罰ゲームから始まった、五人のヒロインと僕の隣の物語

ノン・タロー

文字の大きさ
30 / 165
亜希の章 ツンデレな同居人

誰もいない教室で……

しおりを挟む
 校舎裏の倉庫へと続く道を、僕と亜希は並んで歩いていた。  
 夕方の風が少しだけ涼しくて、夏の終わりを感じさせる。

「……柊さん、鋭いよね」

 僕がぽつりと呟くと、亜希は少しだけ笑った。

「そうね……、ちょっと恥ずかしかったわね……」

「僕も……。もしかしたら僕たちのことみんなの噂になってるのかな……?」

「分からないわね……でも……彼方となら噂になっても……私は困らないわよ……」

「え……?」

 亜希の言葉に僕はドキッとする。

「と……とりあえず暗幕を早く取りに置くわよ……!」

「え…?あ……!待ってよ亜希……!」

 小走りに走る亜希を追って僕もまた走り始めた。


 倉庫に着くと鍵は開いており、中にはクラスの札と共に折りたたまれた暗幕が数枚、棚の上に積まれている。

「これ、二人で持てるかな……?」

「うん、たぶん……あ、ちょっと待って」

 亜希が棚に手を伸ばした瞬間、バランスを崩してよろける。

「わっ……!」

「亜希危ないっ!」

「きゃあ……っ!?彼方……!」

「え……?うわぁ……っ!?」

 僕は反射的に亜希へと腕を伸ばす……が、亜希に腕を掴まれた僕は結局亜希と共に倒れてしまった。

 そして気づけば、僕は亜希を押し倒す形となっていた。

「亜希……」

「彼方……」

 僕たちはお互い顔を赤くしながら見つめ合う……。  
 倉庫の中は静かで、外の風の音だけが聞こえる……。

 亜希は静かに目を閉じると僕は思わず生唾を飲み込み目を閉じて亜希へと顔を近付ける……。

 あともう少しで僕と亜希の唇が触れようとしたその時だった……。

「えっと……暗幕はここでいいんだっけ?」

「ああ、そのはずだ」

「っ!?」
「っ!?」

 突然聞こえてきた声に僕と亜希は体をビクッと震わせると慌てて起き上がり急いで暗幕を抱きかかえて倉庫を飛び出した。


 倉庫を飛び出した僕たちは、しばらく無言のまま教室へと向かって歩いていた。  
 夕焼けが差し込む中、暗幕を抱えたまま、僕は何度も亜希の横顔を盗み見てしまう。

「……さっきの、誰だったんだろうね」

 僕がようやく口を開くと、亜希は小さく肩をすくめた。

「分からないけど……誰かが倉庫に来るタイミング悪すぎよ……」

「そうだね……」

 僕たちは顔を赤くしながら、でもどこか笑いをこらえるような空気で歩き続けた。


 教室へと戻ると、柊さんがこちらに気づいて駆け寄ってくる。

「暗幕ありがとう……。ん?なんか二人とも顔赤くない……?」

「えっ!? そ、そんなことないよ!」

「うんっ!暑かっただけよ!」

 僕と亜希は慌てて否定するが、柊さんはじぃ~っと僕たちを見ていた。

「……まあいいけど。それより、高藤くんたちはまだ行方不明だから、暗幕の設置もしてほしい」

「……え?」

「じゃ、よろしく……」

 柊さんはそれだけを言い残すと他の準備のため僕たちのもとを去っていった。

 ……高藤と悠人のやつ、ほんとにどこ行ったんだよ。

 僕は心の中で文句を言いながら、亜希と一緒に教室の窓へと暗幕を取り付けていった。

 窓際に並んで、僕と亜希は暗幕を取り付けていった。  
 夕焼けが差し込む教室の中、ベニヤ板の迷路が少しずつ形になっていく。

「……こっち、少しずれてるかも」

「ほんとだ……亜希、ちょっと持っててくれる?」

「うん」

 僕は脚立へとのぼり、画鋲を使って暗幕の端を調整していると、亜希が下から支えてくれる。  
 その手が、さっき倉庫で触れた手と同じだと思うと、なんだか意識してしまってうまく画鋲が刺せない。

「……彼方、顔赤いよ?」

「えっ!? いや、これは……夕焼けのせいだよ、きっと」

「ふふ……夕焼けって便利ね」

 亜希が笑う。  
 その笑顔が、なんだかいつもより近く感じた。


 暗幕の設置が終わり、他の残っていた作業を終える頃教室には誰の姿も残っていなかった……。

「……みんな帰っちゃったのかな」

「みたいね、まったく薄情な人たちだわ……」

 亜希は腕組みをしながらため息をつく。

 そして僕はこの教室に亜希と二人きりでなのだということに気がついた。

「ねえ……、亜希」

「な……なに……?」

 僕は亜希の肩へと手をやると、彼女はビクッ体を震わせ僕の顔を見つめる……。

「実は亜希に一つ謝っていかないといけないことがあるんだ……」

「え……?私に謝らないといけないこと……?」

「うん、前学校の屋上で亜希に告白したことがあったよね……実はあれさ……罰ゲームだったんだ……」

「え……?あれ……罰ゲームだったの……?」

 僕の言葉に、亜希はしばらく黙っていた。  
 夕焼けが差し込む教室の中、彼女の表情は影に隠れてよく見えない。

「でも今は違う、今まで亜希と過ごして……プールに遊びに行ったり、エリシアゲームで遊んだり、そして今こうして学園祭の準備を一緒にしている内に僕は亜希のことが本当に好きになっていた……」

「彼方……?」

 亜希は僕の顔を見つめていた。  
 その瞳の奥に、怒りでも悲しみでもない、何か揺れるものが見えた気がした。

「亜希……僕は君のことが好きだ、改めて言うよ……僕と付き合ってください……」

 僕は亜希へと本当の告白をする。

「……ずるいわね、彼方」

「え……?」

「今頃この前の告白が罰ゲームだったって言って、私を傷つけておいて……でも、今の言葉は……ちゃんと嬉しいって思ってる私がいる……」

 亜希はそう言って、少しだけ笑った。  
 その笑顔は、泣きそうな顔と紙一重だった。

「……ごめん、亜希。でも、今は本気で言ってる。君のことが、好きだ」

 僕の言葉に、亜希は目を伏せて、静かに頷いた。

「私も、彼方のこと……好きよ……。あなたの告白受け入れます……。だから彼方……こちらこそ私と付き合ってください……」

「亜希……」

 僕は亜希の体をそっと抱きしめると彼女へとキスをしたのだった……。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

友達の妹が、入浴してる。

つきのはい
恋愛
 「交換してみない?」  冴えない高校生の藤堂夏弥は、親友のオシャレでモテまくり同級生、鈴川洋平にバカげた話を持ちかけられる。  それは、お互い現在同居中の妹達、藤堂秋乃と鈴川美咲を交換して生活しようというものだった。  鈴川美咲は、美男子の洋平に勝るとも劣らない美少女なのだけれど、男子に嫌悪感を示し、夏弥とも形式的な会話しかしなかった。  冴えない男子と冷めがちな女子の距離感が、二人暮らしのなかで徐々に変わっていく。  そんなラブコメディです。

女子ばっかりの中で孤軍奮闘のユウトくん

菊宮える
恋愛
高校生ユウトが始めたバイト、そこは女子ばかりの一見ハーレム?な店だったが、その中身は男子の思い描くモノとはぜ~んぜん違っていた?? その違いは読んで頂ければ、だんだん判ってきちゃうかもですよ~(*^-^*)

手が届かないはずの高嶺の花が幼馴染の俺にだけベタベタしてきて、あと少しで我慢も限界かもしれない

みずがめ
恋愛
 宮坂葵は可愛くて気立てが良くて社長令嬢で……あと俺の幼馴染だ。  葵は学内でも屈指の人気を誇る女子。けれど彼女に告白をする男子は数える程度しかいなかった。  なぜか? 彼女が高嶺の花すぎたからである。  その美貌と肩書に誰もが気後れしてしまう。葵に告白する数少ない勇者も、ことごとく散っていった。  そんな誰もが憧れる美少女は、今日も俺と二人きりで無防備な姿をさらしていた。  幼馴染だからって、とっくに体つきは大人へと成長しているのだ。彼女がいつまでも子供気分で困っているのは俺ばかりだった。いつかはわからせなければならないだろう。  ……本当にわからせられるのは俺の方だということを、この時点ではまだわかっちゃいなかったのだ。

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

小さい頃「お嫁さんになる!」と妹系の幼馴染みに言われて、彼女は今もその気でいる!

竜ヶ崎彰
恋愛
「いい加減大人の階段上ってくれ!!」 俺、天道涼太には1つ年下の可愛い幼馴染みがいる。 彼女の名前は下野ルカ。 幼少の頃から俺にベッタリでかつては将来"俺のお嫁さんになる!"なんて事も言っていた。 俺ももう高校生になったと同時にルカは中学3年生。 だけど、ルカはまだ俺のお嫁さんになる!と言っている! 堅物真面目少年と妹系ゆるふわ天然少女による拗らせ系ラブコメ開幕!!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

処理中です...