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第三章
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しおりを挟む「オリヴァーVSエレン前へ!」
指名された二人が会場へ上がる。先程のユリウスとウィルフレッドの戦いよりも険悪な雰囲気の二人。しかも両者の距離が近い。二人は誰にも聞こえない声量で会話をしていた。
「負けた方がリリーから身を引くというのはどうですか」
「その言葉、忘れるなよ」
エレンからの賭けの提案に乗ったオリヴァーはニヤリと口角を上げた。
そして、二人の戦いが始まった。
二人の一撃の重さが凄い。激しい攻防戦だ。
普段笑顔のエレンも真剣に、険しい表情で戦っている。二人の強さは互角くらいか。リリーはふむ。と顎に手を当て考えた。あのオリヴァーという男なかなかやるじゃないか。このままではエレンが負けるんじゃないかと心配になる程に。
だがこの戦い、エレンには負けられない理由があった。貴族パーティから目をつけられ、事ある毎にリリーの情報を得ようとするオリヴァー。彼自身は嫌いじゃなかったがリリーに対する視線が嫌だ。彼はきっとリリーに本気じゃない。普通の女性と違う物珍しいタイプに興味が沸いただけだ。そんな男にリリーは渡せない。そんな男のせいでリリーを諦めたくない。
オリヴァーも負けたくはなかった。
人生で初めて一目惚れをした女性を諦めたくなかった。まだまともな会話が出来たのも先程の昼のみ。紅茶を渡した時に見せてくれた笑顔がまたみたい。もっと彼女を知りたいと思う。
ガキイィンッ ザザッ
エレンは渾身の一撃をオリヴァーに食らわし彼に膝をつかせた。負けを認めさせる為に肩に剣を起き見つめる。
オリヴァーは悔しそうに奥歯を噛み締めた。少しの間が経ち、彼はグッと眉間に皺を寄せ騎士礼をエレンに向けた。エレンは戦ってくれたとこに対し礼を言うと、急いでリリーに駆けつけた。
先程のウィルフレッドを見て学んだエレン。自分よりも先にオリヴァーの元へ行かれたらたまったもんじゃない。彼女には自分から積極的に行かないとダメだんだ。だからエレンは相手を不快にさせない礼儀を取り、直ぐにリリーの元へ向かった。
ベンチに座っていたリリーを抱き上げ、体を密着させクルクルと回っている。
勝てた事がそんなに嬉しかったのかと全身で喜びを表現しているエレンの姿にクスクスと笑うリリー。だが次第に目が回ってきた。
「エレンっ・・・目が・・・回る」
ピタッと止まったエレンは密着させていた体を少し離した。グルグルと目が回っているリリーを見て微笑むエレン。リリーはそんな目の状態でも力の出ない手でエレンの頭を撫でた。
好きだよリリー。
エレンはギュッと彼女を抱きしめた。
***
「次はチーム戦ね。リヒャルトとルークVS第四・第五部隊隊長!前へ!」
始まった四人の戦い。
圧倒的にチームプレイが良いリヒャルトとルークが圧勝した。影の訓練で前衛、中衛、後衛の訓練をしていた為距離感や攻撃のタイミング等阿吽の呼吸で猛攻する二人の攻撃を防ぐ事が出来ず、二人の隊長があっという間に倒されてしまったのだ。
パチパチと戻ってきた二人に拍手を送るリリー。絶対に勝てると思っていたがここまで圧勝するとは思わなかった。凄く出来の良い教え子にリリーは内心で興奮していた。これはご褒美物だと喜んでいる。
「ご褒美あげる」
「何くれるの?」
「金貨?」
「それご褒美にならないよ」
「出来ることならなんでもするから考えといて?」
リリーの何でもする発言にリヒャルトとルークは口角を上げて喜んだ。
彼らのご褒美は後日もらえることとなる。
***
「ノエル、君が例の騎士としちゃう?」
ニヤリと笑ったジョン。例の騎士と言うのはリリーの顔面を蹴飛ばした男のことだ。ノエルは不敵な笑みを浮かべて頷いた。
「喜んで」
ノエルVS顔面蹴飛ばし男が前に出た。
頭の中央を刈られていたはずの蹴飛ばし男はその頭を全剃りしていて見ていて気持ちがいいくらいのツルツルだ。
ニッコリと笑っているノエルに対し怯えている蹴飛ばし男は震える手で剣を握り締めた。
見るまでもない。ノエルの圧勝だろうと頬杖をしながら観戦をするリリー。
だがノエルは鬼だった。
とどめを刺さずにわざと痛めつけた。蹴飛ばし男が剣を落とすと笑顔でそれを手に取り彼の手に戻す。
「落としましたよ」
キンッ キンッ ゲシッ
「汗で滑っちゃいました?」
キンッ キンッ ゲシッ
「大丈夫ですか?まだ立てますよね?」
何度も繰り返される一方的な攻撃に耐えきれず降参ですと蹴飛ばし男が言いかけるとノエルは彼の口元に鞘を入れ発言出来なくさせる。
「僕のリリーの顔を蹴ったのに、まだ脚の一本も折れてないじゃないですか」
「ひいぃぃっ!!」
(((うわぁ・・・)))
蹴飛ばし男は顔面蒼白で泣きながら周囲に助けを求めた。これには流石にノエルの仲間も引いた。
リリーは蹴飛ばし男が可哀想とは思わないがこのままではノエルの評価が落ちるのではと思い止めることにした。彼女は立ち上がるとノエルに声をかける。
「ノエル、おいで」
それだけしか言っていないのに蹴飛ばし男はリリーがこの状況から救ってくれたと勘違いをし縋るようにリリーに近付こうとした。
「ああ!女神様が助けてくださった!」
女神じゃないし。助けるつもりもないし。
しれっとした視線を向けるが蹴飛ばし男はキラキラとした瞳をぶつけリリーに腕を伸ばした。
ギロッと彼女の周囲を囲っていた四人が彼を暗殺者のような視線で睨み、蹴飛ばし男は「ひいっ」と伸ばした腕を引っ込めた。
「ぐはあっ!!」
ぽーーんっ。
いつの間にかノエルが剣を収める鞘をバットにし、野球のスイングのように振りかざし蹴飛ばし男を場内に飛ばした。
べしゃりと場内に落ちた蹴飛ばし男は体を丸めて降参ですと白いハンカチをヒラヒラと振った。それを確認したノエルはリリーに抱きつき彼女の首筋に顔を埋めた。
よしよしと頭を撫でたリリーは「すっきりした?」と意味を込めて首を傾げ彼を見上げる。目が合ったノエルは熱が籠った瞳で微笑むと周りの騎士達に見せつけるかのように彼女の頬にキスをした。
物凄い五人の溺愛にリリーを諦めようと殆どの騎士達は頭を搔いたりため息を吐いたりしている。
二人を覗いて。
その二人とはユリウスとオリヴァーだ。ユリウスは彼女に触れられて羨ましいと見つめていた。オリヴァーはエレンとの賭けで彼女に自分の想いを伝えられない歯痒さから舌打ちをした。
「リリー俺と一戦どう?こっちに来なさい」
ジョンの指示を受けたリリーは五人から離れユリウス達の前に立っていたジョンに近付いた。必然とリリーに注目が集まる。こんな小さな女性が団長と一戦交わるなんて。
「大工呼んだから思いっきり体動かそう!」
親指を立てて騎士達とは違う集団を指さしたジョン。その方向に目をやるとゴリゴリタンクトップの筋肉マン集団がマッチョポーズをとっていた。
なるほど。だからジョンは武器を持ってこいと言ったのか。
騎士の模擬戦をやるから見に来てと言われたリリーだったが、その時になぜか武器も持ってこいと言われた。なんとなく予想はしていたがもっと動きやすい格好にするべきだったなと困ったリリー。
今着用している服はカジュアルなワンピースだ。動けなくないわけではないが戦うには動きづらい。
んー。と悩んているリリーを見たジョンはニッコリと笑った。
「その格好じゃ動きにくいでしょ。脱いじゃいなよ」
あ、いいの?
ガバッ
「「「ッ!?!?!?!?」」」
その場でワンピースを脱いだリリーはキャミソールとホットパンツ姿になった。肩も腕も腿も露出され体のラインがわかる格好にギョッと瞠目し驚き固まる騎士達。
「はい、バンザーイ。一周して?」
ジョンに言われた通り両腕を上げ一周した。
「うん。あっち向いて手をつま先に付けて?」
騎士達に背中を向け上体を倒しつま先にタッチしたが、リリーの桃尻が彼らに見られてしまった。
「うん。下着見えてないからセーフ!」
グッと親指を立てて周りの騎士達に良い笑顔を向けたジョン。ユリウスは顔を真っ赤に染めわなわなと震えている。
「「「アウトだろ!!!」」」
騎士五人が慌てて駆け付けリヒャルトが上着を脱ぐとそのままリリーに着せた。サイズがでかいから腿の付け根まで隠れてしまう。フーフーと呼吸を荒くしジョンに詰め寄る。
「団長なに考えてるんですか!」
「リリーにそんな事言ったら脱ぐに決まってるじゃん!」
「貴様も貴様だ!こんな男だらけの所で服を脱ぐな!」
叱責を食らった二人は彼らがどうしてここまで怒るのか分からず視線を泳がせた。
コホンッと咳払いをしたジョンはユリウス達の前に立ち彼らに向けてビシッと指をさした。
「いいかい?今見た通りリリーには胸がない!」
ドンッと堂々と発言したジョンに対し、おい。と睨み上げるリリー。そんな彼女の肩に手を置きジョンは慰めるかのような優しい口調で話した。
「リリー。世の中には巨乳じゃないとダメな男もいるんだよ。いざヤる時に胸の小ささで冷められたら酷い話じゃん。最初から言っといた方がいいと思わない?」
・・・なるほど。
胸にコンプレックスを抱いているリリーは妙に納得してしまった。戦いの為に髪をポニーテールに結んでいると顔を真っ赤にしたユリウスが立ち上がりジョンと向き合った。
「団長、今のような行動は今後やめて頂けませんか」
「え?なんで?」
「好きな人の肌を他の人に見られたくないじゃないですか」
「・・・胸のサイズクリア?」
「ぼ、僕は大きさなんて気にしません!」
ユリウスの意気込みにキラキラと瞳を輝かせたジョンは彼の両肩に手を置きグッと力を込めた。
「君は本気なんだね!よし。後で告白タイムを設けてあげるから!君ならリリーを任せられるし頑張って落としてよ」
「え?告白?・・・ま、まだ心の準備が・・・」
よーし体動かすぞー!とジョンは準備運動を始めてしまいリリーもあとに続いた。いきなり告白をする流れになってしまったユリウスは戸惑い、そんな彼を信じられないと言った表情で見る五人。
(どうしよう。好きな気持ちは変わらないけどまだちゃんとお互いを知れていないのに。僕のことを知ってから好きになってもらいたいのに・・・嫌われたくない。今日で終わりたくない!告白ってどうしたら成功するのかな・・・)
大太鼓が鳴っているように心臓の音がうるさい。そんな心臓を抑えながらユリウスはしゃがみ込み頭を抱えてしまった。
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