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一夏の思い出
しおりを挟む「ここは? どこだ?」
気付くとハルトは自室にいた。学習机に突っ伏していた。頭が酷く痛い。……あれ? 寝てたのか? なぜだか、記憶が……曖昧だ。
「何してるのかな、ハルトくん? そんなコトしてるから、風邪引くんだよ?」
ブランケットをかけられた。
「えっ? アカリさん……どうして?」
「ん~? ハルトくん、寝ぼけてるの?」
アカリさんはクスクス笑う。
「そうだ。忘れ物取りに行かなきゃ……」
「忘れ物って?」
「ゲームだよ」
「ゲーム? それじゃないの?」
「あれ? なんで、ここに?」
ちゃんと手元にある。持って帰ってきたっけ? ……全然記憶にないんだよなぁ。
「俺、どうしたんだ?」
「何言ってるの? 変なの。ハルトくん」
アカリさんがクスクスと笑った。
☆
夏休み終了、目前の日。秘密基地には、カンナの姿はなかった。代わりにあったのは、1つの便箋。
「置き手紙?」
『急にだけど、会えなくなった。予定があるんだ。ゴメンね。いつか、言おうと思ったんだけど、楽しくなっちゃってなかなか言い出せなかった。夏休み、ホントに楽しかったよ。山ちゃん、よっしー、仲良くしてね。ハルトくん、いつもありがとう。三人とも、また会えたらそのときは仲良くしてね。カンナより』
白い紙に、早く書いたからか、ちょっと汚い字。呆然とした。
「ハルト……残念だったな」
「でも、学校で会えるだろ!」
「もしかしたら、また引っ越すのかなぁ?」
そんな気がしなかった。胸騒ぎがした。とても寂しくなった。最終日は、あんまり楽しくなかった。夏休みが終わることに加えて、カンナもいなくなったから……。
☆
夏休み、終わった。始業式の日。かすかな期待を胸に学校へ向かう。……カンナ、いるよな?
「転校生来るんだぜ?」
「あー、男だろ?」
「違う! 男みたいなカッコするけど、女子だよ?」
「はぁ? 正真正銘、男だから!」
「ふふ、みんな間違うんだよなぁ……」
「静かにしてください。朝の会を始めますよ。」
扉が開き、転校生が来た。ハルトたちは固まった。髪の短い子。でも、確実に男だった。名前も、体格も、何もかも違う。
「えっ? 別人じゃん?」
その男の子は……カンナではなかった。思わず、先生に詰め寄る。『カンナ? そんな子はいない、転校生は彼一人だけだ』という。俺たちは理由がわからなくなって頭を抱えた。
「どういうこと? カンナ、やっぱり引っ越したのかな?」
「調べよう」
「怖くないの?」
「……知らないままのほうが嫌だろ?」
ハルトたちは急いで秘密基地へと向かった。夢中になっていて気付かなかった。背後から車が迫ってきた。
「なんだ、あの車?」
「ヤバい! 抜け道まで走れ!」
慌てて駆け上がる。しかし、降りてきた男達にすぐさま捕まってしまった。
「コラ! キミたち何をしてるんだ!?」
彼らは警察官だった。恐らく、不審車両が通らないか、監視していたのだろう。ハルトたちは女の子を探してること、事情を説明する。
「そうなんだ。でも、そんな女の子は知らないかな?」
「送って行ってやるから乗るんだ」
車に乗せられて、山の入口で降ろされた。
「もう二度と入らないように! あと、学校には連絡するからな? キミたちは北小だったね? 先生たちに怒られる覚悟しなよ?」
「すいませんでした……」
ハルトたちはペコペコと謝った。カンナ……どこにいるんだよ? 妖精じゃないんだろ? 人間だろ? 出て来いよ。
☆
ハルトたちは家に向かうことにした。いろんな情報を知ってる姉たちに訊ねてみることにした。リビングでくつろぐ、いつもの面々。神妙な顔をするハルトたちを不審そうに眺めた。
「……え、何か用?」
「あのさ……近くに引っ越してきた女の子知らない? 俺たちと同じ学年で……かなり美少女で、可愛くて、カンナって言うんだけど!」
どっと笑いが起きた。明らかにバカにされてる。ハルトは俯いた。今は怒りなんて沸かなかった。ただ、残念だった。
「かわいい!」
「それ、友達? 好きな女の子?」
アカリさんは首を傾げる。
「ちょっと……アカリ、本気にしてる?」
「答えてあげなきゃ可哀想だよ、こんなに真剣に話してるんだよ?」
アカリさんは真剣な顔で話を聞いてくれるらしい。
「カンナっていう名前です。知りませんか?」
「うーん、聞いたことがない名前だよ。ハルトくん、最近、カンナちゃんと遊んでたの?」
「……ありがとう、アカリさん」
ダッと走り出した。
「おい! ハルト!」
走り疲れて、立ち止まる。
「どうする?」
「……もうやめにしよう。笑われるだけだ」
「カンナは、ホントに山の妖精だった?」
「わかんねーよ……」
ハルトたちは自分の家に帰った。
☆
明朝、ハルトは一人で秘密基地へと向かった。まだ、朝靄がかかっている中、ズンズン進む。小屋の前に来た。
「カンナ、いるんだろ! 出てこい!」
ざわざわと森が騒ぐ。
「出てこなかったら、秘密基地、燃やすぞ! いいんだな! 本気だぞ!」
ライターも何も持ってない。そんなことするつもりもない。でも、ハルトはとにかく叫んだ。
「……会えなくなったって、わざわざ書いたのに来るんだね」
カンナはいつの間にか、背後に立っていた。気配すら感じなかった。
「カンナ!?」
「この山はもう終わるんだ。だから、わたしたちも終わり」
カンナは黒髪を揺らし微笑んだ。
「何言ってんだよ! 学校は? 待ってたんだぞ! 嘘ついたのか?」
「もうすぐ、わたしはわたしじゃいられない。人が増えれば、それだけ力が無くなる。」
「ふざけんな! 質問に答えろ!」
ハルトはカンナの肩を掴んで揺する。すると、どろりと目玉が落ちてきた。それは、カンナの綺麗な目玉だった。カンナはそれを両手で受け止めると、目玉のない顔で笑った。真っ黒な眼窩がハルトを見つめる。
「なんだ、それ……」
ハルトはカンナを見つめたまま、固まった。恐怖のためじゃない。人間味が欠けて、カンナが遠くに行ったように感じたからだった。
「あれ? 驚いた、逃げないんだ?」
「カンナ……お前何者なんだ?」
カンナは目玉を元の場所にカポっと戻すと、優しく微笑んだ。
「やっぱり不思議だね。ハルトくん。でも、そんなキミでもわたしのことわからないんだね。……まぁ、覚えてなくて当然か」
「意味分かんないよ。カンナ、人間だよな……? なんだよ、これ。悪夢か?」
「夢じゃないよ……。わたしは人間でもない。この体は雑誌から見つけたの」
雑誌から見つけた? まさか、変身できるのか?
「なぁ、友達なら……話せよ」
「友達かぁ……。今思えば、会わないほうがよかったかもね」
「ズルいんだよ! 何が言いたい!? 何がしたいんだよ!? 全部言われなきゃわかんないよ! 俺!」
「言っても信じないよ、人は」
涙が溢れてきた。ハルトは涙をグッと拭った。拭っても拭っても、溢れて止まらなかった。
「……わたしね、たぬきなんだ」
「信じる」
「スゴいね。信じるんだ」
「……信じる。嘘じゃない。だって、友達だろ?」
「ハルト、来て」
カンナに案内されて向かう。そこには、たぬきの死骸がたくさん転がっていた。
「……これ、仲間が死んだのか?」
カンナは悲しげに頷いた。
「毒餌を撒かれてね、かなりやられちゃったんだ。わたしたちは害獣扱いってわけ」
ハルトは、スコップで穴を掘ると死骸を埋めてやった。
「野生動物なんだから、墓なんていらないよ?」
「でも、そうしなきゃならないと思った。人間に殺されたなら……そうしなきゃ報われない」
カンナはハルトの手を握って、優しく微笑んだ。
「ありがとね。でも……もういいよ。ずっと、人間たちの邪魔をしてきたけど、わたしたち、もうダメみたいだし。恩人には……ハルトには昔から感謝してる。ホントにありがとう」
「……昔から?」
ハルトは困惑する。たぬきに知り合いなんて……。記憶をさかのぼる。あ、たぬき……ってまさか。
「もしかして、車に轢かれてた死んだ親たぬき。その子どもなのか……?」
思い出した。そうだ、二年前、車にハネられたたぬきの怪我の看病してたんだ。でも、数日後に死んでしまったんだっけ。死骸を埋めても、子だぬきたちが辺りをうろついていた。
「思い出してくれたんだ。ありがとう」
「たぬきだけじゃない。みんなに優しい人間になってね」
カンナの姿はたぬきになっていた。遠くに、たぬきの群れがいた。そこにカンナは走っていった。彼女らは草むらに消えていった。ハルトは黙って見送った。恐らく、もう二度と会えないのだろう。
気が付くと、自分の前にたくさんの小銭が入った袋が落ちていた。俺は神社に行った。その袋の中全てをお賽銭箱に入れて、俺は強く願った。意味がないかもしれないけれど……。
『カンナが幸せになりますように』
ハルトの夏休みは……そうして幕を閉じた。
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