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第二章
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しおりを挟む心外だとばかりに騎士達の低い声が響いた。彼らは冷静に見えるのにどこか怒っていそうな態度を示している。
「嫌いだったら一緒にいないでしょ」
「嫌いな人の家には来ないよ。どうしてそう思ったの?」
リヒャルトとエレンが真顔で答えた。他の騎士達もその通りだと眉間に皺を寄せている。
あれ?と首を傾げるリリー。
「ジョンが言ってた。可愛くない。興味もないって」
(((・・・・・・あの時のことか・・・。)))
真顔で視線を逸らし焦り始めた騎士達。
確かにリリーと出会った当初は無口で無表情の彼女のことを可愛いとは思えず興味も湧かなかった。だから言ってしまった発言がまさか本人の耳に入るとは思ってもみなかったのだ。
団長よくも言ってくれたな・・・。
見せてはいけないものを見られてしまった時のような胸のざわつきが煩い。嫌われてしまったかもしれないと焦る騎士達。そんな彼らにシルヴィが追い討ちを掛けた。彼はゲラゲラと楽しそうに笑っている。
「違うよリリーさん。こいつらの為にフォローするけど、それは嫌いとか苦手じゃなくて単純にリリーさんのこと“どうでもいい”んだよ」
「なるほど」
ぽんっと手を叩き納得したリリー。
そのまま空いた皿を片付けようと動き出したリリーの腕をノエルが掴んだ。なに?と首を傾げる。
確かに最初はシルヴィの言った通りどうでもいいと思っていた。だけど今は違う。どうでもよくなんかない。
「嫌な思いさせましたよね・・・ごめんなさい」
ノエルは下を向き小さな声で謝罪をした。
彼の視線に合わせるべくリリーはしゃがみ込み考えた。
彼らは実力よりも顔で評価されてきた人達で、特に女性を警戒しているとジョンに教えてもらった。彼らに安心して師弟関係を続けられる言葉を探し、思いついたリリーはノエルの頭を撫で落ち着いたトーンで話す。
「貴方達がどう思っていようと私は普通に接する。私は貴方達を好きにならないと約束する。だから安心して?大丈夫」
「ちがっ!」
そういう事じゃないとカッとなったノエルだったが間に入ったのはリヒャルトだった。リリーの肩を掴み振り向かせた彼の表情はどこか辛そうだ。
「勝手に壁作んないでよ!・・・ごめん。確かに俺リリーと出会った頃可愛くないって団長に言っちゃった。でも今は可愛いって思ってるし師弟関係としても仲間としても、もっと仲良くなりたいと思ってる。だから好きにならないとかそう言うのやめて。傷ついた」
え、傷ついた?
彼らにとってベストな言葉を選んだつもりだったのに間違えてしまったのかと焦るリリー。
スっといつの間にかウィルフレッドがリリーの隣にいた。
「すまなかった。今は興味しかない」
堂々と話すウィルフレッドを細めた目で睨むシルヴィ。
「その言い方ってどうなのよ・・・」
「貴様がそうしたないのなら仲を深めるのも悪くない。昨晩みたいなのが今後あったら隣で眠る事を許してやろう」
ルークはそれを言うだけ言うとスっと立ち上がり自分の分のお皿をキッチンへ運んだ。
どうしよう。何が言いたいのか分からないと混乱するリリー。
ぎゅっとノエルがリリーの手を握った。
「僕はリリーと仲良くなりたいです。本当は昨日だって隣に座りたかった。娼館でも言いましたよね?貴女といると落ち着くって。どうすれば僕にもっと心を開いてくれますか?」
子犬が叱られた時のように潤んだ瞳でリリーを見つめるノエル。リリーは焦った。どうしていいのか分からずシルヴィに助けを求めた。
見かねたシルヴィがため息を吐きながらリリーの腕を掴み引き寄せノエルからリリーを離すと、見せびらかすように彼女の頬にキスをした。
「そんなの簡単だよ。時間をかけてリリーさんのそばにいたらいい。僕みたいにね」
そのまま彼女の手を取りキッチンの中に入ってしまった二人。
こうして誤解がなくなった?騎士達とリリーはその後も変わらず師弟関係を続けた。
***
リリーの男探しの日から二ヶ月が経った。
リリーは呆気なく男探しを辞め今はもう忘れているだろう。
騎士達は影の訓練を頑張って続けている。
彼らは必ず訓練時間の前に現れリリーと交流を持とうとしている。
リリーが居ない時は他の影がリリーが来るまで自主的に彼らの面倒を見てくれるのだ。
「リリーが来るまで武器の遠投防ぐ訓練する?」
なんと貴族嫌いの少年メルまでもが彼らの努力を認め訓練に付き合っているのだ。
そんなこんなで段々と他の影達とも交流を深め居心地が良くなってきた騎士達。
彼らの実力は格段に上がった。
手加減こそされてはいるが、最初出来なかったリリーとの打ち合いも出来るようになるほどに。
だが最近、エレンの様子がおかしい。
普通の人には気付かれない程普段通りのつもりなのだろうがそばにいる仲間は気付いている。
そう、彼は日に日に元気がなくなっているのだ。
そんな彼をそっとしておく騎士達。
リリーは探らないのが騎士としての礼儀なのかと首を傾げる。
だが気になったリリーは訓練後、上半身裸で疲れて座り込んでいる騎士達に近付いた。
丸太の上で座るエレンの隣に座り、何も言わず彼を見続ける。
「・・・どうしたの?」
あまりにも見られるだけだったので痺れを切らしたエレンがリリーに尋ねた。
「元気ない?」
「そう見える?」
おかしいな。普通にしてたのに・・・。
リリーはコクンと頷いた。
バレてしまったエレンは観念したかのように頭を抱えた。
「リリー・・・僕の恋人になってほいし」
「「「・・・はあ?」」」
今まで黙って聞いていた騎士達が驚き声を上げた。
「正確には恋人役になってほしい・・・実は・・・」
一ヶ月後に貴族が集まるパーティーが開催される。オルレアン伯爵家の三男であるエレンは親から強制的に参加を命じられていた。
問題はエレンに好意を抱いているアドリア・マカドニー侯爵令嬢だ。彼女はその権力を利用しエレンに纏わりつく女性達を裏で蹴散らし、エレンとは懇意な間柄だと虚言を吐いてはそばにいようとする自分よがりな女性だ。
そんな彼女が今回のパーティーで婚約話を持ちかけようとしている事を知ったエレン。爵位は彼女の方が上で両親にも悪くない話だと言われたが、エレン本人が彼女との婚約を望んでいないのだ。ぞばに寄ってくる女性はいてもアドリア・マカドニー侯爵令嬢のことを恐れ恋人役をかってくれる女性がおらず困っていると言う訳である。
「報酬は必ず払うよ。仲のいい恋人のフリをして諦めさせるのが目的。だけどリリーは平民だから周りから良くないことを言われるのは必然だ。嫌な思いをすると思うけどそれでもどうかな?」
わかった。とあっさり頷いたリリーを見てエレンはパァアッと顔を明るくした。相当悩んでいたのだと察したリリー。貴族のパーティーは影の任務で何度か潜入した事がある。礼儀作法もダンスもお手の物だ。
「私にされて嫌な事はある?」
「擽り以外なら何でもしていいよ」
エレンは擽りが苦手だ。パーティー中に擽る機会なんて無いだろうから何をしてもいいと捉えていいだろう。
「早速だけど次の休みに一緒にドレスショップに行こう。時間がないからオーダーメイドじゃなくて既製品になっちゃうけど」
申し訳なさそうに困り顔をしたエレン。
そんなの全く気にしないリリー。
「馬車で迎えに行くね」
「現地集合で大丈夫」
「そ、そう?それじゃあ十時にシャルマー二のドレスショップでどうかな?」
黙って頷いたリリー。
シャルマー二の店と言ったら中々値段の張る貴族御用達のドレスショップだったようなと考え少し楽しみが増えたのであった。
((( 十時にシャルマー二の店・・・)))
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