チート無しっ!?黒髪の少女の異世界冒険記

ノン・タロー

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終章 愛する人と生きる少女

おまけその2・ホールで働くカナ

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 ーグレンー

 カナちゃんが冒険者ギルドのホールで働きだすようになってからここは更に活気があふれるようになった。
 俺はそんなカナちゃんを実の娘を見るように目を細めながら眺めていた。

「オーダー入りまーす!23番テーブル、骨付き肉1!ウサギ肉の香草焼き2!チキンステーキ1!でーすっ!」

 冒険者達が賑わう朝のピーク時、店内にカナちゃんの元気な声が響き渡る。
 元冒険者と言うこともあってか、以前よりも動きがかなりいい。

「なあ、グレンさん。あの娘新人かい?」

 そんなカナちゃんを見つめていたのか、カウンター越しに一人の若い男性冒険者が話しかけてくる。

「いや、全くの新人という訳じゃない。以前ここで働いていた娘で、再び働くことになったんだ」

「へえ~、そうなんだ。可愛いな。つい手を出したくなるぜ……」

 カナちゃんが最初にここで働いていたときからもう2年近く経つ。

 ここには彼女が以前働いていたときからいる冒険者もいれば、彼女がここを発ってから冒険者になった者もいる。

 そして、今俺に話しかけてきているのは後者の方、つい最近冒険者になったばかりの新人だ。

「言っておくが、変に手を出すなよ?後でどうなっても俺は知らんからな」

「ははは……!グレンさん、冗談がうまいなっ!そうは言ってもウェイトレスだろ?俺達冒険者のほうが強いってもんよ!」

「……警告はしたからな」

 こいつはカナちゃんがどれ程の力を持っているのか分からないらしい。

 かつて冒険者になる前、ここで働いていたときですら、変に彼女に手を出してくる冒険者達を軒並み殴り倒していたのだ。

 その後、冒険者になってからは噂ではあるが、ドラゴンを素手で殴り倒したとか、ドラゴスの闘技場で絶対王者の称号を持つ奴を素手で殴り倒したという逸話も聞く。


 さらに最近の話で言えば、以前ここのホールで行われたカナちゃんとザクスの披露宴で、ブチ切れた彼女がここのテーブルを持ち上げてぶん投げようとしていたというのは彼女を知る冒険者達の間では有名な話だ。

 このテーブルも決して軽いわけでもなく、もし本当にぶん投げられていたらどうなっていた事か……。

 もっとも、あの時はザクスのお陰でぶん投げるまでには至らなかった訳だが、冒険者として戦ってきた彼女がどれ程の力を付けてきたのか、そしてそれが如何ほどのものかが伺い知れる。

 その為、カナちゃんを知る奴らは決して彼女には手を出さない。

 仮にそんな彼女に手を出す奴がいて、もしカナちゃんが本気でそいつを殴ったらどうなることか……。

 たぶん、死ぬまでには至らないにしても重傷は負いかねない。

 今までカナちゃんに手を出そうとしてきた奴がいなかったから良かったものの、もしコイツが変に手を出したら……。
 そして今のカナちゃんがぶん殴ったら……。

 想像するだけで冷や汗が流れる。

「カナちゃん!いいかいっ!?」

「あ、はーい!ただいま行きまーすっ!」

 何を思ったのかこの新人はカナちゃんを呼んだ。

 こいつ、何を考えているんだ……?

「えっとだな……、パイタッチっ!!」

「え……?」

「な……っ!?」

 何を思ったのか、こいつはカナちゃんの胸を触りやがった……っ!?
 その瞬間周囲が凍りつく……!

 手に持っていたフォークを落とす者、口に入れていた料理を落とす者、固まってしまっている者と様々だが、それらの共通点としては皆この後に起きることに顔を引き攣らせていた。

 ……ただ一人を除いては。

「カナちゃん、胸は小さいけど柔らかいね~!」

 この新人はカナちゃんの胸を揉みながらさらなる禁句を言っていた!

 胸が小さい……、カナちゃんに対して決して言ってはならない禁句……!

 これを不用意に言ったためにザクスは何度もぶん殴られていた。

「……あなたに一つ教えてあげましょうか?」

「へ……?」

 カナちゃんの顔が引き攣り、怒りからか、彼女の周囲の空間が歪んでいる……ような気がする。

 しかし、この新人は自分が何をしたのかまるで分かってはいないようだ。

 ま……まずい……!
 遂に死人が出てしまうのか……っ!?

「私の身体を触っていいのは旦那ザクスだけよっ!!」

「ひでぶ……っ!?」

 カナちゃんは新人の胸ぐらを掴むと、そのまま顎に拳を打ち上げたっ!

 殴られたそいつは、天井すれすれくらいまで宙へと舞い上がると、そのまま頭から地面に落ちて倒れた。

 こ……こいつ、生きてるか……?

 身体がピクピクと動いているところを見ると死んではいないようだが……。

「ふんだっ!!」

 カナちゃんは肩を怒らせながらその場を去るが、周囲はあまりの出来事に静まり返っていた……。
 そして、これ以降彼女に手を出そうとするものはいなくなったのだった……。
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