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しおりを挟むー翌日ー
順調に進んだ一行は午前中にジャングルを抜けた。王都の出入口付近で先頭を進んでいたリリーが立ち止まりウィルフレッドを振り返る。
「仕事終わり?」
「ああ、ここまででいい。これが報酬だ」
どこに隠し持っていたのか、ウィルフレッドは荷物の中から拳二個分程の大きさをした麻袋をリリーに渡した。
中身を確認したリリーは驚き瞠目している。
麻袋の中身、それは子爵家から盗った金貨やサファイヤ等の宝石がいくつも入っていた。
「おい、これはどうしたんだ?」
どこか焦りながらルークがウィルフレッドに問うた。他の騎士達もその中身を覗き見て驚いている。
「郷に入りては郷に従えという言葉がある」
真面目な彼がとった意外な行動に驚きを隠せないでいる仲間達。
今まで固まっていたリリーだったが真っ直ぐ彼を見つめた。
「・・・全部いいの?」
「そうだ。足りないか?」
まさか。足りるに決まっている。
ただ彼らを案内しただけなのだから金貨二枚でも十分なのに・・・。
リリーは思いがけない豪華なボーナスを貰い
ふにゃっと笑った。
太陽の光がピンクアメジストの髪を照らしオーロラのように輝いている。
目元が緩み口角があがったその笑顔はいつもの無表情が嘘のように可愛らしかった。
「「「・・・・・・・・・。」」」
その笑顔を見てしまった騎士達は石像のように固まってしまう。
ちゅっ。
リリーは笑顔のまま、その嬉しさからウィルフレッドの頬にキスをし姿を消した。
キスをされたウィルフレッドも他の騎士達も今は居ないリリーがいた場所を幽霊でも見ているかのように立ち尽くしている。
「・・・今のは、幻か?」
暫く経ったあと、ウィルフレッドが沈黙を破った。その言葉にやっと我に返った騎士達は首を傾げた。
さっきのは本当に幻覚だったのでは?
だってあのリリーが笑うなんて有り得ないもの。
***
騎士団長ジョン・アーノルドの執務室。
「影の移動勉強になったでしょ。ちゃんとついていけた?」
あの後騎士達五人は業務報告の為ジョンの元へ直行した。いつも身なりが整っている彼らの汚らしくも美しい容姿を見てニコニコしているジョン。てっきり追いつけなくて辛かったとか愚痴を言うかと思っていたのに心ここに在らずな彼らの様子に首を傾げた。
「どうしたの?」
「・・・あの女が笑ったんだ」
「あの女って誰?」
「・・・リリー」
ルークの言葉にきょとん顔のジョン。
「いつも通りじゃない?」
ジョンの言葉に今度は騎士五人がきょとん顔をしている。彼らにとって初めて見た彼女の笑顔。その笑顔をよく知っているジョンは何をそんなに動揺しているのか不思議に思った。
「・・・あ!もしかしてリリーの笑顔初めて見たの?」
コクンと頷く騎士達。
「そういう事かあ。それって任務外の時?」
任務外?確かにあの時は依頼した仕事が終わった後だったような・・・。
コクンと再び頷く騎士達。
「あー!なるほどね。彼女変に真面目だから仕事の時は感情を出さないようにしてるんだよ。もちろん演技が必要な時はちゃんとするよ?・・・そうだ、今度から訓練開始時間より少し前に行ってみたら?面白いものが見れるかもね」
いつも穏やかな笑顔のジョンが急に楽しそうにニヤニヤし始めた。
「初めてのリリーの笑顔どうだった?可愛かったでしょ?花がほころぶ感じ」
ジョンの言葉にずっと脳裏に焼き付いていたリリーの笑顔が再びフラッシュバックされる。いつも無表情だったからかあの笑顔が頭から離れない。
「まあでも君達リリーに興味無いって言ってたしなー。女の笑顔なんて見慣れてるだろうしなんて事ないか・・・・・・まだ早いけど業務報告終えたら今日はゆっくり休みなよ。夜になったら久しぶりに女の温もりでも感じてきなさい」
可愛い部下が娼婦を抱けるようにお金を渡したジョン。彼らは歯切れ悪く業務報告をし終え、騎士寮へ帰宅した。
ー夜ー
寮に戻ったエレンは荷物を片付け風呂に入り、夕方までふかふかのベッドで寝た。起きた彼は窓から見える夕焼け空をぼーっと見つめている。
頭の中に浮かぶのはリリーの笑顔。
寝れば治ると思ったのに寝て起きても彼女の笑顔が忘れられない。
笑わないって思っていたのに・・・。
このままじゃ今日一日彼女の事を考えてしまうのではと思い、エレンは騎士四人全員に声をかけ飲みに誘った。
誘いに乗ったのはウィルフレッドとリヒャルトのみ。ノエルは自室に居ると言いルークは実家の公爵家に用があると出かけてしまった。
三人で夜の酒場へやって来た。
乾杯し軽く飲むが三人とも口数が少ない。上の空で内容のない話をゆっくりとしている。
少しも時間が経たないうちに別客の女性達が話しかけてきた。元気の良い彼女達はまだ一緒に飲む承諾をしていないのに各々隣に座り盛り上げようとしてくれている。だが騎士達の反応がイマイチだ。焦り出す女性達の必死な空気間が漂い始めた中、突然ノエルが現れた。
美青年が現れたことに黄色い声を上げる女性陣。
「ノエル、どうしたの?・・・あ、ちょっと移動して貰ってもいいかな?」
「はい!どうぞどうぞ!キャー!」
女性に挟まれていたエレンが通路側に居る女性に対しノエルに席を譲ってくれと頼んだ。話しかけられた女性は嬉しそうに悲鳴を上げノエルに席を譲ると今度は彼の隣へ座った。
椅子に座った途端頭を抱えだしたノエルの悩ましい姿を見た仲間達は彼を心配した。
「何があった」
ウィルフレッドの言葉に勢いよく顔を上げたノエル。
「笑顔が・・・忘れられないんです」
「「「・・・・・・。」」」
同じ悩みを持つ彼らは何も言えなくなった。
自分達も同じことを考えていて気分転換のためにここに来たのだ。
「えー!羨ましい!そんなお相手がいるんですか~?」
ノエルに席を譲ってくれた女性が彼の裾を軽く引っ張りながら話に乗ってきた。他の女性陣も話題に乗っかる。
「笑顔が忘れられないってきゅんとしたって事ですよね?い~な~」
「ときめいたんだね~笑」
リリーにきゅんとした?ときめいた?
そんなはず・・・
今度は女性客達の言葉が頭から離れなくなった。
「私の笑顔はどうですか?」
エレンの隣に座っている女性が上目遣いで可愛らしい笑顔を彼に向けた。
「可愛いよ。ときめいちゃった」
「キャー!忘れないでくださいね!」
エレンの言葉にテンションが上がった女性は満面の笑みで照れながら彼の腕をぎゅっと掴み離さない。
(・・・違う)
エレンは空いてる手で酒をクイッと飲んだ。
“訓練開始時間より前に行ってみたら?面白いものが見れるかもね”
ふいにジョンの言葉を思い出した。
またあの笑顔を見られるだろうか・・・。
次の訓練はいつだろうか、今度は少し早く行ってみよう。
興味が沸いたのに次の訓練が一ヶ月も先だなんて、この時は思いもよらなかった。
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