じゃないっ!彼女には……口では説明できない、人を惹き付ける不思議な雰囲気がある……あんたも気付いてんだろ?」
「黙れ……」
「あんたはそれに目をそらし、やっかんでるだけだっ!」
咲は激昂した。
「黙れって、言ってんでしょっ!!」
縁は怒鳴った。
「黙らねぇよっ!!あんたみたいな奴に、誰かの可能性を奪う権利なんてないんだよっ!!」
咲は呆然とし、そして歯をギリギリ食い縛った。
「あんたなんかに……あんたに何がわかんの……!?」
すると咲は縁の背後を見て、目を見開いた。
縁もつられるように、後ろを見ると……そこには、桃子がいた。
縁は言った。
「桃子さん……何でここに?……」
縁はこの場に桃子がいることに少しだが動揺した。有村に頼んで、イベント終了後に桃子を安全な場所に保護する手はずになっていたからだ。
桃子はこちらに向かって歩いて来た。
桃子は縁の前に立ち、縁の肩をポンと叩き、咲の元へ歩いて行く……。
縁は慌てて言った。
「待てっ!桃子さん……」
縁の呼び掛けに構わず、桃子は歩く。
すると咲は隠し持っていたナイフを取り出して、桃子に向けた。
咲は言った。
「最初から……最初からこうしていればよかったっ!あんたを……あんたを殺してれば……」
縁は叫んだ。
「よせっ!……行くなっ!桃子さんっ!」
咲は桃子の登場によって錯乱ぎみだ。今、咲に近づくのは危険だ。
桃子はそれでも歩くのを止めない。
そして桃子は咲の目の前に立った。
咲はナイフを構えて震えている。
すると桃子は咲のナイフを持つ手を握り、そして何と……ナイフを自分の左二の腕に突き刺した。
その行動に縁と咲は唖然とした。
桃子の左腕は血がダラダラと流れている。
しかし桃子の表情は変わらない。
すると次の瞬間、桃子は右手で咲の頬をおもいっきり、平手打ちをした。
パァーンッという音が、その場に響いた。
桃子は怒鳴った。
「この……馬鹿者がっ!」
咲は打たれた頬をを押さえて、ただ唖然としている。
桃子はナイフを抜いて投げ捨て、そして桃子は右腕で咲を強く抱き締めた。
桃子は優しい声で言った。
「何故……一人で抱え込んだ?」
咲は言った。
「桃子……さん……」
「気づいてやれなくて……すまない……」
桃子は続けた。
「私の事は……嫌いでも、恨んでもいい……。だから、小節を書くのを……絶対に辞めるな……お前は私の大事な仲間だ」
咲は何から解放されたように、泣き崩れた……。まるで母の胸で泣く、娘のように……。
やがて警察が到着し、有村と今野が咲を連行して行った。
縁は桃子の二の腕を、自分の着ていたシャツで縛って止血した。
「まったく……無茶しやがって……何でこんな真似を?」
桃子はおとなしく縛られながら言った。
「咲が苦しんでいる事に気付かなかった……戒めだ……」
「まったく……すぐに病院へ行くぞ……」
桃子は言った。
「なぁ……縁……」
「何だよ?……」
「お前……私を気遣って、一人で行動したな……部員が犯人だと私が悲しむと思い……」
「何だよ?急に……」
「有村警視から聞いたよ……」
縁は舌打ちをした。
「チッ……有村さん……余計な事を……」
縁は桃子に肩を貸し、二人は立ち上がった。
「さぁ……病院へ行くぞ……」
桃子は縁に言った。
「ありがとう……」
縁は口角を上げて言った。
「らしくねぇぞ……」
……2日後…喫茶店風の声……
「で、桃子ちゃんは?」
有村はコーヒーをすすりながら縁に聞いた。
縁は言った。
「傷は意外と浅かったから……元気さ……」
有村は言った。
「でも……よく時限式発火装置が仕込まれてるってわかったね……」
縁は言った。
「ネットの掲示板の書き込みに書いてあったんだよ……『ぼや騒ぎを起こしたら面白い』ってね……。それで思ったんだ、こいつを利用するってね……」
有村は言った。
「なるほど……それでステージ裏の発火装置に気付いたのか……」
縁は言った。
「咲さんは……どうしてる?」
有村は言った。
「素直に自供してるよ……縁との会話にあった通りさ……」
縁は言った。
「やっぱ……事件は嫌いだ……」
「僕もだよ……事件は起こしたくない……でも、事件が起きてからでないと僕たちは動けない……情けない……」
その時店の扉が開いて客が来た。
巧は言った。
「いらっしゃ……ああ、先生……」
店に来たのは桃子だった。
有村は言った。
「桃子ちゃん……傷はどう?」
桃子の二の腕には包帯が巻かれていた。
「どうって事はない……それより警視殿、この間は世話になった」
「いえいえ……」
桃子は縁に言った。
「縁……凄いぞっ!」
「何が?」
「この間のイベント……300人来ていたようだ……さすがは私のサイン会だ……」
「んだよ……自慢話かよ……」
「まぁ……それもだが……気になった事があってな……」
「気になった事が?」
桃子は顎を擦りながら言った。
「イベントの前の日の夕方、私が醤油を買いに外に出た時に……女性に会った話をしただろ?」
「ああ……綺麗って言ってた……」
「どうやらサイン会に来ていたようなんだ……」
縁は言った。
「なんだ……桃子さんのファンだったのか……」
「それはどうかわからないが……縁の事を知っている感じだったぞ」
「えっ?……何で?」
桃子は言った。
「早口の英語だったから……しっかりとは聞き取れなかったが……確かに『Enishi』と言っていた……」
縁は首を傾げた。
「英語か……しかも女……」
桃子は言った。
「知り合いか?」
「外国人の知り合いは、結構いるけど……顔を見てないからわかんねぇよ。それより、そんな事を言いに来たわけ?」
桃子は言った。
「それだけでわざわざ来るかっ!」
「じゃあ何?」
「今晩……美味い物……食べたくないか?」
縁は警戒した。
「食いたいけど……裏があるんじゃ?」
桃子は少し膨れて言った。
「人聞きの悪い事を言うなっ!今回、縁には随分世話になったからな……その礼だ。縁のお母様も呼んである……」
母の前では桃子は何故か猫を被ってるので、無茶は言わないはずだ。
「わかった……行くっ!」
縁は立ち上がった。
桃子は言った。
「今日は中華だ……美味いところを見つけたんだ……」
「そりゃあ、楽しみだ……」
縁は有村と巧に言った。
「じゃあ、有村さんと、たっくん……また……」
縁と桃子は店から出て行った。
有村は呟いた。
「ほんとに……良いコンビだ……」
もうすぐ夏は終わり、季節は変わるが……あの二人は変わらないと、有村は思っていた。
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