チート無しっ!?黒髪の少女の異世界冒険記

ノン・タロー

文字の大きさ
22 / 214
二章 冒険者の少女

生還

しおりを挟む
 一瞬何が起きたのか分からなかった。
 ただ分かることは息ができるということ……。

「大丈夫っ!?」

「サラ……さん……?」

 サラさんの声が聞こえてきた。
 幻聴かと思ったがそうではなさそうだ。

 狼達は驚きながらも新たに現れた敵を迎え撃つため、私の上から降りていく。

 狼達は唸り声を上げ、サラさんに襲いかかる。

 サラさんは両手に持ったショートソードを巧みに使い、流れるような動きで襲い来る狼達を次々と蹴散らしていく。

「ディン!アルト!セーラ!こっちに居たよっ!早く来てっ!!」

 ディンさん達も来ているのか、サラさんが呼ぶと複数の足音が聞こえてくる。

「サラ!カナは生きてるかっ!?」

「まだどうにか意識はあるみたいだよっ!」

「サラ!ディンっ!私が閃光魔法で狼達の目を眩ませるわっ!」

「わかった!その隙に俺がカナを抱える!サラは援護をしてくれっ!」

「分かったよっ!」

「サラ!ディンとカナちゃんが離れたら矢で狼達を牽制する!俺の矢に当たるなよっ!!」

「アルト!誰に向かって言ってるのっ!?味方の矢に当たるほど間抜けじゃないよっ!!」

「行くわよっ!『閃光弾フラッシュボム』っ!!」

 セーラさんが魔法を唱えると私のすぐ近くで凄まじい光が炸裂した。
 しかし、これはただの目眩ましの魔法のようで、眩しい以外は特に何も感じない。

「よし!行くぞっ!!」

 セーラさんの閃光魔法が発動された直後、私の体は誰かに抱きかかえられた。
 多分ディンさんだろう。

「おや……?セーラの魔法で狼達逃げちまった……。ディン、また狼が来る前に早い所街に引き返そうぜ」

「カナちゃんの剣は拾ったよ」

「ディン、カナちゃん生きてる?」

「ああ、ひどい怪我だが意識はあるようだ。セーラ、街についたら回復してやってくれ」

「ディンさん……、ごめんなさい……。私……」

「喋るな、傷に触る。一先ず街に戻るぞ」

ディンさんに抱きかかえられた私は命からがら街へと戻ったのだった。


 ◆◆◆


「バカかお前はっ!!」

「っ!」

 街へと戻りセーラさんの魔法で傷を癒やして貰った私はディンさんに顔を思いっきりぶん殴られ、尻もちをついていた。

「お前みたいな調子に乗って過信するヤツが死ぬとついさっき教えてやっただろっ!!」

「すみませんでした……」

「おおかた、一人でも狼くらい余裕で勝てるぐらい思ったんだろっ!」

「……そうです」

「何がそうです、だっ!お前みたいな新人が自惚れやがって……!お前のせいで何人のやつが動いていると思ってるんだっ!!」

ディンさんは物凄い剣幕で私の胸ぐらを掴んで起き上がらせてくる。

 私は何も言い返すことができず、ただ俯くことしか出来なかった。


 ディンさんの話では、私が冒険者ギルドから居なくなっていたことをホールスタッフのファナさんが気づき、その後やって来た別の冒険者から私が西門の方に向かっていたことを伝えたようだ。

 そして、私が夜の森に向かったのではないのかと言う話になり、グレンさんやディンさん達を始めとする多くの冒険者達が私の捜索に名乗りを上げてくれていたようだ。

 もしかしたら森ではなく、街の中を歩いているだけではという意見もあったため、街の中を搜索している人達も多くいると言っていた。

 この話を聞いた時、初めて私は身勝手な事をしたためにどれだけの人に迷惑をかけたのか痛感した。

「うう……、ひっく……。本当に……すみませんでした……」

 狼に襲われた恐怖と申し訳無さで涙がこみ上げてくる

「何にしろ無事で良かった」

「うう……、ぐす……!ヒック……、うう……!うあぁぁぁーーーん……っ!」

 ディンさんはその後何も言わず、優しく抱きしめてくれていた。

「それじゃあ、私はみんなに知らせるため上空にフラッシュボムを撃つわよ」

「ああ、頼む」

 セーラさんが上空にフラッシュボムを撃ち上げた後、私が落ち着いた頃にディンさん達に連れられ冒険者ギルドへと戻っていった。


 ◆◆◆


 冒険者ギルドに戻ると、そこにはグレンさんや他にも私を捜索してくれていたであろう冒険者達の姿があった。

「みなさん……、ご迷惑をお掛けして本当に申し訳ありませんでした……!」

「……カナちゃん怪我はなかったか?」

 間違いなく皆から怒られる……、いや罵倒されるかもしれない。そう思っていたのに、かけられたのはグレンさんからの優しい声だけだった。

「え……?あ……、怪我はセーラさんに魔法で癒やしてもらいました……」

「そうか……、何にしろ無事で良かったな」

「あの……、皆さん私を怒らないんですか……?」

「カナちゃんはもうディンから散々怒られた後だろ?頬にぶん殴られた後がある」

「はい……。ディンさんに沢山叱って貰いました……」

「なら俺達はそれ以上に言うことはない」

「なに、後輩の心配をするのも先輩の役目ってやつさ。だが次はあんな無茶をするんじゃないぞ」

「はい……っ!」

「カナちゃん、一人でやっていくには限度がある。一緒に旅をする仲間を探すかどうかしたほうがいいと俺は思うぞ」

 グレンさんが腕組みをしながらパーティを提案して来る。

「なら、俺のパーティに入るか?」

「ディンさんの申し出はとても嬉しいのですが、自分に見合うパーティを探してみようと思います」

「そうか……、だが理由くらいは聞いてもいいか?」

「はい。ディンさんのパーティだと皆さんに頼りすぎて私自身成長出来ない気がして……」

「なるほどな……。分かった、いいパーティが見つかるといいな」

「わざわざの申し出をすみません……」

「いや、気にするな」

 それにしても、私のパーティーか……。

 私は一体どんな人とパーティーを組むことになるんだろう……?
 そんな事を思いながら夜は更けていくのだった。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める

遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】 猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。 そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。 まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。

【しっかり書き換え版】『異世界でたった1人の日本人』~ 異世界で日本の神の加護を持つたった1人の男~

石のやっさん
ファンタジー
12/17 13時20分 HOT男性部門1位 ファンタジー日間 1位 でした。 ありがとうございます 主人公の神代理人(かみしろ りひと)はクラスの異世界転移に巻き込まれた。 転移前に白い空間にて女神イシュタスがジョブやスキルを与えていたのだが、理人の番が来た時にイシュタスの顔色が変わる。「貴方神臭いわね」そう言うと理人にだけジョブやスキルも与えずに異世界に転移をさせた。 ジョブやスキルの無い事から早々と城から追い出される事が決まった、理人の前に天照の分体、眷属のアマ=テラス事『テラスちゃん』が現れた。 『異世界の女神は誘拐犯なんだ』とリヒトに話し、神社の宮司の孫の理人に異世界でも生きられるように日本人ならではの力を授けてくれた。 ここから『異世界でたった1人の日本人、理人の物語』がスタートする 「『異世界でたった1人の日本人』 私達を蔑ろにしチート貰ったのだから返して貰いますね」が好評だったのですが...昔に書いて小説らしくないのでしっかり書き始めました。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

魔道具頼みの異世界でモブ転生したのだがチート魔法がハンパない!~できればスローライフを楽しみたいんだけど周りがほっといてくれません!~

トモモト ヨシユキ
ファンタジー
10才の誕生日に女神に与えられた本。 それは、最強の魔道具だった。 魔道具頼みの異世界で『魔法』を武器に成り上がっていく! すべては、憧れのスローライフのために! エブリスタにも掲載しています。

家ごと異世界転移〜異世界来ちゃったけど快適に暮らします〜

奥野細道
ファンタジー
都内の2LDKマンションで暮らす30代独身の会社員、田中健太はある夜突然家ごと広大な森と異世界の空が広がるファンタジー世界へと転移してしまう。 パニックに陥りながらも、彼は自身の平凡なマンションが異世界においてとんでもないチート能力を発揮することを発見する。冷蔵庫は地球上のあらゆる食材を無限に生成し、最高の鮮度を保つ「無限の食料庫」となり、リビングのテレビは異世界の情報をリアルタイムで受信・翻訳する「異世界情報端末」として機能。さらに、お風呂の湯はどんな傷も癒す「万能治癒の湯」となり、ベランダは瞬時に植物を成長させる「魔力活性化菜園」に。 健太はこれらの能力を駆使して、食料や情報を確保し、異世界の人たちを助けながら安全な拠点を築いていく。

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

処理中です...