【R18】 その娼婦、王宮スパイです

ぴぃ

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第三章

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ー騎士団 模擬戦会場ー

 魔獣ビッグウェーブの日から数日が経過し、今日はジョンが率いる騎士団の模擬戦が行われる。

団長のジョンがリリーを連れて来ると言っていた為あの日彼女のファンになった一部の騎士達は朝から盛り上がっていた。

リリーの弟子でもある五人は彼女を狙う他の騎士に睨みを効かせるのかと思っていたが、予想と違い彼らは平然としている。その姿はどこか余裕そうでもあった。

五人はこう考えていた。
リリーは基本無口で無表情だ。自分達でさえ当初可愛げが無いと思ってしまっていた。つい最近ぽっと出の男達に笑顔で楽しく会話してる姿等想像出来ない。想像出来るのは無口で無表情な彼女の扱いに混乱する他の騎士達の姿だ。

模擬戦は午後から行われる。
昼食を寮内で済ませた五人は周りの騎士達の少なさに疑問を抱いていた。普段のこの時間だともっと人で賑わうはずなのに今日は疎らだ。緊急の仕事でも入ったのだろうか。

仕事が入ったのだとしても、自分達は招集されていないし、早めに模擬戦の会場に行くかと五人は向かった。会場へ着くなり瞠目し進めていた足を止めた五人。彼らの視線の先には騎士達に囲まれたリリーの姿があった。


 ベンチに座っているリリーの隣を陣取るユリウスとオリヴァー。その周りに何人もの騎士が囲っている。ユリウスの手にはクッキー。オリヴァーの手にはティーカップが持たれていた。

ユリウスがクッキーを手で食べさせている。その後オリヴァーがリリーの口元にティーカップを近付けると彼女は熱い紅茶を冷ますためにフーフーと息を吹きかけ飲んだ。美味しいと微笑む彼女をデレデレとした表情で見つめる騎士達。

ビキッと五人の額に青筋が浮かんだ。

どうして他所の男に笑顔を向けるんだ。
騎士団の施設に来たのなら真っ先にこちらに会いに来るべきじゃないのか。

ザッとリリーに近付いた五人。彼らの存在に気付いたリリーは会えて嬉しいのか笑った。その笑顔を見て少しだけ怒りがおさまった五人。ノエルが手の平をリリーに差し出した。

「リリー、おいで」

頷いたリリーはノエルの手を掴むと立ち上がった。振り返り美味しい食べ物をくれたユリウスとオリヴァーを見て微笑む。

「ありがとう」

照れた二人はもっと彼女と話したいと思い彼女の反対の手を掴もうとしたがエレンが体を入れ邪魔をした。無言でニコッと笑うエレン。そんな彼を睨むオリヴァー。

模擬戦を観戦できる空いている場所を探すがユリウスとオリヴァーが居る近くの三段ベンチしか空いていない。本当はもっとその二人とリリーを離したいのだが、他が空いていないのでは仕方がないと諦めた五人はそこに座ることにした。

下段にルークとノエル。中段にエレン、リリー、リヒャルト。上段にウィルフレッドが座っだ。しかしウィルフレッドは上段の腰掛け場所ではなく足置きに座り両足でリリーを挟んでいる。これによりリリーの視界にはユリウス達や他の騎士達の姿が見えなくなった。彼らからもウィルフレッドの足でリリーの姿が見えなくなってしまった。しかも他四人もリリーを囲い不格好な星型のように密集している。

模擬戦開始の時間となり現れた騎士団長のジョンはそんなリリー達を見て大笑いをした。彼は手で四角の形を作り、その枠に六人をおさめて覗いた。

「リリー女王様みたいだね。足組んで頬杖ついて顎上げて見てよ」

ジョンの指示通りのポーズをとったリリーを見て更に興奮したジョンはゲラゲラと笑っている。

「大工は雇ったけど絵師も雇うべきだったなー!」

いったい何の話をしているんだこの人はとジト目でジョンを見る五人だった。

「君は何時からここに来ていた。昼は食べたのか?」

ウィルフレッドの問いにリリーは彼を見上げた。

「十二時くらい。ジョンにここに来るように言われた。お昼はユリウス達と一緒に食べたの。あの人達良い人だった」

ひょこっとウィルフレッドの足から顔を出しユリウス達が居る方へ向けるとそれに気付いたユリウスが笑顔で小さく手を振ってきた。振り返そうとしたがリヒャルトがリリーの頬に手を添え正面を向かせる。

彼らはリリーをここに来るよう指示を出したジョンを睨んだ。だから食堂の人数が少なかったのか。自分達にも言ってくれたらその時間にここへ来て彼女と昼を共に出来たのに。

可愛い部下達からの睨みをジョンはニコニコと笑顔で受け入れていた。

「じゃあ早速始めようか!ユリウスVSウィルフレッドにする。両者前へ!」

え?いきなり?と周囲の騎士達はどよめいた。
普段の模擬戦は新人同士複数での組合から行われ、ユリウス等隊長各は後半に行われるのが大半だ。しかもユリウスとウィルフレッドとの対戦を見れる機会等殆どない。ユリウスは名剣士であるが影の訓練を受けたウィルフレッドの腕前は予想が出来ない。何せあの魔獣ビッグウェーブの時に数多の魔獣を討伐していたのだから。

「今日は特別ゲスト呼んでるから隊長クラスとその他少数って事で他の子達は見学してね」

ニヤニヤといやらしい表情をしているジョン。今日は彼にとってリリーに相応しい男を見極める良い機会なのだ。欲を言えば女を取り合う男の喧嘩を見てみたいと邪な感情を抱いている。だから敢えてリリーの弟子でもある五人と新たにリリーを狙う男との組み合わせにしたのだ。

ユリウスとウィルフレッドが前に出た。両者視線をぶつけ合っている。今日はリリーが来ているからかっこ悪い姿を見せる訳にはいかない。

そして試合が始まった。
今回の模擬戦では本物の真剣を使用している。剣戟の音が響き渡りお互い一歩も譲らない。ユリウスもウィルフレッドもかなりの強者だ。二人の戦いを見ているジョンは瞳を輝かせた。


なんて、なんて素晴らしいんだ!
この二人がずっと自分の騎士団に所属してくれたら間違いなくこの国一の・・・否、世界一の騎士団になれる!

周囲の騎士達も二人の戦いに興奮し、どちらにも声援が送られていた。

暫く戦いは続き、両者の体力が削られる。
ほんの一瞬、ユリウスに隙が出来た。その一瞬を見逃さなかったウィルフレッドが間合いを攻め攻撃し、ユリウスが握っていた剣を上空へ飛ばした。

お互いが肩で呼吸し投げ落とされた剣を見た。
負けを認めたユリウスは礼儀正しく騎士礼をウィルフレッドに送り頭を下げた。潔いい彼の対応に拍手を送ったジョンは次いでウィルフレッドを称えた。

ウィルフレッドは勝てた喜びからベンチを見るがそこにリリーの姿が無く唖然とする。どこへ行ったのかと視線をあちこちに向けると、彼女の気配を正面に感じた。


目の前にはユリウスに寄り添い彼の肩を叩き慰めるリリーがいた。


一瞬で血の気が下がり、一気に上昇した。

勝ったのは自分なのに。


「俺が勝ったのにどうしてそっちに行くんだ!」


カッとなったウィルフレッドの怒号が響いた。驚いたリリーはウィルフレッドを見上げる。

「狭量じゃないかな」

ユリウスの言葉が更に彼の怒りに触れた。

リリーと視線を合わせたウィルフレッドは眉間に深く皺を寄せると、背中を向けて会場の外にある大木の裏に行ってしまった。


リリーは美味しいお昼ご飯とクッキーをくれた礼を兼ねてウィルフレッドに対し凄くいい戦いをしたユリウスに頑張ったねと伝えたくてこの様な行動をとったのだが、それがウィルフレッドを怒らせてしまいどうした事かと首を傾げた。

どうしてあれでウィルフレッドが怒ったのか分からないが、ほっとくのも違うと思い彼を追った。

ウィルフレッドは近付いてきたリリーの気配を感じると彼女と逆の方向を見て視線を合わせない。


褒めて欲しかった。
彼女の為に戦ったのに自分よりも先にユリウスへ行った彼女が許せなかった。

幼稚なのは分かっているが、今はこの感情を整理出来ない。近付いて来ないで欲しい。あっちに行って欲しい。独りにしてほしい。


嫌悪感を剥き出しにしてもリリーはウィルフレッドに近付き腕組みをしている彼の腕をつついた。

「ウィルが勝つって知ってた」

だから来なかったと言うのか・・・そんな言い訳聞きたくない。

相変わらずこちらを見ようとしないウィルフレッドに負けじと食らいつくリリー。

「ウィルが喜びそうなの覚えてきたの。座って?」

「・・・・・・。」

いったい何なんだと気になったウィルフレッドは未だに胸のムカムカが治まらないままその場に座った。リリーはウィルフレッドの足の間に体を入れるといい声で鳴いた。

「わん!」
「・・・・・・。」

リリーが思うウィルフレッドが喜びそうな事。それは、犬の真似だ。以前猫派よりも犬派だと言っていたウィルフレッド。彼女はたまたま街で子犬と子供がじゃれている姿を目撃しこれはウィルフレッドが喜びそうだと観察していたのだ。

あの時の子犬が子供にしたのと同じようにウィルフレッドの頬に自分の頬を当て擦り付ける。鼻先も当てチロチロと舐めた後に笑顔で「わん!」と鳴いた。

どうだ!嬉しいだろう!と上目遣いをしながらドヤ顔で見上げたリリーを見たウィルフレッドは無言で彼女の頭や顔をわしゃわしゃと撫で回した。まるで本物の犬と接するように。これは犬だと思われただろうと満足したリリーは撫でられて喜ぶ犬のように顔をその手に預けた。

「心配で来てみたら何を戯れている」

不意に上から声が掛けられた。
ルークが様子を見にやって来ていたのだ。
彼はウィルフレッドからリリーを引き剥がすと彼女を抱えた。

「・・・私には何の動物をしてくれる?」
「今は猫か犬しか出来ないよ」
「・・・ふん。今度犬をやってもらおう」

わかったと頷いたリリー。
ルークは少し羨ましかったのだ。

見られたウィルフレッドは先程までの感情が無くなり立ち上がってルークに抱かれたリリーに向かって両手を軽く広げる。

「俺が飼い主」

だがルークは尻目にウィルフレッドを見るとふんっと背を向けて会場へ進んだ。

「いずれ私が飼い主だ!」

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