山桜記 陰謀渦巻く北信越のご城下 幕府御庭番の目を潜り御家騒動断絶を乗り越えられるか‼️

高野マキ

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寒雷

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魚丸が三笠屋に逗留して、早いものでひと月近く経とうしていた。
魚丸は駒に身の周りの世話は一切させず、まるで妹のように駒を可愛がっていた。

時間があると駒は、弥比古の残していったお伽草子の手本や、いろはかるたでかなを殆ど覚える事が出来た。


魚丸は、約束通り漢字を駒に教えると、硯から墨の擦り方筆運びに至るまで根気よく 優しく徹底的に教えた。所用で出かける時も、駒を一人残す事なく連れ出す執着ぶりだった。


店の者達も眉目秀麗な若衆侍は、二刀流だと陰で囃し立て始める。


二刀流の噂は、満更うつけ話しと言うわけでもなさそうだった。

季節は信濃の剣立った険しく高い山々に本格的な雪化粧を纏わせ始めた。
四方を、険しい山脈に囲まれた下前田の御城下にも、ちらほらと白いものが舞い始めていた。


夜間は、山々から吹きおろす寒風が閉めた雨戸をかたかたと揺らす。

主間に床を用意して足元には消し炭のはいった小さな炬燵を置くのが山間の寒冷地では常習であった。


駒は本来下働きの仕事が済むと住み込みの女中が暮らす大部屋で寝起きしなければならなかった。
弥比古がいた頃は夜は余程の事がない限り大部屋に戻っていたが、魚丸はそれを許さず次の間に駒の床を用意させていた。

その夜は宵の口から黒い雪雲が辺りを覆い始め、時々ピカッと光ると、いっとき後からごろごろと雷が鳴り出していた。


主間も次の間も床が用意されたが炬燵は泊まり客である魚丸にだけ用意された。
魚丸は何やら書き物をしながら御酒を飲んでいた。

透き通る肌にほんのりと紅が刺す。幼い駒がうっとり見とれてしまうほど薄暗い燭台の蝋燭の朱い焔が魚丸を妖しく美しく照らす。


 「魚丸さん お先に休ませて貰ってもいいですか…」


そこに駒が居る事を全く意に介さず書状をしたためていた魚丸は一瞬きょとんとして駒を見た。何を断ってきたのか聴いていなかった。


 「お駒さん…全く聴いていませんでした。何か用ですか」


魚丸がニコニコと微笑む。
駒は魚丸の笑顔が初めから苦手だった。綺麗過ぎて目を合わす事すら出来ない。


真っ赤になって上擦る小声で

 「あっあのぉ…お先に休ませて…」

主間の襖の敷居の手前で正座をし両手を畳みに添えて挨拶の姿勢を取る。

  ‥がたがたがたっ 
雨戸が強い北風に打ち付けられ喧しい音を上げた。


ビクッと首を竦めてブルッと寒さで身震いした駒の姿を見た魚丸は床の間を背後に立ち上がった。


大股で三歩進むと、駒の前に立ち、屈みながら駒の寝巻きの袖下越しに両腕を差し入れた。

 「よいしょっ」
   …ヒャッ

駒の躯がふわりと浮くと、魚丸はしっかり抱き締め、柔らかくもちもちとした朱味の帯びた耳に唇を寄せた。


 「今宵の一人寝は、冷えてゆるりと眠れそうに無いでしょう。お駒さん、私と一緒に寝て暖めては頂けませんか…」


   ……ハァ…ッ


駒が答えられるはずも無く、魚丸はそれを承知でわざと駒に答えさせようと言ってみた。


駒の華奢な躯は縦抱きから横抱きに簡単に変えられ、そのまま二枚重ねの布団まで運ばれた。


布団にそっと下ろされると駒は両腕を胸元で交差させてじっと見下げている魚丸の視線を感じていた。

怖くてまともに瞼を開けられない。


しゅっしゅっと絹擦れの音が耳に届き、着物の帯を解いているのだと感じる。


あの日の光景が急に駒の脳裏に蘇る。


   …萩姉ちゃん


おんつぁんと萩姉ちゃんが裸で抱き合っていた。


うっすらと瞼を開けると目の前に真っ白い透けるような肌をあらわにした魚丸が覆い被さってきた。

  裸で抱き合う!


 その時…


ピカッピカッと稲光が走るや

 ドッカ―ンッ!
       バキバキッ

と近くに雷が落ちた。

    ヒヤァー

駒は目の前に迫っていた魚丸に自らしがみついた。

 「おや…お駒さんの方が私を求めて下さった‥」


裸の魚丸は、華奢な駒を抱きながら掛布団を足元から引っ張り上げ駒と抱き合いながらすっぽりと包まった。


がたがたと震える駒を懐で抱きながら 

 「雷は嫌いですか…臍は隠していますかお駒さん…」


頭を下げ瞼を閉じたまま魚丸の裸の胸に頬を押し付けていたが臍の事を忘れていた。


思わず頭を上げて柔らかく微笑む魚丸に向かって


 「おらぁ…臍を隠すの忘れちまったぁ」


駒の黒い瞳にみるみる涙が溜まりだす。魚丸に助けを求める黒い瞳。

  ‥‥なんと…穢れなき美しい女童ぞ‥

 「お駒さん大丈夫です。私が臍があるか確かめてあげましょう。万が一無くても必ず、雷めから取り返して来ますよ…安心して」


魚丸の力強い言葉は幾分駒を安心させた。

雷は三笠屋近くの木にでも落ちたのかもしれないと魚丸は思った。

雷鳴が遠ざかっていく。


   「さあお駒さん、へそ改めですよ」

魚丸がさも愉快げに微笑みながら右手はそろそろと駒の腹当ての隙間を見つけて差し入れ柔らかな幼子の肌を味わいながら臍の辺りをまさぐっていく。

 「と…丸さん ハァ…こそばゆい…」

幼子は、躰をくの字にまげ全身に力を入れた。

 「しっ…黙って…雷がまた戻ってくるやも知れません」

 「…ァァ」

身を固くする駒の躯を、箏の弦をつまびくように弄びながら昔、主君安藤直胤に寝所で紫式部を読み聴かせて貰った記憶が魚丸を過去の甘い睦み事に引き戻す。


   …殿…今一度… 殿のお情けを…

  殿に逢いたい‥


若紫の段…

駒の柔肌を優しく愛でながら魚丸は疼き始めた股間を宥めすかしていた。


   我慢ならん……………………
このまま‥  我が物に……




……………………………中略…
さては童ぞ出で入り遊ぶ。

中に十ばかりにやあらむと見えて、白き衣山吹などのなえたる着て、走り来たる女子、あまた見えつる子供に似るべうもあらず。
いみじく生ひ先見えて、うつくしげるかたちなり。
髪は扇をひろげたるやうに、ゆらゆらとして顔はいと紅くすりなして立てり。
………………………………略

「雀の子と犬君が逃がしつる。伏籠の中にこめたりつるものを」とて、
いと口惜しいと思えり。
           
       ※紫式部作 源氏物語より~


魚丸は懐で駒を抱きながら朗々と源氏物語五帖三段若紫を語ってみた。
主君直胤の暖かい懐の中で聴かされた源氏と紫の上の出会の場面。
夢うつつの寝屋で主君との甘い睦ごとの思い出に浸りつつ
懐の駒を見た。


 「おや…眠ったか‥残念な事よ」

魚丸は今光源氏の気分に浸っていた。

  いと口惜し…



夜来からの雷鳴が鳴り止むと、ざっざっと中庭から人の出入りする気忙しい気配がする。


足音からすると、どうやら積雪しているらしい…


駒が熟睡している事を確かめ、魚丸はそっと寝床から出た。中庭に面した広縁の雨戸を開いくと屋根から枯れ山水の庭木、景石にいたるまで白一色に様変わりしていた。


黒い雪雲の間から満月が煌々と庭一面を照らし、昼間のように明るい。
ざっくざっくと新雪を踏み鳴らして手代が台所の方からやって来た。


 「どうした…偉く気忙しそうだが」


 「へっぇ 先の雷が比婆の大木に落ちやして…何人か下敷きになったようです。…皆で倒れた木を起こしに行くところでして…」


 「それは、難渋な事だな、手は足っているのか…」

 「へぇ 近所の野郎共が総出で動いておりやす。」

 「そうか…殊勝な事だ。其方も気をつけて参れ」


開けた雨戸の隙間から寒風が魚丸の首筋を掠める。

さすがにぶるっと身震いすると天上に輝く月に向かって…

 「わが小雀は雷が取り逃がした…せっかく伏籠に捕らえたるに…」



  「すずめはどこ…魚丸さん…」

凍てついた隙間風で駒が目を覚ましてしまった。

(小雀が目を覚ましたか…)


 「お駒さん、起こしてしまったね」

魚丸(ととまる)は、雨戸を急ぎ閉めると布団から顔だけ出している駒の傍近くに寄って…

「雀はお宿に帰りましたよ…さあさ、まだ夜更けです。もう一度寝ましょうか」 

魚丸の甘い声は、幼くても女である駒の心に纏わり付く。

  「…」

もじもじと体をよじり、頬は牡丹の花びらのように紅く染まる。

魚丸の陰茎が頭を擡げ始める。


駒に気づかれ無いように寝巻きの裾をぴしゃりと抑えて寝床に滑り込むと、


「お駒さん、もそっと近こうおいでなさい。腕枕をしてさしあげましょう。今宵は特に冷え込みが厳しい。」


魚丸の囁く声が余りに甘く優しいのでうっとり聞き惚れている間に、懐中に引き寄せられた。


   …ァ

懐の中で抱きすくめられ、駒の心の臓が激しく鼓動を打ち鳴らし…ハァ…と大きく息を吐き出す。


 「お駒さん …強く抱きすぎましたか…」


魚丸は、腕の力を抜き駒の体からやや離れる。


駒は頭(かぶり)を振ると…


 「魚丸さんは 暖っけぇ。おらぁ魚丸さんが好きだっよぉ」

駒は自分から魚丸の躯に擦り寄った。


   「お…駒…さん」


魚丸は駒の無造作に束ねた髪に頬擦りしながら、今すぐこの女童を真っ裸にして体中に唇を這わせ、切なく啼かせたいと淫らな欲望に囚われだす。


まだ穢を知らぬ女童…障りの物(生理)が無い今すぐ…


穢を知らぬからこそ、いつか薄汚い男の慰みものにされるのであるならいっそ、今宵我が物にしてしまおうか…


魚丸の手はそろりと駒の寝巻きの裾から素肌に伸びる。


駒の膝から太股をゆっくりあやすように撫で下ろす。恐怖心を持たせぬように何度も撫で下ろす。


太股の先の薄い桜貝を見てみたい。


滑らかな童の脚裏を手の平で味わいなが撫で上げていくと、むっちりとした尻にたどりつく。

力を抜いて用心しながら、駒が驚かぬ程度に揉んでみる。

(ああ…この柔らかさは男童では得られぬ手触りよ)


魚丸の陰茎はもう隠しようが無いほど寝巻きの中で反り返っていた。


駒の神経は魚丸の手先の動きに集中し、緊張気味に躯を固く強張らせ始めた。


    …ハァ

「どうしました…お駒さん。眠れませんか?」


 「…おっ母ぁが眠れねぇ時はよく、背中をトントンしてくれたけんど…魚丸さんは…」

次の言葉を飲み込んだ。


  「お駒さんの母上と違いますか…」


魚丸は苦し紛れの笑みを噛み殺す。母性の愛とは明らかに違う。

発情した猥らなオスの欲望…


 ‥このまま有無も言わさず犯してしまおうか…)


魚丸は泣き叫ぶ女童を組み敷きまだ未踏の秘肉を男鉾で貫き通し生娘の穢なき血にて卑しい我が身が至高の極楽浄土へ上り詰める姿を妄想する。


 「お駒さん…私はあなたの母上にはなれないが、私なりの方法でそなたを愛でてしんぜよう」


駒は魚丸の話す言葉の意味がわからない。


つぶらな瞳で、魚丸のこの世の者とは思えぬ美しい顔を見上げた。


 「魚丸さん、仏様のように綺麗だな…おらぁ菩薩様に抱かれているみたいだ」



駒はそう言って恥ずかしくなり着物が開け素肌がさらけた魚丸の胸に顔を埋めた。


    「…」

突然魚丸が駒を引き離し寝床から飛び出すと…



「お駒さん…少し‥待っていておくれ急に用足しに行きたくなった」


厠(かわや)に飛び込んだ魚丸は両手で寝巻きの裾を左右にからげ後ろの帯に押し込めた。


腰を突き出さずとも長い肉棒がグッと天に向かってそそり立っている。


‥‥非力な女童を私は卑しい欲望に負け手籠にしようと企んだ…


眼下には亀頭の糸口から先走った汁がだらりと慎み無く滴り落ちてきた。  下半身のどうしようもない愁焦感。
白いおなごのようにしなやかな指先が桃色の亀頭を摘む。

    …アァ…殿…

肉棒を動かぬように陰嚢近くで掴みながら亀頭を摘む指先を容赦なく上下にいたぶる。


    …ウウ…

城中、寝所での秘め事。直胤に激しく責め立てられる菊坐と陰茎、腹の中深く何度も突かれ、かきまわされた挙げ句、熱いお情けを大量に頂戴した。


主君の手淫で己の肉棒ははち切れんばかりに硬く今にも精汁を吐き出しそうになるのを直胤に焦らされてなお、

  …ととよ、そちの精水は予が余さず飲み干してやるうえ…まだ出すでないぞ…


   「と…殿…ああぁあっああ…」


主君直胤に死ぬまで忠誠を誓い合う契りだったはず。


しかし、契りを交わした主君は乱心の汚名を被せられ謹慎の身の上…

主君の汚名を晴すことができ無いのであれば、自刃して不首尾を詫びてこそ武士の道であるのだが、

 …殿、お逢いしとうございます。魚丸が殿無しに、この世にいる価値が何処にございましょうや…


童の頃より、身も心も命さえも捧げ、尽くしてきた。魚丸の存在は全て安藤直胤の為にあり、直胤改易の沙汰の後、二度とお情けも頂戴出来ないなら…と


魚丸は直胤を思い慕いつつ厠の中で、惨めな手淫で果てた。


そしてその余韻に浸る間も無く、脇差しに手をかけ刀を鞘から抜こうとしたその時、


背後から強靭な力で羽交い締めにされ耳元で囁かれた。


「ととよ…血迷うたか、戯(たわ)け者め」


…坂崎様


お側若衆筆頭
坂崎仁左衛門秋胤
お側衆にあって唯一藩主安藤直胤の一字を諱名に戴いた家臣だった。

その腕っ節は藩内随一と評判高く兵(つわもの)として多くの家臣からも一目置かれる存在だった。


脇差しに掛かった
手を坂崎仁左衛門に掴まれ刀を抜く事もできず、ただただ悔しさにむせび泣く魚丸に


 「馬鹿めっ 泣くでない。 腹を切るのは何時でも出来る。そなた、お駒様によこしまな感を抱いたのではなかろうの…」


    「…」


  「ふん…これだから小姓ごときでは役不足と水埜様に御注進申し上げていたのだっ」


 「申し訳ございませぬ。お駒様が余りにも愛らしく…」


 「亡き猿渡様の御息女で在られるお方だぞっ、粗相があっては水埜様に申し分けたたぬ」


 「ととよ、今夜江戸に発てっ」


 「えっ、今からでございますか?」


  「上意…だ」


  「御意」

…江戸上屋敷にて殿がお前をご所望なのじゃ…

駒は、主間の床の中で厠(かわや)へ行くと言ったきり戻って来ない魚丸を心配して眠れず布団の中でじっと息を潜めていた。


しかし、魚丸は朝になっても戻る事はなかった。


 「お駒ぁっ 何時まで寝ているんだっ お客さんは夕べのうちに出立なさったんだよっ。 さっさと部屋を片付けちまいなぁっ」


駒より五つほど歳かさのいった下働きの少女が叱り付ける。


雨戸を開けると庭一面 雪景色で、朝日が雪に反射してきらきらと眩しく光り輝いていた。








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