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しおりを挟む影の室内訓練場から外へ出た騎士達はとある湖へ辿り着いた。木々が生い茂る中、湖の周辺を補整された道が二三キロメートル程ある。
「リリーさんの居る所まで全力疾走してね。タイム計るから。リリーさーん!いくよー!」
いつの間に遠くに行ったのだろうか、リリーが騎士達から一キロメートル程離れた木の上に居るのが見えた。
騎士達はシルヴィの指示通り一列に並び、合図と共に全力で走った。最後者にはなりたくない。その思いで負けるもんかと頑張った。
どうやらそれ程彼等のスピードは遅くはないようだ。でも、まだまだだな・・・。
全員がほぼ同時にゴール時点に着くとシルヴィが次の指示を出す。
「全員上脱いで」
「なぜだ」
ウィルフレッドがシルヴィを睨みつけた。
不必要な事はしたくないと彼は納得のいく説明を求めている。
「必要だから。早く脱がないと僕が脱がせるよ?切り刻んでね」
血の気が引くようなシルヴィの鋭い視線を受けたウィルフレッド。彼は怯える事なくツンとした態度で服を脱いだ。それに続く他の騎士達。
彼らの上半身は美しかった。
鍛え上げられた筋肉が素晴らしい。
厚みがあり女性も男性もうっとりしてしまう体つきをしている。
顔も良し、体も良し。彼らを好きになれない人間なんていないだろう。
シルヴィが舌打ちをした。シルヴィも見事な腹筋を持っているが彼ら程の厚みはない。自分よりも優れた肉体美にイラつきを隠せないでいる。咄嗟にリリーを見た。騎士達の肉体美に惚けているのでは無いかと不安になったが、その心配はまるで無いようだ。
彼女は蜜が入った瓶に筆を突っ込みグルグルと掻き混ぜていた。騎士一人一人の背中に回り込むとその蜜を彼らの逞しい背中に塗っていく。その間にシルヴィは必要な物を取ってくると言い姿を消した。
いきなり変な物を塗られた騎士達はその冷たさに驚き、声を出しそうになるのを抑えた。
最後にノエルの背中に蜜を塗っていく。
・・・しまった。塗りすぎた。
量を誤ってしまい蜜が垂れノエルのズボンが汚れてしまう前にリリーがその蜜を舐めとった。
「え!?リリーなにして・・・!?」
顔を赤らめ振り返るノエル。リリーの舐めた唇がテカテカと光りぷるんとしているのを見て固唾を呑んだ。
あまい・・・。
だがリリーは何も無かったかのように瓶に蓋をし、蜜がついた筆を小さな舌先で棒付き飴のようにチロチロと舐めている。
な、なんだったんだ?
今舐めたよね?絶対舐めたよね?
何事もないようにしてるけど・・・僕の気のせい?
混乱するノエル。
一部始終を見ていた他の騎士達も口を開けてポカーンとしていた。
「ごめーん!結構遠くにいて遅くなっちゃった」
ウィンクをしながら戻って来たシルヴィの右手には糸が繋がれており、その先に居る魔獣を見て青ざめる騎士達。
その魔獣はミニキラービースト。
人の拳二つ分程の大きさの蜂だ。
騎士達の背中に塗られた蜜はこの蜂の大好物。こいつに刺されたら死にはしないが半日以上体が麻痺をして動かなくなる。
「人ってさ、危機的状況じゃないと本領発揮出来ないんだよね。僕達も鬼じゃないからそうだなー、湖のまわり五週くらい頑張っちゃおうか!リリーさんもそれでいい?」
シルヴィの鬼畜発言に黙って頷くリリー。
騎士達は冷や汗が止まらなかった。
「君達が走り出した五秒後にこの子解放するから頑張ってね。よーいスタート!」
一斉に走り出した騎士達。見目麗しい男達は先程までの整った顔を崩し鬼の形相で走り出した。シルヴィは五秒も待たずにミニキラービーストを解き放ち彼らを追わせる。
一周、二週、三週と順調に逃げ切っている騎士達。彼らの必死さを見ながらゲラゲラと楽しそうに笑うシルヴィ。リリーさえも少し口角を上げ見ていた。
四週目にかかったリリー達の目の前でルークが転けた。ミニキラービーストがルークに襲いかかる。
(クソッ!ここまでか!)
パコーンッ
ミニキラービーストの針がルークに刺さるまでの距離、実に数ミリのとこでリリーが所持していた筆をバット代わりにし魔獣を打ち上げた。ミニキラービーストは天高く舞い空の彼方へ消えていく。
唖然とするルークに手を差し伸べたリリー。
彼は恐る恐るリリーの手を取り立ち上がった。
リリーはルークの手を離すことなく歩き出し、木の影になっている場所へ彼を座らせた。
「はーい!全員集合ー!」
他の騎士達も集まり休憩をさせる。
だが、リリーがルークから離れようとしてもルークが手を離さない。不思議に思いしゃがみこんでルークと視線を合わせるリリー。そんな様子を見たシルヴィが悪戯子供の様なからかい口調で喋った。
「あれぇ?ミニキラービーストに襲われそうになったのがそんなに怖かったのかな~?」
「な!?そんなわけあるか!助けられたから礼を言おうとしてるだけだ」
なるほど。と納得したリリー。
つまりこの男は礼を言いたいけど恥ずかしいのだと悟り彼の頭を撫でた。
「大丈夫」
「・・・っ!」
照れたのか罰が悪そうに顔を逸らしたルーク。礼を言われるかと思っていたリリーだったが、離れた手を見てまあいいかと立ち上がった。
「さっきよりも全然速くなってるじゃん。はいコレご褒美のポカリの実。水分補給は大事だよ」
シルヴィが毛羽立っている茶色の硬い実を渡した。水分補給と言っているがこの実どうやって食べるのかと疑問を浮かべた騎士達。そんな彼らの様子にシルヴィは呆れた。
「これ知らないの?騎士って水分補給どうしてるの?」
「水筒がある」
淡々と返答するウィルフレッドに舌打ちをするシルヴィ。「ちっ坊ちゃんが」その小言は誰にも聞こえていない。
リリーは近くに居るリヒャルトが首を傾げながら持っている実を奪い、それを地面に置くと所持していた小刀で実を刺した。
実を持ったリリーは胡座をかいているリヒャルトの膝に跨り膝立ちをすると彼の顎を持ち上げ顔を上へ向かせる。
切り込みを入れた箇所を下向きにするとそこから汁が出てくる。それをリヒャルトに飲ませた。
ゴクゴクと喉が鳴っているので結構気に入ったのであろう。
「ぷはっこれ美味しいね。ありがとう・・・でもちょっと距離近くない?」
そうか?と首を傾げるリリー。確かに体は密着しているが顔は手の平一個分あるだろうと彼女は全く気にしない。
「リリー僕のもお願いしていいかな」
エレンが笑顔でお願いをして来た。
リリーは無言で移動し先程リヒャルトにした時同様実を刺し体を密着させ飲ませた。先程と違うのは彼がリリーの背中に手を回していること。抱きしめながら飲ませてもらっているエレンに他の騎士達は目が離せない。
「なに?リリー」
飲み口から離れたエレンは自信アリ気な笑顔でリリーを見上げた。この男の甘いマスクに甘えられると女はひとたまりもない。きっとリリーに気に入られて自分だけ楽な訓練を受ける気だろうと彼を知りきった騎士達は腹黒い仲間を流し目で見た。
宝石みたいな綺麗な瞳だ・・・売ったら高いかな。
この時リリーはエレンの瞳を見てこう考えていた。
エレンのイケメン攻撃の効果はいまいちの様だ。リリーはそのまま何も言わずエレンから離れると残り三人の実に切り込みを入れ渡した。
「リリーさんあっちで飲もう!」
シルヴィがリリーの手を取り少し離れた場所へ移動をした。彼らに背中を向け座る二人。
「これリリーさんの分。切り込み入れといたから」
シルヴィから実を受け取ったリリー。
体育座りをし膝を抱えながらリリーはシルヴィを見上げて笑った。
「シルヴィ、ありがと」
シルヴィは少し固まった後照れながら額をリリーの肩に当てた。
「もう、リリーさんの笑顔可愛すぎ。反則」
笑い合う二人の表情を騎士達は見ていない。
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