チート無しっ！？黒髪の少女の異世界冒険記

二章 冒険者の少女

過信しすぎた冒険者

　ディンさん達と別れたあと、私は一人で夜の近くの森へと来ていた。
　ここに来た理由は一人で狼を倒して自分の力を証明するため。

　平たく言えば自己顕示欲を満たしたいという一心でここに来ている。

　ここに来たことは誰にも言ってない。
　言えばきっと止められるだろうから。
　強いて言えば門番に言ったくらいだ。

ーアオーーーン……っ！ー

　森に入って少し進んだ辺りで狼の声が聞こえてくる。
　私の気配を感じ取ったのか、色んなところから狼の遠吠えがしていた。

「私の力、見せてあげようじゃない……」

　私は剣を抜き、狼達の襲撃に備える。どこから来るだろうか……？

　前……は多分無いだろう。だとすると、横か後ろ……？

　張り詰めた緊張の中後ろから狼が走ってくる音が聞こえてくる。
　後ろ……っ！

「はっ！」

　後ろへと振り向きながら剣を振るうと飛び掛かってきていた狼を斬り裂く。

「ギャインっ！」

　斬られた狼は反動で地面へと叩きつけられそのまま動かなくなった。
　まずは一匹……！

「さあ！どんどん掛かってきなさい！私がいくらでも相手になってやるっ！」

　たかが一匹倒したくらいで私は完全に調子に乗っていた。
　この後私は狼達の本当の恐ろしさを知ることになるとも知らずに……。

　最初の一匹がやられたことで狼達は作戦を変えてきたようで、全方位から一斉に私へと襲いかかってきた！

「な……っ！？」

　一匹や二匹ならどうにでもなる。
　しかし、全方位、前後左右さらに上下に至るまで一斉に襲いかかって来られたら話は変わる。

　魔法で撃退しようにも広範囲を攻撃できるような魔法は私はまだ使えない。
　例え使えたとしてもスペルを唱えている暇もない。

　私のほうが圧倒的に不利だ。
　ここは大人しく逃げたほうがいい……！

「きゃ……っ！？」

　逃げようとする私の右の足首に狼が噛みついてくる。
　さらに、上から狼が飛び掛かってきて私を押し倒す。

（ヤバい……！ヤバいヤバいヤバいヤバいっ！！）

　押し倒された私に狼達が一斉に襲いかかる

「いや……！いやぁっ！やめてっ！いや！いやあ……っ！！」

　私の脚や腹部、顔に狼達が噛みつこうと襲いかかる！
　必死に剣を振り回して狼達を追い払おうとするも、狼の一匹が剣を持つ腕に噛みついてきたため剣を落としてしまった。

　アルトさんが言っていた「自分の力を過信しすぎたヤツが命を落とす」その言葉が脳裏をよぎる。
　自分の力を過信しすぎた冒険者、それがまさに今の私だった。

「いや！いやあっ！助けてっ！誰か助けて……っ！」

　狼達が私の手や脚、それに顔やお腹など色んなところに噛みついてくる。
　噛みつかれたところから血が流れて激痛が走る！

　助けを求めても夜の森にいる人なんてそうそういない。
　私を待つのは狼達に喰い殺される運命しかない。

　それでも必死に逃げようと藻掻くもたくさんの狼が私の上にのしかかっているため起き上がる事すら出来ない！

　そして一匹の狼が私の喉元へと噛みついてくる！
　狼の噛む力が意外と強く、気管を塞いでいるため息ができない。

　首に噛みついている狼を払いのけようにも腕にも複数の狼達が噛みついている。

「離……して……っ！」

　腕に噛みついていた狼をどうにか振り払い、喉に噛みついている狼を退けようとしたが、腕にまた狼達が噛みついてくる。

（も……もうダメ……意識が……）

　息ができず意識が遠のいていく。私……ここで死んじゃうのかな……。

（いや……誰か……助けて……）

　薄れゆく意識の中、心のなかで来るかどうかも分からない助けを呼ぶ。
　目の前が真っ暗になってくる……。

（も……もうダメ……）

「ギャインっ！」

　諦めかけていたその時、喉に噛みついていた狼が悲鳴をあげて弾き飛ばされていた。