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端書 異世界にて
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光が高速で視界の端へと流れていく。アスファルトを蹴る音だけが夜の街に響く。
逃げなければ、逃げなければ。
枯れた風が吹き付け肺が凍る。鼓動が脳に響く。
『ヴヴ……』
せめて、せめて、家族が残してくれた時間は…はや…く…
思考が停止する。しかし荒れる息は前へ前へと急かす。
ペースなど知ったものか。腕を乱雑に振る。
『ヴヴヴ……』
力無い足取り。
パタパタと響き始めた足音。
腕の筋肉の緊張が、酸素の欠乏が痛みとなりひしひしと刺さる。
『ヴヴヴヴ……』
臀部に乳酸が噛みつく。
それは前腿へと侵食し重い足枷となった。
いや、まだ終わらない。終わってなるものか。
『ヴヴヴヴヴ……』
まだだ、まだ、ま、だ、、
足を引きずるように運ぶ。感覚は消え失せ、脳からの危険信号だけが身体を痺れさせる。
ズゥゥッ、ズゥッ、ズッt
足はついに……止まった。
しまった───
目の前に”奴ら“が表れる。
自分を庇うように殺された、血まみれの家族。
奴を見ただけで頭が悍ましい景色に支配される。
粘液のようなモノを絡みつかせた黒い甲殻。血濡れたハサミのような手。
視界が狭まり脳が状況の認識を拒否する。
虫のような羽、足。
ガラス玉のような頭。
鉄の味が口いっぱいに広がる。
自分の凶運を掠れた声で嗤った。
なんだか可笑しくなってきた
ごめんね、ごめん、ごめんなさい。もう、だめっぽい。
認識の端っこで人の声。
…ここ、は危ない、よ?
声にならない音を微かに発する。
そして視界は暗転した。
・・・
……悪い夢だ。
どうやら私の脳は一器官の分際で主人をイライラさせるのが上手いらしい。
よろよろと立ち上がりシャツをひったくる。
…発端は某SNSで何処でも肝試しが行えるアプリがあるという噂だった。
そのアプリを開くと怖さでランキングされた表が表示され、そのマスのいずれかを選択すると儀式の内容が出るという。その儀式を行うと亡霊や怪物が見える、というものだった。
それだけならばよかったのだが。
配信から5日くらいで1万ダウンロードを突破した。
そしてその頃から行方不明や不審死を遂げる者が出始めたのだ。
いたる部位が融けたうえに穴だらけの死体。
半身は凍りつき半身は燃えている死体───などなど
そのアプリは出た7日目に削除された。儀式自体が難解だったためダウンロード数の割には不審死・行方不明事件は17件に留まったが人類が人智を超える脅威と接触したことに変わりはなかった。
ボサボサの髪を手早く梳しゴムを咥え、ガサツにまとめ上げる。下着にシャツ1枚というだらしのない格好で紅茶を淹れトースターにレーズン入りバターロールを手荒く突っ込む。
今日初めて焼くのでタイマーを3分以降に一旦設定する。
…アプリの件は果たして収束したかのように見えた。
これは日本国内に留まらず国外でも似たような事件が起き始めたのだ。
建造物のない針葉樹林での半径3kmに及ぶ爆発。
一晩にして文字通り消え去った町。
動画投稿サイトには次から次へとその怪異を収録した動画で満ち溢れた。
全く便利な世の中だ。携帯一つあれば狂気と焦燥の渦へと不特定多数を陥れるに足りるのだから。
死者や精神病院に入院する患者は右肩上がりに急増した。
しかしそれにあたりいつまでも無力な人類ではなかった。
人類の良いところは他の動物より少し進んだ知恵があること、数が無駄に多いこと、そして行動力があることである。
多くの国々が対策本部を設置した。珍しく早かった我が国の対応は国民を驚かせた。(当時の首相、奈部氏の支持率が急上昇したのは言うまでもない。)
一連の騒動から4年後そんな我が国の対策本部、の、下っ端組織、“PLAYERs“に私、加多 舞羽はいた。
「あと2分か……」
焼けるまでの間に紅茶を少し啜り、軽い体操をする。
股関節や肩がコキッという音を合図に熱を帯び、新鮮な酸素が脳に送られる。
うん、暖かな朝日。
しばらくして忠実なトースターは主人に任務の完了を知らせる。
焼きあがったレーズン入りバターロールを咥え、わりかしタイトでシンプルなズボンを履く。
まろやかなバターの香がほんのり口内に満ちた。
これが気怠い毎朝の楽しみ。
簡素な朝食を済ませると歯磨きと洗顔、化粧は薄く。次いで拳銃の動作を確認しホルスターを装着する。
「そろそろ出発かな?」
朝は7時。
上着をバサァッと大袈裟に羽織り、袖を通す。
“相棒”と鞄を担ぐと私は鏡の中の自分に不敵に笑った。
”PLAYERs“の主任務は怪異を市民の生活の中から発見、排除し、出来る限り隠蔽すること。その為には手段は問わない。
例え私自身が死ぬことになろうとも。
…この悪夢は誰にも見させはしない。
私は力強く地を蹴った。
逃げなければ、逃げなければ。
枯れた風が吹き付け肺が凍る。鼓動が脳に響く。
『ヴヴ……』
せめて、せめて、家族が残してくれた時間は…はや…く…
思考が停止する。しかし荒れる息は前へ前へと急かす。
ペースなど知ったものか。腕を乱雑に振る。
『ヴヴヴ……』
力無い足取り。
パタパタと響き始めた足音。
腕の筋肉の緊張が、酸素の欠乏が痛みとなりひしひしと刺さる。
『ヴヴヴヴ……』
臀部に乳酸が噛みつく。
それは前腿へと侵食し重い足枷となった。
いや、まだ終わらない。終わってなるものか。
『ヴヴヴヴヴ……』
まだだ、まだ、ま、だ、、
足を引きずるように運ぶ。感覚は消え失せ、脳からの危険信号だけが身体を痺れさせる。
ズゥゥッ、ズゥッ、ズッt
足はついに……止まった。
しまった───
目の前に”奴ら“が表れる。
自分を庇うように殺された、血まみれの家族。
奴を見ただけで頭が悍ましい景色に支配される。
粘液のようなモノを絡みつかせた黒い甲殻。血濡れたハサミのような手。
視界が狭まり脳が状況の認識を拒否する。
虫のような羽、足。
ガラス玉のような頭。
鉄の味が口いっぱいに広がる。
自分の凶運を掠れた声で嗤った。
なんだか可笑しくなってきた
ごめんね、ごめん、ごめんなさい。もう、だめっぽい。
認識の端っこで人の声。
…ここ、は危ない、よ?
声にならない音を微かに発する。
そして視界は暗転した。
・・・
……悪い夢だ。
どうやら私の脳は一器官の分際で主人をイライラさせるのが上手いらしい。
よろよろと立ち上がりシャツをひったくる。
…発端は某SNSで何処でも肝試しが行えるアプリがあるという噂だった。
そのアプリを開くと怖さでランキングされた表が表示され、そのマスのいずれかを選択すると儀式の内容が出るという。その儀式を行うと亡霊や怪物が見える、というものだった。
それだけならばよかったのだが。
配信から5日くらいで1万ダウンロードを突破した。
そしてその頃から行方不明や不審死を遂げる者が出始めたのだ。
いたる部位が融けたうえに穴だらけの死体。
半身は凍りつき半身は燃えている死体───などなど
そのアプリは出た7日目に削除された。儀式自体が難解だったためダウンロード数の割には不審死・行方不明事件は17件に留まったが人類が人智を超える脅威と接触したことに変わりはなかった。
ボサボサの髪を手早く梳しゴムを咥え、ガサツにまとめ上げる。下着にシャツ1枚というだらしのない格好で紅茶を淹れトースターにレーズン入りバターロールを手荒く突っ込む。
今日初めて焼くのでタイマーを3分以降に一旦設定する。
…アプリの件は果たして収束したかのように見えた。
これは日本国内に留まらず国外でも似たような事件が起き始めたのだ。
建造物のない針葉樹林での半径3kmに及ぶ爆発。
一晩にして文字通り消え去った町。
動画投稿サイトには次から次へとその怪異を収録した動画で満ち溢れた。
全く便利な世の中だ。携帯一つあれば狂気と焦燥の渦へと不特定多数を陥れるに足りるのだから。
死者や精神病院に入院する患者は右肩上がりに急増した。
しかしそれにあたりいつまでも無力な人類ではなかった。
人類の良いところは他の動物より少し進んだ知恵があること、数が無駄に多いこと、そして行動力があることである。
多くの国々が対策本部を設置した。珍しく早かった我が国の対応は国民を驚かせた。(当時の首相、奈部氏の支持率が急上昇したのは言うまでもない。)
一連の騒動から4年後そんな我が国の対策本部、の、下っ端組織、“PLAYERs“に私、加多 舞羽はいた。
「あと2分か……」
焼けるまでの間に紅茶を少し啜り、軽い体操をする。
股関節や肩がコキッという音を合図に熱を帯び、新鮮な酸素が脳に送られる。
うん、暖かな朝日。
しばらくして忠実なトースターは主人に任務の完了を知らせる。
焼きあがったレーズン入りバターロールを咥え、わりかしタイトでシンプルなズボンを履く。
まろやかなバターの香がほんのり口内に満ちた。
これが気怠い毎朝の楽しみ。
簡素な朝食を済ませると歯磨きと洗顔、化粧は薄く。次いで拳銃の動作を確認しホルスターを装着する。
「そろそろ出発かな?」
朝は7時。
上着をバサァッと大袈裟に羽織り、袖を通す。
“相棒”と鞄を担ぐと私は鏡の中の自分に不敵に笑った。
”PLAYERs“の主任務は怪異を市民の生活の中から発見、排除し、出来る限り隠蔽すること。その為には手段は問わない。
例え私自身が死ぬことになろうとも。
…この悪夢は誰にも見させはしない。
私は力強く地を蹴った。
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