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第二章
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しおりを挟むリリーは騎士達を連れ小さな食事処へやって来た。リリーが来店した途端店のシェフ達は顔を輝かせ、料理長であるマスターが腕組みをしドンと構える。
「スペシャルメニュー六人前で」
キランとドヤ顔で注文したリリー。
挑戦を受けたマスターはニヤッと笑った。
「スペシャルメニュー六人前頂きやした!おいお前、奴等呼んで来い!ギャラリーかき集めろ!忙しくなるぞー!」
マスターが大声を出すと一人のシェフが店外へ飛び出した。
「リリーがスペシャルメニュー頼んだぞー!担当者集合ー!なんと今日は究極のイケメン付きだー!いらっしゃいませー!」
大声を出しながら宣伝する一人のシェフ。
騎士達は何事かと首を傾げた。
テーブルへ案内された六人はウィルフレッド、リヒャルト、ルークの対面にエレン、リリー、ノエルの順で座った。
続々と集まるギャラリー達は彼らと一定の距離を空け囲うように立ちながら次々と料理を注文をしている。
「ビール頼む!」「こっちはチキン三本お願い!」
いったい何が始まるというのか・・・。
わけも分からず囲まれた騎士達はキョロキョロと周りを見回した。
「キャー!イケメンー!」
女性ギャラリー達は黄色い声を上げながら昼間にも関わらず酒を飲んでいる。
「リリー何が始まるの?」
周囲の迫力に怯えたノエルがリリーの袖を掴んだ。不安そうな彼の頭を撫でるリリー。
「スペシャルメニューお待たせしました!」
ドドンッ
彼らの目の前に置かれた料理に瞠目する騎士達。その料理は真っ赤で、グツグツドロドロとしていて、とても食べ物とは思えない。
「超激辛熱々チキンクリームスープだ!召し上がれ!」
((( うわあ・・・ )))
これを食べろというのか・・・人の食べる物じゃない。
騎士達はスプーンを握りながらその手を震わせていた。
リリーをチラッと見ると彼女は覚悟を決めたのか目を見開き激辛料理をスプーンで掬い上げパクッと口に入れた。
椅子に爆発物でも仕込まれたんじゃないかと思うほど弓なりにのけぞったリリー。瞳をギュッと閉じ、一瞬で顔を赤くした。
((( 得意なんじゃないのか・・・)))
てっきり激辛好きかと思っていたのに彼女の反応を見るからにそうでも無いらしい。もう一口食べた彼女の瞳がうるうると潤んでいる。そんな彼女を見て盛り上がるギャラリー達。
リヒャルトが勇気を振り絞って一口食べた。
「っゴホッ!かっら~!何コレ辛過ぎるんだけど!ゴホッゴホッ」
口の中を撃たれたかの様な衝撃が走った。慌てて水を飲むが余計に辛さが口の中に広がる。リヒャルトの反応にギャラリー達が盛り上がった。
「イケメンの悶え最高ー!」「ビールおかわり!」
ウィルフレッドとルークも頑張って一口食べた。
「ッ!?~!?~!?」
「ゴホッゴホッゴホッ」
むせる二人。盛り上がる観客。
食べた三人はまだ一口だというのに汗を吹き出し身悶えしている。
そんな目の前の仲間を見たエレンとノエルはお互い顔を見合わせ、せーのと同じタイミングで食べた。
「これ美味しいね」
「結構辛いけどいけなくはないかな」
うそだろ!?
怪訝な顔で二人を見た仲間達。
エレンは涼しい顔をして美味しいと言いながら食べている。ノエルは辛そうにしているがそれでも余裕なのだろう。二人とも平然と食べ続ける。
次を口にするのも億劫なのに舌馬鹿なのかとリヒャルトは涙目で彼らを見た。
そんな中、シェフの一人が突然実況を始めた。
「さあ始まりました激辛チャレンジ!リリーは今日も完食出来るのか!?今回は特別ゲストのイケメンズが参加しているぞ!内二人は激辛が得意のようで次から次へと口に入れているー!恐るべし!だが残りのイケメンは激辛が苦手の様で悶絶しているー!究極のイケメン悶えに観客の瞳はハートだー!おっと早速リリーの瞳から涙が出て来たぞー!辛いのが苦手なのに瞳を潤せながら食べるその姿、健気!涙隊出動!」
騎士達がリリーを見ると実況シェフの言う通り潤った瞳から涙が零れている。手で口元を隠しながら辛さを逃がすようしーしーと息を吐いているリリー。そんな彼女にギャラリーの中から涙隊に任命された一人のオジサンが近づき彼女の涙を丁寧にハンカチで拭き始めた。
「リリーちゃん今回は俺が涙担当だからっハアッハアッいっぱい泣いていいんだよ」
「ありがと」
「ああッ泣き顔のリリーちゃん最高だよーっ!」
ゾワゾワゾワッ
オジサンの気持ち悪さに身の毛もよだつような気持ちになった騎士達。だが本人であるリリーは気にしていないようで礼を言いながら涙を拭かれていた。
そもそも涙隊とは?涙担当とはいったい何の事だ。
その後食べ続けること五口。
ギャラリーが一斉に歓声を上げた。
自分の分を食べることに必死になっていた騎士達は何があったのかと頭を上げたがリリーを見てギョッとする。
あまりの辛さに口を小さく開け肩で呼吸をしているリリーは顔を赤くし汗をかいている。その汗が邪魔で額を手で拭ったり、髪を片側へ移動させ手で風を扇いでいる。瞳が潤みハアハアと呼吸をしているその姿はまるで情事中かと思う程情欲的だ。
ゴクリッ 誰かの固唾を呑む音が響いた。
咄嗟にエレンとノエルが手の平を彼女の前に持っていきリリーの顔を隠した。
こんな顔、他の人に見られたくない。
「汗拭き隊出動だー!」
ジリジリとリリーに近づく観客の女二人。
「さあリリー」「ふきふきしましょうね」
いやらしい雰囲気を察したエレンとノエルが彼女達から布を奪うとサッと簡易にリリーの汗を拭いた。
なんか危ない。この観客達、子供を含め全員が狼に見える。
エレンとノエルの危機管理能力が作動し二人は急いで激辛料理を完食させた。そんな二人に観客は拍手喝采。マスターもまさかこんなに早く完食するなんてと二人にビールをサービスした。
悶絶しながらも暫く食べ続けていたリリーだったがとうとうスプーンを置いてしまった。
きたっ!来るぞ!来るぞ!
観客達がそわそわし始める。
グスグスとリリーが泣き出した。
「・・・からいっ・・・辛すぎるよ~っマスターのバカ。口の中痛いよぉ・・・お願い誰か食べさせてっ・・・手ぇぎゅってして~!」
わぁああああっ!!
今日一番の歓声が店中に広まった。
「キターッ!リリーの泣き甘え頼りー!今回の幸運な担当者は誰だー!」
ポロポロと泣き続けるリリーを見たルークが彼女を慰めた。
「辛いならやめればいい。無理する事はない」
既にギブアップだと食べることを諦めたルーク。リリーはそんな彼の優しい言葉に対し顔を横に振った。
「皆が応援してくれるから諦めない」
ニマニマしながら食べさせ担当と手繋ぎ担当がリリーに近づいてくるのを見たエレンとノエルはリリーの手をぎゅっと握った。
「僕が食べさせるね」
「手を握るから頑張りましょう!」
ガーンッと担当者が肩を落とした。
「お、お兄ちゃん達悪いがその担当は俺なんだ」
「私はこの日のために頑張って生きてきたの」
エレンとノエルはニッコリといい笑顔を向け彼らを諦めさせた。
「はいリリーあ~ん」
パクッとエレンに食べさせてもらったリリーは口に入れた途端瞳をぎゅっと瞑り握っている両手をパタパタと小さく左右に振った。
((・・・かわいい。))
手汗が凄い。必死に頑張っているのが伝わる。
「ほらリリー泣かないの」
ノエルに涙を拭いてもらったリリーはコクコクと頷き小さな礼を言った。ずび~と鼻を啜りエレンに顔を向け口を開けて待つ。まるで小さな子供みたいだ。
((かわいい・・・))
もはや可愛いとしか思えなくなったエレンとノエルは周囲の視線を気にせず甲斐甲斐しくリリーの世話をした。そんな彼らをオカズに酒が進むギャラリー達はうっとりと生暖かい眼差しで見届けている。
ルークは最初の方でギブアップし、ウィルフレッドは具を食べる事は出来たがスープに苦戦し無念のリタイア。リヒャルトは悶絶しながらも何とか完食しギャラリー達から賞賛された。
リリーは最後の一口をなんとか平らげた。
完食できた喜びからエレンとノエルの手を握ったまま頭上にあげ喜ぶ。観客達は絶賛し拍手が飛び交った。向かいに座っている騎士三人も小さな拍手をしてくれている。
へへっと照れ笑いしたリリーの笑顔は影で働く印象とは全く異なり普通の可愛らしい女性だった。
続々と解散するギャラリー達。
マスターとシェフ達がリリーと騎士達に頭を下げ礼を言った。
「リリー今日もありがとう」
「リリーちゃんのおかげで軌道に乗ることが出来て、店を売らずに済んだよ」
実は数年前までこの店には閑古鳥が鳴いており店を売るしか道がなかった。しかしリリーの激辛客寄せにより評判が上がり売上が伸びたのだ。
リリーはたまたま辛い料理が食べてみたかっただけ。注文すると売上が無くヤケクソになったマスターが激辛料理を出した。まさか泣きながらも完食するとは思わずその姿に周囲が感動し、この店の名物となった。マスターはリリーを恩人だと思い慕っている。リリーはそんなマスターのことをいつも激辛を出してくる意地悪なオジサンだと思っていた。
人数分の料金をマスターに渡したリリー。
金は要らないと言い張るマスターは頑なに受け取ろうとしない。リリーは瞬時にマスターのポケットに金銭を入れ、一枚だけ彼の鼻の穴へ入れた。フゴッと驚いたマスターにリリーは今日も苛めやがってとあっかんべーをした後イタズラを成功させた子供のように無邪気に笑い店から逃げるように出て行った。
そんな彼女の意外な一面を見た騎士達は鼻で笑い微笑みながら彼女の後を追った。
口の中にまだ辛さが残って痛い。
舌が痺れている。
街中の広場にある大きな噴水周りに設置されたベンチに座った騎士達。リリーにここで待っているよう言われた。少し待って戻って来た彼女の手には人数分のアイス。彼女は彼らにそれを渡した後、自分の分のアイスをチロチロと舐めた。
辛い物を食べた後は甘い物に限る。
痛かった舌が中和されていくのを感じ周囲を観察する騎士達。
のどかだな。
小さなアイスは無くなるのが早かった。あっという間に食べ終わり次はどうするんだとリリーを見る。
「今日はここで解散」
「え?もう終わりですか?」
まだ夕方にもなっていない。てっきりまだまだ何かあると思っていたノエルは呆気に取られた。
「この後影の女子会があるから」
なるほど。リリーは用事があるのか。
・・・待てよ、影の女子会ってことは・・・。
「男漁りするの?」
エレンの問いにきょとん顔をしたリリーは彼を見上げ顔を横に振った。
「今日はもう良い男に会えたからいいの」
・・・それは、あの農家のアランの事だろうか。確かに顔立ちも良くいい筋肉をしていたが・・・面白くない。
ムスッと膨れた騎士達。
そんな彼らを指さしたリリー。
「良い男達とずっと一緒だった。楽しかった」
文句ひとつも言わず休日なのに畑仕事、クッキー作り、激辛料理に付き合ってくれた彼らは間違いなく心優しい良い男だ。
ふわっと笑ったリリーは彼らに小さく手を振ってどこかへ行ってしまった。
不意打ちを食らった騎士達はベンチの背もたれに身を預けた。
今日は一日中ずっとリリーに振り回された。
農家のアランに嫉妬し、教会に寄付をしている事に感服し、泣き顔にドキドキさせられ、観客達に嫉妬し、最後に嬉しい言葉をくれた。
彼女と一緒にいると自分じゃないみたいに心が忙しい。でもその忙しさは悪くないだろう。
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