チート無しっ!?黒髪の少女の異世界冒険記

ノン・タロー

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二章 冒険者の少女

訓練 三日目

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 ーディンー

 ことの始まりはカナを狼から助けた日の夜に遡る。

「ディン、ちょっといいか?」

 冒険者ギルドが閉店間際になった頃、酒を飲んでいるとグレンさんが俺のところにやって来た。

「グレンさん、どうしたんだ?」

「実はな、お前に折り行って話があるんだがな……」

「何だい?勿体ぶって……」

「ああ、新人冒険者を対象にした訓練みたいなのを冒険者ギルド主催でやってみようと思っててな、その指導役をお前たちにやってもらえないだろうか?勿論報酬は出す。期間は一週間。一人10万エントでどうだ……?」

「一週間で10万エントか……。悪い話では無いが、あの娘のためか……?」

「カナちゃんの事か……?それだけじゃない。最近新人冒険者が大怪我したり、死んだりするケースが増えているからな」

「なるほど……、自惚れているのはあの娘だけじゃないってことか……」

「そう言う事だ。他にも冒険者達の底上げを図る狙いもある」

「分かった、だが俺だけでは決められん。パーティの皆に聞いてから返事を出す」

「分かった、いい返事を待っている」

 こうして、この日はこれで終わった。
 そして、新人冒険者の訓練が始まったのだが、指導役は俺達4人のみ。

 グレンさんに聞くと、他の奴らにも聞いてみたが、新人の指導は面倒だとかなんとかで断られたらしい……。
 初日は10人くらい訓練に参加していた新人冒険者も2日目にはカナただ一人……。

 アルトが言うには俺が厳しすぎるからだと言ってたが、俺が冒険者になったばかりの頃にグレンさんから「素振りは1日5千回が基本だ」と言われたので、それが当たり前だと思ってたんだかな……。
 何にしろやる気の無い奴には用はない。


 こうして迎えた3日目……。
 この日は、朝から雨が強く降っていた。

「おい、ディン……。今日は雨だから流石にカナちゃんも来てないんじゃないのか……?」

 雨の中傘をさしながらアルトが面倒くさそうに歩いている。

 同じく雨で面倒なのか、セーラとサラは今日は来ていない。
 俺も流石にこの天気では誰も居ないと思うが、心のどこかで来ていて欲しいと願う俺もまたいる。

 そして、訓連場所の平原に辿り着くと、誰かが雨の中傘もささずに一人で素振りをしていた。

「5,122っ!5,123っ!5,124……っ!」

「マジかよ……」

 アルトが呆れたような驚いたようなそんな声を上げる。

 それとは対象的に俺は嬉しさが込み上げていた。
 その人物、カナはいつから居たのか全身ずぶ濡れで、濡れることも気にしていないようにただひたすら素振りをしていた。

「カナ、待たせたみたいだな……」

「ディンさん……、いえ素振りしてましたから大丈夫です。身体も素振りで暖まりましたからいつでも模擬戦行けますよ!」

「雨だから今日は無いかもとか思わなかったのか?」

「冒険者は雨の日はお休みなんですか?」

 質問を質問で返された。
 雨だから冒険者の仕事が無い訳ではない。

 雨が降っていたとしても、その日じゃないといけないという事も当然ある。

「そんな事はないさ」

「じゃあ、問題無いですよね……?」

「違いない……」

 いつの間にか俺の口元が緩み、笑みがこぼれていた。

 新人冒険者、しかも女でこれほど骨のあるやつも珍しい。

 この娘は本気で俺から教わろうとしている。
 ならばこちらもある程度は本気を出すのが礼儀というものだろう。

「それでは……、行きます!」

 カナはそう言うとびしょ濡れになったマントを脱ぎ捨て、木剣を構えると俺の方へと走ってくる。

 昨日は待っていてやったが、今日は少し本気を出す事にする。
 カナが走り出すのと同時に俺も全力で走り出す。

「な……っ!?」

 まさか俺が向かってくるとは思って無かったのか、戸惑いを見せていた。
 新人冒険者だけあっていきなり相対距離を縮められては対応出来ないようだ。

「く……!はあっ!」

 カナは戸惑いながらも剣を振るってくる。

 普通の新人冒険者ならこういう場合戸惑って突っ立っているだけなのだが、攻撃をしてくる辺り流石だろう。
 しかし、相変わらず剣速はまだまだ遅い。

「遅い!はっ!」

 カナの放った攻撃を躱し、右に回り込むとカナの胸当ての背中辺りを狙って木剣で横に薙ぎ払った

「あう……っ!?」

 俺の攻撃は狙い通り胸当ての背中部分に当たり、そのまま倒れるかと思ったが、カナは踏ん張っていた。

「く……!はあっ!」

 そして、体制を立て直すかと思いきや、身体を捻りながら剣を横に薙ぎ払ってきた。
 身体のバネを使った攻撃は速度が早い……が、大振りだ。

「甘い!攻撃が大振りだっ!」

「うあ……っ!?」

 俺はカナの放った薙ぎ払いが届かないギリギリのところで回避すると、胸当ての胸部を目掛けて今度は突きを放った。

 まともに突きを受けたカナはそのまま後へと倒れ込む。

「なぜ攻撃が大振りになるのか教えてやろう。カナは余計な力の入れ過ぎだ!変に力むと、その分体が強張り剣速も遅くなる、相手に剣筋を読まれやすくなる、隙が出来やすくなる。まずは余計な力を抜くことだ!」

「はいっ!」

「まずは呼吸を整えろ。身体と心を落ち着かせてそれから攻撃をするんだ!」

「……。」

 俺の助言を聞き入れ、カナは目を閉じ身体を、呼吸を落ち着かせていく……。

 すると先程まで隙だらけだったのが少しだが隙が減っていった。

「行きます……!」

 カナはそう言うと同時に俺に木剣で袈裟斬りで仕掛けてくる。

 その速さは先程の遅いものでなく、数段速くなっていた。

 俺はそれを躱し、カウンターを仕掛けようとしたその時、カナは体を捻って今度はそのままの勢いで下から斜め上へと斬り上げてきた。

「ぐ……っ!」

 咄嗟に攻撃から防御へと切り替える。
 もう少し対応が遅かったら今のは一撃は喰らっていた。


 もしかしたらこの娘は自分でも気がついていない力を秘めているのかも知れない。
 なら俺がしてやれることはそれを引き出す手伝いをしてやることだけだ。

「次は俺から行かせてもらうぞっ!」

「あが!うぐ!が……っ!ふう……っ!がは……っ!!」

 俺は木剣を握る手に力を込めると、カナに対し連続攻撃を繰り出した。

 当然カナはこれを防ぐ事ができず、全て身体で受けていた。


 どうした……!お前の秘めている力を見せてみろ……!

 そんなものではないはずだ……っ!
 そんな俺の期待を余所に、カナは未だに俺の攻撃を一つも防げてはいない。

 俺の見込み違いか……?ならこの一撃で倒れろ……っ!

 渾身の一撃をカナへと放つっ!

「はあ……!く……っ!はあ!はあ……っ!」

 その一撃を彼女は木剣で防いでいた。

 俺の渾身の一撃を防げる奴はそうはいない。カナの秘めた力の片鱗を見たような気がした。

「ぐ……!はあっ!!」

「ぐ……!んぎぎき……っ!!」

 これがどれ程のものか見たくなった俺は先程放った一撃に力を加える

 それをカナは必死で押し返そうとして来る。
 どう返して来るかそれが楽しみだった。

 弾き返してくるか、受け流してくるか、それとも……。

「ぐ……っ!ああぁ……っ!!」

 結局俺の力に押し負けた彼女は防御を破られ、そして渾身の一撃を受けて倒れたのだった……。

「はあ……!はあ……っ!」

 カナは気を失ったのか起きてくることはなかった。

 アルトに手を貸してもらおうと思ったが、あのエルフはとっとと帰っていた。

 薄情な奴め……!

 俺はカナを冒険者ギルドの受付嬢に預けると、冒険者ギルドを後にした……。
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