秘密基地には妖精がいる。

塵芥ゴミ

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少女カンナ

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 玄関を開けて、ハルトは絶望した。靴がごちゃりと並んでいる。

「また、いるのかよ……。怪獣ども……」
「今日はね、みんな泊まるんだよ?」
「……はぁ?」

 アカリさんのデカい胸に目が行ってしまう。な、なんで、こんな中学生らしからぬ胸してるんだ? これじゃあ、貧相な姉が可哀想になってくる。……神様、これは不平等じゃね? だって明らかに違い過ぎるだろ……。
 例えるなら、あんこ詰めた大福と、押し潰したどら焼きのような差がある。

「何よ、その目?」
「その、可哀想だなと思って……」
「……あ゛ん?」

 ハルトは慌てて姉から離れた。おっぱいに目が行くのは、きっと、おっぱい触ったせいだ……。そのせいで頭がグルグルする。熱いというか、痛いというか。

「何も考えられないんだよな……」

 振り返ると、アカリさんがいた。

「ハルトくん、なんか変だよ? 顔が赤いし……熱っぽいの?」
「なんでもないです」
「あ。もしかして、風邪かな?」

 コツンと頭を押し当ててきた。おでこで熱を測るなんて!? 俺は慌てて、アカリさんを突き放した。

「わあっ!」
「ご、ごめんなさい! ……ね、熱なんかないから! だからさ、心配しないで!」
「あ! 待って! ハルトくん!」

 アカリはハルトに手を伸ばす。が、ハルトはそれを回避して逃げた。

「アカリ~、ハルトがどうかしたの?」
「……よくわからない。なんだか、慌ててた」
「そりゃ、美少女に近寄られたらそうなるわ」
「もう! そればっかり!」

 部屋の戸を閉じる。心臓がバクバクと鳴る。……やめてくれ、やめてくれ。

「はぁ、何もかも全部、おっぱいのせいだ……」

 手のひらに感触が蘇る。カンナの笑った顔が浮かぶ。……カンナ、同じクラスになるといいな。なぜ? 仲間だから。でも、女だ……。

「あーもー!!」

 妖精のおっぱい。

「……もう一回、触れないかな……?」

 は? 何言ってんだ、俺? 酷い罪悪感に苛まれた。女は、嫌いだ。そのはずなのに……。どうしてこうも、考えてしまうんだろうか?
 カンナのことだけはどうしても頭から離れない。




「おし! 今日も妖精に会いに行こーぜ!」
「うん。そだねー!」
「……妖精って? また漫画かアニメの話?」

 ラジオ体操が終わると、女子ズがやって来た。彼女らは単独行動をしない。そうやって固まってちょっかいをかけてくる。

「……教えねー」
「なんでさ!」
「お前らは仲間じゃない。それに男同士の秘密だ!」
「あっそ! いいもん、ばーか! あたしたちは花火大会行くもんね!」
「あっそ! それがどうした! こちとら、妖精に会うんだよぉ!」
「妖精……はぁ? 頭おかしくなったの?」
「めちゃくちゃかわいい女の子がいるんだよね……。君たちとは訳が違うような美少女なんだ」
「そそ! アイドルに会うんだよ! カンナに比べたらそこらの女の子なんて、ブサイクだよな!」
「あ゛?」

 ハルトたちは虎の尾を踏んでしまった。三人して、頬を腫らしながら自転車を押す。

「お前ら、張り切りすぎだろ……」
「ぶ、ブジョクしてきたアイツラが悪い」
「なんでだろ? カンナのこと考えちゃうんだよね。まるで魔法にかかったみたいなんだよね……」

 魔法かぁ。言えてる。ずっと……朝からいや、その前から、頭が変なんだよ。ずっと熱くなってる。自転車をキコキコと漕ぐ。その足にはギュッと力が入った。秘密基地の前にカンナはいた。ハルトたちに気づくと微笑んだ。

「……おはよ!」

 カンナは真っ白いワンピースを着ていた。三人は思わず、見惚れてしまった。

「か、可愛いね、その服」

 よっしーは照れながら言う。

「ありがとう。買ってもらったんだ」
「めちゃくちゃ高そうだけど……泥つけるなよ?」
「大丈夫だよ、気にしない気にしない」

 カンナは、はにかんだ。

「一気にお嬢様みたいだな。なぁ、もしかして……カンナって金持ちの娘だったりする?」
「どうだろ……」

 もしかして、俺が昨日言ったから? 女の子らしい服を? カンナと目が合う。思わず、逸らす。

「ということで、今日は、湧き水に案内するよ」
「そんなのあるの!? こんな山なのに? すげー! 冒険じゃん!」

 チョロチョロと流れている。確かに綺麗だし、湧き水だ。でも……。

「これ……飲めると思う? 煮沸消毒ってのを、しなきゃならないのでは?」

 よっしーが躊躇う。山ちゃんは湧き水に頭を突っ込んだ。

「あ、こいつ、もう飲みやがった!」
「う、うまい!」
「えぇ? ヤバいだろ。あまり飲まない方がいいよ。腹壊すかもしんない」
「えっ? わたしもたまに飲むけど。別に大丈夫だよ」
「えっ!? カンナは飲んだの!?」

 ハルトは戸惑う。

「まじかよ……。カンナって、見た目によらず……かなりのチャレンジャーなんだな」
「……麦茶あるだろ。みんな、それ飲め。もちろん、カンナも!」
「これ……とても美味しい」

 カンナはペットボトルのお茶を飲み、目を見開いた。そして、二口、三口と飲み始める。

「あ、コラ! カンナ、あんまりガブガブ飲むな! 無くなっちゃうだろ!」
「ご、ゴメン! 美味しくてつい! こんなの飲んだことがない」
「別にいいけどさぁ……麦茶飲んだことないの?」
「……家によって違うでしょ?」
「まぁ……そうかな? これは買ったやつだからうまいのは当たり前だよ」

 ハヤトはカンナを見つめる。顔の形が他人と違う。横からみても下から見ても、あまりにも整っている。天使がいたならこんな顔なのだろう。……やっぱりカンナは、ガチの美人だ。

「何? なんか付いてる?」
「べ、別に?」
「見てたよね? この前もそうだった。ハルト、嘘つくんだ?」
「カンナって、思ったよりも自意識カジョーだよな……」
「何か言った?」

 ……背中に目と耳でもあんのか? こいつ? テレパシーなんか、使えたりして……。でも、もし、ホントに妖精ならありえるかもな。四人で行動するのは、なんだかRPGみたいだ。俺たちは冒険しながら、学校の話をした。

「でさ、昼休みにはドッジボールするんだよな」
「ふ~ん。そうなんだ」

 カンナは前にいた学校の話はあまりしない。たぶん、いい思い出はないのだろう。そういえば、美人はいじめられると聞いたことがある。好きな子の取り合いになるのだろう。嫉妬は凄まじい。グチグチと陰口を言う呪術師のような姉を見てつくづくそう思う。
 それに不登校児童は年々増加しているという話も聞くし、不登校のヤツは他学年にチラホラいる。もしかして、カンナも……そういうヤツなのかも。

「……俺思うよ。カンナが来たら、学校楽しくなると思う」

 カンナは首を傾げた。

「そ、それは、カンナにとっての学校という存在が、楽しくなる……と思うってこと!」
「……どういうこと?」
「僕たちの学校は、つまんなくない。カンナも楽しく過ごせるハズ。ってこと! 理解しろ!」
「悲しくなったら、オレたちに任せろ、な!」
「みんな、ありがとう……」

 カンナは優しく微笑んだ。そうだ、カンナに辛い目をさせない。そんなことするやつは許さない。絶対に許さない。謝ってもたぶん許さない。カンナは、仲間だ。泣かせるやつは敵だ。



 妖精の山。秘密基地。いつしか、そこが集合場所になっていた。先に着いたのは、カンナだったらしい。カンナは黒のワンピースを着ていた。白い肌に黒いワンピースはよく映えていた。

「おっす~」
「おはよ」

 二人だと、なんだか気不味いな。何話せばいいかわかんなくなる。

「……あれ? まだ、みんな来てねぇの?」
「うん。そうだよ」
「ならさ、何かお菓子食うか? ほら、持って来たんだ」
「うん……。ありがとう」
「どした?」
「いや、ここに来てよかった」
「そりゃな。ここには、いいもんがたくさんあるし」
「……みんなに会えたから」

 ハルトはキョトンとする。

「……へ?」
「みんなに、ハルトに会えたから。いい人ってこんなにいるんだって。あはは……わたし、ずっと友達いなくて」
「ふーん……ならさ、オレがテキトーに見繕ってやるよ。女の友達いるからさ。カンナよりも、かなりアホなやつらだけど、みんな、かなりいいやつだよ。カンナもきっと好きになる」
「……ありがとう」
「友達だろ。当然だ」
「友達……かぁ」

 ハルトは俯いた。なんだか恥ずかしくなってきた。こんな真面目な話、得意じゃないんだよな……。

「さてと、あいつら来るまで、ゲームするかな」
「ゲーム?」
「うん。あれ?カンナって……持ってない?」
「ウチ、厳しいんだよね。だから、あまり見たことないんだ」

 もしかして……やはりお嬢様なのか?てか、そもそもカンナって、世間知らず過ぎないか?いや、そんなことはない、か。今まで、話してておかしなところはなかった。
 お嬢様のカンナ……。家にはピアノがあって、デカい犬がいて、芝生の庭があって、そうだ……小さなプールがあるのだろうか? 白いドレスとか似合う気がする。たまに男みたいなカッコするから、もしかしたら嫌いかもしんないけど。

「……どうしたの? 頭痛いの?」

 眼の前でカンナの前髪が揺れる。少し心配そうな顔をしている。

「あ、考え事してた。じ、じゃあ、教えてやるよ。これさ、レーシングゲームなんだけど……。操作はね、シンプルで……」

 教えるために、そばに寄せてしまった。そのせいで、緊張してしまう。手汗でうまく操作ができない。しばらく、教えるととたんにうまくなった。

「うまいじゃん。まぁ、俺の本気には勝てないけど」

 交代しながら負け惜しみを呟く。

「ハイ。あーん」
「……へ?」

 カンナはスナック菓子を差し出してきた。

「貸してもらったり、教えてもらったり、なんだか申し訳ないからさ。そのお礼だよ。……ハイ。あーん」
「お、おう」
「美味しい?」
「お、お菓子は大体何でもうまいだろ……」
「そうかな?」

 でも、いつもの数倍うまい気がする。ドキドキする……こんなむず痒い気持ち……。恥ずかしいような、イライラするような……。やめてほしくて、やめてほしくない。カンナは俺のこと好きなのかな?
 聞きたい。俺、カンナのこと……。

「え~と……さっきから、山ちゃんとよっしーは何してるのかな?」
「いやぁ……二人がイチャイチャしてるから。ずっと見てた」
「いやぁ、ハルトくん。実におませさんですなぁ……。女の子なんて嫌いなんでしょ?」
「……ふたりとも殺すぞ。こっち来い」

 こんなに自分の中で価値観が崩れるのは、初めてだった。それほどに強い魅力が、カンナにはあった。



 夏休みも終わりに差し掛かる、とある日。山の中にトラックが数台やってきた。

「オラァ! 早くしろぃ!」
「……すいません!」

 ドサドサとゴミを乱雑に下ろしていく。そして、一通り下ろし終えるとすぐさま立ち去っていった。

「やべぇ……あの人ら、チョーこえーよ。入れ墨入ってた!」
「……あれは不法投棄だよ」
「まぁ、秘密基地の強化材料が増えるんだから、得だな」
「でも、めちゃくちゃ臭いものもあるぞ。……これとか、なんか変な臭いする。薬品みたいな、ガソリンみたいな」
「山ちゃん。あまり嗅がないほうがいいと思うよ……」
「そうだな。使えないものと使えるもの、ちょっと分けて動かすか」

 廃材を動かすと、ネズミやムカデ、よくわからない虫がわらわらと出てきた。

「きゃあッ! やめてッ!!」

 よっしーが悲鳴を上げるとみんなが笑った。使えるような廃材は秘密基地へと持っていくことにした。

「よっと!」
「あ……ハルト。それ、釘出てるよ」
「マジで? うわっ! あぶねぇ。やっぱり手袋必要だな」
「う~ん、それは建築現場のヤツかな?」
「これ、落ちてるのタイルだろ? たぶん、家の風呂場とか壊して、出てきた使えないゴミをここに持ってきてるんだ」
「……でも、真っ昼間に?」
「トラックには何も書いてなかったから。イケると思ってるんじゃないかな?」
「……ポイ捨てだめなのに、ポイ捨て以上のこと平気でしてるんだもんな」
「ここもかなり汚れてきたなぁ……」

 カンナは、ぼうっと眺めている。俺たちも隣でしばらく眺め続けた。悲しそうなカンナを見ると、俺たちまで悲しくなった。



 夕方。解散してすぐ、ハルトは引き返していた。ゲーム機の忘れ物をしたからだ。

「まぁ……さすがに誰もいねーよな?」

 そ~っと覗き込んだ。すると、中にいたカンナと目が合った。

「忘れ物したんだね?」
「うわぁ!!」

 ハルトは驚いて腰を抜かしてしまった。

「あ、ビビってる!」
「ビビってねぇよ! ……てかさ、なんで、まだいるの?」
「わたしも忘れ物したの。……はい。ハルトの忘れ物はこれでしょ?」
「……おう。だからさ、なんで、ここにいるんだ?」

 カンナは首を傾げた。

「嘘ついてるだろ」
「……嘘って?」
「カンナって、いつも何も持ってきてないじゃん。……てかさ、暗いから。もう帰れよ」

 振り返る。カンナは黙ってハルトを見送っていた。ハルトは仕方なく、立ち止まった。……カンナは、女の子だ。ここで置いていくのは、なんか違うと思った。

「カンナが帰るまで、俺……ここにいるぞ」
「なんで?」
「心配なんだよ、カンナのことが。送ってやろうか?」
「帰る……、かぁ……」

 ビョォッと風が吹いた。ざわざわと草むらが揺れた。なんだか、肌寒い。

「あのね……帰る場所なんてないんだよ。わたしには」
「はぁ?」

 カンナは寂しそうに微笑んだ。

「……ここが家みたいなものだから」
「……どういうこと? まさか、家出してるの?」
「違うよ」
「冗談はやめろよ……ほら、暗くなってきたよ?」

 ザワザワと木の葉が擦り合う音が響く。カンナの後ろから、何かが、覗いた。

「それ……? 何?」

 瞬間、目眩がして、意識がなくなった。

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