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瀬玲奈の章 ギャル気質なガールフレンド
静かな海と、夜の灯りの中で
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僕と瀬玲奈は部屋に荷物を置いたあと、海岸へ向かった。
……が、シーズンオフだからか、砂浜には「遊泳禁止」の看板が立っていた。
「えぇ~っ!? 海、泳げないの~!? 超ショックなんだけど~!」
「まあ……10月だしね」
看板を見て文句を言う瀬玲奈の横で、僕は苦笑する。
たしかこの時期は海水温も下がるし、クラゲも出るから遊泳禁止になるんだったっけ……?
「ぶぅ~!せっかく海に来たのに泳げないなんて、つまんない~!」
「でもさ、せっかくだし……波打ち際でちょっと遊ぶくらいなら、いいんじゃない?」
僕がそう言うと、頬をふくらませていた瀬玲奈の顔がぱっと明るくなった。
「……それって、足だけ入ってもいいってこと?」
「うん。泳ぐのはダメでも、足を浸けるくらいなら大丈夫だと思うよ」
……たぶん。
「やった~♡ じゃあ、靴脱いじゃお~っと!」
瀬玲奈はその場でスニーカーを脱ぎ、靴下をくるくる丸めてバッグにしまうと、裸足のまま砂浜を駆け出した。
「うわっ、冷たっ!でも気持ちいい~!」
波打ち際でぴちゃぴちゃと水を蹴りながらはしゃぐ瀬玲奈は、まるで子どものように無邪気だった。
その笑顔を見ているだけで、胸の奥がじんわりとあたたかくなる。
「彼方も来なよ~!ほらっ!」
瀬玲奈が手招きする。
僕も靴を脱ぎ、ズボンの裾をまくって、波打ち際へと歩いていく。
足を海に入れた瞬間、ひやりとした感触が足元を包んだ。
「うわっ、冷たい……!」
「でしょ~?でもさ、なんか……秋の海って、静かでいいよね」
瀬玲奈は波の音に耳を澄ませながら、僕の隣に立つ。
ふたりの足元に寄せては返す波が、まるでふたりの距離を測るように揺れていた。
「……修学旅行、行けなかったのは残念だったけど」
「うん」
「でも、こうして彼方とふたりで来れて、ウチは嬉しいよ♡」
瀬玲奈はそう言って、僕の手をそっと握った。
その手は少し冷たかったけど、不思議と心はあたたかかった。
「僕も……同じ気持ちだよ」
ふたりで並んで、しばらく波の音を聞いていた。
空は少しずつ茜色に染まりはじめ、遠くの水平線が金色に輝いていた。
「ねぇ、夜になったらさ、浴衣着てお祭り行こうよ。旅館の人が言ってたんだ。小さなお祭りがあるって」
瀬玲奈は笑みを浮かべながら、僕にスマホの画面を見せてくる。
そこには、今日この漁村で行われる小さなお祭りの案内が表示されていた。
「お祭り……いいね。楽しみだな」
「じゃあ、夜はデートだね♡」
瀬玲奈はにっこりと笑って、僕の手をぎゅっと握りしめた。
◆◆◆
夜。僕は瀬玲奈と手をつなぎ、出店が並ぶ漁村の通りを歩いていた。
屋台の数は少ないけれど、あちこちから漂う香ばしい匂いが食欲をそそる……が、僕の顔はずっと赤かった。
その理由は——お風呂が、まさかの混浴だったからだ。
いや、正確には“家族風呂”なんだけど、結果的に瀬玲奈とふたりで温泉に入ることになってしまった……。
「ねぇ彼方、まだ顔赤いよ~?もしかして……ウチの裸、意識しちゃった?でもさ、ウチとはそれ以上のこと、何度もしてるのにね♡」
瀬玲奈は浴衣の袖をひらひらさせながら、ニヤニヤと僕の顔を覗き込んでくる。
「ち、ちがっ……!そ、そんなわけ……!」
慌てて否定するけど、顔の熱はますます上がるばかりだった。
……たしかに瀬玲奈の言う通りなんだけど、こういう場所だと、なんだかいつもよりドキドキする。
「ふふっ、冗談だよ♡でも……ウチは、彼方と一緒に入れて嬉しかったよ?」
瀬玲奈はそう言って、僕の手をぎゅっと握り直す。
その手のぬくもりは、さっきの湯船よりもずっと熱く感じた。
夜の漁村は、提灯の灯りがゆらゆらと揺れていて、どこか幻想的だった。
焼きとうもろこしの香ばしい匂い、かき氷の甘い香り。
すべてが、ゆっくりと流れる時間の中に溶け込んでいた。
「彼方、あれやろうよ!金魚すくい!」
瀬玲奈が指差したのは、ぽつんと出ていた金魚すくいの屋台。
赤や白の金魚が、小さな水槽の中をすいすいと泳いでいる。
「いいけど……僕、あんまり得意じゃないよ?」
「大丈夫大丈夫!ウチが教えてあげるから♡」
そう言って、瀬玲奈は僕の手を引いて屋台へ向かう。
ふたりでポイを手に取り、水面をじっと見つめる。
「ほら、あの子狙って。ゆっくり、優しく……」
「う、うん……って、あっ!」
ポイが水に触れた瞬間、紙が破れてしまった。
「わっ、もう!?」
「彼方、雑すぎ~!もっとこう、ふわっと……」
瀬玲奈は器用にポイを動かし、見事に一匹の金魚をすくい上げた。
「ほら、見て見て~♡」
「すごい……!」
「じゃあ、この子は“カナタ”って名前にしよっか」
「なんで僕の名前!?」
「だって、ウチがすくったんだもん。責任持って可愛がってあげるね♡でも、一匹だけじゃ寂しいよね……」
そう言って、瀬玲奈は二匹目の金魚もすくい上げる。
「瀬玲奈、本当にこういうの上手だね」
「えへへ~♡ウチ、こういうの得意なんだ~。ね、こっちの金魚の名前は彼方がつけていいよ」
金魚の名前か……。
僕は少し考えて、ひとつの名前を口にした。
「じゃあ、こっちは……“セレナ”にしよう」
「なんでウチの名前?」
瀬玲奈は苦笑しながらも、どこか嬉しそうだった。
「“カナタ”ときたら、もう一匹は“セレナ”かなって。それにさ、こっちの金魚、おでこのあたりに緑っぽい模様があるし」
僕が指さすと、確かに小さな緑の模様が見えた。
「ホントだ♡ カナタにセレナか~。ウチ、この二匹、大事にするね♡カナタにセレナ、今日からお前たちは夫婦だぞ~♡」
瀬玲奈は笑いながら、金魚の入った袋を大事そうに眺めていた。
その笑顔を見ていると、胸の奥がくすぐったくなる。
(“夫婦”か……。冗談っぽく言ったけど、その言葉が、なぜか胸に残った)
……まあ、金魚の性別は知らないけどね。
「……ねぇ、彼方」
「ん?」
「この旅、ずっと忘れないと思う。ウチにとって、すごく大事な思い出になったから」
「……僕も。瀬玲奈と来れて、本当によかったよ」
夜空に浮かぶ星たちは、まるで僕たちの旅を祝福するように瞬いていた。
遠くから聞こえる太鼓の音と、寄せては返す波の音が、ふたりの沈黙をやさしく包み込んでいた。
……が、シーズンオフだからか、砂浜には「遊泳禁止」の看板が立っていた。
「えぇ~っ!? 海、泳げないの~!? 超ショックなんだけど~!」
「まあ……10月だしね」
看板を見て文句を言う瀬玲奈の横で、僕は苦笑する。
たしかこの時期は海水温も下がるし、クラゲも出るから遊泳禁止になるんだったっけ……?
「ぶぅ~!せっかく海に来たのに泳げないなんて、つまんない~!」
「でもさ、せっかくだし……波打ち際でちょっと遊ぶくらいなら、いいんじゃない?」
僕がそう言うと、頬をふくらませていた瀬玲奈の顔がぱっと明るくなった。
「……それって、足だけ入ってもいいってこと?」
「うん。泳ぐのはダメでも、足を浸けるくらいなら大丈夫だと思うよ」
……たぶん。
「やった~♡ じゃあ、靴脱いじゃお~っと!」
瀬玲奈はその場でスニーカーを脱ぎ、靴下をくるくる丸めてバッグにしまうと、裸足のまま砂浜を駆け出した。
「うわっ、冷たっ!でも気持ちいい~!」
波打ち際でぴちゃぴちゃと水を蹴りながらはしゃぐ瀬玲奈は、まるで子どものように無邪気だった。
その笑顔を見ているだけで、胸の奥がじんわりとあたたかくなる。
「彼方も来なよ~!ほらっ!」
瀬玲奈が手招きする。
僕も靴を脱ぎ、ズボンの裾をまくって、波打ち際へと歩いていく。
足を海に入れた瞬間、ひやりとした感触が足元を包んだ。
「うわっ、冷たい……!」
「でしょ~?でもさ、なんか……秋の海って、静かでいいよね」
瀬玲奈は波の音に耳を澄ませながら、僕の隣に立つ。
ふたりの足元に寄せては返す波が、まるでふたりの距離を測るように揺れていた。
「……修学旅行、行けなかったのは残念だったけど」
「うん」
「でも、こうして彼方とふたりで来れて、ウチは嬉しいよ♡」
瀬玲奈はそう言って、僕の手をそっと握った。
その手は少し冷たかったけど、不思議と心はあたたかかった。
「僕も……同じ気持ちだよ」
ふたりで並んで、しばらく波の音を聞いていた。
空は少しずつ茜色に染まりはじめ、遠くの水平線が金色に輝いていた。
「ねぇ、夜になったらさ、浴衣着てお祭り行こうよ。旅館の人が言ってたんだ。小さなお祭りがあるって」
瀬玲奈は笑みを浮かべながら、僕にスマホの画面を見せてくる。
そこには、今日この漁村で行われる小さなお祭りの案内が表示されていた。
「お祭り……いいね。楽しみだな」
「じゃあ、夜はデートだね♡」
瀬玲奈はにっこりと笑って、僕の手をぎゅっと握りしめた。
◆◆◆
夜。僕は瀬玲奈と手をつなぎ、出店が並ぶ漁村の通りを歩いていた。
屋台の数は少ないけれど、あちこちから漂う香ばしい匂いが食欲をそそる……が、僕の顔はずっと赤かった。
その理由は——お風呂が、まさかの混浴だったからだ。
いや、正確には“家族風呂”なんだけど、結果的に瀬玲奈とふたりで温泉に入ることになってしまった……。
「ねぇ彼方、まだ顔赤いよ~?もしかして……ウチの裸、意識しちゃった?でもさ、ウチとはそれ以上のこと、何度もしてるのにね♡」
瀬玲奈は浴衣の袖をひらひらさせながら、ニヤニヤと僕の顔を覗き込んでくる。
「ち、ちがっ……!そ、そんなわけ……!」
慌てて否定するけど、顔の熱はますます上がるばかりだった。
……たしかに瀬玲奈の言う通りなんだけど、こういう場所だと、なんだかいつもよりドキドキする。
「ふふっ、冗談だよ♡でも……ウチは、彼方と一緒に入れて嬉しかったよ?」
瀬玲奈はそう言って、僕の手をぎゅっと握り直す。
その手のぬくもりは、さっきの湯船よりもずっと熱く感じた。
夜の漁村は、提灯の灯りがゆらゆらと揺れていて、どこか幻想的だった。
焼きとうもろこしの香ばしい匂い、かき氷の甘い香り。
すべてが、ゆっくりと流れる時間の中に溶け込んでいた。
「彼方、あれやろうよ!金魚すくい!」
瀬玲奈が指差したのは、ぽつんと出ていた金魚すくいの屋台。
赤や白の金魚が、小さな水槽の中をすいすいと泳いでいる。
「いいけど……僕、あんまり得意じゃないよ?」
「大丈夫大丈夫!ウチが教えてあげるから♡」
そう言って、瀬玲奈は僕の手を引いて屋台へ向かう。
ふたりでポイを手に取り、水面をじっと見つめる。
「ほら、あの子狙って。ゆっくり、優しく……」
「う、うん……って、あっ!」
ポイが水に触れた瞬間、紙が破れてしまった。
「わっ、もう!?」
「彼方、雑すぎ~!もっとこう、ふわっと……」
瀬玲奈は器用にポイを動かし、見事に一匹の金魚をすくい上げた。
「ほら、見て見て~♡」
「すごい……!」
「じゃあ、この子は“カナタ”って名前にしよっか」
「なんで僕の名前!?」
「だって、ウチがすくったんだもん。責任持って可愛がってあげるね♡でも、一匹だけじゃ寂しいよね……」
そう言って、瀬玲奈は二匹目の金魚もすくい上げる。
「瀬玲奈、本当にこういうの上手だね」
「えへへ~♡ウチ、こういうの得意なんだ~。ね、こっちの金魚の名前は彼方がつけていいよ」
金魚の名前か……。
僕は少し考えて、ひとつの名前を口にした。
「じゃあ、こっちは……“セレナ”にしよう」
「なんでウチの名前?」
瀬玲奈は苦笑しながらも、どこか嬉しそうだった。
「“カナタ”ときたら、もう一匹は“セレナ”かなって。それにさ、こっちの金魚、おでこのあたりに緑っぽい模様があるし」
僕が指さすと、確かに小さな緑の模様が見えた。
「ホントだ♡ カナタにセレナか~。ウチ、この二匹、大事にするね♡カナタにセレナ、今日からお前たちは夫婦だぞ~♡」
瀬玲奈は笑いながら、金魚の入った袋を大事そうに眺めていた。
その笑顔を見ていると、胸の奥がくすぐったくなる。
(“夫婦”か……。冗談っぽく言ったけど、その言葉が、なぜか胸に残った)
……まあ、金魚の性別は知らないけどね。
「……ねぇ、彼方」
「ん?」
「この旅、ずっと忘れないと思う。ウチにとって、すごく大事な思い出になったから」
「……僕も。瀬玲奈と来れて、本当によかったよ」
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