【R18】 その娼婦、王宮スパイです

ぴぃ

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第三章

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「えーと、取り敢えず落ち着こうか」

しーんと静まり返ってしまった空気。
ジョンは他の騎士達に自由時間だと告げ彼らを解放した。現在はジョンの野営テント内にてユリウスとオリヴァーの二人と話し合うべく彼らを招待したのだが、なぜかこの場に直属の部下である騎士五人も居る。

ユリウスとオリヴァーはジョンの前に立っているのだが五人は壁際に一列に並び立っていた。リリーに関する事だし、いっかと彼らが居る事を許したジョンは椅子にかけ足を組んだ。

「まずオリヴァーからね。二度目の一目惚れってどういう事?」

ジョンの質問にオリヴァーは過去と今の心境を説明した。

以前行われた貴族パーティーでリリーの笑顔を見た彼は一目惚れをした。エレンの恋人だと一度は諦めようとしたが彼女の事が忘れられず別れた事を知ってからは休みの度に街に出て彼女を探すが見つけられなかった。

そんな彼女がまさか影として働いていて、しかもあれ程強く美しく命を救ってくれたその姿に再び惚れたのだと力説した。

「あー。でもリリーは普通の子よりも斜め上いってるから理想と違うかもよ?」

「・・・俺は彼女を知りたい。今はただ知り合いたいだけなんです」

・・・健気なのか?オリヴァーは端正な顔つきをしていて高位貴族なのに貴族と平民の騎士を平等に扱い非常に人気がある。彼ならリリーを雑に扱う事もないから紹介してもいいかなと考えたジョンは「わかった」とだけ彼に言った。


そしてチラッとユリウスを見る。
ユリウスがあんなに大声を出して戸惑う姿を初めて見たジョンは驚きを隠せないでいた。彼は普段落ち着いていて穏やかな性格をしている。平民出身だが飛び抜けた剣術を持ちソードマスターも夢じゃない程の凄腕だ。しかも思いやりがあり老若男女問わず人気。部下の面倒見もよく慕われている。美少年がそのまま大人になったような顔をしていて彼を狙っている女は多い。そんな彼が大声を出し戸惑い焦っていたのだ。

「初恋っていつの話?ほんとにリリーが相手なの?」

単純に気になった質問をぶつけた。
初恋を忘れない人は少なくはないだろう。でもその相手が本当にリリーなのか疑問だ。初恋と言うのは幼少期が殆どだろう?子供の頃の記憶など合っていないようなものだ。

これから始まるユリウスの話が長かった。



***


 ユリウスが十二歳の頃、彼は王都から離れた村で仲のいい両親と小さな家でそれなりに幸せに暮らしていた。

だが、悪魔は突然現れた。
数体の魔獣が出現し彼の村を襲ったのだ。戦う村人の男達。逃げ回る老人や女子供。両親は魔獣に殺された。死にかけの母親は最期にユリウスの頭を撫で叫んだ。

「逃げなさい!行って!行くの!」

走り出したユリウス。途中、親を亡くし泣きじゃくる子供達を抱え必死に逃げるが一頭の魔獣に追い詰められてしまう。もうダメかと思ったその時、小さな真っ黒い人影が現れた。その黒い人物は二本の小刀で魔獣と戦った。何度も地面に叩きつけられても立ち上がり挑む姿を当時のユリウスは小さな子供達と共に見ることしか出来なかった。暫く魔獣と小さな黒い人物の戦いが続きやっと魔獣が倒れた。振り返った黒い人物に怯えるユリウスと子供達。

黒い人物は顔も真っ黒に覆われていて魔獣の返り血を浴びている。その姿に怯えた小さな女の子が泣き出してしまった。すると、その人物は顔を覆っている布を取った。

黒い人物の正体はピンクアメジスト色の髪と瞳を持つ可愛らしい女の子だった。

瞠目し固まってしまうユリウス。

よく見ると自分よりも少し小さいくらいの女の子。その姿は切り傷が目立ち身体中傷だらけだった。彼女の姿を見た少女は泣き止み見上げている。そんな少女の頭を撫でるピンクアメジストの可愛い女の子。ふいにその子が視線を合わせて来た。ドキッと胸が高鳴ったユリウスは後退りしてしまう。

彼女は小さな子供を抱いているユリウスの手を掴むと手の平を開かせた。そしてそこに数枚の金貨を乗せた。

「これで少しは暮らせる。あの魔獣は腿の肉は美味しいけど内蔵は毒があるから食べちゃダメ」

突然渡された金貨に戸惑うユリウスの手を彼女は強く握った。

「強くなれば生きてける。がんばって生きて」

まっすぐ見て来るキラキラしているピンクアメジストの瞳を、見つめる事しか出来なかった。

「チビ行くぞ」

突然現れた大人の真っ黒な人影。彼女はその人を見ると二人して直ぐに目の前から居なくなってしまった。

その後ユリウスは孤児として子供達と共に生活する事になった。あの時救ってくれたピンクアメジストの女の子が言った通り剣術を身につけ強くなる為に努力した。またいつかあの子に会ってお礼を言いたい。ずっとその思いを胸に抱いていた。


 大人になったユリウスは騎士団所属のジョンにスカウトされ騎士となった。幾つもの功績を挙げ第二部隊隊長まで上り詰めた彼だったが、未だにあの時の女の子に会えないまま。

そんなとある日の夜、ショーン酒場で運命の人を見つけた。

あまり酒が得意じゃない彼は同僚に連れられショーン酒場にやって来た。同僚の狙いはナンパだ。ユリウスがいれば女を釣れるだろうと企んでいる。早く帰りたいと思っていたユリウスだったがピンクアメジストの髪色を持った後ろ姿の女性を見つけて胸が踊るのを感じた。

「あの子が良い」

初めてユリウスからの願いに驚いた同僚は同じテーブルに座る美人で妖艶な女性に釘付けになり早速話しかける事にした。同僚が話しかけユリウスを見た妖艶な女性は口角を上げ誘いに乗ってくれた。

ピンクアメジストの隣に座ったユリウスは彼女の顔を見て一気に興奮した。

ピンクアメジストの髪と瞳。顔もあの時の女の子にそっくりだ。間違いない。この子だ。あの時救ってくれた女の子だ。

顔を真っ赤にしたユリウスは緊張から喋れなくなってしまう。それでも変に思われたくないと思ったユリウスは頑張って平然を装い話題をふった。

いつの間にか同僚は妖艶な美女とどこかへ行ってしまった。でもそんなの関係ない。ユリウスはピンクアメジストに夢中になっていた。

「君が好きです」
「胸ないよ?」

驚いた。突然胸の話になるなんて。

「気にしないよ・・・ッー!?!?」

更に驚いた。彼女がユリウスの手を掴み服の上から胸を揉ませたから。焦ったユリウスは顔を真っ赤に染め彼女の肩を掴んだ。

「ダメだよ今みたいな事しちゃ。他の人にしたら勘違いされちゃうよ」

だが彼女は気にしないのか首を傾げながら「ね。ないでしょ?」と言ってきた。その小さな唇がプルプルしていて魅力的だった。会いたかった人に会えてこのまま終わらせたくなくて酒のせいにしてキスがしたいと我儘を言った。

絶対してくれないと思っていたのにあっさりと許可してくれた彼女。不安な気持ちも生まれたが嬉しかったのも事実で、人目もはばからずキスをした。

甘くて、すごく甘くて全身が痺れて、すごくよかった。人生で初めてのキスだった。

もっとしたいけどこれ以上軽い男だと思われたくなかった。真剣に彼女と付き合いたかった。目を擦った彼女を見て眠くなったんだと思い彼女を家まで送ることにした。

暫く夜の街を二人で歩く。
手を繋ぎたいけど緊張してしまう。
これからはデートを重ねていきたい。
お互いを知り合って恋人になってプロポーズして。

今後の事を考えていたら隣にいたはずの彼女が消えていた。焦って周囲を探すがどこにもいない。

そんな、やっと会えたのに・・・!

結局見つけられないまま暫く泣き寝入りした。しかも名前を聞いていなかったという痛恨のヘマをやらかした。あの日以降行ける日にはショーン酒場へ行くが未だに彼女と再開する事が出来ない。

でも後日彼女と一緒に居た妖艶な美女には会う事が出来だ。その日はたまたまオリヴァーとショーン酒場に来ていた。彼も女の子を探しているようで意気投合し飲んでいたのだ。妖艶な美女はユリウスを見かけると直ぐに話しかけた。

「ちょっと貴方!未だリリーに興味ある?あの子ずっと探してたのよ」

リリー・・・彼女の名前はリリー。

「俺が探している女性もリリーと言う名だ」

「あら!そうなの!素敵な男性ね!」

まさかオリヴァーの探し人も同じ名前な事には驚いたがリリーという名前は珍しくない。きっと偶然だと思った。彼女のことを掘り下げたかったのに妖艶な美女は拗ねている男達を連れていなくなってしまった。ここに通い続ければ会えるのだろうか。期待を持てた。

それでも会う事が出来ず今日にいたる。
まさか再び彼女に救われる日が来るなんて思わずにーー。



***



「・・・と、言う訳なんです」

「うん。その愛本物っぽいね」

ユリウスの話を聞いて納得したジョン。
騎士五人は彼の話を聞いて瞠目している。まさかリリーが男漁りをして出会った男がユリウスだったなんて・・・。

リリーが言っていたその特徴を思い返すと当てはまっていた。

ミルクティーよりは濃いめの茶髪でエメラルドグリーンの瞳。サラサラの髪。イケメン。ハイスペック・・・めちゃくちゃユリウスだ。

「それじゃあ今度の模擬戦にリリーを招待するよ。情報も提供するね」

「ちょ!団長!」

ジョンの言葉に表情を明るくしたユリウスとオリヴァー。対して五人はギョッとしリヒャルトがジョンに抗議をした。

「リリーに選択肢の幅を広げてあげたいじゃん」

「これ以上ライバル増やしたくない!」

文句を言い続けるリヒャルトに対しジョンは両耳に指を入れて聞こえないふりをした。エレンはオリヴァーを見つめオリヴァーもまたエレンと視線をぶつけている。ユリウスは驚いてリヒャルトを見た。

「君達は男が好きなんじゃなかったの?」

「「「違います」」」

バッサリと言い切った五人を見てあれ?と首を傾げたユリウスだった。


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