罰ゲームから始まった、五人のヒロインと僕の隣の物語

ノン・タロー

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柚葉の章 ロリっ子で不器用な生徒会長

柚葉先輩とのテスト勉強

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 9月末の土曜日。
 中間試験に向けて、僕は柚葉先輩と一緒に僕の部屋で勉強していた。

「柚葉先輩、ここのつづりってこれであってますか?」

 英語の問題集の答えを書いたノートを、僕の隣でローテーブルのクッションに座っている柚葉先輩に見せる。

「間違ってるぞ。よく見ろ彼方、ここは複数形だ」

「え……?あ……」

 柚葉先輩に言われて僕は間違いに気がつく。

「……なるほど。"s"が抜けてました」

「これは……中学生でも間違えないレベルだぞ?」

「うっ……耳が痛いです」

 僕が苦笑すると、柚葉先輩はくすっと笑って僕のノートを覗き込む。

「しかし……よく見れば間違いだらけだな……。お前は授業をちゃんと聞いていたのか?」

「いやぁ……、どうも英語は苦手で……。柚葉先輩は英語得意そうですよね」

 日本人とアメリカ人のハーフである先輩なら英語は得意なはず……そう思っていたのだけど……。

「ミレイはハーフだけど、生まれも育ちも日本だ。パパから英語は教わったけど、それだけじゃ全然足りなかった。だから、あとは自分で頑張ったんだ。だから彼方も頑張って苦手科目を克服するんだ」

 先輩はそう言うと自分のテスト勉強に戻る。

(なんか藪蛇をつついた気分だ……)

「そ……そう言えば今日イオリはどうしたんですか?家で試験勉強ですか?」

 僕はイオリの名前を出して話題を逸らすことにする。

「ああ、イオリは春野のところに行っている。あの二人は付き合ってるからな」

「えぇっ!?」

 突然の言葉に僕は思わず声を上げる。

 あの二人が付き合っていたなんて……、そう言えばこの前、春野さんがイオリのこと「律先輩」って言ってたな……。
 なるほど、それはそういうことだったのか……。

 僕は一人納得していると、柚葉先輩は僕の肩にそっと頭を乗せてきた。

「柚葉先輩……?」

「ミレイは少し休憩だ。それにこれはその“報酬”だ」

 先輩は僕の腕に頬をすり寄せながら、満足げに目を閉じる。

「報酬……ですか?」

「さっき分からないところを教えてあげただろ?その報酬だ」

 なんていうか、ちゃっかりしてるな。
 でも、報酬か……。

 僕はペンを置くと、そっと先輩の髪を撫でた。

 静かな午後、窓から差し込む光が部屋を柔らかく照らしている。

(……こんなふうに隣で笑ってくれるだけで、頑張れる気がする)

 勉強の合間のこの時間が、なんだかとても贅沢に感じられた。


 暫く勉強を続けていると、集中力が切れてくるのを感じた僕は休憩を挟むことにする。

 確か真奈美さんは由奈ちゃんと買い物に行ってたはずだから、お菓子があるかどうかはわからないけど、お茶くらいはあるはずだ。

 そう思った僕は立ち上がる。
 
「柚葉先輩、少し休憩しませんか?僕飲み物持ってきますね」

 僕は背伸びをしながら部屋の時計を見ると午前11時になろうとしていた。
 9時くらいから始めたからもう2時間くらい勉強していたことになる。

「ああ、すまないな」

 僕は飲み物を取りに二階の自室を出ようとすると、そっとドアを開けた向こうからこちらを見つめている真奈美さんと目が合う。

(彼方くん!ちょっとちょっと……!)

 いつの間にか買い物から帰ってきたのか、真奈美さんは小声で僕を呼ぶ。

 僕は自分の部屋を出ると、真奈美さんと共に一階のリビングへと向かった。

「真奈美さん、なに……?」

「ちょっと彼方くん……、知らない靴があるから誰かと誰かと思ったけど、あの金髪の子とはどういう関係なの?まさか……中学生じゃないでしょうね?」

「ち……ちがうよ!柚葉先輩は僕の彼女だよ!」

「えっ!?先輩ってことは3年生なのっ!?てっきり私は彼方くんが中学生に手を出してるのかと……」

 まあ……、制服じゃないと柚葉先輩の身長だと中学生に見えるというのもわからなくもない……。

「えぇっ!?お兄ちゃん、彼女いたの!?……あたし狙ってたのに!」

 すると、真奈美さんとの話が聞こえたのか買い物袋を抱えた由奈ちゃんまでやって来た。

「ええ、そうみたいよ。見た目的には中学生くらいかと思ったけど、高校3年の先輩見たいよ」

 いや……、今そんなこと堂々と言われても困るんだけど……。

「それで……彼方くん!その先輩とどこまで進んでるのかしら……?キスは済ませてるとして……その先は……?」

「それ、あたしも気になる」

 二人は息を呑んで僕に詰め寄ってくる……。
 いや、ていうかなんで僕と先輩の関係がどこまで進んでるのかを話さないといけないんだよっ!

「いいでしょ別に……!部屋で柚葉先輩が待ってるからもう行くよっ!」

 僕は冷蔵庫からお茶を取り出すとコップを2つ準備する。

「いいわけないでしょっ!?もし彼方くんがうっかりして、柚葉先輩を妊娠させたりでもしたら頭を下げるのは私と弘樹さんなのよっ!?」

「うぐ……」

 真奈美さんの言葉に僕は声が詰まる。
 たしかに先輩とはもう致した中……、妊娠せたとなれば頭を下げなければいけないのは義理とは言え母親である真奈美さんと父さんの二人……。

「と言う訳で……事情聴取よ、根掘り葉掘り話してもらうわよ♪」

「お兄ちゃん、話して楽になっちゃおうよ♪」

 真奈美さんと由奈ちゃんがジリジリと笑顔で詰め寄ってくる。

(その笑顔、なんか怖いんだけど……!)

 結局、僕はふたりに根掘り葉掘り聞かれ、柚葉先輩との関係を全部白状する羽目になった。


 ~サイドストーリー~


 ──柚葉──


 彼方が部屋を出たあと、一人残された私は床に敷かれたクッションの上に座ったまま部屋を見渡す。
 白を基調とした机や本棚、ローテーブルにタンスなどの家具が整然と並んでいるけれど、どこか味気ない。
 ……殺風景だ。

「ふむ、今度ミレイの部屋から使ってないものを彼方の部屋に置いてみるか……」

 私はそう思いながらベッドに目をやると、彼の匂いを感じたい……そんな衝動が、胸の奥からじわじわと湧き上がる。

(いやいやいや……!ミレイは何を考えているんだ!人の家に来て彼氏のベッドの匂いを嗅ぐなんてそんな非常識なことできるはずが……!)

 そう思うも、例えば枕からは濃厚な彼方匂いがするかもと思うと、私の意思とは反対に体が勝手に彼方のベッドに引き寄せられる。

(ダメだ……!体が言うことを聞かない……!ミレイは理性的な女のはず……!でも、でも……!)

 そして気がつけば私は彼方のベッドに倒れ込むと、枕に顔を埋め、彼の匂いを胸いっぱいに吸い込む。
 シャンプーの香り、微かな汗の匂い——全部が、彼方だった。

(あぁ……、彼方の匂いがする……)

 彼の匂いに包まれた私はまるで彼方に抱きしめられているかのような気がして、胸がドキドキと高鳴る。

 と、その時だった……。

「彼方いる?」

 ドアの向こうに立っていたのは、ミスコンで会った風原亜希。
 私と風原の視線がぶつかった瞬間……お互いの時間が止まった。
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