チート無しっ!?黒髪の少女の異世界冒険記

ノン・タロー

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三章 旅立つ少女

開かれた目

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「バッシュっ!いい加減人の服を取るのやめてよねっ!?あと匂わないのっ!!」

 訓練を始めてからおおよそ一ヶ月後の朝、いつものようにバッシュさん……もとい、バッシュから服を取り返して着替えることから1日が始まる。

 早く取り返さないといつまでも人の服の匂いを嗅ぐので本当にやめて欲しい……!

「じゃあ、今度はその脱ぎたての部屋着の匂いを……」

「やめろ変態っ!!」

「あが……っ!!」

 部屋着を脱ぎ、旅人の服と鉄の胸当てを着けていると、脱いだばかりの部屋着へと手を伸ばそうとするバッシュの顔を蹴り上げる。

 私の目は未だ開かれてはいないが、見えなくても相手がどう動いて何をしようとしているのか、気配や音で手に取るように分かる。

「いって~……。カナ、お前本当に見えてないんだよな……?」

「当たり前でしょ?だって、バッシュが解いてくれないんだから」

 着替えを済ませると、部屋を出て宿屋の階段を降りて行く。
 最初は何度も転げ落ちたけど、いまは問題なく降りれる。
 何事もなく宿屋を出ると、冒険者ギルドへと向かった。


 ◆◆◆


「ちょっと、バッシュ!私のおかずを取らないでよっ!!」

 食事中、私のおかずを盗もうとしてくるバッシュの腕を掴んでそれを阻止する。

「ねえ、カナは本当に見えてないんだよね……?」

 その様子を見てか、ミシェルさんも驚いたように尋ねてくる。

「はい、見えてませんよ。ですからミシェルさんがどこにいるのかは分かりますが、今どんな顔をしているのかは分かりません」

「本当に見えてないのか俺が確かめてやるよ……」

 すると、後ろから多分男性の冒険者だろう……。鞘に収まった剣で私に襲いかかろうとしている気配を感じた。

「後ろにいる人、それを振ると今度は当てますよ?」

「ひ……っ!?」

 警告を言うとともに後ろへとフォークを投げると、剣を振るおうとした人の顔のすぐ横を掠って、フォークは誰も居ない柱に刺さったらしく、周囲から感嘆の声が上がり、後ろに居た人は腰を抜かしていた。

「ふむ……、カナ。そろそろ目が開くようにしてやる」

 バッシュがそう言うと、急に目が開くようになった。

「う……っ!?」

 一ヶ月ぶりに開かれた目に光が差し込み、目が眩む……。

 確かめるように自分の手や周囲を見渡すと、確かに見える。
 というか、皆の顔ってこんなんだったっけ……?

 一ヶ月ぶりに見る皆の顔は少し新鮮味があった。

「おはよう……て、あれ……?なんでフォークが柱に刺さってるの……?」

 後ろから声がする……。
 声や気配からしてミーナのようだ。

「ミーナ、おはよう。ねえ、早速で悪いんだけど、また勝負をお願いしたいんだけど……。いいかな……?」

 私は開かれた目でミーナを見据える。

「……うん、いいよ!」

 私から何かを感じ取ったのか、ミーナ頷くと私達は近くの森へと向かったのだった……。
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