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魔王の後継者を探す旅
しおりを挟む魔王城での最終決戦。強力な闇魔法が僕らを包み込む。
仲間たちが次々に倒れていく中、最後の気力を振り絞って光の魔法を放つ。
「そんなか細い魔法で倒せるとでも?」
魔王が嘲笑する。……この魔法は、命を削り放つ特別な魔法だ。そうとも知らず、勝利を確信し油断する魔王。防御のために突き出した両手と、その腹を容赦なく貫いた。
「……な、なんだと!?」
「これはただの光魔法じゃない。洗練された高速の光魔法だよ……!!」
魔王は腹を抑えて、うめき声を上げた。
「わたしが死んでも……代わりはいる」
「代わりだと?」
「そうだ。そいつに比べたら、わたしなぞ……。単なる、駒に過ぎない」
「どこにいる?」
「探せ、勇者ならば、な……」
魔王はそう言うとよろめき倒れた。そして、出血多量で死んだ。僕は近付くと魔王の死体を燃やした。恐らく、これで復活することはないだろう。
☆
「赤髪の勇者様御一行のお帰りだあッ!」
盛大な凱旋パレードが始まる。その最中、歓迎する民衆たちに笑顔で手を振りながら僕はずっと考えていた。
……魔王の後継者を殺さなければならない。もしもの時のために、魔王は後継者を作り上げていたのだろう。
しかし、疑問だ……。後継者はなぜ、魔王城にいなかったのだろうか?まさか、逃がしたのか? いや、魔王相手に僕らは全滅寸前まで陥っていた。手塩にかけて育て上げられた後継者。そんなやつと一緒に戦われていたのなら、僕たちは今頃どうなっていたことか……。
夜になると、王城にて華やかなパーティが開かれた。主役は僕たちだった。その後、王に告げることにした。全てを伝えると、王は白いヒゲを撫でつけながら厳しい顔をして大きく唸った。そして、使令を与えられた。
「後継者を見つけ、倒すのだ」
「わかりました。必ず見つけ、倒します」
「……しかし、どこにいるんだろうか? 宛はあるのか?」
「それはまだ……わかりません。手掛かりすらも……」
「ふむ。まだ故郷へ戻っとらんのだろう? とりあえず、元気な姿を見せてやるといい」
☆
とりあえず、故郷の村へ戻ることになった。束の間の休息をもらえたからだ。懐かしい匂いだ。牧草と家畜、それとこの村の名産品である柑橘類の香りが混じった……。牧場には懐かしい姿があった。僕はコッソリと近付くと、後ろから頭を撫でた。
「……サリア、元気だった?」
「……おかえり! 勇者様!」
「あはは、名前で呼んでくれよ」
幼馴染みのサリアが抱き着いてきた。村人たちは大歓迎だった。僕が帰ってきてから、昼夜厭わず、村人たちが陽気に踊っている。こんなに楽しい気分になれたのは、久し振りだ。これから、平和が訪れる……そう思っているのだろう。……そうとは限らないのに。
「村に石像を建てるんじゃ! 赤髪の勇者にはたくさん子作りに励んでもらおう!」
「村長、それ言い過ぎっすよ!」
村人たちは赤い顔をしながら、楽しそうにはしゃいでいる。サリアがそばにやってきた。
「勇者様、お酒飲む?」
「ハハ……そんなのいらないよ。僕はこの景色だけで酔えるから」
「そんなの嘘。ホントの事教えてよ」
「ホントの事?」
「……思い詰めた顔でどうしたの?」
「……サリアには敵わないな。実はね。まだ、油断できないんだよ。魔王の後継者がいるかもしれない。いや、いるだろうね。間違いなく。魔王自身がそう言って死んだのだから」
「そっか……。わたし待ってるよ。赤髪の勇者様」
「うん……。ごめんね。」
翌日。泣く泣く手を振り、サリアに別れを告げる。僕は馬を走らせて、急いで王都に戻る。会議室にはいろんな人間が集まっていた。中には、仲間であった騎士のラントスの姿もあった。すでにある程度の話し合いは済んでいるようだった。王が地図をトントンと指差しながら言う。
「魔王城の調査を行うことにした」
「そうですか」
「今現在、魔王城への道は少しずつ舗装されている。勇者よ、その間、しばらく国立図書館を使うといい。考えてみたのだが……闇雲に探すよりか、目星をつけた方が良いだろう?」
一理ある。足で稼ぐならば、対象の正体を大まかに予想しておくほうがいい。
「助かります。……ではそうすることにします」
「ラントス、手伝ってやれ」
「しかし、よろしいのでしょうか? わたしには……」
「仲間なのだろう? 共に魔王と戦った勇敢な騎士であろう?」
「……よろしくね、ラントス!」
「は、はい! ありがとうございます! わたしでよろしければ、ぜひ!」
国立図書館の一室を貸し切る。ラントスは優れた体格を活かして、一度にたくさんの本を運んできた。
「ありがとう、助かるよ!」
僕はテーブルに地図を広げた。とりあえず、大型の魔物がいたところにマークをする。魔族がいたところにも。
「こう見ると、人が多いところに集中してますね」
「それは人間を一度にたくさん倒しやすいからじゃないかな……」
大事件や事故があったところ、魔物の被害が酷かったところをマークする。確かにそのどれもが、人が多いところだ。しかし……何かちゃんとした目的はないような気がする。
僕はペンを止めた。確かに不自然だ。
「侵略するなら、ジワジワと戦線を上げていくのが定石だろう? いきなり出現したかのような……そんな風にも思える」
「つまり、魔王は侵略を目的にしていないというわけですか……?」
「それはわからない。単なる奇襲攻撃なのかもしれない。そうすることで、他が手薄になることがある。……しかし、今思えば、『完全に侵略された場所』はあっただろうか?」
資料に目を通す。どこも殺されて、破壊されただけ……。物品の略奪などあまりされていない。調査票と照らし合わせる。やはり、残された建物などは有効活用されるわけではない……。民家があまり破壊されていない。だからこそ、奪還したその日から民衆は暮らしを再開することができた。
「だとしたら、人間はなぜ殺されたのですか?」
「ただ、殺すために……だろう?」
「殺戮ですか。ふむ、争うなら、もっと上手いやり方があったと思えますよね……。作戦を立てたり、段取りを組んだり、まぁ今思えば兵法などは魔物は理解できませんよね! 適当に魔物を放ったのでしょう!」
……はたして、そうだろうか? 疑問を解決するために、僕たちは魔法学校で教壇に立つ仲間。魔法使いココの元へ足を運ぶことにした。学校へ着くと、すぐさま生徒たちに囲まれた。握手をせがまれながら校舎を目指すも、なかなか進めない。
「あなたたち、もう授業時間ですが……大丈夫かしら?」
甲高い声に驚いて、生徒たちは慌てて校舎の中へ向かう。僕は声の主に向かって手を上げた。黒衣に身を包んだ小さな女の子は微笑む。
「ありがとう、ココ!」
「あらあら、久し振りですわね。勇者様と……ラントソ?」
「ラントスだ! バカタレ!」
魔法使いココに、これまでの成り行きを伝える。ココは長い髪をクルクルと指で弄りながら、なんだか不満げな顔をする。
「で、話なんだけど、魔物を見せてくれないかな?」
「え、魔物のサンプルですの? その……捕まえて来るのはお嫌でしたの?」
「……ごめん、急ぎの用なんだ」
「なるほど。でも、なるべく殺さないで欲しいですわ」
「殺さないってば! キミの宝物なんでしょ?」
「ふふ……実は、名前まで付けていますの。この子は、ズミス。ほら、可愛いでしょう?」
ポッケからネズミの魔物を取り出した。魔物研究もしているココに案内され、魔法学校の研究室から、研究資料を見せてもらう。
魔物は呼吸をしているし、心臓も動いている。血も流れる。しかし、魔力や命が尽きると灰のようになってしまう。……なぜ、灰になる? それは魔力を失うからだと考えられているが、それだけで灰になるのはどうもおかしい。
「そう。他の生物とは違う。理から外れてるってわけですわね」
「なぜ?」
ココは溜め息を吐き、両手を上げた。そして、魔物を収容している部屋に僕たちを案内する。
「それがわかれば、研究なんてしてないですわ」
「一体、どんな仕組みなんだろうか?」
「気になるなら一緒に研究しませんこと? 赤髪の勇者様ならば仲間たちも大歓迎ですわよ」
部屋に入ると、檻に入れられた魔物が尻尾をブンブン振りながらこちらへ近付いてきた。手を伸ばして、魔物の頭をそっと撫でる。すると、気持ちよさそうに目を細めた。
「ココ、この子は噛まないよね?」
「フツー聞いてから手を伸ばすものですわよ?」
「ねぇ……キミたちの使命はなんだい?」
撫でながら問いかける。しかし、答えることはない。こいつは知能の低い犬の形の魔物だ。喉をグルグル鳴らして、エサを懇願した。
「いけない。もうこんな時間ですわ。そうだ、勇者様も御茶会しませんこと?」
ココたちと語り合いながら、食事をする。ココは甘いお菓子をたくさん運んできた。ココは紅茶を用意すると、カップの中にザラザラと砂糖を流し込んだ。
「そんなにバクバク食べると太るぞ。ココ?」
「へへーんですわ。これからは太るほどタンマリ食べちゃいますから。ずっと制限してきたのですものね!」
「たくさん食べなよ。旅ではココに苦労ばかりかけちゃったからね……。太っても、僕はココのこと好きだよ」
「やはり、勇者様は素敵ですわ! お菓子みたいに甘いもの!」
ココはお菓子をボリボリと貪り始めた。僕は決めた。
「魔王城に行こう」
その発言を聞いて、二人は固まった。ココは強張った表情で、紅茶を啜った。
「わ、わたくしは行きませんよ? 遠いですし、馬は乗れませんし……怪我もまだ完治してませんもの!」
「なぜだ!? ココ!! 仲間だろう!? わたしたちは仲間ではないか!」
「あなたみたいに頑丈じゃないワケ! そもそも……ラントス、あなた汗臭いもの。我慢してたけど、もう言わせてもらうわ! あなた臭いのよ!」
僕たちは二人で魔王城に行くことにした。馬を走らせ、舗装された道を進む。しばらく進むと、関所が見えてきた。そこで複数の兵隊に止められた。
「これはこれは、勇者殿。何か御用ですかな?」
「調べ物をしたくて。魔王城に行きたいんだ」
僕は馬から飛び乗りる。兵隊は顔を見合わせた。
「しかし、誰も通すなと……。王からの」
「ほら、これは国王から頂いた許可証だよ」
封筒を見せてやると、兵隊は中を確認して大きく頷く。
「それならば、どうぞ。しかし、魔王軍の残党がいるかもしれません。どうか、お気を付けて……」
「えっ? もしかして、魔王軍の残党を見たの?」
「いえ、出会ってはいませんが……。可能性がある限り気を付けたほうがよいかと……」
「なるほど。あなたたちも気を付けてくださいね」
「はい。お互い気を付けましょう。勇者殿、ご武運を……!」
兵隊たちは敬礼をして、僕たちを送り出してくれた。僕は手を振り、ゆっくりと目を伏せた。あの臭い。あれは、恐らく酒だ。
……魔王が死んで、気が抜けているのだろうか? いや、それならば、僕たちのことを気遣うことないだろう。単に仕事をこなしただけ? 僕は馬を少しだけ速く走らせた。なぜだか、不安が増した。
「しかし、またこの忌み地にやって来るとは……思いもしませんでした」
「怖いかい、ラントス?」
「そんなハズはありません! このラントス、勇者様のためならば、命さえ捨てる覚悟です!」
魔王の城に辿り着く。そこには、目を疑う光景があった。門は崩れ落ち、黒焦げになった城塞がある。
「……あちゃー、半分焼け落ちてますよ」
「なぜだ?」
「魔王城を残すと周囲に影響があるから、という話がありましたが……。まさか、こんなことになってしまうとは」
魔王城。確かに禍々しさはあった。それでも……完全に焼き払う必要はなかったと思う。魔王城には様々な情報や記録があったハズだ。
まさか、わざと焼かれた? いや、そんなはずはない。……そう信じたい。価値がある建物だというのに……。もしや、すでに情報を押収しているのか? ならば、教えてくれてもいいだろうに……。考えても仕方がないか。
「焼けてますが、魔物が棲み着くよりかはマシですよ。ほら、魔王城付近の魔物は強いですし、城は旗印になりますからね」
瓦礫の山をじっと見つめた。完全に焼けているわけではない。この瓦礫の山から何か手掛かりが見つかるかもしれない。僕たちはしばらく、滞在することにした。
☆
「勇者様、もう一週間はここにいますよ? 一旦、帰りませんか?」
「悪いね。ラントスは先に帰ってもいいよ」
「それはできませんよ! こんなところに置いていけません!」
「何か……何かわかるはずだ」
瓦礫の山の上で、魔王との戦いを、あの日のことを思い返す。魔王の炎魔法は凄まじかった。仲間たちは火傷を負った。今でも怪我の治療をしている仲間もいるほどだ。魔法使いとしての才能の差を感じた……。
ふと、顔を上げる。そこに噴煙が見えた。グラグラ火山……。魔王城の障壁を崩すための鍵を探しに行ったんだっけ。まだ、あそこには確認しに行ってないよな?
「火山に行こうか」
「えっ!? 今からですか!?」
「何かわかるかもしれない。それに山登りは気晴らしにもなる」
「なりませんよぉ!! 疲れるだけです!!」
グラグラ火山を登る。蒸し暑いどころじゃない。今にも噴火しそうに見える。
「相変わらず、暑いですね……。噴火せず、フツフツと煮えたぎっている」
「あ? お前ら、こんなところで何をしてるんだ?」
顔を上げると、そこには身長ほどある長い剣があった。隣には見覚えのある顔とムキムキの体。鼻を横切る傷跡。
「久し振りだね! ケンゴ!」
「よぉ。勇者様と金魚のフン」
「ラントスだ! 名前くらい覚えておけ!」
ケンゴの拠点に案内された。そこで、後継者の話をする。
「魔王の後継者か……。なるほど。」
「ケンゴ。ここで何をしてた?」
「修行だよ。岩を斬る修行だ。ここにはいい鉱石もあるんだ。それを持って帰り、有効活用する。それで造られた武器防具はいいものができる。」
確かに拠点には、色とりどりの鉱石が分けられて積んである。ケンゴは焼いた肉を切り分けて、僕たちに渡した。ラントスはケンゴに厳しい視線を送る。ケンゴは立ち上がり、ラントスに詰め寄った。
「ラントス……てめぇ、まさか、疑ってるんじゃないだろうな? 言っておくが、俺にはほとんど魔力がないんだぜ? 忘れたなんていうなよ?」
「ケンゴ……ここらへんで怪しい人間を見なかったか?」
「いや……。そうだ、魔王城に火を放った集団は見たけどな」
「そうなのか、ケンゴ?」
僕は新しい肉を焼きながら訊ねる。ケンゴは口いっぱいに肉を詰め込みながら呟く。
「ありゃ、王国騎士団だよ。やつらが燃やした。多分、一刻も早く、安心したかったんだろうな。それだけじゃなく、あちこちで魔王の痕跡、砦や塔などは消えていってるぜ?」
「そうなのか?」
「ほら、こっから見えるぜ。風の谷にあった監視塔も、この火山内部にあった砦もスッカリ崩れてるぜ?」
腹拵えを済ませ、火山の中腹から地上を見回す。風が吹き付け、僕たちの髪を揺らした。……なんて平和なんだろうか。暗雲も無くなって、緑の大地が広がっている。魔王城付近も草木が芽吹いている。
僕のすぐそばを、炎の精霊がフワフワと飛んでいく。どうやら、グラグラ火山には炎の精霊がたくさんいるらしい。……そうだ。魔王との戦いでは、炎の精霊がいた。精霊で思い出す顔があった。僕はラントスを呼んだ。
「え? クララに会いたいのですか?」
「うん。クララの居場所、わかるかな?」
「うーん。一旦、城へ帰りましょう。王への報告も兼ねて」
「仕方ないな……」
ラントスは岩を切り裂くケンゴを見つめた。ケンゴは汗を拭きながら、嘲笑った。
「言っておくが、俺は一緒に行かないからな?」
「……魔王の後継者が相手になるかもしれないんだ。手を貸せ」
「そうしたいのは、山々だよ。でもなぁ……魔王戦で、足がかなりダメになってるんだよ……。つまり、足手まといってワケだ」
ケンゴは短い髪をポリポリと掻きながら言う。
「じゃあ、ケンゴ……また来るよ!」
「魔王の跡継ぎを、ちゃーんと倒してから来いよ? じゃなきゃ、楽しく話せないからな! 一応、魔王城に不審者がいないかは見ておくぜ!」
馬を走らせ、王都へ向かう。そして、王様に報告した後、ラントスと共に今度はジャングルへ向かう。クララのいるジャングル。それはまず孤島を目指さなくちゃならない。港町に行って、船を見つける。
孤島行きの船便はない。船長を説得するために大金を渡す。島の近くで小船に乗り、川を遡上することになった。
「帰りは船はありませんからね! 勇者様であれど、これ以上、付き合いきれません!」
「ありがとう! 無茶言ってごめん! 助かったよ!」
川を遡上し、ジャングルに足を踏み入れる。どうも、ここには毒蛇がいるらしい。
「ラカラカ族はこの辺りに住んでるハズですが……」
精霊士クララ。この子のお陰で、支援魔法が魔王に響いた。この子を慕う精霊のおかげで、僕の光魔法も強化された。
「クララはどこにいるんだろう……」
もうすでに、三日も彷徨い歩いている。そうこうしてる間に、魔王の後継者が動き出すかもしれない。不安だけが募る。突然、木の実が落ちてきてラントスの頭にガツンと命中した。
「いて!!」
「まったく危機意識が欠如してるね。ラントスは」
黒髪を揺らし、木の上から飛び降りてくる民族衣装を着た少女。
「久し振り! クララ!」
「こんなところまで来るなんて暇人だね。赤髪の勇者様が……あたしに何か用?」
「あのさ、少し聞きたいことがあって」
「でも、魔王は死んだろ。なら、もう話すことはないだろ? これ以上、協力しないからな?」
「まだ人間が嫌いなのか? あんなに協力してきたのに?」
「苦手なだけだよ。キミたちは外のやつらの中では、まだマシなだけさ」
クララに案内されて、村へとやって来た。歓迎はない。部外者についてよく思っていないらしく、村人は僕たちに寄ってこない。もちろん、魔王のことなど一切知らない。
「ごめん。みんな、怖がってるんだ。ほら、ジュースと芋を蒸したの」
木の実のジュースを出された。飲んでみると爽やかな甘みが口いっぱいに広がった。食事しながら、語らう。
「クララ、精霊と話せないのかな?」
「……それは難しい。彼らは言葉を介さないからね。心を通わせるしかない」
「そうなのか」
「話したいなら大精霊に会わなきゃ……。大精霊ならば言葉が通じる……たぶんだけど」
クララはそう言うと、芋をもちゃもちゃと咀嚼した。大精霊か……。
「ところで精霊に何を聞きたいんだ?」
「精霊たちが力を貸してくれる条件」
「え? それなら知ってるよ。精霊を受け入れて共鳴するだけ」
クララはそう言うと、指先をぺろりと舐めた。
「受け入れて共鳴する、か……。共鳴する対象は誰でもいいのか?」
「そりゃそうだろ? 共鳴してくれたなら誰にでも力を貸すさ。人間でも優しくされたり親切にされたら、恩返ししたくなるだろう?」
「それが例えば……魔王でも?」
クララは腕組みをして、うなり声を上げる。
「うーん……まぁそうだろうね。相手を選ばないのが精霊だよ」
今までずっと収穫はほとんどない。でも、なんだか精霊のことが理解できてきた気がする。このまま行けば、ヒントを見つけられる気がする。なんとなくだけど……。そのためには、大精霊に会わなきゃならない、か……。
「クララは大精霊に会ったことはないの?」
「あたしはないよ。そもそも会うのはかなり大変なんだよ?」
「……大精霊に会いたい」
「会いたいのか。もしかしたら勇者様であれど死ぬかもしれないけど、いいの?」
クララは恐る恐る訊ねる。僕は大きく頷いた。その覚悟を感じ取ったクララは、目を見開いてから嬉しそうに微笑んだ。
「……そっか。まぁ、あたしも死ぬまでには大精霊に会いたいからね。途中までなら案内してあげるよ」
「死ぬかもしれないなんて……そ、そんなところに行くのか?」
「赤髪の勇者となら心中してもいいとあたしは思ってるよ」
ラントスは青褪めた顔で芋を見つめている。
「ラントスは来なくてもいいよ」
僕はラントスの肩を叩いた。クララは村人たちを何とか説得してくれたらしく、僕たちは彼女の案内でジャングルの奥深くに向かった。そこには古びた遺跡があった。男女の像が並んでいる。その真ん中には、目の形の像が鎮座している。
「ここは祭壇なんだ。……この先に洞窟がある」
「洞窟?」
「というより、ダンジョンだよ。ご先祖様がここで修行していたんだ。あまりにも帰ってくる人がいないから、通行止めになってるけど」
クララが先頭を歩く。やがて、看板が見えた。『この先、入るべからず』。クララは振り返る。
「今からなら帰れるけど? 行くの?」
「うん、行くよ。……だろ? ラントス?」
「マジですか……帰りたいなぁもう……!」
入念な準備をした僕たちは、洞窟内へと足を踏み入れた。長い。そして、暗い。ヒンヤリとしている。空気はなんだか薄い気がする。
「気を付けて、罠がある」
「何のために?」
「それはわからないよ。あたしたちでさえ、知らないんだからね」
僕たちは罠を回避しながら、ドンドン奥深くへ向かう。どれほどの時間が過ぎ去ったのだろうか? 日にちもわからない。明かりは松明か、魔法の光、たまにある光る苔だけ。
やがて、暗闇の空間に辿り着いた。とてつもなく深い黒。光まで飲み込んでしまいそうなほどの……ここが最深部だろうか?
「松明の明かりが意味を成さないほどの闇だね……」
不意に真っ暗な空間にギロリと目玉が浮かんだ。思わず、剣を構える。
「待って! これは闇の大精霊だよ!?」
「暴れるな。気持ち悪くなるだろうに……。今お前たちはワシの胃袋にいるのだからな?」
「まさか、僕たちを食べたのか!?」
「なんじゃ?ワシの口に勝手に飛び込んできておいて、その物言いはないじゃろう……酷いのぉ」
僕たちは顔を見合わせた。闇の大精霊は溜め息を吐いた。……どうやら、敵意はないらしい。僕は闇の大精霊の前に行くと、頭を下げた。
「申し訳ありません。無礼をお許しください」
「あー……もしや、お前達は力が欲しいのか? 大いなる力には、大いなる代償がいるぞ?」
「大いなる代償?」
「そうじゃ。天秤の一つとなってもらう」
僕たちは困惑する。クララも首を捻っている。
「あの……天秤とは?」
「バランスを維持する役目。指令があれば破壊する役目だ」
「……は、破壊?」
ラントスはゆっくりと後退りを始めた。僕は闇の大精霊に向き直る。やはり、敵意を感じない。悪意も感じない。そして、善意も感じない。まるで、役割をこなしているような……。そうだ。関所にいた兵隊と同じだ。
「破壊は時に秩序を守るために必要だ。なんだ? 嫌なら力はやらんぞ?」
「……具体的に何をすれば?」
「この星にとっての悪く働くモノを破壊するのだ。無理にやらなくて別にいい。他に代わりはいるからな」
代わりがいる……? 代わりだと? 僕はそのセリフを覚えていた。魔王が死に際に残したセリフだ。
「どういうことだ? まさか……魔王は天秤だったのか?」
「魔王? 知らんのぅ……?」
「……魔王が天秤?」
クララは戸惑う。ラントスは頭を抱える。僕は闇の大精霊に問いかけることにした。
「破壊する対象は人間なのか? もしや、人間はこの星にとって……不必要なのか?」
「魔王とやらが天秤なのだとしたら、そうなのかもしれないな……。不必要と認定されたから人間たちは殺されたのだろう。まぁ、魔王がホントに天秤だったらの話だがのぅ……」
僕は思案する。
「星に、必要とされるにはどうすればいいんだ?」
「不必要なものを治すことだな。それよりも消すのが手っ取り早いが……。不必要を探すことだ」
「それ以外はないのか? 話し合いでとか」
「話し合いが通じるのならば、話し合いで治せばいい。というか……自分で考えろ、そのくらい。他人に頼るな。……ワシはもう寝るぞ?」
人間が悪事を働くから、この星は天秤という存在を作り上げた? そして、それが魔王だった? だとすると、魔王の後継者は用意せずとも、勝手に星から生まれるのか? 次に魔王の後継者が現れたら、どんなことをするのだろうか? 今度は人間を全員抹殺するかもしれない。
……それならば、いっそ。いや、……僕が代わりをしなくちゃならない、のか?
「やるしかないのか? 僕が……」
「勇者様! まさか、真に受けるんですか!? あれは闇の大精霊ですよ!? 嘘を吐いているかもしれませんよ!?」
「大精霊よ!! 力を受け入れよう!!」
僕は闇の大精霊に向かって、声を張り上げた。ラントスが僕の前に立ち塞がった。右手には剣を持っている。
「……させません!」
「なら、殺したらいいよ」
「なんですと?」
僕とラントスを眺め、クララは動揺する。
「僕を殺しても、やがて代わりは、天秤となる者が生まれるようだけど……?」
「あなたは……ズルい人だ。せめて、剣を握ってくれたら……わたしは!!」
ラントスは剣を落とし、力無く項垂れた。
「……あの、もういいかの? ワシは寝るぞ?」
「勇者様、あたしは大丈夫だと思う」
「僕もそう思う。だから、選ぶよ。でも、もしダメだったら……王様に伝えてほしい。僕が身を売ったと……」
「話は済んだか? では、行くぞい!」
闇の大精霊の巨大な目玉が光った。黒い魔力が僕を包みこんだ。たちまち圧倒的な力が湧いてきた。
「これが……大精霊の、いや、天秤の力なのか!?」
……もう誰にも負ける気がしない。以前に比べ、十倍ほどの力が湧き上がってきた。クララがそばにやってきた。
「勇者様、あの……星の声は聞こえますか?」
僕は目を閉じて、耳を澄ませた。頭の中で、優しい声が響いた。ゆっくりと目を開け、クララを見つめた。
「クララ……殺さなきゃいけない人がいる」
「えっ?」
「やはり、魔王は『人を選んで殺していた』んだ。魔物が現れた土地の権力者、支配者を殺し回っていたんだ」
「……なら、どうして、民間人まで殺されたの?」
「その権力者に与していたからだ。そして、僕たちもどうやら与していたから、殺されかけたんだよ」
クララは呆然と立ち尽くした。僕はラントスの元へ行く。そして、耳元でそっと囁いた。
「手始めに、国王を殺す……。彼はこの星にとって、どうやら不必要らしいからね」
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妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
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