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21 閑話2
しおりを挟む借金を返し終えたリリーは二人で生活する家を探す間、サミュエルに金を渡しナターシャの世話をしてもらっていた。
借金が終えたのを期に娼館で働く回数を減らしたリリーは頻繁にナターシャに会える回数が増えた。心が穏やかになったのか良い笑顔で会話をする姉妹。
「ナターシャはどんな家がいい?」
「お姉ちゃんと一緒なら何でもいい!あ、でも出来ればお姉ちゃんの家族と私が一緒に暮らせるくらい大きい家だったら嬉しいな」
「ナターシャがいれば他に家族はいらない」
「そんな事言っちゃダメよ!お姉ちゃんは家族を持って幸せになるの!お姉ちゃんの赤ちゃんは私がたっぷりと愛情注いで育てるんだから。それが私の夢・・・というか、お姉ちゃんが幸せになることが私の夢なんだけど」
「私の幸せはナターシャと一緒にいること」
「大好きだよ。お姉ちゃん愛してる」
「うん。愛してる」
照れくさそうに笑う愛しいナターシャを抱き締めた。
王都から離れた街にナターシャが気に入りそうな家を見つけた。街から少し離れ近くに花畑や小川が流れている。心穏やかに暮らせそうな家だ。リリーはその家を購入し、ウキウキとした足取りでナターシャに会いに行った。
「ナターシャ!家見つかーー」
ベッドに寝ているナターシャの顔に白い布が置かれていた。サミュエルがナターシャのそばで泣き崩れている。
「妹と話があるからどいて?」
サミュエルに声をかけるが、彼の泣き腫らした顔を見て全身の血が抜ける感覚がリリーを襲う。
「彼女は、死んだ・・・死んだんだっ」
嘘だ、そんなの、信じないっ!
リリーは駆け寄りナターシャの顔に置かれた白い布を取った。彼女は綺麗な顔で穏やかに眠っている。頬に手を添えて話しかけた。
「ナターシャ起きて?家見つかったよ・・・どうしてっ どうしてこんなに冷たいの?ナターシャ・・・ねぇ、ナターシャ・・・起きてよ」
涙が瞳から溢れた。
リリーはこの冷たさを知っている。
人が死んだ時の冷たさを。
「医者から余命僅かだと宣告されていた。黙っていろとナターシャに言われたんだ。お前に言ったら心配するどころじゃ済まないと思ってって・・・・・・苦しかったろうに、お前には笑顔しか見せなかっただろう」
リリーはナターシャの冷たく動かない手を握りしめた。
病弱なのは知っていた。でも大丈夫だって、医者も問題ないって言っていたのにっ!
涙が溢れて止まらない。
「・・・最期に彼女から手紙を預かった。お前の努力は認めてやる。葬式はこちらで用意しよう。俺に出来ることはこれしかないから」
手紙をテーブルへ置きサミュエルが部屋から出て行った。
その日リリーは手紙を見る事が出来なかった。
ナターシャの葬儀が終わりリリーはお墓の前で屍の様に生気を無くし立ち尽くす。葬儀を執り行ったくれたサミュエルが豪華な花束をナターシャの墓石へ置きリリーへ小さな紙を渡した。
その紙にはナターシャの姿絵が描かれていた。
笑顔のナターシャ。美しいナターシャ。
私の・・・ナターシャ。
「お前はもう、自由だ」
サミュエルが去った後も動けないリリー。
ナターシャのそばに居たい。
ずっと一緒にいるって約束したんだもの
これから、会いに行くからね。
自害しようと持参した小刀を取るべくポケットへ手を伸ばした。
カサッ
小刀よりも先にナターシャからの手紙に触れた。
そうだ、最期に読まなくちゃ。
ナターシャからの最期の手紙。
“
親愛なるお姉ちゃんへ
病気のこと今まで黙っていてごめんなさい。
初めてお姉ちゃんに嘘ついちゃった。
悪い私を許してください。
これだけはお願いします。
私の分も生きて、幸せになって下さい。
絶対!絶対!ぜったいに幸せになって下さい。
私は笑顔のお姉ちゃんが大好きです。
危険な仕事をしている事は知っています。
辛い事もいっぱいあるでしょう。
それでも、無理せずに笑える時は笑顔でいて下さい。
私みたいにお姉ちゃんの笑顔が大好きな人はそれだけで救われるから。
友達を作って下さい。恋もして下さい。
デートをして、恋人を作って、家族を作って、ひとりにならないで下さい。
私にはお姉ちゃんがいてくれた。
お姉ちゃんが見捨てずにそばにいてくれた。
だから、私は幸せだった。
本当は外に出ていっぱい働いてお姉ちゃんを楽にしてあげたかった。恋もしてみたかった。
ずっと寝たきりだったけど、お姉ちゃんが来てくれるだけで嫌な気持ちが無くなって嬉しい気持ちでいっぱいになるの。
結局は私のわがままになっちゃいますね。
ごめんなさい。
でもお姉ちゃんが不幸せな事を自らするなら嫌いになります。だから絶対に私のあとを追おうとしないで下さい。お姉ちゃんのことはよく知ってるんだからね。
お姉ちゃんがいてくれたから私の人生は幸せだった。今度はお姉ちゃんが幸せになる番だよ。
ずっとお姉ちゃんが好き。世界で一番好き。
ずっと、ずっと大好きだよ。
ナターシャ ”
手紙を読み終えたリリーはナターシャの墓石を抱き締めた。
「ナターシャっナターシャ!ああああああああっ」
リリーの悲痛な泣き叫び声が墓場中に響き渡った。
それから数日後、リリーは我武者羅に働いた。娼婦の仕事は予約が入っている日のみ出勤をした。影では休むことなく主に戦闘の仕事をした。体がボロボロになってもナターシャとの気持ちの整理がつくまで無我夢中で生き続けた。
やがて、リリーは倒れた。
寝る間もなく働いて体が悲鳴を上げたのだ。
暗い視界の中ナターシャの声が聞こえた。
“自分を大事にしなさーーい!”
頬を膨らませてぷんぷんと怒る可愛い妹の姿が浮かび思わず笑ってしまったリリー。
目覚めると見慣れた自分の家だった。
ここは子供の頃からジャックとジョンと暮らしていた家。今は独りで暮らしている、王都にある通勤用の家だ。
体を起こしたリリーはここに居ないはずの二人の姿を見て驚いた。
ジャックとジョンがテーブルを囲って座っていたのだ。リリーが起きたことに気がついた二人は黙って視線を寄こす。
「来い」
ジャックの発言にリリーは大人しく従い彼に近付いた。ふらふらの足取りで近付くリリーを見たジャックは眉間に皺を寄せている。
ジャックは黙ったままリリーを抱き寄せた。座ったままリリーを膝の上に座らせ抱き締める。次いでジョンがリリーの頭を撫でた。
「もっと自分を大事にしなよ」
ナターシャと同じことを言ったジョン。
リリーはクスっと笑った。
「もう大丈夫。ナターシャが見てるから」
ナターシャに怒られないよう頑張って生きよう。
それからリリーは悲観にくれること無く元に戻った。ナターシャが生存していた時同様に生活をしている彼女を見て、周りの者達は安堵の溜息を吐いた。
やがて彼女は娼婦を辞めた。
借金も終わり影だけで食べていけるから。
恋をするには、邪魔な仕事だから。
これからはナターシャが願う生活が出来るように生きていこう。
これが、リリーの過去のお話。
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