白衣の下 スピンオフ 若き日の黒崎先生の日記より〜

高野マキ

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再出発 〜 悲劇を乗り越えて

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ララが除隊前最後の任務でグアムに行ったあと、暫くして米軍は中東で大規模な軍事作戦の展開を始めた。



にわかに世界情勢がきな臭くなって来ていた事も 俺は、他人事のように目の前の仕事に集中していた。数をこなして臨床の経験値を上げていく。

時間を惜しむように論文作成に精力を注ぎこむ。

救命の地位を学術的に上げていく。決して便利屋などではない、臨床研究の最先端である事を世界に認めさせてやるっ!


俺の目標が定まった。


救命救急センター内で毎日毎晩外科内科問わず診療診察に明け暮れながらその年も暮れに差し掛かっていた。


グアムから戻ったララは 年末年始の休暇をしっかり確保していた。来年3月の除隊がきまった。


俺は…
『イチャイチャしようよ  ララ』

 2人でいられる時は 少しの時間でもスキンシップをもとめた。

彼女と肌を合わせながら 来年3月 彼女がアメリカに帰国する時 一緒に渡米して職場がみつかるのか…?

彼女の中に包まれながら 彼女とのアメリカ生活を想像できないもどかしさが俺の気持ちを焦らせた。


  ヒッヒカルゥッ 来てっ もっと! 強くよっ

彼女の躰を組み据えながら 余計な思い込みを打ち消すため 強く激しく腰を打ちつけ 迫り上がってくる快感を求めていた。


 『愛してる…ララ』
彼女を抱いたまま ふと言葉がでた。


『私もよ…ヒカル 愛してる』

俺の胸の中で囁く彼女の吐息が甘い芳香となって鼻先をくすぐる。

『ララ… 除隊後に、一緒に渡米したい』

俺の胸から顔を起こしたララのコバルトブルーの瞳がこちらを真っ直ぐに見つめて、

『ほんと⁉︎ 』

輝くような笑顔になる。

『いいか? まだ一人前じゃない…』

彼女のキャリアの足元にも及ばないと思い込んでいた。

『まぁ ヒカルらしくないっ そんな弱気な事言うなんて…キャリアなんて世界中どこでだって磨けるわ! なんなら私と難民キャンプの医師団に入るとかは? それともぉ…カリフォルニア州立のERとか!』

『俺 みたいなペーペーが 潜り込めるのか?』

『ヒカル… 大丈夫! 自信持っていいわ 貴方…あれからどれくらい大学のERで現場に出た? 論文は?… 』


『… 正直 わからない  数こなせって … やたらめったらくるケースを引き受けて来た…  論文はまぁ それなりに…』


 ララの前で虚勢を張る必要はなくなった。今はドクターとして役に立つか立たないか それだけだった。



『ごめん、ヒカルが留守の時 こっそりパソコン覗いたの…』

   ……

『でね、イケそうな論文 スタン○ードのナオミに送ったら…』


『  英文無茶苦茶だっただろ!』

『大丈夫、そこそこ出来てたわ 』


ララはベッドシーツを身体に纏いながら 起き上がり寝室を出て行った。

 あいつ 何考えてんだ… スタン○ード?ハードル高すぎじゃね?
ナオミなんかに見せたら ズタボロ…


直ぐに戻ってきたララから 白封筒のエアメールを手渡された。
既に 綺麗な切り口で開封されている

中には一枚の書面が入っていた。



[…よって レジデントとして留学を認め、奨学金を支給することとなりました。…
1991年3月末日までにご回答ください。
…               …                       …                …                      ]


『これ? えっ?』

『ヒカルっ 貴方の実力! 奨学金付きレジデント留学って相当競争率高いのよ、フェローの留学なんか足元にも及ばない
貴方の論文が評価されたって事よ…』


『えー ? だって 大学の成績とか指導医推薦とか、色々申請書類が必要だろ?』


『だから、ナオミに送ったのよ♪』


あの一件から 数年が経っていた。
あの破茶滅茶なお色気おばさんは 既にスタン○ードの医化学研究所の所長になっていた。

当然 スタン○ードの若き教授の肩書きで…

T大学に早瀬ヒカルの情報を求めていた。院内の助教達は何ごとかと噂をしてちょっとした事件だったらしいが、俺の知らないところの話しだった。


『30歳そこそこで 教授って…ナオミ、すげ~な!ただのエロおばさんだと思ってた…』


『バカ! ヒカルっ そんな事 ナオミの前で言ったら…地獄を見るわよっ…
彼女あー見えて ジュニアの飛び級で進学してきた天才よ!』


『えっ じゃ 俺 来年9月にはスタン○ード⁈  マジかぁ! 給付奨学金って…いくら?』

『うーん 額はわからないけど…多分レジデント3年間くらいの学費と臨床の働きに応じてギャラが貰えるんじゃない?』


ララは再びベッドに潜り込んで 裸の躰を俺に擦り寄せながら ねだるように股間に手を這わせてきた。

『え~っ じゃバイトしなくても 食って行けるかな?』


『うーん、そうねぇ…年俸3万ドルから4万ドルくらいじゃない?外科と内科でも多少違うだろうし、ERは手当てが多いけど 最初からERは無理ね…』

 俺はついニヤニヤしてしまった。
ララにペニスを弄ばれているからではない。
医師の肩書きを持って初めてのまとまった年収…

向こうはバブルで沸く日本より 物価は安定している…
ララと暮らすのに 贅沢しなければ 俺の給料でやっていけそうだ…


俺は まとわりつくララに覆いかぶさり 

『なぁ 俺の稼ぎで 暮らせるかな?』

組み敷いたララに唇を落とした。
2人の鼻先がツンとぶつかる。 唇を離すと ララが俺の頭を引き寄せ 

『どうしても 私を養いたいわけね… うふふ』

その 小馬鹿にしたような微笑みにイラついて 乱暴なくらい激しく彼女の唇を襲った。

  



年末も、俺は救命センターに寝泊まりしながら24時間休む間もなく運ばれてくる患者と向き合っていた。

   3月には日本を離れる。

大学病院には すでにスタン○ードへ留学する経緯を説明し、退職願いを提出した。 大学院生でありつつ臨床医の肩書きでアルバイト程度の報酬を病院からもらっていた。


毎年腹違いの妹と行く苗場スキー場。今年は妹も知ってか 帰国しなかった。

 


俺は救命センター、 ララは米軍将校クラブのラウンジで
それぞれ日本最後カウントダウンをすごし、ゆく年くる年と除夜の鐘 蛍の光のメロディーが流れるなか

1991年 新年 の夜が更けていった。



新しい年も 俺たちは共に過ごす短い時間を 楽しんでいた。


  ララは俺のただ1人のオンナ…




2月も半ば、ララは身の回りのモノを片付けながら3月20日のJエアラインのロスアンゼルス直行便、ファーストクラスのチケットを2枚用意して、俺に黙って 急遽湾岸戦争の後方支援で半月間の任務の為中東カタールに軍用機で向かっていた。


3日ぶりに帰宅したら リビングの壁に デカデカと



ちょっとだけ中東の支援に行って来ます。3月初めには帰って来ます。 お利口さんで待っててね。愛してる❤

  私のハニー ヒカル




   何で 張り紙なんだよ!




先生の日記はここで終わっていた。

 日本を発ったその日…
ララを乗せた米軍輸送機は、 アフガニスタン上空で消息を絶った。



                    完


あとがき
この後のいきさつは また白衣の下
第一章の〔黒崎一族〕 〔笠原リノの場合〕
の場面に繋がります。

黒崎先生に関しては 物語り上で
派生した登場人物達の個々の物語りの構想も湧いてきます。




高野マキ

     



















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