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第二章
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しおりを挟む結局、全員でリリーの家に行くことになった。ウィルフレッドがルークを背負い、エレンがシルヴィを抱えている。
リリーの家はショーン酒場を出た隣の隣の建物。本当に近くに家があった。三階の一室がリリーの部屋。鍵を開けたリリーが中に入りそれに続く。
内装もインテリアもかなりシンプルで女性の部屋とは思えない。どちらかと言うと男向けの部屋だ。むしろ寮にある自分達と同じような部屋に近い。彼女らしいと騎士達は変に納得してしまう。
「リリーらしいと言ったら、らしい部屋だね」
可愛げが無いと言いたいのだろうリヒャルトの発言に少しだけ唇を尖らせたリリー。
「ここは通勤用。もう一つ家ある」
妹のナターシャと過ごすために王都から離れた土地に買った家。その家はこの部屋と比べると広くて部屋数も多く、見違えるほど内装もインテリアもナチュラルで落ち着きがあって過ごしやすい。センスが無いわけではない。ここは最低限の生活が出来ればいいのだと言ってやりたいがそれを抑え、ベッドへの布団を捲った。
「ここに寝かして?」
シルヴィとルークを隣同士で寝かせ靴を脱がした。キッチンへ移動したリリーは騎士達に蜂蜜入りのハーブティーを用意した後風呂に入ると言い部屋から出て行った。
初めて入る人の家とは落ち着かないもので騎士達はキョロキョロと部屋を見回している。シンプルなインテリアの中、一際目立つのが小さな仏壇だ。
姿絵に写るのは金髪の可愛い笑顔をした女性。その前には数本のタンポポが生けられている。
なぜタンポポ?リリーは花を買えないほど金に困っているのか。
風呂から上がったリリーは濡れた髪を垂らし、首にタオルを巻きながらナターシャの仏壇の前に集まっている騎士達へ近付いた。
ふわっと石鹸の良い香りが広がる。
「妹のナターシャ」
「素敵な妹さんですね。どうしてタンポポを?」
ナターシャの仏壇に一番近かったノエルの耳上にタンポポの花を挿したリリー。そっと髪を耳にかけナターシャを思い出す。
「ナターシャが好きだから。いつもこうやって耳にかけて笑ってた。その笑顔が可愛い。世界で一番、大好き」
ふにゃっと笑ったリリーが可愛くて、誰かの心臓がうるさく鳴り始めた。
「妹さんが羨ましいです・・・」
顔を触られていたノエルが顔を少し赤くし視線を逸らす。
どうした?酔っているのか?と首を傾げるリリー。
「ほら、髪乾かさないと風邪ひくよ」
エレンに言われその場から離れ髪を乾かした。その間騎士達は部屋を観察しながらハーブティーを飲んでいる。
髪を乾かし終えたリリーはソファに座る騎士達を素通りしベッドで眠るルークのそばに腰掛けた。
「寝る?帰る?まだ飲む?」
ルークがベッドで寝ているので帰るという選択は無い。寝るか、まだ飲むかの二択だ。
「リリーはどこで寝るの?」
「ここか、ここか、床」
リヒャルトの問いにリリーはルークの隣とルークの体の上を叩いた。床で眠る以外はルークの近くで眠ると言う彼女にリヒャルトがまだ飲みたいと提案した。
暫く酒を飲みながらトランプカードゲームで遊んだ五人。ババ抜きではそれぞれ嘘をつく時に出る癖を知っているリリーが一抜けをしている。
リヒャルトがムードメーカーになり場を盛り上げてくれ随分と楽しい時間が過ぎ、いつの間にかノエルは床で眠ってしまっていた。
「いつもの飲み会も好きだけど、こうやって集まるのもいいね」
リヒャルトが楽しそうに笑った。
そう言えばとリリーが思い出し、起きている三人に礼を言う。
「付き合ってくれてありがとう」
「・・・なんの事だ?俺達はたまたまあそこに居ただけだ」
ウィルフレッドの言葉に首を傾げたリリー。
そうなのか?てっきり例の男を探す手伝いをしてくれてたのかと思った。勘違いか・・・?
「ま、結局居なかったし相手の男はそれ程だったってことで忘れようよ」
グビグビと酒を飲むリヒャルト。
エレンは微笑ましそうにリリーを見た。
「でも本を見て勉強するなんて意外だったな。リリーは素直な子なんだね」
本の中身を見たエレンはあの内容で本当に男が落ちるのか疑問だった。
隣に座るエレンを見上げたリリーはそっと彼の頭を撫でた。
「エレンはもっと素直になった方がいい。本当に欲しいものが出来た時、手に入れなくなるよ」
「・・・え?」
リリーは立ち上がり洗面台へ向かうと歯磨きをし始めてしまった。エレンは固まってしまい、リリーから言われた言葉を理解しようと頭を動かす。
僕が素直じゃない?
どういう事?
歯磨きから戻って来たリリーはもう寝るのだろう。しれっとルークの隣に潜り込もうとしたところをウィルフレッドに捕まった。
「ソファで寝るんだ」
ちぇーと唇を尖らしたリリー。
そんなリリーを揶揄うリヒャルト。
「やーい怒られてやんの」
「僕は床で寝るから三人でソファに寝なよ」
すっと立ち上がったエレンが床に寝転がり目を瞑った。そういう所だぞと思いながらもこれがエレンの優しさなのだろうとリリーはお言葉に甘えてソファに横になった。
石鹸の良い香りがする・・・温かい・・・柔らかい・・・肩が痛い。
床の上で横向きに眠っていたエレン。肩に当たる床が痛いともぞもぞと動こうとするが顔に布のような物が当たっている感覚があり目を開けた。
「っーー!?」
驚いたことにリリーが隣で眠っていた。彼女の胸元に抱き着いて寝ていた状況に困惑するエレン。
なんで?リリーはソファで寝てたはず・・・。
ソファで眠ったリリーだったが夜中に尿意で目を覚ましてしまい、トイレへ行った。戻って部屋の中を確認するとソファで眠っていたのはリリーだけで残りの騎士達は床で川の字に眠っていたのだ。ソファに一人で眠るより彼らに挟まれて眠った方が温かそうだと思ったリリーはエレンとウィルフレッドの間に横になり眠りについた。
どうして隣に寝ているのか理解出来ないエレン。まさか彼女は自分を口説くつもりなのかと思い距離をとった。
だがエレンという暖を失ったリリーは新たな暖を求めるかのように寝ながらウィルフレッドに近付いているのを見たエレンがリリーの腕を掴み抱き直した。
温かければ誰でもいいのか、猫か。
ため息を吐きながら腕の中のリリーを見ると温かさが心地いいのか胸に頬を擦り寄せて来る。
ほんと、猫みたい。
もうこのまま寝てしまおうと思い瞳を閉じたエレンだったが、その後時間が経っても眠れない。
“素直になった方がいい”
リリーの言葉を思い出す。
素直ってなんだろう。素直になったところで何が得られるんだろう。
どうせ周りは自分の外見しか見ない。
この場にいる仲間と団長のジョンだけが自分の中身を見てくれる。理解してくれる。
素直ってなに?
仲間が得をするなら自分は二の次でいい。
欲しい物なんて何も無いし。
腕の中ですやすや眠るリリーの髪が床に広がっている。サラサラしていて絹のよう。長いまつ毛に小さな鼻。全然興味無さそうにしてるけど、この子は僕のことを見てくれるのかな。
***
ジューッ ジューッ
肉が焼ける音と匂いで目が覚めた。
いつの間に眠ってしまったのだろうかエレンは重い瞼を開け腕の中にいたはずのリリーを探すが、いない。上体を起こし周囲を見回した。ちょうど他の仲間達も目を覚ましたようで皆体を伸ばしたり欠伸をしたりしている。
「リリーさんお皿用意したよー!」
楽しそうなシルヴィの声が聞こえた。
リリーとシルヴィの二人がキッチンで料理をしていたのだ。二人してフリフリのエプロンを着けている。
「シルヴィ味見して?」
「いいよ?あ~ん。ん~!美味しい!」
「よかった。久しぶりに作ったから」
「照れてるの?可愛いー!朝からリリーさんの笑顔見れてラッキー♪」
シルヴィは朝から元気だな。
テーブルに運ばれた料理を見た騎士達は小さな歓声を上げた。
スクランブルエッグにベーコンとサラダ、そしてスープ。
すごい、肉を焼いただけじゃないちゃんとした料理だ。まさか自分達の分も用意されているとは思わず喜ぶ騎士達。貴族出身の者からしたら簡易すぎて手抜きだと思うだろうが、寮で出される料理はこれに近い。誰も文句を言う者はいない。
「リリーが料理作れるなんて思わなかった」
素直な気持ちを喋ったリヒャルト。
失礼だなと唇を尖らしたリリーはテーブルに置いた料理を下げようとした。
「要らないなら食べなくていいよ」
昼飯分に当てるかと考えたリリーだったがリヒャルトがその料理を死守した。
「食べないなんて言ってない!」
ならさっさと食べろ。とリリーはスプーンでケチャップのかかったスクランブルエッグを掬いリヒャルトの口元へ運んだ。
なんの抵抗もせず大人しく口を開け、それを咀嚼するリヒャルト。
「美味しい?」
「ん、美味い。やるじゃん」
リヒャルトは手を伸ばしリリーの頭を撫でた。
満足したリリーはソファに騎士達を座らせ自分の分のお皿を持ちベッドへ腰掛ける。その隣にシルヴィが座った。単純にテーブルと椅子の数が足りないのだ。
さすが貴族出身の騎士達は姿勢正しく綺麗に食べている。
味に文句を付けるかと思っていたルークはボーッとしながらもぐもぐと大人しく何も言わず食べていた。
「ルークどうかした?」
エレンが心配で声をかけた。
「・・・なぜ私はここにいるんだ?」
ああそうか、ルークは酔って店で眠ってしまったからここに来た経緯が分からないのかと理解した仲間達。リヒャルトがニヤニヤと笑った。
「ルークがリリーのこと離さなかったんだよ」
慌てて焦り出すかと思っていたのに揶揄われたルークは顎に手を当て考え、リリーを見た。
「貴様、私のことが好きなのか?」
・・・ん?
この場にいるルーク以外の頭上にクエッションマークが幾つも浮かんだ。
「“ルークが”リリーを離さなかったんだよ?」
今度は強調してもう一度同じセリフを言ったリヒャルト。
「だが昨晩私のそばで寝たがっていただろう」
確かにリリーはルークの隣で寝ようとしてた。だがそれはベッドで眠りたかったからであってルークの隣がいいとは思っていない。その事は他の騎士達も同じく思っている。
「ウィルフレッドに止められて残念だったな」
勝ち誇ったいい笑顔を見せたルーク。
あの時起きていたのかと驚いたリリーだったがふと気になった。
「起きてたのに嫌がらなかったの?」
「嫌がる?」
ルークが首を傾げたのを見てリリーも同じ角度で首を傾げた。
「だって私のこと苦手でしょ?・・・ここにいるシルヴィ以外全員に嫌われてること知ってる」
「「「・・・・・・はあ?」」」
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