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四章 海を渡った少女
バッシュとの別れ
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リザードマン達を倒し、森を出ようとする頃には既に日は暮れ、夜になっていた。
私はランタンに照明魔法を入れて、来た時とは反対に川下へと歩き、ムイスの村へと目指す。
村に近付くに連れ、村の方角から明かりが灯されていることに気がついた。
「カナか……?どうやらリザードマン達を倒してきたようだな」
ムイスの村へと戻ると一通り村人達の解毒を終えたと思われるとバッシュが、明かりが灯されたランタンを手に、一軒の民家から出てきた。
「あなた方がリザードマンを倒してくださったあなた方ですか?」
バッシュの後ろから年配の人間の男性が立っていた。
「はい、そうですが……、バッシュさん、こちらの方は……?」
「こちらはこの村の村長代理のトールさんだ」
「代理……ですか……?」
「はい、村長はリザードマンの毒で体調が優れないものでして……。この度は、リザードマンを倒していただき村長に代わりお礼を申し上げます」
トールさんは私達に対し、深々と頭を下げた。
「い……いえ……、私達はたまたま立ち寄っただけで……」
「何にしろ、あなた方のおかげです。今村がこのような状況で大したおもてなしは出来ませんが、せめて今夜は私の家で泊まって行ってください」
「分かりました。ではお言葉に甘えさせて頂きます」
私達は今夜はトールさんの家に泊まらせてもらうことにした。
◆◆◆
「みんな……、話があるんだが少しいいか……?」
その日の夜……、食事を済ませると、バッシュ深刻そうな顔で口を開いた。
「どうしたの?バッシュ……?」
「俺はこの村に残ろうと思う……」
「なんと……っ!?バッシュ、マーゼはよいのか……っ!?」
「前も言ったが俺は特に急ぐ旅でもない……、だが、ここの村人の毒は完全に治ったわけでもないし、村長みたいに未だ体調を崩している人たちも多くいる。それに川の水の浄化も僧侶である俺にしか出来ない。だがら、俺はここに留まり村人達の回復と川の水の浄化に努めようと思う……」
「分かった……。じゃあ、ここでお別れということだね……」
「ああ……。カナ、今まで世話になったな……。玉藻、フィーリエ。二人とはまだ日が浅いがすまない……。みんなの旅の無事を祈っている……」
「バッシュ……、また縁があればどこかで逢おうぞ……」
「バッシュ……、あたしは昨日あったばかりだけど、ムイスをお願い……」
「ああ、任せろ!なあ、カナ……」
「なに……?」
「……いや、お前たちにアルアナ様のお導きがある事を祈っている」
「ありがとう」
バッシュはなにか言いたげそうだったが、それ以上特にその続きを口にすることはなかったため、私もそれ以上は聞く言葉にしなかった……。
その後、私達はバッシュとの別れを惜しむかのように他愛のない話で盛り上がった。
そして、みんなが眠りについた頃、私はバッシュとの出会いを思い起こしていた。
最初に出会ったのはミーナと同じで、ラウルからリーツェに向かう場所の中……。
最初は敬虔な僧侶なのかとも思ったけど、中身は女を抱く、大酒飲み、ギャンブルをすると言った僧侶としてどうなのかと思う点もあるけど、冒険者としての腕は確かだった。
特に、心眼の訓練の時はやり方はどうかとも思うけど、結果的に見ればバッシュのお陰で会得できたと言っても過言ではない……。
やり方はどうかと思うけど……。
そんなバッシュとも明日でお別れ……。
出会ってから一ヶ月と少し……、寂しい気持ちを抱きながら、私は眠りへとついたのだった……。
◆◆◆
翌朝……、私と玉藻、フィーリエはトールさんの家で朝食を済ませ、旅支度を整えるとムイスの村はずれへと来ていた。
「それじゃあ、バッシュ……。私、バッシュの事も忘れないよ……」
「ああ、みんな元気でな。そうだ……、カナこれを持っていってくれ」
バッシュが私にペンダントのようなものを手渡して来た。
そのペンダントには美しい装飾が施された銀色の丸いメダルのようなものが付いており、朝日に照らされて光り輝いていた。
「バッシュ……、これは……?」
「これはアルアナ様への祈りを捧げる時に使う聖具だ。俺の代わりだと思ってこいつを連れて行って欲しい」
「分かった……、大事にするね」
私はバッシュから預かったペンダントを首にかけると、バッシュに見送られ私達はムイスの村を旅立つのだった……。
◆◆◆
~サイドストーリー~
ーバッシュー
「行っちまったな……」
カナ達はムイスの村を旅立った。
昨日の夜、俺はカナに一緒にこの村に留まってくれないかと頼んでみようかとも思ったのだが、結局言わなかった。
もし、あの時それを口にしていたらカナはなんて言うだろう……?
分かったと言ってくれるか、それとも断るか……。
「……んな、タラレバな事を考えても仕方ないか」
もし、首を縦に振ってくれたら……?
俺はカナとこの村で共に過ごして、結婚して、子供を作って、共に子供を育てて……。
そんなカナとの未来もあったのかも知れない……。
「はあ……、やめやめ……!俺らしくねえな……。それに、あいつは恋愛ごとに関してはかなり疎いみたいだしな……」
実際リーツェでタックがカナに対してかなり好意を向けていたみたいだが、気付く素振りもなかったしな……。
仮に俺がカナに対して好意を向けたとしても多分気付かないだろう……。
俺がさっき渡したペンダントの意味もまるで分かってはいない筈だ……。
俺は未練にも似た考えを振り払うと、一人村へと戻るのだった。
カナ達にアルアナ様のお導きがある事を祈って……。
私はランタンに照明魔法を入れて、来た時とは反対に川下へと歩き、ムイスの村へと目指す。
村に近付くに連れ、村の方角から明かりが灯されていることに気がついた。
「カナか……?どうやらリザードマン達を倒してきたようだな」
ムイスの村へと戻ると一通り村人達の解毒を終えたと思われるとバッシュが、明かりが灯されたランタンを手に、一軒の民家から出てきた。
「あなた方がリザードマンを倒してくださったあなた方ですか?」
バッシュの後ろから年配の人間の男性が立っていた。
「はい、そうですが……、バッシュさん、こちらの方は……?」
「こちらはこの村の村長代理のトールさんだ」
「代理……ですか……?」
「はい、村長はリザードマンの毒で体調が優れないものでして……。この度は、リザードマンを倒していただき村長に代わりお礼を申し上げます」
トールさんは私達に対し、深々と頭を下げた。
「い……いえ……、私達はたまたま立ち寄っただけで……」
「何にしろ、あなた方のおかげです。今村がこのような状況で大したおもてなしは出来ませんが、せめて今夜は私の家で泊まって行ってください」
「分かりました。ではお言葉に甘えさせて頂きます」
私達は今夜はトールさんの家に泊まらせてもらうことにした。
◆◆◆
「みんな……、話があるんだが少しいいか……?」
その日の夜……、食事を済ませると、バッシュ深刻そうな顔で口を開いた。
「どうしたの?バッシュ……?」
「俺はこの村に残ろうと思う……」
「なんと……っ!?バッシュ、マーゼはよいのか……っ!?」
「前も言ったが俺は特に急ぐ旅でもない……、だが、ここの村人の毒は完全に治ったわけでもないし、村長みたいに未だ体調を崩している人たちも多くいる。それに川の水の浄化も僧侶である俺にしか出来ない。だがら、俺はここに留まり村人達の回復と川の水の浄化に努めようと思う……」
「分かった……。じゃあ、ここでお別れということだね……」
「ああ……。カナ、今まで世話になったな……。玉藻、フィーリエ。二人とはまだ日が浅いがすまない……。みんなの旅の無事を祈っている……」
「バッシュ……、また縁があればどこかで逢おうぞ……」
「バッシュ……、あたしは昨日あったばかりだけど、ムイスをお願い……」
「ああ、任せろ!なあ、カナ……」
「なに……?」
「……いや、お前たちにアルアナ様のお導きがある事を祈っている」
「ありがとう」
バッシュはなにか言いたげそうだったが、それ以上特にその続きを口にすることはなかったため、私もそれ以上は聞く言葉にしなかった……。
その後、私達はバッシュとの別れを惜しむかのように他愛のない話で盛り上がった。
そして、みんなが眠りについた頃、私はバッシュとの出会いを思い起こしていた。
最初に出会ったのはミーナと同じで、ラウルからリーツェに向かう場所の中……。
最初は敬虔な僧侶なのかとも思ったけど、中身は女を抱く、大酒飲み、ギャンブルをすると言った僧侶としてどうなのかと思う点もあるけど、冒険者としての腕は確かだった。
特に、心眼の訓練の時はやり方はどうかとも思うけど、結果的に見ればバッシュのお陰で会得できたと言っても過言ではない……。
やり方はどうかと思うけど……。
そんなバッシュとも明日でお別れ……。
出会ってから一ヶ月と少し……、寂しい気持ちを抱きながら、私は眠りへとついたのだった……。
◆◆◆
翌朝……、私と玉藻、フィーリエはトールさんの家で朝食を済ませ、旅支度を整えるとムイスの村はずれへと来ていた。
「それじゃあ、バッシュ……。私、バッシュの事も忘れないよ……」
「ああ、みんな元気でな。そうだ……、カナこれを持っていってくれ」
バッシュが私にペンダントのようなものを手渡して来た。
そのペンダントには美しい装飾が施された銀色の丸いメダルのようなものが付いており、朝日に照らされて光り輝いていた。
「バッシュ……、これは……?」
「これはアルアナ様への祈りを捧げる時に使う聖具だ。俺の代わりだと思ってこいつを連れて行って欲しい」
「分かった……、大事にするね」
私はバッシュから預かったペンダントを首にかけると、バッシュに見送られ私達はムイスの村を旅立つのだった……。
◆◆◆
~サイドストーリー~
ーバッシュー
「行っちまったな……」
カナ達はムイスの村を旅立った。
昨日の夜、俺はカナに一緒にこの村に留まってくれないかと頼んでみようかとも思ったのだが、結局言わなかった。
もし、あの時それを口にしていたらカナはなんて言うだろう……?
分かったと言ってくれるか、それとも断るか……。
「……んな、タラレバな事を考えても仕方ないか」
もし、首を縦に振ってくれたら……?
俺はカナとこの村で共に過ごして、結婚して、子供を作って、共に子供を育てて……。
そんなカナとの未来もあったのかも知れない……。
「はあ……、やめやめ……!俺らしくねえな……。それに、あいつは恋愛ごとに関してはかなり疎いみたいだしな……」
実際リーツェでタックがカナに対してかなり好意を向けていたみたいだが、気付く素振りもなかったしな……。
仮に俺がカナに対して好意を向けたとしても多分気付かないだろう……。
俺がさっき渡したペンダントの意味もまるで分かってはいない筈だ……。
俺は未練にも似た考えを振り払うと、一人村へと戻るのだった。
カナ達にアルアナ様のお導きがある事を祈って……。
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