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第二章
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しおりを挟むエレンとドレスショップで待ち合わせをしていたリリー。私服の姿で待ち合わせ時間の五分前に店前に着くと、エレン以外のいつもの騎士達四人が店先で待っていた。しかも全員が騎士の制服を着ている。なんでここにいるの?と首を傾げた。
「俺とは無縁だからちょっと気になっちゃって」
てへっと笑うリヒャルト。ではなぜ騎士服なのかと疑問を抱いた。
「リヒャルトは平民で貴族服を持っていないからな。騎士服なら中に入れる」
淡々と答えたのはルーク。
なるほどと納得したリリーだったが、それなら自分は入れるのかと再び疑問を抱いた。リリーの私服は平民服だからだ。貴族が着ているようなドレスではない。入店拒否の可能性もあるな。
「あれ?皆も来てたの?」
エレンの声がした。
振り返るといつもの騎士服や訓練服ではなく、初めて見る貴族服を着用したエレンに瞠目するリリー。その姿は正にイケメンオーラが絶えずキラキラと眩しい王子様みたい。老若男女問わず周囲からハートの視線をぶつけられていた。
「今日はリリーとデートだと思っていたのに、しょうがないなあ」
全然残念そうではない笑顔を向けて店の扉を開けたエレン。数名の店員が駆け寄ってきた。
「オルレアン様お待ちしておりました。まあ!サヴォイア様!オブリージュ様!スフォルツァ様までいらっしゃるとは!失礼ですがそちらの方々は?」
「友人だよ。今日はよろしくね」
「かしこまりました。こちらへご案内致します」
流石は有名なドレスショップ。
顔を見ただけで貴族の名を言えるエキスパートな店員だ。
広い部屋へ案内された一行。
事前にエレンが知らせていた通り既存のペアルックのドレスを何着も用意し一枚の仕切り越しでリリーの着せ替えが始まった。
リリーが気に入ったドレスのお揃いを着ればいいのだから何だって構わないと思っていたエレン。あまり服に拘りがないのだ。男なら、ましては他人の服選びに時間をかけるなんて勿体ないと思ってしまうエレンは一緒に待機している仲間を見た。
「ここに居ても時間が勿体ないんじゃないかな?」
街中の市場にでも行った方がここで待っているよりは楽しいだろうに。
仲間に気を使ったつもりだったのに彼らは優雅に店から出された紅茶を飲んでいる。
「かまわん。だがなぜ同室で着替えるんだ?」
普通なら男女別の部屋で着替えるはずなのに同室で仕切りだけなんておかしいだろうとルークが疑問をぶつけて来た。
「それは・・・リリーが平民だから雑に扱われないか心配で」
ここのスタッフは貴族を相手にしている。そのため平民に自社ブランドを着せることを穢されると思われ雑に扱う可能性が無きにしも非ずと思ったエレンが監視をする為に同室を頼んだのだ。
納得したルーク。だがそれも杞憂に終わった。
最初こそ静かにリリーにドレスを着せていた女性スタッフ達だったが、次第に言い争う声が聞こえてきた。
「こちらのお嬢様にはこっちのドレスの方がお似合いです!」
「いいえ!この可愛さをもっと引き立たせるのはこちらの色合いです!」
「もう少し目尻にアイラインを足しましょうか。リップはコーラルカラーにしてチークは・・・」
すごく楽しそうにきゃぴきゃぴしている女性スタッフ。
「あの、もう少し動きやすい服はありますか?」
「いいえ!ございません!お嬢様にはこちらかこちらかの二択です!私達にお任せ下さい!」
「は、はい」
リリーのどもり声が聞こえ狼狽えるリリーを想像しクスクスと小さく笑う騎士達。すると一人の女性スタッフがエレンに近付いた。
「失礼致します。オルレアン様、お嬢様ですが大変お美しい項をしていらっしゃいますので髪型をアップにしたいのですが、他の殿方に見られるのはお嫌ですか?」
「え?彼女に似合ってれば何でもいいかな」
「かしこまりました」
そんな事を言われてもと戸惑ったエレン。
スタスタと戻った女性スタッフは仕切りの中に入った途端人が変わったかのように再びきゃぴきゃぴと賑やかに話始めた。
「お許しを頂きました!髪型はアップに致しましょう。フフッ他の殿方もお嬢様の魅力に虜になるに間違いございませんわ!」
あ、そうだった。ここでもエレンと恋人の設定は守らなければと思い出したリリー。あまりの彼女達の勢いに忘れてしまっていたことを反省し演技をした。
「エレンがいるから他の人は大丈夫です」
まさかそんな事を言うとは思わなかったエレンは驚き固まった。
「さあ、後は殿方にどちらか選んで頂きましょう!」
ガラガラと仕切りを取っ払うスタッフ達。
やっと終わったかと騎士達は持っていたカップを起きリリーを振り向くと、固まって動けなくなってしまった。
夜空を思わせるネイビーのドレスは彼女のピンクアメジストの色を映えさせ美しさを引き立たせていた。編み込みのアップにされた髪型はおくり毛を出し可愛さを表している。プロの化粧で大きかった瞳は更に際立ち頬も色付き唇はプルプルだ。
普段も可愛いとは思っていたが普段とは違う美しさに誰かの息を飲む音が響いた。
「それではお嬢様、後ろを向いて下さい」
大人しく振り返ったリリー。
リリーが着用しているドレスは前とは違いガッツリと空いたデザインの背中にドキッと心臓がうるさく鳴る。
スタッフの女性が自慢気に説明をした。
「お嬢様の背中は大変お美しいので見せないのは勿体ないかと。曲線美も素晴らしいので。ただ一つ気になることがございまして・・・失礼ですが、お立ち頂いて宜しいでしょうか」
スタッフはエレン達を立ち上がらせるとリリーに近付かせた。上から見下ろすと視線が彼女の項へ集中してしまう。白くて細くて食べてしまいたい衝動に駆られた。顔を近づけたくなる。そんな魅力を放っている。
思わず指でリリーの項をなぞってしまったウィルフレッド。ピクッとリリーが反応したので慌てて手を引っ込めた。ウィルフレッドの耳が少し赤くなっている。
きゃああ!と歓声を上げる女性スタッフ。三角関係かしらとこそこそと会話が聞こえた。
「恐らく殿方の視線を集めるかと」
「髪を上げるのはやめてもらおうかな・・・」
「かしこまりました。お嬢様一度こちらへ」
スタッフに促され椅子に座ったリリー。
髪を梳かしゆる巻の編み込みハーフアップに髪型を変えた。
「大変お似合いですお嬢様!ではもう一度殿方の前へ」
騎士達へ振り返ると彼らは立ったまま待っていたようだ。待たせすぎたかな?と急いで戻ろうと足早に向かい、躓いてしまった。
転びそうになったのを支えてくれたのはルークだった。エレンも支えようとしたのだがルークが動き出したのを見て足を踏み出さなかったエレン。
四角関係かしら!?女性スタッフからそのような声が聞こえた。
「無事か?」
「うん。ありがと」
「歩きづらいのなら私の腕に掴まるといい」
「うん」
ルークに支えてもらいながら騎士達に近付いたリリー。ハーフアップも可愛いと顎に手を当て悩んだエレン。
「まだ項が見えてるけど」
横から見るとガッツリ見えてしまうじゃないかとスタッフを見たが、髪型をセットしたスタッフは咳払いをした。
「この程度でしたら問題ございません。ではもう一着ご用意致しますので今ご覧頂いているドレスを目に焼き付けて下さい。さあ、お嬢様参りましょう」
再び仕切り越しで着替え始めたリリー。
今度は早かった。髪型とメイクをそのままにドレスだけ着替えたからだ。
淡い黄色のドレスへ着替えたリリー。
先程は美しさが際立っていたがこちらは反対に可愛らしくも上品でまるで妖精の様だ。
「どっちがいい?」
全く異なる良さが出ていて選べない騎士達。
「リリーが気に入った方にしなよ。二着買っても構わないから」
一夜だけなのに勿体ないでは無いかとエレンの発言を否定したリリー。
「エレンが着たの見て決める」
こうしてエレンが着替える事となった。
リリーは淡い黄色のドレスを着たまま他の騎士達と共にソファに座り待機している。
チラチラと騎士達から視線を感じるリリー。
そんなに変なのか?と首を傾げた。
仕切りが取り払われ着飾ったエレンが現れた。
ネイビーの服はかっこよさとクールさを兼ね備え男らしさを引き立てる。
白生地に淡い黄色の装飾品が飾られた服の方は爽やかさと優しさが滲み出ていた。
これは困った。どっちも似合っている。
似合わないはずがないとは分かっていたがどちらも違う味が出ていて仕方がない。
「お嬢様如何でしょう。どちらのオルレアン様がお好みですか?」
スタッフに問われたリリーは顎に手を当てた。
エレンはリリーならどっちでもいいと言うんだろうなと思いため息を吐く。彼にとって服選び等本当にどうでもいいのだ。
「どっちもかっこいいから決められない」
素直な気持ちを言ったリリーをきょとん顔で見るエレン。そんな言葉を聞けるとは思っていなかった。そうですよね!とスタッフが同意をし他の騎士達にも伺った。
「うーん、いつもリリー黒ばっかだから明るい黄色の方が俺はいいかなぁ。なんか新鮮」
そう意見してくれたのはリヒャルトだ。
影の服は黒い。潜入捜査をした時のドレスも黒だった。常に黒ばかり見ているので明るい服を着ているリリーは珍しい。淡い黄色の色合いはピンクアメジストの色とも喧嘩していない。
「わかった。これにする」
「それじゃあこっちで頼んだよ」
「かしこまりました。次は宝石をお持ちしますので我々は一度失礼致します」
スタッフが一斉にはけて行った。
部屋の中には騎士達とリリーだけ。
やっと一息つけると思ったリリーは深いため息を吐いた。
「疲れちゃった?」
エレンが気遣いリリーの前に紅茶を置いた。
リリーは自分の頬に手を当て小さく呟く。
「あの人達変なことばかり言うから恥ずかしくなっちゃった・・・これ以上言われたらとけちゃう」
敵意のない褒め殺しを受けたリリー。
純粋に褒めまくられてこそばゆい気持ちになっていたのだ。しかしそれをスタッフに悟られないよう頑張って演技をしていたリリーは彼女達がいなくなった事で緊張の糸が切れた。
顔を赤く染め視線を泳がせ恥じらう姿が可愛らしく、いけない気持ちにさせる。
そんなリリーをノエルが抱きしめた。エレンも思わず抱きしめたくなったのだがノエルが動いたのを見て行動に出せなかった。
「ノエル?」
なぜ抱きしめるのかと不思議そうに腕の中から見上げたリリー。自分もなぜ抱き締めてしまったのかとノエルは名前を呼ばれてからハッとなった。
「すみませんっ誰にも見られたくないって思っちゃって」
スっと離れたノエルはやってしまったと頭を掻きながら反省している。
コンッコンッ
ノックの音が響いた。
スタッフが様々な宝石を展示し始めた。
全員で宝石の前に立ち吟味する。
エレンの隣で宝石を見ていたリリーだが、意外と直ぐに決まったようでスタッフにこれにすると言った。
(適当だな。時間を掛けてくれなくて有難いけど)
もう少し悩めばいいのにとエレンはため息を吐いた。リリーが選んだのはシンプルなネックレスだ。そんな小さな宝石で良いのかとリリーに問うたエレン。
「これがいい。エレンの瞳の色だから」
「「「・・・・・・。」」」
優しくリリーが笑った。
彼女が選んだネックレスにはアメジストの宝石が装飾されていた。エレンの瞳同様にキラキラと光り輝いている。
反応がないエレン。
ウィルフレッドがリリーの手を掴み一つの宝石を指さした。
「これはどうだ?青色だ」
それは綺麗なサファイアが嵌め込まれたピアスだった。
「このゴールドも美しいぞ」
「こっちの蜂蜜色も素敵ですね」
各自自分の瞳の色と同じアクセサリーを勧める騎士達。リヒャルトだけが手が届かない宝石を遠くから見ていた。そんな彼を見兼ねたリリーがリヒャルトの袖を掴み一つの宝石の前へ立たせた。
「これリヒャルトみたい」
リリーが指さしたのは綺麗なロードクロサイトの宝石が付けられたシンプルで小さなピアスだった。まじまじとその宝石を見るリヒャルト。リリーは少し意地悪そうに口角を上げた。
「耳はいっぱいあるから舌ピにする?」
「ハハッまじでチャラそうじゃん」
てゆうか探してるのはリリーのでしょ?と嬉しそうな顔をして小さく礼を言ったリヒャルトは自身の袖を掴んでいたリリーの手を小さく握った。
「リリーは僕の恋人だよ。他の男の色なんかつけさせないからね」
結局リリーを飾る全てのアクセサリーをアメジストで統一したエレンだったが最後までその顔は面白くなさそうだった。
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