29 / 89
第二章
29
しおりを挟む席に戻ったリリーは店の扉が開閉される度に注目し、例の男が現れず肩を落としている。もう今夜は来ないのでは無いだろうかと周りが気を使い話題を振ろうとしたところでシルヴィが元気よく声を上げた。
「腕相撲しようよ!負けた人は酒一気にね。店員さーん!テキーラ人数分お願いしまーす!」
シルヴィの提案にあからさまに嫌そうな顔をする騎士達。そんなのリリーとシルヴィが勝つに決まってるだろうと不満そうだ。
「負け戦はしたくない」
はっきりと言ったのはウィルフレッドだ。
「僕達はスピード特化型だから勢いなしの腕力だけなら僕達の方が劣るよ?」
シルヴィの言葉に同意するリリー。
ならばとウィルフレッドがリリーに向かって腕相撲の体勢をとった。その手を握ったリリーは自分とは違う彼の手の大きさや固さに男らしさを感じ、握り合っている手を見つめてしまう。
シルヴィの合図で始まった腕相撲。
ぎゅっとウィルフレッドが力を込めた途端、リリーはもう片方の手を使い両手で彼の手を押さえ込み勝利した。
片手ずつ行う競技のはずなのに不正をされ呆気なく負けてしまったウィルフレッドは納得のいかない表情をしてリリーを睨んだ。
「卑怯だ!」
普段クールな彼は相手がこんな事しても「くだらない」の一言で済ませてしまうと思っていたが、まさか怒ると思わなかったリリーはウィルフレッドの表情を見てクスクス笑った。
「ウィルフレッドが怒ってる」
小さく笑うリリー。
リリーを笑わせる事が出来て少し嬉しい気持ちと、それでも不正をされた事への不満な気持ちで複雑になり不貞腐れるウィルフレッド。
「あはは!両手使っちゃダメなんて言ってないじゃん。ほら一気!」
シルヴィに促され度数の強い酒を一気に飲み干したウィルフレッド。その姿を見たリリーは小さな拍手を送った。
「ノエル僕とやろ!ノエルになら勝てる気がする」
「不正は無しだよ」
シルヴィに見下され眉間に青筋を浮かべたノエルが威勢よく受けて立つと腕を出した。二人とも可愛い顔をしているのにテーブルの上に置かれた腕は立派な男らしい太い腕。リリーは腕に浮かぶ血管を見てなんかいいなと見つめている。
「んぎぎっ」
「なかなかだね、でも!」
ダンッとノエルがシルヴィの腕を倒し勝利した。
やっとあのシルヴィを負かす事が出来たとノエルは嬉しそうにニコニコしている。一方シルヴィは舌打ちをし自ら進んで酒を一気飲みした。
リリーは隣に座るルークの腕に自分の腕を近付け比べた。何の力も入れていないのに浮いている血管。太い腕。素直にカッコイイと思った。
ふと触り心地が気になったリリーは指先でルークの腕を摩った。ガサガサしていない。スベスベしている・・・なぜ?
「なんだ?」
「腕、私より太い」
「当たり前だろ。女の貴様より細くてたまるか。手だってほら、私の方が明らかにでかい」
そう言いながらルークはリリーの手の平と自分の手の平を重ねた。太さも長さも違う男らしい手を見たリリーはきゅっとその手を握りルークに微笑んだ。
「ん。かっこいい」
「・・・・・・。」
褒められたルークは何も言えず固まってしまう。
「あ~イチャついてる」
リヒャルトのからかいにバッと勢いよく手を離したルーク。気まずそうに視線を泳がしている。
その後彼らは何回か腕相撲をし程よく酔いも回ってきたところで、シルヴィの顔色が青白く急降下した。
「シルヴィ?」
「やばいっ!リリーさんごめん、僕リーダーに報告しなきゃいけない事あったの今思い出した。一時間位したら戻るから待ってて!ほんとごめんね!」
突然居なくなってしまったシルヴィ。
それなら仕方ない。待っているかと酒に手を伸ばした。キョロキョロと店内を見回し例の男を探す。
いない。今日はもう会えないのかとシュンとしてしまったリリー。
「ねえリリー、僕と腕相撲しよ?不正はなしね」
落ち込んでしまった彼女の気を逸らそうとエレンがリリーに腕相撲を挑んだ。
不正は無しか・・・。
リリーは考えた。負けとわかった勝負はしたくない。でもシルヴィが先程から騎士達の挑戦を受け入れ負け続けている姿を見たので、自分が嫌がることは出来ない。負けるのは分かってるが全力でやろう。
リリーはエレンの手を握り、ノエルの合図と共に力を込めた。
(・・・あれ?)
エレンは驚いた。全然リリーの力を感じないのだ。頑張らないと圧勝されると思い込んでいたのに少し力を入れただけで余裕で勝ててしまう。リリーは下を向いているのでその表情が読めないけど、彼女なりに力を込めているのかプルプルと震えている。
「リリー?」
本当に力入れてるの?
エレンに名前を呼ばれ顔を上げたリリーの表情に騎士達が驚いた。
下唇を噛み締め、瞳をぎゅっと閉じ頑張って力を入れているその姿がいじらしくも可愛く思えてしまう。
呼吸をしていないのか段々と顔が赤くなっていく表情を見て必死さが伝わってくる。
じわじわ きゅんきゅん
もう少しだけこの表情を見ていたいという気持ちとこれ以上は可哀想だと思う気持ちが交差する。
「あ・・・」
勝負を終わらせたのはノエルだった。
彼はリリーに手を添えエレンの腕を倒した。
「不正は無しだって言ったのに」
「リリーが可哀想だったので」
笑顔を向け合う二人。
しょうがないなあと酒を飲んだエレン。
リリーは余程力んでいたのかポスっと背もたれに身を預け深呼吸をした。
ふと視線を感じたのでその先を見ると、リヒャルトと目が合った。彼はずっとリリーを見ているだけで何も言わない。なに?と首を傾げるとやっと我に返ったリヒャルトは何でもないとだけ言い、頭をかきながら視線を逸らした。
(なに今の・・・可愛かった・・・)
リリーは思い出したかのように体を起こし例の男を探す。突然見晴らしが悪くなってしまった。ウィルフレッドが隣に移動して来たからだ。堂々と隣に座った彼によって視界が悪くなってしまったリリーは彼を睨み上げた。
「ウィルフレッドが大きいから見えない。そこ狭いでしょ?」
だからどいて?
リリーの訴えも虚しく、ウィルフレッドは半分しか座れていなかったお尻をどんどんと無理やり座ろうと迫って来たため、仕方なく全体的に少し移動をしリリーの隣に座った。
「俺も探そう。そいつの特徴は?」
特徴・・・?
「ミルクティーよりは濃いめの茶色でエメラルドグリーンの瞳」
サラサラのショートヘアに優しい声だったなと思い出すリリー。何だか思い出すとせっかく来たのだしやっぱり会いたいと思ってしまう。
「名前は?」
リヒャルトの言葉にピシッと固まるリリー。
そう言えば名前なんだっけ・・・。
「・・・“ゆ”なんとかだった気がする」
「なんだ。名前思い出せないってことはその程度だったんじゃん?気に入った人の名前は忘れないって」
無邪気に笑うリヒャルト。
そうなのかな?とリリーが名前を思い出そうと考え込んでいると隣に座るルークが船を漕いだ。
ルークは酒に弱い。その事を知っている仲間達はもうお開きにしようか悩んだ。リリーが例の男を待っているから。
「おいで」
リリーがルークの頭を支えるとそのまま自身の膝の上に置いた。ソファの上で上半身だけを倒しリリーに膝枕をさせられたルークは文句を言うかと思いきや相当眠かったのか大人しく眠っている。
頭を撫でる仕草はまるで母親のよう。
見た目は年下なのに時折見せる仕草がやけに大人びている。
「・・・いいな」
誰かがボソッと呟いた。
「ごめん。おまたしぇ~」
でろでろに酔ったシルヴィが戻って来た。
相当酔っているのかエレンに寄りかかりふわふわと喋るシルヴィ。
「リーダーに酒飲んでるのバレて強い酒飲まされた~」
影のリーダー、ジャックに仕事の報告をしに行ったシルヴィ。仕事を放って遊んでいた事がバレ「俺の酒が飲めないとか言うなよ?」と脅され強制的に強い酒を飲まされ今に至ると言う。
エレンが優しく対応しシルヴィを支えている姿を見たリリーはこれはもうダメだ。お開きにしようと思いウィルフレッドを見上げた。
「ルークを運ぶからシルヴィと待ってて?」
「どこに運ぶんだ?」
「私の家」
「「「・・・・・・は?」」」
「リリーのご家族にも迷惑なんじゃ・・・」
「一人暮らしだよ」
「えーと、部屋数は多いいの?」
「ワンルーム。ウィルフレッドどいて?」
エレンとやり取りをした後、ルークを抱えて行こうとしたリリーをウィルフレッドが止めた。
「ダメだ。ルークは一緒に寮に帰る」
なるほど。リリーはルークを持ち上げるのをやめた。ソファに座りなおさせ離れようとしたが、寝ぼけたルークがリリーを抱き寄せ離さない。
「ルーク離して?シルヴィ運ぶから」
それでもすやすやと眠り続けるルーク。
「待ってください。シルヴィを連れて帰るんですか?リリーの家に?」
ノエルの言葉に頷くリリー。
彼らの頭に睡姦と言う言葉が浮かんだ。
よくない。酔っているシルヴィをリリーと二人きりにさせるのはよくないだろうと危機感を抱いた騎士達はどうしようか悩んだ。
「来る?」
「え・・・行っていいの?」
48
あなたにおすすめの小説
女の子がほとんど産まれない国に転生しました。
さくらもち
恋愛
何番煎じかのお話です。
100人に3~5人しか産まれない女の子は大切にされ一妻多夫制の国に産まれたのは前世の記憶、日本で亭主関白の旦那に嫁いびりと男尊女卑な家に嫁いで挙句栄養失調と過労死と言う令和になってもまだ昭和な家庭!でありえない最後を迎えてしまった清水 理央、享年44歳
そんな彼女を不憫に思った女神が自身の世界の女性至上主義な国に転生させたお話。
当面は2日に1話更新予定!
【R18】幼馴染がイケメン過ぎる
ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。
幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。
幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。
関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
黒の神官と夜のお世話役
苺野 あん
恋愛
辺境の神殿で雑用係として慎ましく暮らしていたアンジェリアは、王都からやって来る上級神官の夜のお世話役に任命されてしまう。それも黒の神官という異名を持ち、様々な悪い噂に包まれた恐ろしい相手だ。ところが実際に現れたのは、アンジェリアの想像とは違っていて……。※完結しました
兄様達の愛が止まりません!
桜
恋愛
五歳の時、私と兄は父の兄である叔父に助けられた。
そう、私達の両親がニ歳の時事故で亡くなった途端、親類に屋敷を乗っ取られて、離れに閉じ込められた。
屋敷に勤めてくれていた者達はほぼ全員解雇され、一部残された者が密かに私達を庇ってくれていたのだ。
やがて、領内や屋敷周辺に魔物や魔獣被害が出だし、私と兄、そして唯一の保護をしてくれた侍女のみとなり、死の危険性があると心配した者が叔父に助けを求めてくれた。
無事に保護された私達は、叔父が全力で守るからと連れ出し、養子にしてくれたのだ。
叔父の家には二人の兄がいた。
そこで、私は思い出したんだ。双子の兄が時折話していた不思議な話と、何故か自分に映像に流れて来た不思議な世界を、そして、私は…
旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハーレム異世界ラブコメ〜
ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉
転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!?
のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました……
イケメン山盛りの逆ハーレムです
前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります
小説家になろう、カクヨムに転載しています
拾われ子のスイ
蒼居 夜燈
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞 奨励賞】
記憶にあるのは、自分を見下ろす紅い眼の男と、母親の「出ていきなさい」という怒声。
幼いスイは故郷から遠く離れた西大陸の果てに、ドラゴンと共に墜落した。
老夫婦に拾われたスイは墜落から七年後、二人の逝去をきっかけに養祖父と同じハンターとして生きていく為に旅に出る。
――紅い眼の男は誰なのか、母は自分を本当に捨てたのか。
スイは、故郷を探す事を決める。真実を知る為に。
出会いと別れを繰り返し、生命を懸けて鬩ぎ合い、幾度も涙を流す旅路の中で自分の在り方を探す。
清濁が混在する世界に、スイは何を見て何を思い、何を選ぶのか。
これは、ひとりの少女が世界と己を知りながら成長していく物語。
※基本週2回(木・日)更新。
※誤字脱字報告に関しては感想とは異なる為、修正が済み次第削除致します。ご容赦ください。
※カクヨム様にて先行公開中(登場人物紹介はアルファポリス様でのみ掲載)
※表紙画像、その他キャラクターのイメージ画像はAIイラストアプリで作成したものです。再現不足で色彩の一部が作中描写とは異なります。
※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる