【R18】 その娼婦、王宮スパイです

ぴぃ

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第二章

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 席に戻ったリリーは店の扉が開閉される度に注目し、例の男が現れず肩を落としている。もう今夜は来ないのでは無いだろうかと周りが気を使い話題を振ろうとしたところでシルヴィが元気よく声を上げた。

「腕相撲しようよ!負けた人は酒一気にね。店員さーん!テキーラ人数分お願いしまーす!」

シルヴィの提案にあからさまに嫌そうな顔をする騎士達。そんなのリリーとシルヴィが勝つに決まってるだろうと不満そうだ。

「負け戦はしたくない」

はっきりと言ったのはウィルフレッドだ。

「僕達はスピード特化型だから勢いなしの腕力だけなら僕達の方が劣るよ?」

シルヴィの言葉に同意するリリー。
ならばとウィルフレッドがリリーに向かって腕相撲の体勢をとった。その手を握ったリリーは自分とは違う彼の手の大きさや固さに男らしさを感じ、握り合っている手を見つめてしまう。

シルヴィの合図で始まった腕相撲。
ぎゅっとウィルフレッドが力を込めた途端、リリーはもう片方の手を使い両手で彼の手を押さえ込み勝利した。

片手ずつ行う競技のはずなのに不正をされ呆気なく負けてしまったウィルフレッドは納得のいかない表情をしてリリーを睨んだ。

「卑怯だ!」

普段クールな彼は相手がこんな事しても「くだらない」の一言で済ませてしまうと思っていたが、まさか怒ると思わなかったリリーはウィルフレッドの表情を見てクスクス笑った。

「ウィルフレッドが怒ってる」

小さく笑うリリー。
リリーを笑わせる事が出来て少し嬉しい気持ちと、それでも不正をされた事への不満な気持ちで複雑になり不貞腐れるウィルフレッド。

「あはは!両手使っちゃダメなんて言ってないじゃん。ほら一気!」

シルヴィに促され度数の強い酒を一気に飲み干したウィルフレッド。その姿を見たリリーは小さな拍手を送った。

「ノエル僕とやろ!ノエルになら勝てる気がする」

「不正は無しだよ」

シルヴィに見下され眉間に青筋を浮かべたノエルが威勢よく受けて立つと腕を出した。二人とも可愛い顔をしているのにテーブルの上に置かれた腕は立派な男らしい太い腕。リリーは腕に浮かぶ血管を見てなんかいいなと見つめている。

「んぎぎっ」
「なかなかだね、でも!」

ダンッとノエルがシルヴィの腕を倒し勝利した。
やっとあのシルヴィを負かす事が出来たとノエルは嬉しそうにニコニコしている。一方シルヴィは舌打ちをし自ら進んで酒を一気飲みした。

リリーは隣に座るルークの腕に自分の腕を近付け比べた。何の力も入れていないのに浮いている血管。太い腕。素直にカッコイイと思った。

ふと触り心地が気になったリリーは指先でルークの腕を摩った。ガサガサしていない。スベスベしている・・・なぜ?

「なんだ?」

「腕、私より太い」

「当たり前だろ。女の貴様より細くてたまるか。手だってほら、私の方が明らかにでかい」

そう言いながらルークはリリーの手の平と自分の手の平を重ねた。太さも長さも違う男らしい手を見たリリーはきゅっとその手を握りルークに微笑んだ。

「ん。かっこいい」
「・・・・・・。」

褒められたルークは何も言えず固まってしまう。

「あ~イチャついてる」

リヒャルトのからかいにバッと勢いよく手を離したルーク。気まずそうに視線を泳がしている。

 その後彼らは何回か腕相撲をし程よく酔いも回ってきたところで、シルヴィの顔色が青白く急降下した。

「シルヴィ?」
「やばいっ!リリーさんごめん、僕リーダーに報告しなきゃいけない事あったの今思い出した。一時間位したら戻るから待ってて!ほんとごめんね!」

突然居なくなってしまったシルヴィ。
それなら仕方ない。待っているかと酒に手を伸ばした。キョロキョロと店内を見回し例の男を探す。

いない。今日はもう会えないのかとシュンとしてしまったリリー。

「ねえリリー、僕と腕相撲しよ?不正はなしね」

落ち込んでしまった彼女の気を逸らそうとエレンがリリーに腕相撲を挑んだ。

不正は無しか・・・。
リリーは考えた。負けとわかった勝負はしたくない。でもシルヴィが先程から騎士達の挑戦を受け入れ負け続けている姿を見たので、自分が嫌がることは出来ない。負けるのは分かってるが全力でやろう。

リリーはエレンの手を握り、ノエルの合図と共に力を込めた。

(・・・あれ?)

エレンは驚いた。全然リリーの力を感じないのだ。頑張らないと圧勝されると思い込んでいたのに少し力を入れただけで余裕で勝ててしまう。リリーは下を向いているのでその表情が読めないけど、彼女なりに力を込めているのかプルプルと震えている。

「リリー?」

本当に力入れてるの?

エレンに名前を呼ばれ顔を上げたリリーの表情に騎士達が驚いた。

下唇を噛み締め、瞳をぎゅっと閉じ頑張って力を入れているその姿がいじらしくも可愛く思えてしまう。

呼吸をしていないのか段々と顔が赤くなっていく表情を見て必死さが伝わってくる。

じわじわ   きゅんきゅん

もう少しだけこの表情を見ていたいという気持ちとこれ以上は可哀想だと思う気持ちが交差する。

「あ・・・」

勝負を終わらせたのはノエルだった。
彼はリリーに手を添えエレンの腕を倒した。

「不正は無しだって言ったのに」
「リリーが可哀想だったので」

笑顔を向け合う二人。
しょうがないなあと酒を飲んだエレン。
リリーは余程力んでいたのかポスっと背もたれに身を預け深呼吸をした。

ふと視線を感じたのでその先を見ると、リヒャルトと目が合った。彼はずっとリリーを見ているだけで何も言わない。なに?と首を傾げるとやっと我に返ったリヒャルトは何でもないとだけ言い、頭をかきながら視線を逸らした。

(なに今の・・・可愛かった・・・)

リリーは思い出したかのように体を起こし例の男を探す。突然見晴らしが悪くなってしまった。ウィルフレッドが隣に移動して来たからだ。堂々と隣に座った彼によって視界が悪くなってしまったリリーは彼を睨み上げた。

「ウィルフレッドが大きいから見えない。そこ狭いでしょ?」

だからどいて?

リリーの訴えも虚しく、ウィルフレッドは半分しか座れていなかったお尻をどんどんと無理やり座ろうと迫って来たため、仕方なく全体的に少し移動をしリリーの隣に座った。

「俺も探そう。そいつの特徴は?」

特徴・・・?

「ミルクティーよりは濃いめの茶色でエメラルドグリーンの瞳」

サラサラのショートヘアに優しい声だったなと思い出すリリー。何だか思い出すとせっかく来たのだしやっぱり会いたいと思ってしまう。

「名前は?」

リヒャルトの言葉にピシッと固まるリリー。
そう言えば名前なんだっけ・・・。

「・・・“ゆ”なんとかだった気がする」

「なんだ。名前思い出せないってことはその程度だったんじゃん?気に入った人の名前は忘れないって」

無邪気に笑うリヒャルト。
そうなのかな?とリリーが名前を思い出そうと考え込んでいると隣に座るルークが船を漕いだ。

ルークは酒に弱い。その事を知っている仲間達はもうお開きにしようか悩んだ。リリーが例の男を待っているから。

「おいで」

リリーがルークの頭を支えるとそのまま自身の膝の上に置いた。ソファの上で上半身だけを倒しリリーに膝枕をさせられたルークは文句を言うかと思いきや相当眠かったのか大人しく眠っている。

頭を撫でる仕草はまるで母親のよう。
見た目は年下なのに時折見せる仕草がやけに大人びている。

「・・・いいな」

誰かがボソッと呟いた。

「ごめん。おまたしぇ~」

でろでろに酔ったシルヴィが戻って来た。
相当酔っているのかエレンに寄りかかりふわふわと喋るシルヴィ。

「リーダーに酒飲んでるのバレて強い酒飲まされた~」

影のリーダー、ジャックに仕事の報告をしに行ったシルヴィ。仕事を放って遊んでいた事がバレ「俺の酒が飲めないとか言うなよ?」と脅され強制的に強い酒を飲まされ今に至ると言う。

エレンが優しく対応しシルヴィを支えている姿を見たリリーはこれはもうダメだ。お開きにしようと思いウィルフレッドを見上げた。

「ルークを運ぶからシルヴィと待ってて?」

「どこに運ぶんだ?」

「私の家」

「「「・・・・・・は?」」」

「リリーのご家族にも迷惑なんじゃ・・・」

「一人暮らしだよ」

「えーと、部屋数は多いいの?」

「ワンルーム。ウィルフレッドどいて?」

エレンとやり取りをした後、ルークを抱えて行こうとしたリリーをウィルフレッドが止めた。

「ダメだ。ルークは一緒に寮に帰る」


なるほど。リリーはルークを持ち上げるのをやめた。ソファに座りなおさせ離れようとしたが、寝ぼけたルークがリリーを抱き寄せ離さない。

「ルーク離して?シルヴィ運ぶから」

それでもすやすやと眠り続けるルーク。

「待ってください。シルヴィを連れて帰るんですか?リリーの家に?」

ノエルの言葉に頷くリリー。
彼らの頭に睡姦と言う言葉が浮かんだ。
よくない。酔っているシルヴィをリリーと二人きりにさせるのはよくないだろうと危機感を抱いた騎士達はどうしようか悩んだ。

「来る?」

「え・・・行っていいの?」


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