白衣の下2 イケメン営業マンとアラフォー理系女のエッチな関係

高野マキ

文字の大きさ
5 / 16

再会

しおりを挟む
いつか 日本に戻ってくるのだろうか?

岩井先生から彼女の生い立ちは聴けなかったが、相当優秀な家系に違いないだろう…な


もう 戻らないかもしれない… 惚れた男を簡単に捨て去れるんだから   ショウジョウバエ… 小学生の時 ビンに入れて繁殖させたような…目玉の赤い小さな蝿…か そいつに一生を捧げるつもりなんだろうか…

ショウジョウバエにも腹が立つ


結局 岩井先生に会ったが 何も解決できなかった…



解決できるはずがない。それは波彦自身の問題。
相手のプロフィールを知ろうが この恋を応援されようが波彦自身が変わらなければ 白井ユミには遠く及ばない事をまだ気づいていないのだから…


  「うっ…くっ! 」

     やめろっ 「あーっ」


       やめてくれ  


「うぅー …」   





魂が抜けた 抜け殻でも 躰は簡単に反応した。


1LDKの賃貸に戻ると 不安気な表情の愛美が
「波彦君っ」としがみついて来た。


柔らかい胸の塊が、汗で濡れたカッターシャツを通して肌を包み込んでくる。


「愛美 汗だくだから 汚いよ!」


「いいの   いいのよ、 波彦君 無事に帰って来てくれただけで」



「愛美ぃ…ごめん」

女の包み込むような愛情に溺れたかった。誰でもよかった。とにかく安心したかった。俺は大丈夫だと…温かい肉に埋もれながら疲れた心を癒して欲しかったんだ。




君の中で …

気持ちは熱いのに 躰は反応しない。

「いいのよ  波彦君 心配しないで!あたしに任せて」

ソファに倒れ込むよにどっかりと腰を下ろしたら 躰の筋肉がいっぺんに脱力した。ダラリと首から背中を背もたれに埋めたとき、
何故か高級家具を奮発して良かったと心底思えた。


2本の脚の間に割って入ってきた愛美は 柔らかな手で俺のズボンを膝まで下ろした。

温かい滑りと柔らかい唇の感触を瞼を閉じて味わって深い快楽に委ねようと努力した。 

そして 妄想するのはピンク色のポッテリした唇ではなく 皮膚の薄い不健康そうな蒼白の肌。頬から鼻頭にかけて薄いソバカスが点在する。化粧っ化もない リップグロスすら引いたことのない薄い薄情な唇。 まつ毛と眉毛は異様な程濃く黒い。


 あー そう この俺の股間に頭を埋めている君

決して男に媚びず 自分の意思は曲げない。


     うっ うっ…愛するのは


    「なんで ハエなんだよ!」



「えっ  波彦君…」


  「ごめん 愛美  今日はダメみたいだ…」


俺はズボンとパンツを下ろしたクズ姿で風呂に隠れた。

そう 愛美に合わす顔がない…

ごめん 愛美





羽田空港国際線ロビーで カートにスーツケースを積み上げて逞しく推しながらこちらに向かってくる華奢な女性。


真っ白なワンピースに 黒のサングラス。
髪は全て纏めて後頭部で引っ詰めていた。


「先生っ こっちこっち 」

若い男性が彼女の側にかけよるとカートを彼女から奪うように押す。

「あら ありがとう」

「先生 ボストンバッグお持ちします」

「そう? たすかるわ」


「先生 すぐに大学に行かれますか?」

「あーどうしようかしら…この荷物 先にホテルに降ろそうかしら」


「かしこまりました。タクシーで先にN東京ホテルに向かいます」


そう 白井ユミは三年半ぶりに帰国した。



「室長 欠品録見てくれてます。今週中に納品していただかないと間に合いませんよっ」


定年が数ヶ月後となり 何やら落ち着かない室長は 度々消耗品の欠品録にサインを忘れて 発注出来ないトラブルが増えている。

研究員からの苦情に事務員は とうとう室長にダメ出しするようになってきた。


「あー すまん 未だ見てない…すぐに大楠君に連絡してくれっ」


室長が今まで問題なく研究員を束ねられたのは 研究実験消耗品の発注から機器の新規購入見積りまで 大楠波彦がアドバイスしていた功績につきる。


予算が出ないなりに 彼が多方面に顔を効かせて良質な中古実験器具を手配したり あの手この手で少ない予算の中 研究員達が自在に研究結果を出す事ができた。



「室長っ 大楠さんは先月 異動で国立先端医療化学研究開発センターの専属になっちゃいましたよ」



「あーそうだった」

「30歳を前に部長級の昇進らしいわよ 凄い出世」

「肩書きは開発プロジェクトリーダーって なんだかサラリーマンも大変だな」


「今度は厚労省と文科省がタッグを組んでバブル以降ずっと遅れていた新薬開発に本腰らしいわ 特に癌治療薬 自己免疫疾患治療薬 心筋再生治療薬 だって  」


「僕らの地味な研究がやっと日の目を見るかもな…」


「遅いんだって  我が国は 」

「それはどうかな… 研究者が海外の大学からフェローで招かれて続々と成果を上げて帰国する者が増えて来たらしいよ 。
成果次第では国を挙げて研究開発保護に取り組み始めたし、いざとなったら地力に勝る我が国は数年で世界を席巻する新薬を作るから まあ 僕らも頑張ろうよ!」


「岸井教授!」


岸井は次期研究室長兼務の基礎ゲノム研究室大学院客員教授に選出されたばかりだった。





あれから三年半。波彦の周辺環境も様変わりした。

「あなたぁ お帰りなさい! お食事?それともお風呂?」


「風呂かな… 」


大楠波彦は 去年結婚した。

同棲していた女性とは 些細な形で関係が壊れてしまったが、その後の彼の勤勉ぶりが常務のメガネに適い、常務と懇意にしている国内薬品メーカーの専務取締役の娘から気に入られるがままの結婚だった。


彼は今 全てを吹っ切り再び社内最高地位に昇り詰めるまで非常に徹する事を目標に定めた。


   女…は出世の道具、それ以外の何物でもない。
 



その年の9月 国立先端医療化学研究開発センターの開所式が盛大に行われた。

この日は センター長の任命式もおこなわれる予定だった。


大方の予想は元K大学医化学研究所所長のスライド任命が本命視されていたため 無難な人事に話題性が低かった。


それよりは センターで今後研究開発される新薬が長らく待ちわびていた難病患者に朗報をもたらすのか に注目が集まっていた。





若き営業のホープは30歳を前に年収は既に一千万円を超えていた。

この日の為に新妻はハイブランドの上下のスーツを新調し、夫が活躍するであろう門出を見送った。


「あなたっ 頑張ってね」


「ああ   行って来る。」



波彦は軽く妻を抱くと彼女の額に唇を落とした。

毎朝の妻とのルーティンが波彦にとっては幸運アクションだった。




新築マイホームの玄関を一歩出た先には熾烈な売り込み合戦の戦場が待ち構えている…

妻との幸運アクションをすればやる気が倍増すると心にいいかかせて、

「よし センター長に何としても近づいて、コネを作るぞ、K大学時代からの付き合いある商社との太いパイプ…風穴あけてやろーじゃん」




国立先端医療化学研究開発センターは都内の未だ田園風景が残る武蔵野に建設された。

センター入り口前で 盛大なテープカットセレモニーの後、建物内の国際学会ホールでの記念式典には波彦達にも案内状が届いていた。



「リーダー 新築のいい匂いがしますね」

波彦は目を掛けた部下2人と共に 式典ホールへの案内指標に従って歩きながら 男性部下の囁きで 冷静を保っていた気持ちが昂ってきた。

一方女性部下はそのスタイルを強調したタイトな黒のツーピースにエナメルのヒールが一目を引いた。


  いいぞ その調子で ケツ振って歩け!
先ずは目立って なんぼ だっ…




「会場にお越しの皆様 本日はご多忙の中 当研究開発センター発足記念行事にご参加いただき御礼申し上げます。」


司会を務める大学教授からはじまり厚労省 文科省それぞれの大臣の祝辞が披露され やがて センターを運営する職員の発表にうつった。


「巷では 様々な憶測が飛び交っておりまして、皆様方にはご心配をおかけしました。我が国の先端医化学の未来を任せる重要な役割をお任せする人選には 国 大学機構 各シンクタンクの様々な方々と協議を重ねて参りました。紆余曲折ありましたが、最終的には快くお引き受けいただきました。ご紹介申し上げます。」




 「リーダー、もったいぶりますね」


「お前達は 元K大教授の近くに行っとけっ  
見てみろっ  
ライバル社は先生の周りを取り囲みはじめてるよ」


「でも リーダーは?」


「俺か 俺は 急がば回れだ 」



「現 ハー◯ード大学 ゲノム研究院特任教授…白井ユミ先生です」


会場は一瞬 どよめき そして拍手が湧きあがった。


    うっ 嘘っ マジか!

波彦は強い衝撃で数秒 息をするのを忘れてしまった。






「凄い人選だなぁ…」


「よくハー◯ードが手放したよ」



「そりゃぁ このセンター発足のきっかけは四年前のあのプロジェクトだろ?」



「やっぱりな 去年のノーベル医学生理学賞受賞した基礎のA教授と共同研究者だからな」



「彼女は 日本を嫌ってたんじゃなかったか?」


頭から血の気がサーと引いて行くのを自覚して 会場後ろの壁に寄りかかった波彦は、それでもスポットライトに照らされている 
白井ユミの姿 顔 表情を 逃すまいと注視した。



 今頃か…  

あんたの名声は年々上がっていくし、
蝿呼ばわりされた俺は 少しでも 近づきたいと せめて蝿から 幸運を呼ぶてんとう虫くらいにはなって あんたから資材の発注を受けたいと がむしゃらに頑張ってきた。


 今頃 帰ってくんなよ!


俺がそっちに行くはずだったんだっ!


「大楠君っ  どうだ 驚いただろ⁈  僕もびっくりだよ」

「えっ あっ  あー!」


「なーに 何っ ぼんやりしてんだよ!」



「岸井先生っ………ごっ、ご無沙汰しています。」


岸井に現実に引き戻された波彦は 習慣のように岸井に挨拶した。


岸井も波彦の横で壁に寄り掛かりながら、

「ユミもすっかり板について 貫禄充分だよな…  あーも かわるもんかねえー  あっち(アメリカ)は こっち(日本)と違って研究者には研究資金もギャラも潤沢だからなぁ… 
 オレだって…ややこしい事に手出ししなけりゃ…今頃は…っ!」


 岸井の悔しさは 違う意味で波彦も感じていたが、自分の感情を封印して顧客だった岸井を慰めながら やっと冷静に現実を受け止める事が出来そうだった。



「先生だって 押しも押されもせぬ大学院の教授になられたじゃないですか! しかも室長兼務  研究室は岸井ワールドですよっ!先生の意思一つで360度動かせるんだから 凄いです!」


「ふっ そんなに持ち上げてくれるのは 君くらいだよ この世界は結果が全て。肩書きなんて何の役にも立たないよ… 
あそこを見てみぃ 白井ユミさ、 さっさと俺を捨ててキイロショウジョウバエでハー◯ードの教授だぜ  しかも国を上げて世界にうって出る最先端拠点のトップ…  萎えるよな… まぁ あの女は先を見通す目 つまり千里眼が備わってるよ… しまったなぁ」



岸井は元妻が遠く離れた手の届かない存在になってしまった事に嫉妬や後悔 惨めさがないまぜになった複雑な感情を真っ正直に吐き出した。


  それに引き換えこの俺は…  自分を誤魔化して結婚した。
白井ユミとの決着をつけずに逃げた女々しい男だ



「君も 僕なんかに構わず、ユミに近づいて 名刺交換してこいよー
この機をのがしたら おそらくは そうやすやすとは会えないよ」


 もう会えない…たった3年半でそんなに遠くに行ったのか?


「会えませんか?」


「そりゃ そうさ、 おそらくT大の総長クラスだよ…いやそれ以上かもしれない。センターに出入りできる業者は厚労省のお偉いさんが分厚い登録書類で選考し その上高額機器は入札だよ ユミは動かない。配下の者か 厚労省の人間が出入り業者の対応をするだろ?」


  近づく事もできないと… ハエから役立つショウジョウバエくらいには出世したんだが…てんとう虫にはなれそうにない。



岸井と大楠は 黙り込み ただただ 白井ユミと彼女を取り巻くお歴々を眺めていた。




104












しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

黒瀬部長は部下を溺愛したい

桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。 人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど! 好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。 部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。 スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。

巨乳すぎる新入社員が社内で〇〇されちゃった件

ナッツアーモンド
恋愛
中高生の時から巨乳すぎることがコンプレックスで悩んでいる、相模S子。新入社員として入った会社でS子を待ち受ける運命とは....。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

おじさん、女子高生になる

一宮 沙耶
大衆娯楽
だれからも振り向いてもらえないおじさん。 それが女子高生に向けて若返っていく。 そして政治闘争に巻き込まれていく。 その結末は?

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

処理中です...