チート無しっ!?黒髪の少女の異世界冒険記

ノン・タロー

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二章 冒険者の少女

冒険者としての第一歩

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 冒険者ギルドでウエイトレスや皿洗いなど、様々な激務をこなして働くこと約一ヶ月が経った非番の朝……、グレンさんからジャラリと音がする少々大きめな袋を手渡された。

「カナちゃん、一ヶ月ご苦労だったな」

「グレンさん、これは……?」

「これはカナちゃんの一ヶ月分の給料さ。ほら、これが明細だ」

 お金の入った袋と金額が書かれた紙を受けとった。

 明細を見ると……。
 支給額     20万エント

 差引額 部屋代 3万エント
     食事代 4万5千エント

 差引支給額   12万5千エント

 と書かれたいた。

 思ったより多い金額だ!

「カナちゃん頑張ってたからな、その分追加しておいた」

「あ……ありがとうございますっ!」

 グレンさんに私は深々と頭を下げた。

「それで、この後なんだが……、カナちゃん本当に冒険者になるのか?俺としては折角この仕事に慣れてきたことだし、このままここで働いて欲しいんだけどな……」

「すみません、私は自分のいた所に帰りたいので……」

「そうか……、分かった。ならこれをこれを持っていけ。餞別だ」

 グレンさんはそういうと、カウンターの裏から大きな袋を取り出すと、ドスンと私の目の前へと置いた。
 その袋からは見覚えのあるような、剣が見えている。

 確か、この仕事を初めて最初の頃にお使いで武器屋へと持って行った剣だ。

「グレンさん、これは……?」

「今言っただろ。餞別だ。これから冒険者になるというのに、装備も何も持ってないだろ。それに買うにしても、その渡した金だけではキツイだろうからな。装備一式、俺からの餞別だ!」

「グレンさん……、本当にありがとうございますっ!」

「一応言っておくが、それらは最低限の装備だ。あとは自分でどうにかしていけ」

「はい!」

 早速頂いた装備を確認してみると、中には鉄の剣が一本、鉄の胸当て(肩部無し)、旅人の服(ズボン付き)、布のマント、レザーグローブ、レザーブーツが入っていた。

 これらを買おうと思ったら、たぶん先程貰ったお金だけでは足りないだろう。

「早速着てみます!」

「ば……バカ!俺の前で服を脱ごうとするんじゃねえ……!自分の部屋で着替えて来い……っ!」

「あ……」

 嬉しさのあまりこの場で着替えようとすると、顔を少し赤くしたグレンさんに咎められてしまった。
 一先ず、間借りしている部屋へと戻ると、服を着替えることにした。


 部屋で着替えを済ませた私は、再びグレンさんの元へとやってきた。
 自分で言うのもなんだけど、この旅人の服やレザーグローブ、レザーブーツを身に着けただけでどこか一気に冒険者になった気分になって来る。

 まあ、見た目だけで中身は伴っていないのは重々承知だけど……。

「ほう、なかなか似合ってるじゃねえか」

 グレンさんの言葉に思わず少し顔が赤くなる。

 見かけだけだとしても、似合っていると言われて悪い気はしない。

「この鉄の胸当てはどう着ればいいんですか……?」

 私は照れ隠しを兼ねて鉄の胸当ての付け方を聞いてみた。

 というか、これどうやって着るんだろう……?こういう防具なんて着るの初めてだから着方が全く分からない。

「ああ、慣れんうちは大変だろうから、手伝ってやる。だが、一人で着れるようにならんと、手伝ってもらわないと着れませんじゃ話にならんからな。あとできちんと練習しておけよ」

 グレンさんの手伝いもあって鉄の胸当てを着けることが出来た。
 後で着け方をきちんと復習しておこう。

「なかなか様になったな。後はこの剣が付いているベルトを腰に巻くんだ」

「はい」

 剣のついたベルトを腰に巻くと、ずしりとした剣の重さが体にかかる。

「背中でもいいが、背中だと意外と抜きにくいから気をつけろ。あと、その剣だが俺が昔使ったいたやつだ。武器屋に頼ん研ぎ直して貰っている。まずはその剣で重さに慣れろ」

「はい!」

「そのマントはそのまま被ればいい。ついでに言うと、剣を持つ時はレザーグローブは外すな。素手で剣を持って振り回すと手の皮が剥けるぞ」

「分かりました、気を付けます」

「あとは、寝泊まりするところだが……、良ければあの部屋まだ貸してやろうか?一ヶ月3万エントだが、どうする?宿屋で部屋を借りるよりは安いぞ」

「お願いします」

 私は先程貰ったお金の中から3万エントをグレンさんに支払った。

「最後に仕事だが……、こういうのがあるがどうする……?」

 グレンさんはニヤリと笑みを浮かべながら2枚の仕事の依頼書を見せてきた。

「一つは薬草の収集、もう一つはホーンラビットの角の収集だ。どちらも初心者向けの仕事でね、報酬は安いが、冒険者に慣れるにはうってつけの仕事だ」

「両方受けます!」

「よし、わかった。ホーンラビットは額に小さな角が付いたウサギだ。この街を出てすぐにある森に相当数が住み着いて、角は薬の材料になる。ついでに、ウサギの肉も持って帰ったら買い取ってやるよ。料理に使うからな。薬草はほれ、これだ」

 グレンさんは見本の薬草を手渡してくれた。

「薬草と言っても、どんなのか分からんだろうからな。これも近くの森に群生している。どちらも数は決まってはいないが、余り少なくても多すぎても困る。両方依頼の期日が決まっているから気を付けろよ」

「分かりました!それでは行ってきます!」

「ああ、それと、あの森は夜になると狼が出るからな。暗くなる前に帰って来るんだ。森への行き方は前渡した地図で言えば西の方にずっと進めばこの街を覆う壁がある。そこの門番の兵士に言えば通してくれる」

「壁……、ですか……?」

 なにそれ……?

「この街を魔物の侵入を防ぐためにグルリと囲っている言わば防護壁の事だ。この街を出るには東西南北にある門から出る必要がある。カナちゃんがこれから向かう近くの森へは西門から出るんだ」

「分かりましたっ!グレンさん……、本当に何から何までありがとうございます……っ!」

「よ……よせよ……、ほっぺたが赤くなっちまう……。おっと、これを渡すのを忘れていたな……」

 私が感謝の気持を込めて深々と頭を下げると、グレンさんは照れくさそうに頬を掻きながら、1枚のカードみたいなのを手渡してくれた。

「これはなんですか……?」

「それは冒険者のランクを示す冒険者カードだ。そこにカナちゃんの名前と、今のランクが示されている」

 見ると確かに私の名前と顔写真のようなもの、それと「F」というアルファベットが書かれている。

「Fランクは最低ランクで、新人冒険者のランクだ。ランクを上げたければその分活躍をして見せることだ」

 なるほど……。
 このランクが冒険者としての強さみたいなものなのかもしれない……。

「後は何か分からないことがあるか?」

「いえ、今のところは大丈夫です」

 私は顎に手を当てて考えてみるけど、特に質問等は思いつかない。

「それじゃあ、行って来い!」

「はい!改めて行ってきますっ!」

「ああ、気をつけてな!」

 グレンさんは何も知らない私に、親切丁寧に教えてくれていた。

 何から何まで本当に有難い……。
 私はグレンさんから頂いた心のこもった餞別を身に纏い、冒険者としての第一歩を踏み出したのであった!
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