チート無しっ!?黒髪の少女の異世界冒険記

ノン・タロー

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ifの章 王者の寵愛を受けた少女

ヴァインのプロポーズ

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「カナっ!」

 部屋を出ると、誰かに呼び止められた。

 誰だろう……?

 声のする方へと振り向くと、そこにはヴァインの姿があったっ!

「え……?うぇえ……っ!?ヴァインあなた死んだんじゃ……っ!?南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏!迷わず成仏……っ!」

 まさか負けたのが悔しくて化けて出てきたとか……っ!?

 この世界で通用するかどうか分からないけど、私は思わず手を合わせて念仏を唱える。

「お前は何をやっているんだ……?言っておくが俺は死んではいない、しばらくの間気を失ってはいたがな……」

 心臓を貫かれたのに、気を失う程度で済むんだ……。
 ヴァインの体は何もかもデタラメなようだ。

 そんな彼が私に一体何の用があるというんだろうか……?

 まさか、再戦の申し込みとか……?

 私は息を呑みながらヴァインの言葉を待つ。

「カナ、俺の妻になってはくれないか……?」

「ふえ……っ!?」

 突然ヴァインは片膝を付き私へとプロポーズを申し込んできたっ!

 一瞬何を言われたのか分からず、頭の中が真っ白になったが、それを理解すると私の顔は真っ赤になっていた!

 まさか生まれて初めて私にプロポーズをして来た男が好きな人ではなく、因縁の相手とは夢にも思わなかった!

「さっきの戦いで俺はお前のことがますます気に入った!だから俺の妻となって俺の子を産んでほしいっ!」

「い……イヤよ……っ!私は心に決めた人がいるのっ!」

「だが、俺はお前のことが心底気に入ったんだ!お前のことを生涯大切にする!俺はお前のことを本気で妻にしたいと思っている!はっきり言う、俺はお前が好きだっ!お前の全てが欲しいっ!」

「な……っ!?」

 私はヴァインの言葉に驚愕していた。

 未だかつて、私はここまで熱烈なプロポーズを受けた事がない。

 恋人のザクスにさえプロポーズをされてはいないのだ、それを私にとって因縁とも思える相手からされるなんて思っても見なかった……!

「カナ俺ではダメか!?お前の心に決めた奴というのは俺より強いのか……っ!?」

「いや……強いと言うか何と言うか……」

 困った、どうやって断ろう……。

 仮にこのまま逃げたとしても全力で追いかけてきそうだし、さらに言えば押し倒される可能性もある。

「ハッキリ答えてくれ、カナ!俺はこんなにもお前を求めているんだっ!」

 次第にヴァインのプロポーズに熱がこもってくる。

 周囲からはユーリを含めた多くの人々の人々の視線が私とヴァインに向けられていた。

 ここは正直に話して諦めてもらうしか無いかも……。

「じ……実は私の好きな人って言うのが今は石化されていて、その人を助けるための旅をしているの。だからヴァインの気持ちには応えられないかな~って……」

「……石化された男?そいつは本当に石化が解けるのか?」

「うぐ……!」

 鋭い所を突かれてしまった……。

 アルアナの話では素材を集めればザクスの石化は解けると言っていた。

 そう、っ!

 そして、その素材の中にドラゴンやワイバーン、さらにはイービルアイと言う得体のしれない魔物もいるのだ。
 果たして私はそれらを本当に倒す事が出来るかと言われればハッキリ言って自信はない……。

 途中で死ぬかもしれない、もしかしたら仮に素材を揃えれたとしても、アルアナが薬を作るのに失敗する可能性だってある。
 そうなれば全てが水の泡だ。

 本当に助けられるかどうか分からない恋人のザクスと、今こうして熱烈にプロポーズをしてくれているヴァイン……。

 ど……どっちを選べば……。

「カナ、人間だけでなく殆どの種族は"倦怠期"と言うのがあるらしいな。いくら愛し合って結ばれたとしても、いずれはお互いに飽きてしまい、その愛は冷めてしまうのだという。だが俺は違う!獅子の獣人族にとって女は"生涯従わせる存在"か、"生涯愛する存在"かのどちらかだ。俺は生涯カナを愛する事をここに誓う!もし俺が裏切ったらその時は構わん、俺の首をくれてやる!」

 生涯愛するって……、よくそんな歯の浮くようなセリフを……。
 しかも命まで賭けるって……。

 ど……どうしよう……。

 私は戸惑いながらヴァインの目を見ると、その目は真剣そのもので嘘偽りのないものだった。

 で……でも、私にはザクスと言う恋人が……。

「カナ!俺は生涯お前を幸せにすると誓うっ!だから俺と結婚してくれ!そして俺の子を産んでほしいっ!」

 ヴァインの心のこもったプロポーズに私の心ではなく、別の何かがキュンとした。
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