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第二章
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しおりを挟む街の端にある小さなパン屋を訪れたリリーと騎士達。お昼ご飯でも買うのだろうかと様子を見ていた騎士達だったが全員に調理用エプロンが配られた。
「クッキー作るの」
(((・・・・・・なぜ?)))
突如始まったクッキー作り。騎士達は初めてのお菓子作りを意外にも楽しんでいた。特にクッキーの型を取る事が楽しいみたいで皆せっせとクッキーの型を取っている。
リリーは焼きに失敗し、食べてもいいと店主に言われたパンを見つめていた。そして少し大きな丸い形をしたパンを二つ手に取るとそれを胸に当てて騎士達に見せた。
「見て。おっぱい」
しーーん。
白けてしまった空気が漂う。
しまった。すべってしまったと少し恥ずかしくなり落ち込んだリリーは大人しく手に持っていたパンを戻した。だがまた新たに面白い形をしたパンを見つけてしまう。ウサギの耳の形をしたパンを発見した。しかも片耳が折れたパターンを再現出来る。早速リリーはそれを頭の上へ持っていくと、少しだけジャンプをしてウサギだと彼らにアピールをした。
「見て。ウサギ。ぴょんぴょん」
「「「・・・・・・。」」」
相変わらず無反応な騎士達になぜ?と焦り始めたリリー。いつもちょっとした事で笑うくせに彼女が笑いを取ろうとした時に限ってどうして笑ってくれないのだとリリーは不貞腐れ始めた。
すると不出来のパンの中から三角の形をしたパンを二つ取り出したウィルフレッド。リリーはそれが猫耳の様だと直ぐに察した。良かった。あれならウィルフレッドにだけはウケるだろう。
ウィルフレッドはその三角形のパンをリリーの頭に添えた。嬉しくなったリリーは笑顔で彼を見上げると、サービスのつもりで猫の手も真似て鳴いた。
「にゃあ!にゃー!」
うっ!
苦しそうに身をかがめた騎士達。
なぜ!?と酷くリリーは驚いた。
しゅんと肩を落とした彼女は大人しくクッキー作りの続きを再開させる。
「・・・そんなに面白くなかった?」
隣で作業をしているノエルに伺った。
「可愛すぎて食べたくなりました」
「あのパン食べてもいいんだよ?」
(((そうじゃない!)))
ダンッダンッとクッキー生地を捏ねる騎士達。やる気の良さにリリーは嬉しくなった。
大量のクッキーが出来上がった。
初めて焼き立てのクッキーを食べた騎士達はその熱さと柔らかさに驚いていた。常温でサクサクとしたクッキーしか食べた事が無かったのでとても新鮮で驚く様子は少年のようで可愛かった。
大量のクッキーを袋詰めにしたリリーはパン屋の店主に金銭を渡していた。その様子を見て首を傾げる騎士達。クッキーを作ったのだからむしろ報酬を貰うのはこちら側なのでは?
だがリリーは大量のクッキーと不出来のパンが入った袋をサンタクロースの様に背に抱え店を出た。慌てて追いかける騎士達。エレンがリリーの持っていた袋をヒョイっと取り上げた。
「このクッキーどうするの?」
「寄付する・・・エレン小麦粉が顔に付いてるよ。可愛い」
背伸びをしてエレンの頬についた小麦粉を指で拭った。彼は照れくさくなったのかそっぽを向いて礼を呟く。良く見たら騎士達全員の顔に小麦粉がついているではないか。
「皆も付いてるよ。おいで」
リリーに手招きされ大人しく屈み彼女に撫でられた騎士達は擽ったい気持ちになった。
辿り着いたのは街外れにある教会。孤児院も併設されているこの施設には、実はリリーを含め影達が闇の組織から救い出した子供達が暮らしていた。
教会の外にいたシスターがリリーを見つけると彼女は手を叩いて他のシスターと子供達を呼んだ。続々と集まってきた子供達の表情は笑顔が殆どだ。
「リリーさんお久しぶりです。そちらの方々はご貴族様ですか?」
「シスターお久しぶりです。この人達は私の・・・」
リリーは言葉を止めた。
アランには職場関係と言ったが目の前にいる子供達はリリーの職業が怖い職種だと知っている。騎士達を怖がってしまう可能性がある為騎士達と職場関係だと言えない。
「大切な人です」
「まあっリリーさんにも春が!嬉しいですわ」
花が咲くような笑顔を浮かべたシスター達。
子供達はシスター達の反応を見て「えー!」「キャー!」と理由も分からず叫んでいる。
リリーは子供達と視線を合わせるべきしゃがみ込んだ。
「このかっこいいお兄さん達が皆にクッキーを焼いてくれたの。お礼は言える?」
「「「お兄ちゃんありがとー!!」」」
キャーッと子供達が彼らに群がった。
女性に群がられることはあっても、このように大人数の子供達に群がられたことがない騎士達はどうすればいいのか分からず困惑する。
「お兄ちゃんかっこいい!」
「結婚しよー!」
「筋肉やべー!」
相変わらずのモテっぷりである。
「ふふっ。良ければ中でお茶でも如何ですか?大したものは出せませんが」
困っていた騎士達に助け舟を出したシスター。
すると子供達はターゲットをリリーに変え、彼女の腕を引っ張り、敷地内の庭へ連れて行った。残された騎士達はシスターと共に教会の中へ入る。
教会の中へ案内された騎士達。
礼拝堂の次は食堂へ案内され椅子に座った。広いテーブルの上座に座ったのはお年を召したシスターだ。壁際にズラっと並んだシスターに囲まれ何だか居心地が悪いと緊張してしまうリヒャルト。
「ここは影が運営する教会です。私は元影の工作員をしておりました。ここにいるシスターは皆元影か、命を救われた淑女達です。そしてここにいる子供達は影により救われた元奴隷や親を失くした子供達・・・訳有りの集いです」
驚いた騎士達は瞠目しシスターを見つめた。
壁際にいるシスター達をよく見ると片腕が無い者や目を包帯で巻いている者がいる。
「リリーがいつもお世話になっております。ご貴族様への引き取りは遠慮しておりますが寄付はいつでも大歓迎ですので宜しくお願い致します」
ニッコリとシスターの笑顔に囲まれた騎士達は二つ返事で頷いた。
シスター達に連れられた騎士達は敷地内にある庭へ案内された。一面に広がる花畑。子供達に囲まれたリリー。その頭には花冠が置かれ笑顔で子供たちを見る彼女の姿はまるで妖精のようだった。騎士達が来たことに気が付いたリリーは頭に乗せていた花冠を一人の少女の頭に乗せた後、彼らに近づく。
彼らのそばに着くと後ろからドンッと抱き押された。勢いがよく不意打ちだった為目の前に居たルークに抱きついたリリー。振り向くと紫色の長髪をしていて、紫色のくりくりとした大きくて少しつり目の美少年であるアシュードがリリーに抱きついていた。
紫色に挟まれたリリー。
アシュードは少しルークに似ている。
「おい!リリー次はいつ来るんだ?お前僕の女だろ!?なんでその男に抱きついてるんだよ!」
「・・・アシュードちんちん小さいでしょ?」
「お、大人になればお前の腕くらい大きくなる!何でその話になるんだよ!いいからその男から離れろ!早く僕と結婚しろ!」
「アシュードが大人になった時私はもうおばさん」
「歳なんて関係ない!僕はリリーがいいんだ!はーなーれーろーよー!」
ルークとリリーを引き離そうとリリーを引っ張るアシュード。リリーはもうルークから手を離しているのだが今度はルークがリリーを離さない。
「おい!男女!リリーから離れろ!」
「誰が男女だ。貴様こそリリーから離れろ」
ガシッとアシュードを掴んだ一人のシスターがリリーからアシュードを引き剥がした。
「いい加減にしなさい!貴重な金づ・・・高貴なお方に無礼を働かない!リリー命大事にしなさいよ」
「皆様に神の御加護があらんことを」
「「「またねーー!」」」
シスターと子供達に挨拶をされ街に戻っていった一行であった。
「お腹空いた?」
朝から動いた騎士達だったが食べたのは野菜とクッキーとパンのみ。彼らにとってはかなりの少量でありお腹が空いていた。
「皆に食べてほしいのがあるの」
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