【R18】 その娼婦、王宮スパイです

ぴぃ

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第三章

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 影の室内訓練場の治療室へやって来た騎士五人。ウィルフレッドだけが手に花束を抱えていた。何種類もの黄色い花で統一されその中央にはリリーが好きなたんぽぽの花が密集している。一晩相手をしただけなのに花束を送るなんて重いだの仲間に文句を言われるがウィルフレッドは気にしない。

だが彼らの行く手を阻む男がいた。
影の医療班のリーダーである年配の男だ。
彼は治療室の扉の前で腕を組み仁王立ちしている。

「お前達は出禁と言っただろう!特に“泣き虫ウィル”は通さん!」

「なぜだ」

「足が震える程犯すなんて異常者だッ!リリーは薬抜きで安静にしなければならん。帰れ!」

「犯したんじゃない。愛し合ったんだ・・・ちっ。頑固ジジイ」

「ぬわぁにい!?」

「うわっちょっ!とばっちり!」

ビュンビュンと医療用ナイフを数多の本数投げつけられた五人は仕方なくリリーに会うことを諦めた。大人しくシルヴィの元へ行こうとしたが医療班のリーダーが盛大に咳払いをして注目を集める。

「その花だけ渡しておこう」
「・・・頼む」
「ふんっ花に罪はないからな」


 室内訓練場の隅に座り込むシルヴィに近付くと彼は尻目にウィルフレッドを睨み気だるげに話す。

「じゃあ今日は外周から始めようか。キラービースト捕まえてくるね。とりあえず十周。ウィルフレッドは十五周ね」

「公私混同だ」

ウィルフレッドの文句にふんっと顎を返しそっぽを向いたシルヴィは今日一日ウィルフレッドにだけ負荷を加えて訓練をした。

 訓練の終わりに治療室に寄るが再び医療班のリーダーにより拒否されてしまう。

「俺が会い来た事を伝えてくれ」

「“僕達”が会い来ていたと伝えてください」

自分だけ来た事を伝えようとするなんてとノエルが僕達というワードを強調した。

早く彼女に会いたい。
そう願うのにその日五人は突然騎士団に呼ばれた。


 呼ばれたのは五人だけではなくジョンが率いる騎士団の第二から第四隊長達も呼ばれていた。もちろんそこにユリウスもいる。普段穏やかな彼なのだがウィルフレッドの姿を確認すると冷ややかな表情を向けた。しれっとした表情でジョンを見ると彼は真剣な面持ちで部下達を見る。

「北部に魔獣が多数出現し出動要請を受けた。突然だが今から準備し遠征に向かう。期間はおよそ一週間程度だが延びる可能性がある。部下達にも早急に命じてくれ」

「「「はっ!」」」

・・・一週間。
その間彼女に会えないのは辛いが仕方がない。
頻繁に手紙を送ろう。



***


 騎士団の出動要請から三週間が経過した。当初の予定では一週間程だったが魔獣の出現元である穴が見つからず次々と現れる魔獣に苦戦した。やっとの事で穴を塞ぎ終えるまでに三週間もの日を要した。数通リリーに手紙を送ったのだがその手紙は無事に届いているだろうか。不安になりながらもやっと会えると期待し帰路につく。

王都に着き騎士団寮にある自室に荷物を起きシャワーを浴びた。身支度を整え五人でリリー宅に向かう。その途中で花束を購入した。久しぶりに会える喜びから自然と口角が上がってしまう。

彼女の家にたどり着き玄関の扉をノックする。

コンッ コンッ ガチャッ

「はーいどちら様・・・い、イケメンだー!」

「「「・・・・・・。」」」

リリーの家から現れたのは見知らぬ平民の女性だった。

「え!?今日誕生日だったっけ?何このサービス!誰からのプレゼント!?」

一人興奮している女性を他所に頭上に?を浮かべた五人。ここはリリーの家で合っているはずなのに・・・この人は誰だ?

「すみません。ここはリリーの家ですよね?」

申し訳なさそうに話しかけたノエルに対しその女性はきょとん顔で首を傾げた。

「リリー・・・?ああ!前居住者の方ですね!先月末までに退居して私が新しく引っ越して来ました!家具も全部置いていってくれて大変助かります!あ!その花束は入居祝いですか?ありがとうございます!」

笑顔を浮かべウィルフレッドが持っている花束を抱えた女性は嬉しそうに花に顔を埋めて匂いを嗅いでいる。

・・・リリーが引っ越した・・・?

「その人の引っ越し先知っていますか?」

「んー、さあ?分かりません。あ!よかったらお茶しませんか?どうぞ中にお入りください!」

「・・・いえ、結構です」

呼び止める女性を無視して混乱状態の五人はそのまま影の訓練場へ向かった。

引っ越した?そんな話聞いてない。
いったいいつ、どこに引っ越したんだ。

 影の室内訓練場に入りシルヴィの姿を見つけると五人は直ぐに彼に詰め寄った。

「あれ?今日は訓練ないはずだよー。遠征おつかれー」

呑気に欠伸をしながら喋るシルヴィに切羽詰まった様子の五人。

「リリーいつ引っ越したの?」
「引っ越し先は?」
「今どこにいる?」

「ちょ!落ち着いてよ!リリーさんもう辞めたからここにいないよ。今頃まったり生活してるんじゃない?」

「「「・・・・・・はあ?」」」

「あ、君達の後任は僕だからこれから厳しくいくよ。そうだコレ見てよ!リリーさんが書き留めた君達のノート!こんなに分厚いの渡されて読む気ないんだけど大事にされてたのが分かってちょっとムカつく~」

ハンバーガーくらいの分厚い本を見せてきたシルヴィ。今はそんな事どうだっていい。リリーが仕事を辞めた?ここにいない?どういう事だ?理解出来ない。

「彼女はどこだ」

「だ・か・ら!リリーさんは仕事辞めたの!一年以上も前から決まってた事だし・・・あれ?もしかして言ってなかったっけ?」

「初耳だ」

「あー最初言う必要無いと思ってからなー。もうここに来る事もそうそう無いだろうし忘れちゃいなよ」

ここに来ることはない・・・忘れろだと・・・?

突然の虚無感と喪失感に襲われ力なく腕をぶら下げた。信じられない。何も言わず消えるなんて・・・。この喪失感は娼館の時以来・・・いや、あの時以上だ。

「・・・リリーは僕達の事なにも言ってなかったの?」

エレンの言葉にんーと考えたシルヴィは何かを思い出しパンッと手を叩いた。

「手紙預かってたの忘れてた!」

ごめんごめんと平謝りしながら彼ら宛に預かった手紙を取り出したシルヴィはコホンと咳払いをしてその内容を読み上げた。

“ 貴方達はもっと強くなれる
 一緒に過ごした時間すごく楽しかった
 これからの活躍を期待してる
 ありがとう  お元気で
                                    リリー”

「・・・これだけ?」

「え?リリーさんにしては長文だと思うけど・・・あっちょっと!」

リヒャルトがシルヴィから手紙を奪いまじまじと内容を見つめた。本当にそれだけしか書かれておらずグッと眉間に皺を寄せる。

「リリーの居場所知ってるんでしょ?教えてよ」

このシルヴィの事だ。リリーの居場所を知らないはずがない。リヒャルトは真剣に聞いているのにシルヴィはあざと笑うかのように笑顔を向けてきた。

「し~らなあ~い。王都から離れた場所って事だけ知ってる。妹ちゃんと暮らす予定のとこだから影にも知られたくないんじゃない?穏やかに過ごしたいって言ってたし」

リヒャルトはグシャッとその手紙を握り潰した。

「・・・上等じゃん。こんな手紙だけで済ませようなんてッ舐めすぎでしょ・・・文句言ってくる!」

「え?リヒャルト!?」

手紙を投げ捨てたリヒャルトはその勢いのまま影の訓練場を飛び出した。残った四人は喪失感に襲われたまま床に転がる手紙を見続ける。



いなくなった。もう会えない。

その現実が胸に突き刺さる。

猫みたいだったリリーは本当に猫なのかもしれない。

懐くまでに時間が掛かって、懐いたと思ったら離れる。こっちの気持ちなんか全然考えないで自由に行動する。

悲しい。寂しい。辛い。

その思いとは裏腹に段々と怒りが込み上げてきた。

こんなに想わせといていなくなるなんて。
なんの前触れもなくいなくなるなんて。
なんて・・・なんて自分勝手な人なんだ。


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