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瀬玲奈の章 ギャル気質なガールフレンド
瀬玲奈の章 エピローグ ──約束の続き──
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翌朝。
朝食を済ませた僕と瀬玲奈は、荷物をまとめて旅館の玄関に立っていた。
名残惜しそうに、ふたりでしばらく建物を見つめる。
「女将さん、お世話になりました」
「この度は当旅館をご利用いただき、誠にありがとうございました」
僕が頭を下げると、女将さんも丁寧にお辞儀を返してくれた。
その隣で、瀬玲奈はカナタとセレナが泳ぐ金魚鉢を大事そうに抱えながら、少し寂しげに旅館を見つめていた。
僕たちは何度も後ろを振り返った。
そのたびに、白い暖簾が風に揺れ、女将さんの姿が少しずつ小さくなっていくのが見えて、胸の奥がきゅっと締めつけられる。
女将さんに見送られながら、僕と瀬玲奈はバス停へと歩き出した。
バス停に着くと、ちょうど一台のバスがゆっくりと坂を下ってきた。
まるで、僕たちの旅の終わりを迎えに来たかのように。
バスに乗り込んだ僕たちは、最後列の席に並んで腰を下ろす。
瀬玲奈は金魚鉢を抱えたまま、小さく息をついた。
「……帰っちゃうんだね、ウチら」
「うん。でも、また来ようよ。今度は、卒業してからにでも」
「うん……カナタとセレナも連れてね♡」
バスが発車し、窓の外に旅館の姿が小さく映る。
女将さんはまだ、手を振ってくれていた。
「……なんか、夢みたいだったなぁ」
瀬玲奈がぽつりとつぶやく。
その横顔は、どこか少しだけ大人びて見えた。
「夢じゃないよ。ちゃんと、現実だった」
「そっか……じゃあ、ウチらの修学旅行、これで完結だね」
「うん。でも、続きがあってもいいと思う。次の章がさ」
瀬玲奈は僕の方を見て、ふわりと笑った。
「じゃあ、次は“新婚旅行編”かな?」
「ちょ、ちょっと待って、それは飛びすぎ……!」
「ふふっ、冗談だよ♡ ……でも、いつかね」
そう言って、瀬玲奈は僕の肩にそっと頭を預けた。
バスの揺れと、波の音の記憶が、心地よく混ざり合っていく。
窓の外には、朝の光を受けてきらめく海が広がっていた。
そのどこかで、カナタとセレナのような金魚が、今日も寄り添って泳いでいるかもしれない。
僕たちだけの修学旅行は、これで終わり。
でも、ふたりの物語は——まだ、始まったばかりだ。
◆◆◆
あれから約10年。
僕は瀬玲奈と結婚し、地元の企業で働きながら、二階建ての借家で家族三人、穏やかな日々を送っている。
「ただいまっと」
「ぱぱ、おかえり~!」
夕方、仕事を終えて帰宅すると、3歳くらいの男の子が僕のもとに駆け寄ってきた。
手には、かつて瀬玲奈が僕にくれた恐竜のぬいぐるみ——ミドリノスケをしっかり抱えて。
この男の子の名前は瑛人(えいと)。僕と瀬玲奈の子どもだ。
僕が瑛人を抱き上げると、奥からエプロン姿の瀬玲奈が現れた。
「彼方、おかえり♡」
瀬玲奈は濡れた手をエプロンで拭きながら僕のそばに来て、瑛人の頭を優しくなでた。
高校2年の中間試験のとき、瀬玲奈は冗談半分で「隠された才能が開花して、いきなり天才モード入るかも!」なんて言っていたけれど——高校3年の頃から本当に学力が伸び始め、夢だった保育士になった。
今では、園児たちに大人気の先生だ。
あの人懐っこさと明るさは、昔から変わらない。
「今日もいい子にしてた?」
「うん!ままのごはん、えいとがてつだったの!」
「おお、それはすごいな。何を作ったの?」
「ひみつ~!」
瑛人は得意げに笑って、僕の首にぎゅっとしがみついた。
その小さなぬくもりが、仕事の疲れを一瞬で溶かしていく。
「ごはん、もうすぐできるから、手洗ってきてね」
「はーい!」
ミドリノスケを抱えたまま、瑛人が元気よく洗面所へ走っていく。
その後ろ姿を見送りながら、瀬玲奈が僕の顔を覗き込んだ。
「おつかれさま。……今日は、ちょっと早かったね?」
「うん、たまたま仕事が早く終わってさ。たまには、家族でゆっくりしたくて」
「ふふっ、嬉しいな。……ねぇ、あとでさ、あれ見に行かない?」
「あれ?」
「ほら、カナタとセレナ」
瀬玲奈が指差したのは、リビングの窓辺に置かれた、あの金魚鉢だった。
10年前、ふたりで旅先の祭りで手に入れた金魚——カナタとセレナ。
もちろん、もうあのときの金魚ではない。
けれど、今もその名を受け継いだ金魚たちが、窓辺の光を受けながら、静かに水の中をたゆたっている。
まるで、あの旅の記憶が、今もここに息づいているかのように。
「……元気にしてる?」
「うん。今日も仲良く泳いでたよ。まるで、ウチらみたいにね♡」
瀬玲奈はそう言って、僕の手をそっと握った。
その手のぬくもりは、10年前と変わらない。
いや、あの頃よりも、もっと深く、もっと確かなものになっていた。
夕食の香りが、ふたりの間をやさしく包む。
リビングには、瑛人の笑い声と、金魚が水をはねる小さな音が響いていた。
あの旅から始まった、僕たちの物語。
あのとき交わした「また来ようね」という約束は、まだ果たせていないけれど——
「ねぇ彼方、今度の連休……どこか行こうか?」
「……そうだね。今度は、三人で兎亜楼温泉旅館にでも行ってみようか」
「うん、行きたい♡」
瀬玲奈が笑い、僕も笑った。
そしてふたりで見つめた金魚鉢の中では、カナタとセレナが、今日も寄り添って泳いでいた。
朝食を済ませた僕と瀬玲奈は、荷物をまとめて旅館の玄関に立っていた。
名残惜しそうに、ふたりでしばらく建物を見つめる。
「女将さん、お世話になりました」
「この度は当旅館をご利用いただき、誠にありがとうございました」
僕が頭を下げると、女将さんも丁寧にお辞儀を返してくれた。
その隣で、瀬玲奈はカナタとセレナが泳ぐ金魚鉢を大事そうに抱えながら、少し寂しげに旅館を見つめていた。
僕たちは何度も後ろを振り返った。
そのたびに、白い暖簾が風に揺れ、女将さんの姿が少しずつ小さくなっていくのが見えて、胸の奥がきゅっと締めつけられる。
女将さんに見送られながら、僕と瀬玲奈はバス停へと歩き出した。
バス停に着くと、ちょうど一台のバスがゆっくりと坂を下ってきた。
まるで、僕たちの旅の終わりを迎えに来たかのように。
バスに乗り込んだ僕たちは、最後列の席に並んで腰を下ろす。
瀬玲奈は金魚鉢を抱えたまま、小さく息をついた。
「……帰っちゃうんだね、ウチら」
「うん。でも、また来ようよ。今度は、卒業してからにでも」
「うん……カナタとセレナも連れてね♡」
バスが発車し、窓の外に旅館の姿が小さく映る。
女将さんはまだ、手を振ってくれていた。
「……なんか、夢みたいだったなぁ」
瀬玲奈がぽつりとつぶやく。
その横顔は、どこか少しだけ大人びて見えた。
「夢じゃないよ。ちゃんと、現実だった」
「そっか……じゃあ、ウチらの修学旅行、これで完結だね」
「うん。でも、続きがあってもいいと思う。次の章がさ」
瀬玲奈は僕の方を見て、ふわりと笑った。
「じゃあ、次は“新婚旅行編”かな?」
「ちょ、ちょっと待って、それは飛びすぎ……!」
「ふふっ、冗談だよ♡ ……でも、いつかね」
そう言って、瀬玲奈は僕の肩にそっと頭を預けた。
バスの揺れと、波の音の記憶が、心地よく混ざり合っていく。
窓の外には、朝の光を受けてきらめく海が広がっていた。
そのどこかで、カナタとセレナのような金魚が、今日も寄り添って泳いでいるかもしれない。
僕たちだけの修学旅行は、これで終わり。
でも、ふたりの物語は——まだ、始まったばかりだ。
◆◆◆
あれから約10年。
僕は瀬玲奈と結婚し、地元の企業で働きながら、二階建ての借家で家族三人、穏やかな日々を送っている。
「ただいまっと」
「ぱぱ、おかえり~!」
夕方、仕事を終えて帰宅すると、3歳くらいの男の子が僕のもとに駆け寄ってきた。
手には、かつて瀬玲奈が僕にくれた恐竜のぬいぐるみ——ミドリノスケをしっかり抱えて。
この男の子の名前は瑛人(えいと)。僕と瀬玲奈の子どもだ。
僕が瑛人を抱き上げると、奥からエプロン姿の瀬玲奈が現れた。
「彼方、おかえり♡」
瀬玲奈は濡れた手をエプロンで拭きながら僕のそばに来て、瑛人の頭を優しくなでた。
高校2年の中間試験のとき、瀬玲奈は冗談半分で「隠された才能が開花して、いきなり天才モード入るかも!」なんて言っていたけれど——高校3年の頃から本当に学力が伸び始め、夢だった保育士になった。
今では、園児たちに大人気の先生だ。
あの人懐っこさと明るさは、昔から変わらない。
「今日もいい子にしてた?」
「うん!ままのごはん、えいとがてつだったの!」
「おお、それはすごいな。何を作ったの?」
「ひみつ~!」
瑛人は得意げに笑って、僕の首にぎゅっとしがみついた。
その小さなぬくもりが、仕事の疲れを一瞬で溶かしていく。
「ごはん、もうすぐできるから、手洗ってきてね」
「はーい!」
ミドリノスケを抱えたまま、瑛人が元気よく洗面所へ走っていく。
その後ろ姿を見送りながら、瀬玲奈が僕の顔を覗き込んだ。
「おつかれさま。……今日は、ちょっと早かったね?」
「うん、たまたま仕事が早く終わってさ。たまには、家族でゆっくりしたくて」
「ふふっ、嬉しいな。……ねぇ、あとでさ、あれ見に行かない?」
「あれ?」
「ほら、カナタとセレナ」
瀬玲奈が指差したのは、リビングの窓辺に置かれた、あの金魚鉢だった。
10年前、ふたりで旅先の祭りで手に入れた金魚——カナタとセレナ。
もちろん、もうあのときの金魚ではない。
けれど、今もその名を受け継いだ金魚たちが、窓辺の光を受けながら、静かに水の中をたゆたっている。
まるで、あの旅の記憶が、今もここに息づいているかのように。
「……元気にしてる?」
「うん。今日も仲良く泳いでたよ。まるで、ウチらみたいにね♡」
瀬玲奈はそう言って、僕の手をそっと握った。
その手のぬくもりは、10年前と変わらない。
いや、あの頃よりも、もっと深く、もっと確かなものになっていた。
夕食の香りが、ふたりの間をやさしく包む。
リビングには、瑛人の笑い声と、金魚が水をはねる小さな音が響いていた。
あの旅から始まった、僕たちの物語。
あのとき交わした「また来ようね」という約束は、まだ果たせていないけれど——
「ねぇ彼方、今度の連休……どこか行こうか?」
「……そうだね。今度は、三人で兎亜楼温泉旅館にでも行ってみようか」
「うん、行きたい♡」
瀬玲奈が笑い、僕も笑った。
そしてふたりで見つめた金魚鉢の中では、カナタとセレナが、今日も寄り添って泳いでいた。
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