秘密基地には妖精がいる。

塵芥ゴミ

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出会い

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 次の日もラジオ体操したあと、秘密基地に行くことにした。みんな、顔がにやけている。これは仕方のないことだ。

「おい。男子、これから何かするの?」

 ニヤケ顔をした女子たちがいた。ヤバい女子たちだ。ゴリラ女子と陰で呼ばれている、暴力女子たち。こりゃ、計画を知られるとマズイ。先生に言いふらされる可能性がある。

「ただ……遊ぶ約束してるだけ」
「ふーん、実はさぁ、プール行くんだけどさぁ……。時間あったらでいいけど、一緒に来ない?」

 まさかの提案に、山ちゃんは顔を輝かせた。

「えっ? マジで? 行く行」

 慌てて制止する。よっしーは山ちゃんの腕を引くと耳打ちした。

「おいっ!? 山ちゃん!? 一体、どっちの仲間なんだよ!」
「ごめん、てへぺろ!」

 山ちゃんの頭を小突いて、連れて行く。

「……悪いな! 俺らは用事あるんだよ!」
「どんな?」
「それは……口で言えないんだよ。秘密だから」

 女子たちは顔を見合わせた。そして、ギロリと睨みを効かす。

「どーせ、悪いことなんでしょ? あーあ、先生にチクろうかなぁ?」
「悪いことって決めつけんな! このゴリラおばさんズ!」
「……あ゛?」

 ハルトたちは蜘蛛の子を散らすように逃げた。
 朝食を済ませて、再度集まる。自転車に乗り、秘密基地へと向かう。柔らかい風が吹いている。ビンタを受けた頬が、ヒンヤリ冷えて心地良い。さっきまでの痛みが飛んでいったみたいだ。

「プール……かぁ……。いいなぁ……」

 ムッとして、ブレーキをかける。

「……あのなぁ、プールなんかに釣られるなよ!」
「だってさ~、夏休みなのにまだ五回しかプールに入ってねぇよ!」
「それで十分だろ! 秘密基地はきっと、これからプールより楽しくなるぞ!」
「……てかさ、ルカってさ、お前のこと好きなんじゃね? ルカってハルトばかりに話しかけてくんじゃん?」
「し、知るか!」
「ハルト、それ……ダジャレ?」

 ルカ……。あいつ、なんか変なんだよな。俺と目が合うことが多いんだ。やっぱり、そのことに気付いてるのか……みんな。もしかして、女子どもは俺とルカをくっつけようと企んでるのか?

 ルカは確かに目がクリクリしてて可愛いけど、暴言暴力ゴリラ女子だぞ? アカリさんと正反対だ。俺はあんまり好きじゃない、むしろ嫌いだ。……そう、関わらない方がいい。アカリさんみたいにお淑やかで可愛くなったら、考えてもいいけど。

 ……いや、やめておこう。女に夢中になるのはダサい。山ちゃんと目が合う。

「何?」
「別に?」

 山ちゃんが意味深にほくそ笑むので、思いっきりキックした。

 今日は車の通りはないみたいだ。獣道は、往復し踏み均したおかげで、少しマシになっていた。秘密基地の戸を開ける。そして、休憩するためドカリと座る。

「あー! やっぱいいな! ここ、落ち着く!」
「なんか食おうぜ……腹減った」

 よっしーが空き缶をカパッと開けた。

「……あれ? 缶に入れたお菓子がちょっとなくなってる?」
「えっ!? 保存食がか!?」

 確かに、お菓子をたくさん入れていたハズけど……。よく見ると、秘密基地の様子が……なんだかおかしい。

「柿ピーねぇぞ!? まさか、リスとかいるのかぁ?」
「……えぇ? リスなんか聞いたことないよ」
「ん? これさ、ここにあったっけ?」

 見ると、そこには雑誌の山があった。確か、掃除したはずなのに? どうして?

「まさか、山ちゃんの仕業か?」
「んなわけないだろ!?」
「もしかして……誰かと、先住民と共有してるとか? あはは……」

 シーン。

「先住民……あり得るぞ。ほら」
「これ、食い散らかされていたし、その雑誌の山はなかったし」
「まじかよ……冗談のつもりだったんだけど」
「じ、じゃあ、ここにいたら、そいつと鉢合わせる可能性もあるの?」
「どこかで見ていたりして……?」
「そんなバカな……」

 山ちゃんが走った。汚れて曇った窓から外を見ている。

「なぁ、山ちゃん。そこで何してんの?」
「警戒してんだよ! 誰かいたら終わるかも知んない!」
「こんな山の中で、待ち伏せなんかするのか?」
「……お、おい! 誰か来る!」

 山ちゃんが頭を抱える。部屋の中に緊張が走る。三人は顔を合わせ、思案する。

「みんな、隠れろ! 合図を送ったら、脅すぞ!」
「で、でも……大人だったり、集団だったら? 勝てないよ!?」
「安心しろ! 一応、一人みたいだ! 背も低い! 仲間いるかもしれないけど……」
「その時は……その時だ! とにかく、今は黙ってやり過ごすんだ!」

 ガチャ。人影がやってきた。どうやら一人のようだ。

「ふぅ……」

 そいつはソファにゴロンと寝転んだ。背は低いし、細い……子どもだろうか? そいつは、足を組んで盛大なあくびをする。なんだ、あいつ? ここに住んでるのか? なんか、ムカつくやつだ。

「……行くぞ、お前ら」

 ハルトは指先で合図を送る。『追い払うぞ』と。

「マジで? やだなぁ……」

 よっしーの顔は強張っている。緊張で、胸が張り裂けそうだ。息を目一杯、吸い込む。

「……お、オイィ!!」
「な、なんだ!? 誰だ、キミら!?」

 そいつはガバリと飛び起き上がる。俺たちは逃さないように、詰め寄った。

「お前! なんでここにいる!? 誰の許可でここにいるんだ!」
「許可なんているもんか! そもそも、こっちが先に見つけたんだ!」
「菓子食ったろ!」
「は、はぁ!? 意味わかんない! 何の話だよ!」

 唾が飛びそうなほどの口論。まるで埒が明かない。

「押さえつけろ! 泥棒だ、こいつ!」
「誰が泥棒だ!」
「きゃあッ!! やめて!!」

 ぴしゃり。
 ビンタを食らった。口の中に、血の味が広がる。……久し振りに頭に来た。

「こ、こいつ! もう許さん! 抵抗するな!」
「や、やめ……あっ! やだっ! やめてッ!」
「あ?」

 冷や汗が流れた。思わず、手の置き場を確認する。胸ぐらを掴んだつもりだった。これって……。この、ぷにぷに加減は……。

「……は、離れろ!」

 ハルトは青ざめながら慌てて逃げた。

「ハルト、どうした!?」
「やべぇ。こ……こいつ、女だ」

 ハルトは絶望したように呟く。

「は、はぁ!?」

 山ちゃんとよっしーは声を荒げた。女の子は乱れた服を整えて、壁にもたれた。そして、半泣きになりながら、キッと睨んできた。

「……確かに、女だけど何か文句あんの? 変態ども!」
「そりゃな……」

 しばらくして、四人は輪になって座った。掴み合いは、話し合いに移行することになった。……というのも、女である以上、やはり殴り合いは好ましくないと判断したからだ。面倒なことになった。女は、すぐに怒る。話し合いが通用しないことがある。譲る? ……そんなこと、死んでもしない。……互いに睨み合う。

「……な、なんで、女のくせにここにいるんだよ。女が一人で来るとこじゃないだろ」
「カンナなんだけどぉ?」
「えっ?」
「わたしの名前だよ。わたし、カ、ン、ナ。よろしくね」

 俺たちは自己紹介を軽くした。……てかさ、なんで、よろしくっていう言うかな? こちとら、よろしくしたくねぇよ! 改めて考えると、またイライラしてきた。

「なぁ? さっきの質問に答えろよ。なんで、お前はここにいるんだ?」
「ここは、山の中は涼しいし、静かで落ち着くからだよ。……それだけじゃダメかな?」
「ダメなのに決まってんだろ! ここはな、俺たちが使ってんだ!」
「へぇ、んじゃあさ、君たちが、この小屋の持ち主なの? 買ったの!? 作ったの!?」

 三人は顔を見合わせる。ハルトは呟く。

「……べ、別に違うけど!?」
「なら、文句言うなよ!」
「ね、ねぇ……あの……ちょっといいかな?」

 睨み合いが続く中、よっしーが手を上げた。みんなの視線が集まる。

「ねぇ、カンナはさ、怖くないの……? ここまで来るの勇気いるじゃん? 見たところ、仲間もいないでしょ?」

「えっ? まさか……怖いの? 男のくせに?」

 カンナはからかうようにクスクス笑った。山ちゃんも一緒に笑った。

「カンナ……一応言っておくがな。この子は、よっしーはな。女だからな……?」
「えっ? そうなの?」
「お前、表出ろ! 成敗してやる! この野郎、二度と話せなくしてやる!!」

 山ちゃんによっしーが飛びかかる。取っ組み合いを始める二人。二人の様子を眺めながら俺は頬をかいて、呟いた。はぁ、なんとか話を進めねば……。なんとしても、出て行ってもらうんだ。じゃなきゃ……夏休み、また終わる。

「知ってるだろ? この山には変な噂があるだろ。いろいろと、さ。だから、フツー怖いだろ?」
「あー……。オバケとか妖怪とか?」

 俺たちは目を合わせた。よっしーが山ちゃんの後ろに隠れた。

「……マジですか?」
「……え、まじでオバケ出るの?」

 オバケの話はほぼ聞いたことはなかった。カンナは少し思案すると、ポンと手を叩いた。

「あ、不法投棄とか、不良の溜まり場になってるって話?」
「ま、まじかよ……不良までいるのかよ……?」

 新しく手に入れた情報は、はるかに残酷だった。なんと、オバケと不良もいるらしい。これは、あまりにも危険だと知った。せっかくの夢みたいな場所……ここを撤退しなければならないのか……。

「まあ……今は暑いから、たぶん不良は来ないけど……。前まではかなり入り浸ってたよ……めんどくさかった」
「ん……待てよ。俺たちよりも先に居てたというなら。カンナ、ここの事情に詳しいのか?」

 山ちゃんは訊ねた。

「うん。けっこう自信あるよ。そうだ、いろいろ案内してあげよっか?逃げ道や秘密の通路も作ってあるよ。教えてあげよっか?」
「逃げ道? 秘密の通路? そんなのあるのか?」
「……いいの?」
「いーよ。駄菓子食べちゃったし。それなりに罪を償うよ」
「てかさ、よく食えたね。……置いてあるものを」
「いやぁ、日中動き回っていたからお腹ペコペコでさぁ!」

 カンナは無邪気にカラカラと笑った。ハルトはため息を吐いた。

「おい……いいのかよ……。男だけの秘密基地なんだぞ?」
「いいじゃん、いろんなこと教えてくれんだろ? 役立つならよくね?」
「そうだよ……。つまんなかったら、追い出せばいいし」

 俺たちはカンナと一緒に小屋を出た。カンナに連れられて、いろんな道や場所を知った。その上で感じたのは、所々にやはり『人のいた形跡』があるということだ。

 しかも最近、活発に人が出入りしている様子がある。……ちなみに、カンナの仕業ではないらしい。ガサガサと草むらを歩きながら訊ねる。

「……てか。カンナは、どこ小? 北小では、ないよな?」
「……えーと、確か。たぶん、北小」

 みんなの足がピタリと止まった。

「えっ? たぶん? どういうコト?」
「あの、引っ越してきたばかりで、何も知らないんだ。小学校も夏休みだから、まだ一度も通ってないし……」
「えっ!? じゃ、じゃ、おんなじじゃん! 北小の転校生になんの? 何年生? オレたち五年だけど!」
「わたしも……五年だけど?」
「お、同じだ!」

 みんな、驚きを隠せなかった。

「……まじかよ!? こんなことあるんだな! 自慢できるな! 転校生と始めっから知り合いだなんて!」

 山ちゃんがカンナの背中をポンと叩いた。カンナは振り返って、笑った。まさか、カンナと同級生とは……。ハルトは頭を悩ませた。

「……あ! そうだ。あそこに案内してあげようか?」
「あそこって? 秘密基地の他に、面白いとこあるの?」
「うん。こっちだよ。秘密基地よりも、秘密なんだよ」

 カンナは可愛らしく微笑んだ。連れて行かれたのは、見晴らしがいい開けた場所だ。

「わぁ、キレイ……。スゴいね、ココ」
「街を一望できるのかぁ……。いいな」
「……なるほど。こりゃ、秘密の場所だわ」

 いい景色だなぁ。風があって気持ちいい。

「とてもいい景色だよね……。……でもね。あそこ」

 カンナは指を差した。

「あそこから……駅前からドンドン開発が進んでるんだ」
「開発? あー、人口が増えてるから、家が増えるんだっけ? そういや、店もドンドン増えてるよな」
「そういえば、数年前に駅も改装されたからね」
「そう。人間が増えると、土地がいるの。……だから、山が削られてる」
「じゃあ、いつかここもなくなんのかな……?」

 カンナはコクリと可愛らしく頷いた。

「まぁ、何年かかるかわかんないけどね」
「マジか! そりゃ、困るな……」

 そんな事になったら、計画が、野望が台無しになる。ハルトは腕組みをして唸る。山ちゃんとよっしーは指を差しながらはしゃいでいる。

「あそこ! セラちゃんとナカッチがいる!」
「うぉっ! マジで!? めちゃくちゃ目がいいな!?」
「てか、声出すな! ばかども!」

 しばらく、景色に見惚れた。日の当たり方で、街は表情をガラリと変える。蟻のように蠢く人間たちや車を見ていると、まるでミニチュア人形で遊んでいるように思える。

 二人はカンナのために、小学校や町のことを話している。俺はそんなカンナのことを見つめていた。……不思議な気持ちだ。なぜだか、カンナのこと、すごく気になる。こう、なんていうか……その、決して好きとかじゃないんだけど。

 説明できない不思議さがあった。でも、その正体がわからない。ハルトはもどかしさを言葉にしたかった。……でも、言葉にならなかった。

「ねぇ、どうしたの? ハルト? ぼーっとしちゃってさ」

 話を終えたカンナがハルトの隣に座る。

「べ、別に……。なんにもない」
「でも……ずっと見てたよね? わたしのこと」

 カンナは呟いた。ハルトは焦った。バレてたのかよ!? 気不味いなぁ……。

「野球帽のせいで男にしか見えない……って思っただけ」

 あ、しまった。傷つけたか?
 ハルトは会話の間を埋めるように石ころを拾って、手の中で転がした。

「……そうかなぁ? 男っぽいかな? じゃあ、帽子被るのやめようかな」

 その言葉に、思わずハルトは振り返った。ふんわりとした艷やかな髪の毛。帽子を脱いだ彼女は、女の子らしさがグンと上がっていた。というか、それどころじゃない……。手のひらから石ころが落ちた。
 目を疑うような、美少女がそこにいた。

「……その方がいいと、オレは思うよ」

 自分の口から、自然にこぼれた言葉が信じられなかった。カンナと目が合う。光が当たり、瞳がきらめいている。えぇ……? なんて綺麗な瞳をしてるんだ、この子は。
 しばし見惚れて慌てて、そっぽを向いた。

「……じゃあ、そうするね」

 カンナは嬉しそうにニコリと微笑んだ。

「お、おう」
「ちなみになんだけど……よっしーはさ、男だよね?」

 カンナはよっしーの肩を掴む。

「男だよ!? 次言ったら……たとえカンナでも、ぶん殴るからなぁ!」

 よっしーがプンスカ怒るのを見て、みんなで笑った。よっしーも山ちゃんも、カンナの顔を二度三度見していた。……あー、わかった。やっぱり、アカリさんと同じだ。
 同じ感じがする。ハルトはすっかり魅了されていた。

 やがて、夕焼け空がハルトたちを赤く染める。夕焼け小焼けの曲が流れる。

「じゃ、さよなら!」

 カンナは手を振った。ハルトたちも振り返した。

「……てかさ、なんで、女だってわかったんだ?」
「えっ?」
「そうそう。帽子取らなきゃ、まずわからなかった」
「……さ、触ったんだよ」

 山ちゃんが迫ってきた。

「何をだ? 言え?」

 二人が近付いてきた。ハルトは観念した。

「……む、おっぱいだよ! 言わせんな!」
「……ほぇ~。羨ましいなぁ」
「はぁ? あれは事故だよ! 事故!」
「……ていうか、好きになったんだろぉ?」
「まさか」
「俺は、好きだなぁ。明らかにクラスの一番になれるよな! ルカやミクよりもサヤカちゃんよりも、いや……アカリさんよりも間違いなく可愛くね?」
「それは、間違いないよね! アカリさんは大人びていてキレイだけど、なんていうか、カンナは可愛いんだよね。アイドルみたいにキラキラしてるし。……てか、どっかで見たことある気もするんだよね……」

 よっしーは腕組みをした。

「なんだろう? うーん、透明感っていうのかな?」
「そうそう! なんだか森の妖精みたいだよね?」

 山ちゃんが指をパチンッと鳴らした。

「よっしー天才! それだわ! 謎がスッキリした! ありゃ、人間じゃねぇわ、妖精だわ」
「……妖精ねぇ」
「あそこ、妖精の山って呼ぼうぜ!」
「……アホか! それじゃ、秘密基地も、妖精の山の秘密基地になる。それは、それだと、あの小屋はあいつのモンみたいだろ!」
「オレたち、探検家なんだろ! 妖精の山で、妖精に出会った設定な!」

 山ちゃんは笑った。ハルトはしかめっ面で怒る。

「なんだそれ!? めちゃくちゃなんだけど! ……てか、そもそもダサいよ」
「んじゃ、またな!」
「待てよ! ふざけんな! カンナに知られたらバカにされるぞ!?」

 怒りながらも、なぜか頬が緩んだ。俺の夏休み、なんかとても楽しくなってきた気がする。振り返って山を見上げた。これからも、ドンドン楽しくなる気がした。新しいメンバーが増えるのは面白いことだ。女であれ……。ハルトは自分に言い聞かせた。
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