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第三章
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しおりを挟む日が暮れすっかり暗くなってしまった騎士団の野営地にて、騎士五人は大木に寄りかかりグッたりと疲れきった体勢で座り込んでいた。周りには同じく疲労困憊で座ったり寝転んだりする仲間や怪我の手当をを受ける者、介護をする者等様々だ。
シュタッと五人の前に小柄な影が現れた。
リリーだ。
全身黒ずくめの彼女は二本の愛刀を背中に背負い、両手で串に刺さった肉を五本持って現れた。
突然現れた影を見て驚く騎士達。
五人はリリーを見ると力なく笑い彼女を見上げた。そんな彼らを見たリリーは相当疲れているのだろうと思い、持っていた串焼きを一人ずつ渡していく。渡された五人は礼を言った。リリーはそんな彼らの頭を無言で撫でた。
影に贔屓されている五人とその影を見続ける周りの騎士達。
「俺の分はないのー?」
ジョンがはあ~疲れたと愚痴を吐きながらリリーに近付いた。取ってこようかと首を傾げたリリーの頭をジョンが撫でた。
「お疲れ様。怪我してない?」
リリーは顔を横に振った。多少のかすり傷はあるがこのくらいなんて事ない。
ザッと六人の騎士隊長がリリー達の前に現れ、片膝を立てリリーに頭を下げた。先頭で頭を下げるユリウスとその後ろにオリヴァーがいる。突然の事に瞠目したリリーは首を傾げて困惑した。
「貴方達援軍のおかげで助かりました。僕は貴方に命を救われた。この御恩一生忘れません。ありがとうございました」
ユリウスが真剣な表情で礼を述べた。
今ここで頭を下げている騎士隊長の部隊は前線で戦っていた。リリーが来た事により命を救われた者が殆どだ。自分の命も大切な部下の命も両刀で戦っていた小柄な影に救われたのを忘れられず感謝を伝えたいと思っていた時に現れたリリー。
リリーは仕事をしただけなのに何人もの騎士に頭を下げられ困惑する。そんな畏まらなくてもいいのにと気持ちを込めて一番近くで頭を下げているユリウスの頭を撫でた。
頭を撫でられた事に対し、そんな事をされると思っていなかったユリウスは顔を上げきょとん顔でリリーを見上げた。
その様子を見てクスクスとジョンが笑っている。
「ここの五人じゃないんだから頭撫でるのはどうかと思うよ」
そうなのか?と首を傾げたリリー。
そうだ!とユリウスは懐から布を取り出し広げた。布の中には大量のコアがあり瞳をキラキラさせたリリー。
「貴方達が必要そうにしていたので集めてみました。宜しければ差し上げます」
いいの?とコアとユリウスを交互に見たリリーだったがユリウスがニコッと笑ったので有難く頂こうと思った。すると他の隊長や周りの騎士達も続々とコアを渡そうとしてくるではないか。
さすがにタダで貰う訳にはいかないなと思ったリリーはユリウスの腕に切り傷を見つけた。携帯鞄から消毒、傷薬、包帯を取り出したリリーは無言でユリウスの袖を捲り傷の手当をした。唖然と手当を受けるユリウス。手当が終わったリリーはこれで心置き無く頂けるとユリウスからコアを受け取った。
一連の流れを見たジョンがポンッと手を叩いた。
「ジャックに伝えてくれない?傷の手当と食料くれたらコアあげるって」
頷いたリリーは瞬時に消えた。居なくなってしまった影をキョロキョロと探す騎士達。
するとリリーは大勢の影を連れ直ぐに戻って来た。突然付近に現れた影達に驚く騎士達。影達は未だに覆面を被っていて顔が見れない。
「コアくれるって?」
「うん。条件は守ってね」
「お前のとこ貴族様多いだろ。魔獣肉で満足出来るのかよ」
「背に腹はかえられぬってね」
ジャックとジョンの会話を聞いた五人の騎士は手に持っている肉が魔獣肉だという真実に驚いていた。魔獣肉を初めて食べたが・・・美味い。
「お前達聞いたな?仕事だ取り掛かれ」
ジャックの命令により影達は騎士達の怪我の手当や焼けて食べ頃になった串焼きを渡し始めた。
「被害は?」
「うちは数十人死亡者が出たよ。そっちは?」
「二人だ」
二人の会話を聞いた五人は眉間に皺を寄せた。
あれ程頑張っても死者が出てしまった。
***
影の少年メルは一人の騎士の傷の手当をしていた。その騎士は始めから横暴な態度をメルに向けていた。
「なんだこのチビはまだ子供じゃないか。子供を寄こすなんて影の人事は何をやっている」
メルは黙ったまま傷の手当をしていた。
これは仕事、仕事、仕事。
あー、今日めっちゃしんどい。
頭くらくらして来た。
「ちっ。下手くそが!もっとちゃんとやれ!」
メルは丁寧に手当しているというのに横柄な態度を取るその騎士に対し、周りの騎士が落ち着くよう注意をした。
「手当してもらってるんだ。感謝するべきだろう」
だがその騎士は注意を受けたことでより怒りが増し、立ち上がると思い切りメルに向かって足を後ろに振りかざした。
ッ!!
メルを庇ったリリーの顔面に騎士の蹴りが入った。
「リリー!」
突然の事に驚く周囲。
「貴様何をやっている!」
近くに居た騎士がリリーを蹴り飛ばした騎士に向かって怒鳴った。蹴り飛ばされたリリーに駆け寄るメル。
「ごめん!疲れててボーッとしてた!なんで庇ったんだよ!」
心配と怒りと焦りで慌てるメルに対しリリーはなんて事ないと彼の頭を撫でた。その二人にフラッと蹴った騎士が近づく。
「リリーだと?貴様は女か?ハッこんな戦場に女がいるなんてなあ!慰専用だろ?俺のことも慰めてくれよ。売女が!影が早く来なかったから俺の親友死んだんだよ。償えよ。さっさと脱いで謝れよ!」
拳を振り上げ殴りかかろうとする騎士。周りの騎士達が止めるため動くが、ジャックの声が響いた。
“ 集 ”
瞬時に消えた影達はジャックの背後で綺麗に並んだ。リリーとメルも並んでいる。
「今のはなんだ」
怒りの籠った声をジョンにぶつけたジャック。ジョンは深いため息を吐いた。
「全員整列!」
ジョンの掛け声に整列した騎士達。
影とは違い時間は掛かったがそれでもしっかりと並んでいる。騎士達はこれから何が始まるんだと汗をかいた。先程の騎士の愚行を見てしまった彼らは影は自分たちじゃ敵わないほど強いのに敵にしてしまったかと冷や汗をかいている。
“ 美 ”
一斉にジャックとジョンの間に影の美部隊が並んだ。パチンッとジャックが指を鳴らすと美部隊は覆面をつけたまま服だけ脱いで下着だけの姿になった。ボンッキュッボンッの妖艶な体を魅せる彼女らに騎士達は冷や汗をかきながら固唾を飲み様子を見ている。
“ 子 ” “ 老 ”
明らかに子供だと分かる小さい影とヨボヨボと杖をついた老体の影も前に出た。子の中にはメルも含まれている。
「行け」
シュンッ
ッー?!!?!?
ジャックの合図で俊敏に動いた美、子、老の影達は一瞬にしてジョンの背後に整列している騎士達の首元にナイフを食い込ませた。騎士達は声を出す事も出来ず震えている。
隊長格の騎士達や屈強な信念を持つ騎士のみナイフを当てられても堂々と前を見ていた。
五人の騎士達には誰も襲っていない。
「俺達影は年齢も性別も拘らない。強い奴が生き残り弱い奴は死んでいく。そこのゴミの友は弱かった。ただそれだけだ」
ゴミ呼ばわりされたリリーの顔を蹴った騎士にはメルを含め複数の影が首にナイフを当てていた。
「ジョン、そのゴミ貴族だろ?」
ジャックの言葉に無言で頷いたジョン。
「いい事教えてやるよ。お前を手当していた子供は貴族の悪戯で目の前で親を殺されたんだ。お前の左にいる女は元貴族だがお前みたいなクズ貴族のせいで没落した。俺達影が遅れたから償えって言うならその貴族の代わりにお前が償えよゴミ」
グッとナイフが食い込み血が流れる。
ひいっと小さな悲鳴をあげたその騎士はガタガタと震え始めた。
「躾がなってねえな。今すぐ殺してやろうか」
ジャックの覇気を受けたその騎士はヘナヘナと崩れ落ちた。無理もない。直接殺気を受けていない周りの騎士達も震えがおさまらない。
「今すぐコア寄越せ。それで終いにしてやるよ」
「全員コアを差し出せ!」
ジョンの指示通りに騎士達は持っている全てのコアを影達に渡した。
「次こんなのがあったら消すからな」
「うん。ごめんね、よく言って聞かせるよ」
「・・・行くぞ」
シュンッ
一瞬で影達の姿が消えた。
首にナイフを当てられていた騎士達は冷や汗をかいたまま無言で首に手を当てた。
「さて・・・君こっちにおいで。他は座りなさい」
リリーを蹴った騎士が呼ばれ大人しくジョンの前に立った。他の騎士達はその場で座るが五人の騎士だけは殺気をその騎士にぶつけていた。
よくもリリーの顔を蹴ってくれたな。
今すぐぶっ飛ばしてやりたいと眉間に皺を寄せ睨み効かせる五人。そんな五人を見たジョンはやれやれと小さなため息を吐いた。
「君の処分どうしよっか。彼らは援軍もしてくれて手当も食料もわけてくれたのに恩を仇で返すって君のことを言うんだね」
「しっしかし!」
「言い訳?俺の可愛い妹の顔を蹴ったくせに口が達者だね。足だけにしようと思ってたけど舌も切り落とそうか」
鞘から大剣を抜いたジョン。
ひいっと悲鳴をあげ尻もちをついた騎士。
「お待ちください!」
「・・・ユリウスなに?」
そんな騎士を庇うように前に立ちはだかったのは二番隊長のユリウスだ。
「彼は僕の部下です!指導が足りなかった責任は僕にあります。申し訳ございません!」
部下の為に土下座をしたユリウスを見たジョンはため息を吐いた。ユリウスは失いたくない戦力だ。彼の為なら許せるけど、このまま何もしない訳にはいかない。
そんな時、ある気配を感じたジョンはクスッと笑った。
「それじゃあ本人に直接謝ってもらおうかな。・・・リリーいるんでしょ?」
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