Alice in crazyland

一幕

忘却のその先

ーーー皆様は、大人になると言うことはどういう事だと思いますか？体が成長すること？それとも、仕事をするようになることでしょうか！
 人は皆、成長します。例えそれが、ガラスの靴で王子様と結ばれた灰被りの少女や100年の眠りから覚めたお姫様、そして狼に誑かされたものの狩人に助けられた少女などの、乙女の憧れであったヒロインも、何ら変わりありません。
 さて、先程の答え合わせといきましょうか。正解は、『忘却』です。人は皆、大人になるのと引き換えに幼き頃の最も大切な思い出を対価として支払うのです。...そう、時とは残酷な物なのです。
 そしてこれからお話しするのは、例のように、幼い日の最も大切な記憶を失ってしまった少女の物語でございますーーー





 幼い頃の思い出は、全てが輝いていた。愛猫ダイナや大好きな姉と一緒に出掛けたピクニック。ダイナの子であるキティとスノードロップが生まれたこと。7歳の頃は毎日が輝いていた。
 少女アリスは目の前の鏡に映る自分を見て小さくため息をつく。あの頃のような輝きを草花や動物達から感じられなくなったのは、気の所為だろうか。
 お転婆な娘から金髪が似合う美しい少女になっていたアリスは、7歳の頃の思い出をほとんど覚えていなかった。何しろ10年も前の話だ。思い出はいずれ、色褪せる。それは恵まれた少女アリスでも、例外ではない。
 今日はアリスの17歳の誕生パーティーが行われる日だ。パーティーにはたくさんの来賓が訪れ、アリスの婚約のお披露目もある。婚約。その言葉がアリスの頭に重くのしかかった。まさにそれは、政略結婚だった。
「...パーティー、嫌だな...」
机の上の写真立てをぼんやりと見つめ、アリスは呟く。そこにはアリスと一緒に、優しい笑みを湛えた青年が写っていた。
 アリスがもう一度ため息をついた時、足元に、ちりんという可愛らしい音と共に、ふわふわしたものがまとわりついた。