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秘密基地
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夏休み、終わった。まだ終わってないけど、終わった。
・馬鹿みたいにはしゃいで、窓ガラスを割ってしまった。
・罰として、ゲームをほとんど没収された。
・上級生に逆らい、ケンカで負けた。
・せっかくの花火大会は雨だった。
・せっかくの沖縄旅行も台風が接近してきたので雨だった。
……今、なんだか魚を捕りたい。メダカとかドジョウとかじゃなくて、もっとデカいやつがいい。コイやライギョとかなら、釣れたら面白いと思う。でも、もうすぐお盆なので近くの川は入っちゃダメだ、と言われた。
夏休みだというのに……。 最近、なんだか不幸続きだ。
風鈴が鳴る。アブラゼミがやけに騒がしい。カーテンが揺れる。その窓の外には入道雲がプカリ。
夏、夏、夏なのに……。僕らにはたくさん時間はある。でも、なんて……つまらないんだろう。
「なんか、面白いことないの?山ちゃん」
ハルトは毬栗のような頭に問いかけた。
「面白いこと?うーん……。あ、日焼けした皮をていねいに剥がすの面白いよ」
「……もうやったよ、他!」
「うーん……あ、そうだハルト! 明後日は、『ドラトレ5』の発売日だよ」
ドラトレか……。ドラゴンの巣から宝を盗む、有名なゲーム。
ハルトはため息をつく。
「お金ないよ。それにソフトだけじゃ、プレイは無理だって……」
「……何したら本体を没収されるんだよ~。ほんとバカだなぁ、ハルトは」
カーテンが揺れ、風鈴がチリンと鳴る。ぴんぽーんと同時にチャイムも鳴った。
「……あ、よっしーじゃね?」
「たぶん。んじゃ、見てくる」
ハルトは気怠げに玄関へ向かう。ガラス張りの向こうに見える、柔らかいシルエットで誰かわかった。
「よぉ、入れよ。よっしー」
「おっすー。おじゃましま~す」
ガラガラと扉を開いて、入ってきたのはニコニコ顔のよっしーだ。サラサラの黒髪で、後ろから見ると女に見えるのが特徴であり……触れちゃダメなところだ。
「山ちゃんはもういるよ」
「さすが暇人」
部屋に戻ると、山ちゃんは学習机の椅子でクルクルと回っていた。ピタリと止まると、よっしーに向かって手を上げた。
「……おう! よっしー!」
「どうしたの? 二人して辛気臭い顔して? ていうか、ハルちゃんなんか今にも死にそうな顔してる」
よっしーは腰を下ろし、不思議そうに首を傾げた。……あいかわらず、空気を読むのがうまい。
「なんかさぁ、夏休みなのにつまんねぇよなぁ! ……って話してたの」
「旅行は行けそうにない。もうでかいイベントは、婆ちゃん家行って、そんで終わりだよ」
「……あ、そうだ。あそこ行かね~? ハルト」
二人の視線が集まる。山ちゃんが人差し指を立てた。
「山」
その言葉で、二人は固まった。恐らく……山と言えば、あの山のことだろう。国道のそばにある山。
この辺の住人でさえ、あまり立ち入らない……というか立入禁止の山。あまりいい話を聞かない、昔からいろんな噂のある曰く付きの山。
「……マジで? 入っていいの?」
「開発? とか、不法投棄? だとで、いろいろ変な話があるね。普段から立ち入り禁止な分、誰も寄り付かないから。入れるとは思うけど……危険じゃない?」
よっしーは弱気になる。そんな彼の肩に手を回す山ちゃん。
「もしかしてだけど。よっしーさぁ、ビビってる?」
「……んなことないよ。ただ、バレたらヤバくないかな? 学校にも連絡行くと思うよ?」
山ちゃんは腕組みして唸った。そして、ニコリと笑う。
「……まぁ、ゲーム没収じゃ済まないかもな!」
「でもさ、人気がないんだから見つかりっこないだろ。そもそも山だし、林も茂みもあるだろ? 身を隠すのにもってこいだ! 自転車も隠しときゃ問題ない」
「で、でも……」
「それにさぁ、最悪逃げればよくね? 大人なんかに、足の速さで負けないっしょ? お前ら百メートル何秒?」
山ちゃんはそう言うと、またニカッと笑った。山ちゃんはサッカー部なので足には自信がある。百メートル十四秒台らしい。
「……ま、気晴らしになるかもな」
「ハルちゃんまで!?」
「なら、決まり! 各自荷物を調達せよ!」
三人は、解散する。ハルトはとりあえず、リュックにいろいろ詰めた。タオル、ライトに、折り畳みナイフ、ロープに、マンガに、虫除けスプレー、生物図鑑はちょっと重いか……。
あれこれと悩んでいると、またチャイムが鳴った。どうやら二人が帰ってきたらしい。
「まだ悩んでるの!? 軽い荷物にしなきゃ、小さくても山登りなんだから大変だよ!?」
よっしーは面倒くさそうに喚く。リュックには必要なものを入れられた。準備万端。三人は立ち上がる。
「……んじゃ、行くか。探検しに」
「そうだ、どうせならさぁ! お菓子持っていこーぜ。携帯食料は大事だよ。スタミナが減れば、逃げられなくなる」
玄関をガラガラと開ける。そこには、じんわりと汗をかいた女子中学生の集団がいた。その中央に、ハルトの姉のハルカがいた。
「うはぁ。かぁわいーんだ!」
「ねぇ、ハルカ。どの子が弟?」
「弟? ……この一番目つきの悪いクソガキ」
ケバい子、怖い子、大人びた子、多種多様の女たちに、頭をワシワシと掴まれた。ハルトは手を振り回して抵抗した。
「……うるせー。クソババア」
「ね? 野良猫みたいに態度悪いでしょ? ハルトって言うんだ」
ドッと盛り上がる、女子中学生たち。
「やだ、鼻筋とか目元がハルカとそっくりだー! かわいー!」
「こんなクソババアと、一緒にすんな!」
「あはは! やだ! 怒った顔も可愛いんだけどぉ!」
「てかさぁ、どこ行くの? あ、お友達と冒険の旅にでも行くの~?」
クスクス笑われた。でも、半ば当たっているのでビビる。やはり、女は侮れない。
「だ、駄菓子屋だよ! 公園とぉ! 駄菓子屋! 以上、それだけ!」
おっとりとした女の子がやってきて、微笑む。
「……みんな、気を付けて行ってきてね? 暑いから、熱中症にならないように、ね?」
さっきまでの空気がガラッと変わった。怒りが途端に冷めていく。
「……は、はーい」
アカリさん。この女には、みんな弱い……。それは、俺もだ。この人は、なんか違うんだよな。周りのバカみたいに、悪ノリしないし、穏やかで気配り上手。
女子集団から逃れるために、自転車にまたがった。
「……やっぱ気に食わねぇ。あのクソ女ども、いつかイジメるか?」
「でもさ、アカリさんっていいよなぁ……。優しいし、可愛いし、しかもさぁ、すんげぇいい匂いするし……。ウチの母ちゃんがアカリさんだったらなぁ……」
山ちゃんはたまに気持ちの悪い顔をする。女の子の話をするときがそうだ。鼻の下伸ばして猿みたいな顔する。
「バーカ。山ちゃんは夢見過ぎなんだよ。……女はな、かなり臭いんだぞ。特に、屁と口が臭いんだ」
「マジで? ハルトの姉ちゃんも?」
「おう。だから、ウンコなんか絶対男より臭いぞ。……きっと、アカリさんも一緒!」
「あんな可愛いのに?」
二人は押し黙る。そして、顔を見合わせて呟く。
「そうかなぁ……。アカリさんはきっと別だよ。たぶん、オナラはしないと思う」
「同感。たぶん、香水とか金平糖がポンポン出るんじゃね?」
ハルトは呆れてブレーキを踏んだ。
「あのなぁ! お前らは夢見過ぎなんだよ! バーカ! ……てかさ、女よりさ、よっしーの方がいいだろ。面白いしぃ? かわいいしぃ? なんせ女より賢いんだからなぁ!」
「か、からかうなよ! 次はハルちゃんでも許さないからな!」
よっしーはプンスカ怒り、ペダルを踏み込んだ。
「……褒めてるのになぁ?」
「んだんだ」
俺たちは駄菓子屋に寄ってオヤツを買った。
「あ、ジュース買わなきゃ……」
「待て、ジュースは高いだろ」
「そうだよ! 水筒に麦茶をたんまり入れたの持ってるから、みんなで飲もう」
よっしーは気が利く。だから、女にモテる。男にもモテる。
「さっすが、よっしー! いいこ、いいこ! かわいい子!」
「な、泣かす! ふたりとも、今から泣かす!」
よっしーはポカリと二人を叩いた。笑いながら、目的地を目指す。心地よい、そよ風が3人の髪を揺らした。山がくっきりと見える。なんだか、そう、冒険の始まりって感じだ。
「さて、ここに停めようか。草陰で見つかりにくいだろうし」
「そうだな。じゃあ、虫除けスプレー振るぞ」
「オレにもよろしく」
ハルトたちは山道をズンズン進んだ。山は空気が違う。木陰は涼しくて快適だ。
「お? みんな隠れろ! 車かも!」
脇道に逸れると、車が横を通っていった。乗っているのは強面髭面の男たち。三人は息を殺し、汗を拭う。
「何の用があって、こんな山の中にいるんだろ?」
「オオクワガタでも捕りに来たんじゃね?」
「オオクワガタなら夜行性だろ? それなら、日中に来ないだろ? やっぱ……迂回ルートを探そう」
山ちゃんは面倒臭そうに腕を組んだ。
「そんなのあるかぁ? ……なぁ、このまま行こーぜ? 隠れたら絶対にバレないって!」
意見が割れる。よっしーが心配そうな顔をする。
「でも、万が一鉢合わせたら終わりだよ?」
「そう、万が一がある。ちゃんと気を付けなきゃ。とにかく……蛇がいるかもしんないから、俺が先に行く」
「ハルトは頼りになるね!」
二対一。山ちゃんは頭を掻きむしり、諦めたようにため息を吐いた。
「……だりぃなぁ、もう。わーったよ! わかってるさ!」
ハルトは足元の木の枝を拾う。1メートルくらいあって、なかなか丈夫そうな棒。
「よし。この棒を頼りに行こう」
ガサガサと草をかき分け、獣道を進む。なるべく、人の使う道から離れないように、迷子にならないように。ずぶり。奇妙な感触が足元にあった。
「……た、助けて!」
「これ……ぬ、沼か!? 早く出ろ! 底なしかもしれない!」
蔦を引っ張ってなんとか、這い上がる。腐葉土とヘドロが絡みついている。
「くっせぇ! マジで、ザリガニが死んだ水槽の臭いがする! おぇ!」
「お、おい! ここでゲロ吐くなよ!? 服にかかるし、つられるからさぁ!」
「そんなことより早く出ろ! ヒルがいるかもしんないぞ!」
「……まじかよ!」
協力して、なんとか、沼地から抜け出すことができた。しばらく登るとちょろちょろと流れる小川があった。そこで泥を落とすことにした。
「あーあ……最悪だよ。完全に臭いが染み付いてる。こりゃ取れんぜ? 歩くたびにガポガポ鳴るし……」
「すぐ乾くさ。ほら、靴擦れに気をつけろよ?」
しばらく歩くと、急に山ちゃんが駆け出した。
「お、おい! 見ろよ! これ、ヤバいって!!」
山ちゃんは満面の笑みを浮かべている。
「うわぁ。……エロ本と、エロ漫画だけでなく週刊誌や新聞まであるよ。誰がこんなとこに捨てたんだろ?」
「見た感じ、あんまり湿ってないな。……まだ新しいから、人が出入りしてるってことだろうな。きっと」
「すっげぇ……。これ、見ろよ! この人、おっぱいデッカ! 見なよ、アイドルの写真集もある!」
ガサガサと漁り始める山ちゃん。山ちゃんの女好きには呆れる。ハルトたちはゆっくり歩き出した。
「山ちゃん、早く行くぞ! 捨てとけ。そんな、ばっちいの!」
「そうだよ。……き、汚いよ? 誰が触ったかもわかんないし、そもそもいつからあるのかわかんないし」
「でも、もったいないっしょ~。こんなのガキのオレらには買えない代物だぞ? オッ! エロいDVDまであるぞ! これなんか、乳首まで写ってる!」
「……オレにはわからん。なぁ、よっしー」
「う、うん。まぁ。そうかも……」
よっしーは顔を赤くしながら、モゴモゴと呟く。
「はぁ? おいおい、よっしー裏切んな!? よっしーは、女の子好きだよなぁ? ルリのこと好きなんだろ?」
「まぁ……好きっちゃ好きだけど、さぁ……」
よっしーは照れ臭そうに頬を掻いた。山ちゃんはよっしーの肩をがしりと掴んだ。
「いいかい? みんな、いつかは交尾するんだ。交尾するから生まれるんだぞ。オレたちも親が交尾したから生まれた。つまり、エロは悪くねぇ!」
「……ならどうして、エッチなのは規制されてんの? つまり、悪だからだろ?」
グラビアアイドルと目が合う。……こいつ、写真撮られてるのに目が笑ってない。好き好んでやってるわけじゃないんだろーな。仕事だって割り切ったつもり、でも、割り切れなくて心から笑えずにいるんだ。
こういう大人ってけっこういる。そうだ。女は、フツーに嘘をつけるんだよな。それがスゴいと思う。そもそも、女は嫌いだ。
……女には、理解されないから。
多くの女は、生き物を嫌うからな。生き物を嫌うような女は、嫌いだ。カエルやトカゲも、見せた瞬間に逃げていく。……こっちは善意で見せてやったのに。悲鳴を上げてる自分が可愛いと思ってるんだ。それがムカつくし、生き物たちにリスペクトが足りないと思う。
……可愛いのために、そこまでするか?
「こんなもの……森の土に還って養分になれ!」
ハルトは写真集を足で踏みにじった。山ちゃんは顔を覆って悲しそうにした。
「なぁ……ハルト、一冊くらい持って帰っていいよな?」
「意地汚い。……山ちゃん、友達やめるぞ」
「冗談だよ! 冗談!」
ふと顔を上げると、木陰に小屋があった。それは、朽ちていて、もう誰も使っていないような小屋。汚れた窓からそっと中を覗く。
人気は……ない。どうやら、物置小屋らしい。
「やっべ、ここの扉開いてるぅ……」
中に入ると、わかる。ホコリまみれだけど、ちゃんと利用できる。
「なんだここ? いい感じの雰囲気なんだけど」
「……やべぇ。ここ、めっちゃ隠れ家じゃね?」
「てか、秘密基地だよ。そうだ、秘密基地にしよう!」
三人で協力して、中にあった物を動かす。そして、置いてあったホウキで掃除した。昼休み後の掃除の時間より有意義だった。
「綺麗になったな……」
「秘密基地の名前も決めなきゃね」
「お菓子も置いとこうぜ!」
わいのわいのと秘密基地での会議は盛り上がった。そして、暗くなる前に、正規ルートで山を降りる。手応えのある満足感。
ワクワクドキドキ。あー、これだ、夏休み中、ずっと足りなかったの! これこれ! これだよ!
「じゃあな!」
「また明日!」
家に帰ると香ばしいソースの匂いがした。どうやら、夕飯は早めに食べたらしい。テーブルの上には、たこ焼きパーティーの残骸が残っていた。
居間は占拠されていた、そこには苦手な女ばかりがいた。
「おえ……」
吐き気がする。テレビには見たことのあるゲーム画面が表示されていた。
「おっ? 帰ってきたか!」
「あのさ、それ……俺のゲームなんだけど?」
「えー、でもさぁ、没収されたんでしょぉ? 少しくらい使ってもいいじゃな~い」
「そーだ、そーだ!」
「ハルトくん、こっちで遊ぼう? 可愛がってあげる!」
……げ、下品な女どもめ。アカリさんがやってきた。艷やかな長い髪が揺れる。お風呂に入ったからか、特段いい香りがする。これは石鹸の香り? アカリさんだけが、特段いい香りがしないか?
「ごめんね? ハルトくん。わたしたち、勝手に使っちゃって……。ハルトくんのだって、わたし知らなかった」
「う、うん……。アカリさんなら別にいいけど、一応没収されてるから元に戻しておいてね」
「……そうなんだ。可哀想に。そうだ、タコ焼き焼いてあげようか? わたし、上手に焼けるよ?」
「あ、ありがとう。でも自分で焼けるよ……」
アカリさんの焼くタコ焼きは食いたいけど……。肩の向こうに、ニタニタと見つめてくる姉の姿があった。
「……ゲームは元に戻しておけよ? 陰湿クソババアども」
「へぇ……。アカリだけには優しいんだ? ハルトってさぁ、もしかして、もしかして……アカリのこと好きになっちゃった?」
「……ん、んなわけあるか! ブス! アカリさんは優しいから特別なんだよ!」
そうだ。アカリさんは……神様の力作なんだ。あいつら下等生物とはワケが違う。
「照れてる! かわいいー! まぁ仕方ないよね! アカリって、告白されまくりなんだもんね!」
……な、何!?
「そ、そんなことないよぉ……」
「謙遜すな! 何度、恋愛相談に付き合わされたことか……。バスケ部のレンくんにも告られてたし!」
バスケ部のレン? ……誰だそいつ、ぶっ飛ばす!!
「でも断ったよ? あまりタイプじゃないし……」
……ふん。ざまあみろ、レンめ。
「ハルトくーん! ねぇ、一緒に過ごそうよ!? ゲームしようよ!」
「さんせー! ハルトくんを捕まえろ!」
わらわらと群がってきた。ぎゅっと抱かれた。や、柔らかい。もう誰が誰だかわからないけど、いい香りだ。動けない、圧倒的な力の差で。
男として情けなくなってきた、涙が溢れそうになる。
「んあッ! もうッ! やめろ! お、お母さん! いじめられてる!」
ジタバタと暴れてなんとか逃げ出した。涙がこぼれた。
「な~かした! な~かした! ハルカちゃんがな~かした!」
「ガキか!!」
姉貴のツッコミで、リビングからドッと大きな笑い声が響いた。……悔しい。やつらは体が大きいからって、ああやって子供扱いしやがって……。
「あら、ハルト。頭にヘアピン3つ付いてるよ?」
「……ねぇ、あいつらいつまでいんの? 早く帰ってくんないかな?」
ヘアピンを投げ捨て、たこ焼きを突きながら母に訊ねる。
「いいじゃないの、ちょっとくらい。夏休みなんだから……あの子達もうすぐ受験するから勉強会してるんだよ?」
「ほーん、そりゃ楽しみだね。どーせ、みんな、落ちるんだからさ」
「……ハルト、息抜きぐらいやらしてあげなさい。そんなことより、早く食べて、お風呂入って、歯を磨いて、寝なさいね?」
母は姉の味方をする。いつもそうだ。男だからって、我慢をさせられる。
「俺が買ったばかりのゲームなのに、俺のなのに……」
「あ、そうだ。……後で、夏休みの宿題、どこまでやったか見せてね?」
俺は風呂に逃げ、そして、自室にこもった。……やれやれ、我が家の女は、強い。この家で、男でいるのはとても辛いことだ。だから、父さんはいつも悲しそうな目をしている。哀愁漂う背中を何度見たろうか?
「……ふん! あのババア共、絶対に許さないからな!」
目を瞑ると、しだいに怒りは冷めていった。……にしても、ワクワクが止まらん! 秘密基地のことが、頭から離れない!
自由帳を取り出して、やりたいことリストを書き出した。
あぁ、ドンドン夢が広がる。仲間を増やしてもいいかも。ご飯作ったり、野良猫飼ったり、野菜育てたり……。最後には、あそこに家を建てるんだ……。立派な……家を……。
・馬鹿みたいにはしゃいで、窓ガラスを割ってしまった。
・罰として、ゲームをほとんど没収された。
・上級生に逆らい、ケンカで負けた。
・せっかくの花火大会は雨だった。
・せっかくの沖縄旅行も台風が接近してきたので雨だった。
……今、なんだか魚を捕りたい。メダカとかドジョウとかじゃなくて、もっとデカいやつがいい。コイやライギョとかなら、釣れたら面白いと思う。でも、もうすぐお盆なので近くの川は入っちゃダメだ、と言われた。
夏休みだというのに……。 最近、なんだか不幸続きだ。
風鈴が鳴る。アブラゼミがやけに騒がしい。カーテンが揺れる。その窓の外には入道雲がプカリ。
夏、夏、夏なのに……。僕らにはたくさん時間はある。でも、なんて……つまらないんだろう。
「なんか、面白いことないの?山ちゃん」
ハルトは毬栗のような頭に問いかけた。
「面白いこと?うーん……。あ、日焼けした皮をていねいに剥がすの面白いよ」
「……もうやったよ、他!」
「うーん……あ、そうだハルト! 明後日は、『ドラトレ5』の発売日だよ」
ドラトレか……。ドラゴンの巣から宝を盗む、有名なゲーム。
ハルトはため息をつく。
「お金ないよ。それにソフトだけじゃ、プレイは無理だって……」
「……何したら本体を没収されるんだよ~。ほんとバカだなぁ、ハルトは」
カーテンが揺れ、風鈴がチリンと鳴る。ぴんぽーんと同時にチャイムも鳴った。
「……あ、よっしーじゃね?」
「たぶん。んじゃ、見てくる」
ハルトは気怠げに玄関へ向かう。ガラス張りの向こうに見える、柔らかいシルエットで誰かわかった。
「よぉ、入れよ。よっしー」
「おっすー。おじゃましま~す」
ガラガラと扉を開いて、入ってきたのはニコニコ顔のよっしーだ。サラサラの黒髪で、後ろから見ると女に見えるのが特徴であり……触れちゃダメなところだ。
「山ちゃんはもういるよ」
「さすが暇人」
部屋に戻ると、山ちゃんは学習机の椅子でクルクルと回っていた。ピタリと止まると、よっしーに向かって手を上げた。
「……おう! よっしー!」
「どうしたの? 二人して辛気臭い顔して? ていうか、ハルちゃんなんか今にも死にそうな顔してる」
よっしーは腰を下ろし、不思議そうに首を傾げた。……あいかわらず、空気を読むのがうまい。
「なんかさぁ、夏休みなのにつまんねぇよなぁ! ……って話してたの」
「旅行は行けそうにない。もうでかいイベントは、婆ちゃん家行って、そんで終わりだよ」
「……あ、そうだ。あそこ行かね~? ハルト」
二人の視線が集まる。山ちゃんが人差し指を立てた。
「山」
その言葉で、二人は固まった。恐らく……山と言えば、あの山のことだろう。国道のそばにある山。
この辺の住人でさえ、あまり立ち入らない……というか立入禁止の山。あまりいい話を聞かない、昔からいろんな噂のある曰く付きの山。
「……マジで? 入っていいの?」
「開発? とか、不法投棄? だとで、いろいろ変な話があるね。普段から立ち入り禁止な分、誰も寄り付かないから。入れるとは思うけど……危険じゃない?」
よっしーは弱気になる。そんな彼の肩に手を回す山ちゃん。
「もしかしてだけど。よっしーさぁ、ビビってる?」
「……んなことないよ。ただ、バレたらヤバくないかな? 学校にも連絡行くと思うよ?」
山ちゃんは腕組みして唸った。そして、ニコリと笑う。
「……まぁ、ゲーム没収じゃ済まないかもな!」
「でもさ、人気がないんだから見つかりっこないだろ。そもそも山だし、林も茂みもあるだろ? 身を隠すのにもってこいだ! 自転車も隠しときゃ問題ない」
「で、でも……」
「それにさぁ、最悪逃げればよくね? 大人なんかに、足の速さで負けないっしょ? お前ら百メートル何秒?」
山ちゃんはそう言うと、またニカッと笑った。山ちゃんはサッカー部なので足には自信がある。百メートル十四秒台らしい。
「……ま、気晴らしになるかもな」
「ハルちゃんまで!?」
「なら、決まり! 各自荷物を調達せよ!」
三人は、解散する。ハルトはとりあえず、リュックにいろいろ詰めた。タオル、ライトに、折り畳みナイフ、ロープに、マンガに、虫除けスプレー、生物図鑑はちょっと重いか……。
あれこれと悩んでいると、またチャイムが鳴った。どうやら二人が帰ってきたらしい。
「まだ悩んでるの!? 軽い荷物にしなきゃ、小さくても山登りなんだから大変だよ!?」
よっしーは面倒くさそうに喚く。リュックには必要なものを入れられた。準備万端。三人は立ち上がる。
「……んじゃ、行くか。探検しに」
「そうだ、どうせならさぁ! お菓子持っていこーぜ。携帯食料は大事だよ。スタミナが減れば、逃げられなくなる」
玄関をガラガラと開ける。そこには、じんわりと汗をかいた女子中学生の集団がいた。その中央に、ハルトの姉のハルカがいた。
「うはぁ。かぁわいーんだ!」
「ねぇ、ハルカ。どの子が弟?」
「弟? ……この一番目つきの悪いクソガキ」
ケバい子、怖い子、大人びた子、多種多様の女たちに、頭をワシワシと掴まれた。ハルトは手を振り回して抵抗した。
「……うるせー。クソババア」
「ね? 野良猫みたいに態度悪いでしょ? ハルトって言うんだ」
ドッと盛り上がる、女子中学生たち。
「やだ、鼻筋とか目元がハルカとそっくりだー! かわいー!」
「こんなクソババアと、一緒にすんな!」
「あはは! やだ! 怒った顔も可愛いんだけどぉ!」
「てかさぁ、どこ行くの? あ、お友達と冒険の旅にでも行くの~?」
クスクス笑われた。でも、半ば当たっているのでビビる。やはり、女は侮れない。
「だ、駄菓子屋だよ! 公園とぉ! 駄菓子屋! 以上、それだけ!」
おっとりとした女の子がやってきて、微笑む。
「……みんな、気を付けて行ってきてね? 暑いから、熱中症にならないように、ね?」
さっきまでの空気がガラッと変わった。怒りが途端に冷めていく。
「……は、はーい」
アカリさん。この女には、みんな弱い……。それは、俺もだ。この人は、なんか違うんだよな。周りのバカみたいに、悪ノリしないし、穏やかで気配り上手。
女子集団から逃れるために、自転車にまたがった。
「……やっぱ気に食わねぇ。あのクソ女ども、いつかイジメるか?」
「でもさ、アカリさんっていいよなぁ……。優しいし、可愛いし、しかもさぁ、すんげぇいい匂いするし……。ウチの母ちゃんがアカリさんだったらなぁ……」
山ちゃんはたまに気持ちの悪い顔をする。女の子の話をするときがそうだ。鼻の下伸ばして猿みたいな顔する。
「バーカ。山ちゃんは夢見過ぎなんだよ。……女はな、かなり臭いんだぞ。特に、屁と口が臭いんだ」
「マジで? ハルトの姉ちゃんも?」
「おう。だから、ウンコなんか絶対男より臭いぞ。……きっと、アカリさんも一緒!」
「あんな可愛いのに?」
二人は押し黙る。そして、顔を見合わせて呟く。
「そうかなぁ……。アカリさんはきっと別だよ。たぶん、オナラはしないと思う」
「同感。たぶん、香水とか金平糖がポンポン出るんじゃね?」
ハルトは呆れてブレーキを踏んだ。
「あのなぁ! お前らは夢見過ぎなんだよ! バーカ! ……てかさ、女よりさ、よっしーの方がいいだろ。面白いしぃ? かわいいしぃ? なんせ女より賢いんだからなぁ!」
「か、からかうなよ! 次はハルちゃんでも許さないからな!」
よっしーはプンスカ怒り、ペダルを踏み込んだ。
「……褒めてるのになぁ?」
「んだんだ」
俺たちは駄菓子屋に寄ってオヤツを買った。
「あ、ジュース買わなきゃ……」
「待て、ジュースは高いだろ」
「そうだよ! 水筒に麦茶をたんまり入れたの持ってるから、みんなで飲もう」
よっしーは気が利く。だから、女にモテる。男にもモテる。
「さっすが、よっしー! いいこ、いいこ! かわいい子!」
「な、泣かす! ふたりとも、今から泣かす!」
よっしーはポカリと二人を叩いた。笑いながら、目的地を目指す。心地よい、そよ風が3人の髪を揺らした。山がくっきりと見える。なんだか、そう、冒険の始まりって感じだ。
「さて、ここに停めようか。草陰で見つかりにくいだろうし」
「そうだな。じゃあ、虫除けスプレー振るぞ」
「オレにもよろしく」
ハルトたちは山道をズンズン進んだ。山は空気が違う。木陰は涼しくて快適だ。
「お? みんな隠れろ! 車かも!」
脇道に逸れると、車が横を通っていった。乗っているのは強面髭面の男たち。三人は息を殺し、汗を拭う。
「何の用があって、こんな山の中にいるんだろ?」
「オオクワガタでも捕りに来たんじゃね?」
「オオクワガタなら夜行性だろ? それなら、日中に来ないだろ? やっぱ……迂回ルートを探そう」
山ちゃんは面倒臭そうに腕を組んだ。
「そんなのあるかぁ? ……なぁ、このまま行こーぜ? 隠れたら絶対にバレないって!」
意見が割れる。よっしーが心配そうな顔をする。
「でも、万が一鉢合わせたら終わりだよ?」
「そう、万が一がある。ちゃんと気を付けなきゃ。とにかく……蛇がいるかもしんないから、俺が先に行く」
「ハルトは頼りになるね!」
二対一。山ちゃんは頭を掻きむしり、諦めたようにため息を吐いた。
「……だりぃなぁ、もう。わーったよ! わかってるさ!」
ハルトは足元の木の枝を拾う。1メートルくらいあって、なかなか丈夫そうな棒。
「よし。この棒を頼りに行こう」
ガサガサと草をかき分け、獣道を進む。なるべく、人の使う道から離れないように、迷子にならないように。ずぶり。奇妙な感触が足元にあった。
「……た、助けて!」
「これ……ぬ、沼か!? 早く出ろ! 底なしかもしれない!」
蔦を引っ張ってなんとか、這い上がる。腐葉土とヘドロが絡みついている。
「くっせぇ! マジで、ザリガニが死んだ水槽の臭いがする! おぇ!」
「お、おい! ここでゲロ吐くなよ!? 服にかかるし、つられるからさぁ!」
「そんなことより早く出ろ! ヒルがいるかもしんないぞ!」
「……まじかよ!」
協力して、なんとか、沼地から抜け出すことができた。しばらく登るとちょろちょろと流れる小川があった。そこで泥を落とすことにした。
「あーあ……最悪だよ。完全に臭いが染み付いてる。こりゃ取れんぜ? 歩くたびにガポガポ鳴るし……」
「すぐ乾くさ。ほら、靴擦れに気をつけろよ?」
しばらく歩くと、急に山ちゃんが駆け出した。
「お、おい! 見ろよ! これ、ヤバいって!!」
山ちゃんは満面の笑みを浮かべている。
「うわぁ。……エロ本と、エロ漫画だけでなく週刊誌や新聞まであるよ。誰がこんなとこに捨てたんだろ?」
「見た感じ、あんまり湿ってないな。……まだ新しいから、人が出入りしてるってことだろうな。きっと」
「すっげぇ……。これ、見ろよ! この人、おっぱいデッカ! 見なよ、アイドルの写真集もある!」
ガサガサと漁り始める山ちゃん。山ちゃんの女好きには呆れる。ハルトたちはゆっくり歩き出した。
「山ちゃん、早く行くぞ! 捨てとけ。そんな、ばっちいの!」
「そうだよ。……き、汚いよ? 誰が触ったかもわかんないし、そもそもいつからあるのかわかんないし」
「でも、もったいないっしょ~。こんなのガキのオレらには買えない代物だぞ? オッ! エロいDVDまであるぞ! これなんか、乳首まで写ってる!」
「……オレにはわからん。なぁ、よっしー」
「う、うん。まぁ。そうかも……」
よっしーは顔を赤くしながら、モゴモゴと呟く。
「はぁ? おいおい、よっしー裏切んな!? よっしーは、女の子好きだよなぁ? ルリのこと好きなんだろ?」
「まぁ……好きっちゃ好きだけど、さぁ……」
よっしーは照れ臭そうに頬を掻いた。山ちゃんはよっしーの肩をがしりと掴んだ。
「いいかい? みんな、いつかは交尾するんだ。交尾するから生まれるんだぞ。オレたちも親が交尾したから生まれた。つまり、エロは悪くねぇ!」
「……ならどうして、エッチなのは規制されてんの? つまり、悪だからだろ?」
グラビアアイドルと目が合う。……こいつ、写真撮られてるのに目が笑ってない。好き好んでやってるわけじゃないんだろーな。仕事だって割り切ったつもり、でも、割り切れなくて心から笑えずにいるんだ。
こういう大人ってけっこういる。そうだ。女は、フツーに嘘をつけるんだよな。それがスゴいと思う。そもそも、女は嫌いだ。
……女には、理解されないから。
多くの女は、生き物を嫌うからな。生き物を嫌うような女は、嫌いだ。カエルやトカゲも、見せた瞬間に逃げていく。……こっちは善意で見せてやったのに。悲鳴を上げてる自分が可愛いと思ってるんだ。それがムカつくし、生き物たちにリスペクトが足りないと思う。
……可愛いのために、そこまでするか?
「こんなもの……森の土に還って養分になれ!」
ハルトは写真集を足で踏みにじった。山ちゃんは顔を覆って悲しそうにした。
「なぁ……ハルト、一冊くらい持って帰っていいよな?」
「意地汚い。……山ちゃん、友達やめるぞ」
「冗談だよ! 冗談!」
ふと顔を上げると、木陰に小屋があった。それは、朽ちていて、もう誰も使っていないような小屋。汚れた窓からそっと中を覗く。
人気は……ない。どうやら、物置小屋らしい。
「やっべ、ここの扉開いてるぅ……」
中に入ると、わかる。ホコリまみれだけど、ちゃんと利用できる。
「なんだここ? いい感じの雰囲気なんだけど」
「……やべぇ。ここ、めっちゃ隠れ家じゃね?」
「てか、秘密基地だよ。そうだ、秘密基地にしよう!」
三人で協力して、中にあった物を動かす。そして、置いてあったホウキで掃除した。昼休み後の掃除の時間より有意義だった。
「綺麗になったな……」
「秘密基地の名前も決めなきゃね」
「お菓子も置いとこうぜ!」
わいのわいのと秘密基地での会議は盛り上がった。そして、暗くなる前に、正規ルートで山を降りる。手応えのある満足感。
ワクワクドキドキ。あー、これだ、夏休み中、ずっと足りなかったの! これこれ! これだよ!
「じゃあな!」
「また明日!」
家に帰ると香ばしいソースの匂いがした。どうやら、夕飯は早めに食べたらしい。テーブルの上には、たこ焼きパーティーの残骸が残っていた。
居間は占拠されていた、そこには苦手な女ばかりがいた。
「おえ……」
吐き気がする。テレビには見たことのあるゲーム画面が表示されていた。
「おっ? 帰ってきたか!」
「あのさ、それ……俺のゲームなんだけど?」
「えー、でもさぁ、没収されたんでしょぉ? 少しくらい使ってもいいじゃな~い」
「そーだ、そーだ!」
「ハルトくん、こっちで遊ぼう? 可愛がってあげる!」
……げ、下品な女どもめ。アカリさんがやってきた。艷やかな長い髪が揺れる。お風呂に入ったからか、特段いい香りがする。これは石鹸の香り? アカリさんだけが、特段いい香りがしないか?
「ごめんね? ハルトくん。わたしたち、勝手に使っちゃって……。ハルトくんのだって、わたし知らなかった」
「う、うん……。アカリさんなら別にいいけど、一応没収されてるから元に戻しておいてね」
「……そうなんだ。可哀想に。そうだ、タコ焼き焼いてあげようか? わたし、上手に焼けるよ?」
「あ、ありがとう。でも自分で焼けるよ……」
アカリさんの焼くタコ焼きは食いたいけど……。肩の向こうに、ニタニタと見つめてくる姉の姿があった。
「……ゲームは元に戻しておけよ? 陰湿クソババアども」
「へぇ……。アカリだけには優しいんだ? ハルトってさぁ、もしかして、もしかして……アカリのこと好きになっちゃった?」
「……ん、んなわけあるか! ブス! アカリさんは優しいから特別なんだよ!」
そうだ。アカリさんは……神様の力作なんだ。あいつら下等生物とはワケが違う。
「照れてる! かわいいー! まぁ仕方ないよね! アカリって、告白されまくりなんだもんね!」
……な、何!?
「そ、そんなことないよぉ……」
「謙遜すな! 何度、恋愛相談に付き合わされたことか……。バスケ部のレンくんにも告られてたし!」
バスケ部のレン? ……誰だそいつ、ぶっ飛ばす!!
「でも断ったよ? あまりタイプじゃないし……」
……ふん。ざまあみろ、レンめ。
「ハルトくーん! ねぇ、一緒に過ごそうよ!? ゲームしようよ!」
「さんせー! ハルトくんを捕まえろ!」
わらわらと群がってきた。ぎゅっと抱かれた。や、柔らかい。もう誰が誰だかわからないけど、いい香りだ。動けない、圧倒的な力の差で。
男として情けなくなってきた、涙が溢れそうになる。
「んあッ! もうッ! やめろ! お、お母さん! いじめられてる!」
ジタバタと暴れてなんとか逃げ出した。涙がこぼれた。
「な~かした! な~かした! ハルカちゃんがな~かした!」
「ガキか!!」
姉貴のツッコミで、リビングからドッと大きな笑い声が響いた。……悔しい。やつらは体が大きいからって、ああやって子供扱いしやがって……。
「あら、ハルト。頭にヘアピン3つ付いてるよ?」
「……ねぇ、あいつらいつまでいんの? 早く帰ってくんないかな?」
ヘアピンを投げ捨て、たこ焼きを突きながら母に訊ねる。
「いいじゃないの、ちょっとくらい。夏休みなんだから……あの子達もうすぐ受験するから勉強会してるんだよ?」
「ほーん、そりゃ楽しみだね。どーせ、みんな、落ちるんだからさ」
「……ハルト、息抜きぐらいやらしてあげなさい。そんなことより、早く食べて、お風呂入って、歯を磨いて、寝なさいね?」
母は姉の味方をする。いつもそうだ。男だからって、我慢をさせられる。
「俺が買ったばかりのゲームなのに、俺のなのに……」
「あ、そうだ。……後で、夏休みの宿題、どこまでやったか見せてね?」
俺は風呂に逃げ、そして、自室にこもった。……やれやれ、我が家の女は、強い。この家で、男でいるのはとても辛いことだ。だから、父さんはいつも悲しそうな目をしている。哀愁漂う背中を何度見たろうか?
「……ふん! あのババア共、絶対に許さないからな!」
目を瞑ると、しだいに怒りは冷めていった。……にしても、ワクワクが止まらん! 秘密基地のことが、頭から離れない!
自由帳を取り出して、やりたいことリストを書き出した。
あぁ、ドンドン夢が広がる。仲間を増やしてもいいかも。ご飯作ったり、野良猫飼ったり、野菜育てたり……。最後には、あそこに家を建てるんだ……。立派な……家を……。
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