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20 閑話1
しおりを挟むこれは、リリーが幼い頃から大人になるまでのお話。
親が残した借金取りに追われる二人の少女。
リリーは妹のナターシャの手を取り必死に逃げていた。この時のリリーはまだ八歳。六歳になったばかりの金髪に金色の瞳を持つ可憐な妹と二人、屈強な男達に追われている。
追い込まれた少女二人の姿はボロボロだ。
痩せ細り、髪もぐしゃぐしゃで泥だらけ。
みすぼらしいという言葉そのものの姿。
リリーは妹のナターシャを守る為、両手を広げて立ちはだかる。
屈強なスーツ姿の男達の前にリリーと同じ歳位の金持ちそうな也をした男の子が現れた。彼は貸主頭取の息子サミュエル・ラシード。
「担保としてその妹を預かる」
サミュエルがナターシャを指さした。
リリーは抵抗し声を荒らげる。
「嫌だ!」
「抵抗する権利なんてないんだよ!やれ!」
サミュエルの指示により引き離された姉妹。
「いやー!お姉ちゃん!お姉ちゃん!!」
「離せ!ナターシャに触るな!!」
抵抗するリリーを大人の男達が蹴り飛ばし壁へ投げつけた。
「やめて!言う事聞くからお姉ちゃんに乱暴しないで!」
「ふんっ!最初からそうすればいいんだ!」
「ナターシャを離せーー!!!」
ボコボコにされてもナターシャを行かせまいと抵抗するリリー。男達の暴力がエスカレートしていく。次第に暴力を振るっていた男達も、命令をしていたサミュエルも、ボロボロになりながらも立ち上がり続けるリリーの姿を見て怯み始めた。だが立ち上がるリリーの頬を一人の男が思い切り殴り、リリーが地面へ倒れてしまう。
「もうやめて・・・お姉ちゃんが死んじゃう」
泣き崩れたナターシャはサミュエルに縋る。
そんなナターシャを見たサミュエルが倒れ込んだリリーの頭を踏みつけた。
「お前がしっかりと金を返し続ければ妹に手出しはしない。ちゃんと面倒を見てやろう。だが一月でも金を返し忘れたらその時は覚悟するんだな」
最後にサミュエルはリリーの顔を蹴飛ばし、叫び続けるナターシャを連れ去った。
「ナター・・・シャ・・・」
震える手を伸ばしリリーは意識を無くした。
明るかった空がすっかりと暗くなり、リリーが倒れている路地裏には鼠が行き交いをしている。ここの路地裏は通りから覗けばよく見える。リリーが倒れていることを視界に入れても通行人は誰も助けない。
「汚ねえガキだな」
若い男の声が近くから聞こえた。
意識を取り戻したリリーは咄嗟に男の足首を掴み見上げた。
「ナターシャを返せッ」
突然足首を掴まれた男はその脚を振り払う事無くリリーの瞳を見つめた。
「・・・良い目してんな。お前、影にならないか?」
これが、リリーとジャックの出会いだった。
ジャックはリリーを拾うと家へ招き入れた。
そこにはジャックと同じ顔をした男、ジョンがいた。この時の二人はまだ十代後半。既に影の重役を担うジャックと、騎士としてその腕を認められているジョン。
そんな彼らは拾ったばかりのボロボロで汚い少女、リリーの世話をした。ご飯を与え、風呂に入れ、事情を聞き、少しだけ金を貸した。
リリーは戦闘の才能があったわけではなかった。見当違いかと溜息を吐いたジャックだったが、彼女は努力の天才だった。
常にナターシャのためという言葉を口癖に、血を滲む訓練を続け成長したリリー。
彼女はそれだけではなかった。
拾われてすぐ、金を稼ぐ為にジョンとジャックに娼婦として働くために性技を教えて欲しいと頼み込んだ。
「お前みたいな貧相なガキに反応する男なんていねぇだろ。それに、そんな小さな体じゃチンコ入んねぇよ」
ありえねぇと嫌そうに呟くジャックに対し、真剣な表情で考え込むジョン。
「・・・相手に目隠しとかさせればいけるんじゃない?低額で口のみの奉仕にしよう。知り合いがいるから話してみるよ。 でもいいかい?ちゃんと衛生面に気をつけること。うがいは勿論性病菌を殺す薬を飲むこと。それを守ると誓うなら話を通してあげる。わかった?」
頷いたリリーにジョンは笑顔を向けた。
「それじゃあ早速練習してみよっか。俺達が徹底的に仕込んであげるよ」
こうしてリリーは娼婦として影として働く事となった。
リリーは毎月支払いを忘れず暇を見つけてはナターシャへ会いに行った。
サミュエルは意外にも約束を守ってくれていてナターシャをぞんざいに扱わない。病弱なナターシャを甲斐甲斐しく世話してくれた。
影での潜入捜査の練習としてナターシャが住む部屋へ忍び込むこと数年、リリーは気づいた。
サミュエルはナターシャのことが好きだ。
平凡な容姿のサミュエルが美しいナターシャに恋をする気持ちがリリーには理解出来た。だって妹のナターシャは世界で一番可愛らしいから。今日もベッドに横になっているナターシャの手を握り話しかけているサミュエル。
「お前の面倒は俺が見る。お前は俺のそばにいればそれでいい」
「ありがとうございます・・・でも私はお姉ちゃんのそばにいたいです」
「・・・もうじき借金も終わる。その時は自由にすると約束しよう」
影として娼婦として二足のわらじを履きこなしたリリーは十数年の時を経て借金を返済し終えた。
影としてはジャックの隣に立てる程強く、娼婦としては予約が絶えない程に成長したリリー。
時折任務に失敗し大怪我をした時は死ぬ程ナターシャに泣きながら叱られた。自分を心配してくれるナターシャの存在が凄く嬉しかった。
ナターシャは美しいまま大人になり、誰もが見惚れる程の美人だ。そんなナターシャだが病弱なのは相変わらずで、ずっとベッドに横になっている。
「ナターシャは好きな花変わった?」
「ううん。やっぱりタンポポが好き。逃げ回ってた時どこにでも根強く咲いていてかっこいいもの!最後は綿毛になって自由に空を泳ぐのも素敵よね」
「・・・私も好き。ナターシャと同じ色」
ナターシャの様子を見に行く度に花束を用意していたリリー。喜ぶような可愛らしい花を選んでいたのだがナターシャが一番好きなのはその辺によく咲いている雑草だった。
タンポポ。
庭師が黄色い悪魔だと呼ぶ根深く咲く花。
しぶとくも綺麗に咲く花。
まるで私達みたいだねと笑う妹。
そんな大好きな妹と同じ髪の色のタンポポをリリーもずっと好きだった。
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