秘密基地には妖精がいる。

塵芥ゴミ

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一夏の思い出

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「ここは? どこだ?」

 気付くとハルトは自室にいた。学習机に突っ伏していた。頭が酷く痛い。……あれ? 寝てたのか? なぜだか、記憶が……曖昧だ。

「何してるのかな、ハルトくん? そんなコトしてるから、風邪引くんだよ?」

 ブランケットをかけられた。

「えっ? アカリさん……どうして?」
「ん~? ハルトくん、寝ぼけてるの?」

 アカリさんはクスクス笑う。

「そうだ。忘れ物取りに行かなきゃ……」
「忘れ物って?」
「ゲームだよ」
「ゲーム? それじゃないの?」
「あれ? なんで、ここに?」

 ちゃんと手元にある。持って帰ってきたっけ? ……全然記憶にないんだよなぁ。

「俺、どうしたんだ?」
「何言ってるの? 変なの。ハルトくん」

 アカリさんがクスクスと笑った。



 夏休み終了、目前の日。秘密基地には、カンナの姿はなかった。代わりにあったのは、1つの便箋。

「置き手紙?」

『急にだけど、会えなくなった。予定があるんだ。ゴメンね。いつか、言おうと思ったんだけど、楽しくなっちゃってなかなか言い出せなかった。夏休み、ホントに楽しかったよ。山ちゃん、よっしー、仲良くしてね。ハルトくん、いつもありがとう。三人とも、また会えたらそのときは仲良くしてね。カンナより』

 白い紙に、早く書いたからか、ちょっと汚い字。呆然とした。

「ハルト……残念だったな」
「でも、学校で会えるだろ!」
「もしかしたら、また引っ越すのかなぁ?」

 そんな気がしなかった。胸騒ぎがした。とても寂しくなった。最終日は、あんまり楽しくなかった。夏休みが終わることに加えて、カンナもいなくなったから……。




 夏休み、終わった。始業式の日。かすかな期待を胸に学校へ向かう。……カンナ、いるよな?

「転校生来るんだぜ?」
「あー、男だろ?」
「違う! 男みたいなカッコするけど、女子だよ?」
「はぁ? 正真正銘、男だから!」
「ふふ、みんな間違うんだよなぁ……」
「静かにしてください。朝の会を始めますよ。」

 扉が開き、転校生が来た。ハルトたちは固まった。髪の短い子。でも、確実に男だった。名前も、体格も、何もかも違う。

「えっ? 別人じゃん?」

 その男の子は……カンナではなかった。思わず、先生に詰め寄る。『カンナ? そんな子はいない、転校生は彼一人だけだ』という。俺たちは理由がわからなくなって頭を抱えた。

「どういうこと? カンナ、やっぱり引っ越したのかな?」
「調べよう」
「怖くないの?」
「……知らないままのほうが嫌だろ?」

 ハルトたちは急いで秘密基地へと向かった。夢中になっていて気付かなかった。背後から車が迫ってきた。

「なんだ、あの車?」
「ヤバい! 抜け道まで走れ!」

 慌てて駆け上がる。しかし、降りてきた男達にすぐさま捕まってしまった。

「コラ! キミたち何をしてるんだ!?」

 彼らは警察官だった。恐らく、不審車両が通らないか、監視していたのだろう。ハルトたちは女の子を探してること、事情を説明する。

「そうなんだ。でも、そんな女の子は知らないかな?」
「送って行ってやるから乗るんだ」

 車に乗せられて、山の入口で降ろされた。

「もう二度と入らないように! あと、学校には連絡するからな? キミたちは北小だったね? 先生たちに怒られる覚悟しなよ?」
「すいませんでした……」

 ハルトたちはペコペコと謝った。カンナ……どこにいるんだよ? 妖精じゃないんだろ? 人間だろ? 出て来いよ。




 ハルトたちは家に向かうことにした。いろんな情報を知ってる姉たちに訊ねてみることにした。リビングでくつろぐ、いつもの面々。神妙な顔をするハルトたちを不審そうに眺めた。

「……え、何か用?」
「あのさ……近くに引っ越してきた女の子知らない? 俺たちと同じ学年で……かなり美少女で、可愛くて、カンナって言うんだけど!」

 どっと笑いが起きた。明らかにバカにされてる。ハルトは俯いた。今は怒りなんて沸かなかった。ただ、残念だった。

「かわいい!」
「それ、友達? 好きな女の子?」

 アカリさんは首を傾げる。

「ちょっと……アカリ、本気にしてる?」
「答えてあげなきゃ可哀想だよ、こんなに真剣に話してるんだよ?」

 アカリさんは真剣な顔で話を聞いてくれるらしい。

「カンナっていう名前です。知りませんか?」
「うーん、聞いたことがない名前だよ。ハルトくん、最近、カンナちゃんと遊んでたの?」
「……ありがとう、アカリさん」

 ダッと走り出した。

「おい! ハルト!」

 走り疲れて、立ち止まる。

「どうする?」
「……もうやめにしよう。笑われるだけだ」
「カンナは、ホントに山の妖精だった?」
「わかんねーよ……」

 ハルトたちは自分の家に帰った。



 明朝、ハルトは一人で秘密基地へと向かった。まだ、朝靄がかかっている中、ズンズン進む。小屋の前に来た。

「カンナ、いるんだろ! 出てこい!」

 ざわざわと森が騒ぐ。

「出てこなかったら、秘密基地、燃やすぞ! いいんだな! 本気だぞ!」

 ライターも何も持ってない。そんなことするつもりもない。でも、ハルトはとにかく叫んだ。

「……会えなくなったって、わざわざ書いたのに来るんだね」

 カンナはいつの間にか、背後に立っていた。気配すら感じなかった。

「カンナ!?」
「この山はもう終わるんだ。だから、わたしたちも終わり」

 カンナは黒髪を揺らし微笑んだ。

「何言ってんだよ! 学校は? 待ってたんだぞ! 嘘ついたのか?」
「もうすぐ、わたしはわたしじゃいられない。人が増えれば、それだけ力が無くなる。」
「ふざけんな! 質問に答えろ!」

 ハルトはカンナの肩を掴んで揺する。すると、どろりと目玉が落ちてきた。それは、カンナの綺麗な目玉だった。カンナはそれを両手で受け止めると、目玉のない顔で笑った。真っ黒な眼窩がハルトを見つめる。

「なんだ、それ……」

 ハルトはカンナを見つめたまま、固まった。恐怖のためじゃない。人間味が欠けて、カンナが遠くに行ったように感じたからだった。

「あれ? 驚いた、逃げないんだ?」
「カンナ……お前何者なんだ?」

 カンナは目玉を元の場所にカポっと戻すと、優しく微笑んだ。

「やっぱり不思議だね。ハルトくん。でも、そんなキミでもわたしのことわからないんだね。……まぁ、覚えてなくて当然か」
「意味分かんないよ。カンナ、人間だよな……? なんだよ、これ。悪夢か?」
「夢じゃないよ……。わたしは人間でもない。この体は雑誌から見つけたの」

 雑誌から見つけた? まさか、変身できるのか?

「なぁ、友達なら……話せよ」
「友達かぁ……。今思えば、会わないほうがよかったかもね」
「ズルいんだよ! 何が言いたい!? 何がしたいんだよ!? 全部言われなきゃわかんないよ! 俺!」
「言っても信じないよ、人は」

 涙が溢れてきた。ハルトは涙をグッと拭った。拭っても拭っても、溢れて止まらなかった。

「……わたしね、たぬきなんだ」
「信じる」
「スゴいね。信じるんだ」
「……信じる。嘘じゃない。だって、友達だろ?」
「ハルト、来て」

 カンナに案内されて向かう。そこには、たぬきの死骸がたくさん転がっていた。

「……これ、仲間が死んだのか?」

 カンナは悲しげに頷いた。

「毒餌を撒かれてね、かなりやられちゃったんだ。わたしたちは害獣扱いってわけ」

 ハルトは、スコップで穴を掘ると死骸を埋めてやった。

「野生動物なんだから、墓なんていらないよ?」
「でも、そうしなきゃならないと思った。人間に殺されたなら……そうしなきゃ報われない」

 カンナはハルトの手を握って、優しく微笑んだ。

「ありがとね。でも……もういいよ。ずっと、人間たちの邪魔をしてきたけど、わたしたち、もうダメみたいだし。恩人には……ハルトには昔から感謝してる。ホントにありがとう」
「……昔から?」

 ハルトは困惑する。たぬきに知り合いなんて……。記憶をさかのぼる。あ、たぬき……ってまさか。

「もしかして、車に轢かれてた死んだ親たぬき。その子どもなのか……?」

 思い出した。そうだ、二年前、車にハネられたたぬきの怪我の看病してたんだ。でも、数日後に死んでしまったんだっけ。死骸を埋めても、子だぬきたちが辺りをうろついていた。

「思い出してくれたんだ。ありがとう」
「たぬきだけじゃない。みんなに優しい人間になってね」

 カンナの姿はたぬきになっていた。遠くに、たぬきの群れがいた。そこにカンナは走っていった。彼女らは草むらに消えていった。ハルトは黙って見送った。恐らく、もう二度と会えないのだろう。


 気が付くと、自分の前にたくさんの小銭が入った袋が落ちていた。俺は神社に行った。その袋の中全てをお賽銭箱に入れて、俺は強く願った。意味がないかもしれないけれど……。

『カンナが幸せになりますように』

 ハルトの夏休みは……そうして幕を閉じた。
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