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第三章
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しおりを挟む遡る事数週間前、騎士達が遠征に出て数日が経った頃。
王都から離れたまあまあな大きさの街はずれにある一軒の大きな家の中にリリーは居た。その家は赤い屋根に煙突が突き出ていてまるでアメリカンカントリー調の可愛らしい家だ。
一階には広いリビングとキッチンやトイレ、そして大人三人は余裕で浸かれる程のバスタブと広々としたバスルームが備えられている。二階には個室が幾つもあり、その内の一番広い部屋を自室の寝室に使用していた。
今日からリリーは独りこの家に住む。
元々は妹のナターシャと暮らすために購入した家。将来の資金を貯め終えたリリーは影の仕事を辞めた。仕事を辞めることは一年以上前から決まっていたことだ。ナターシャが亡くなったことでまだ仕事を続けてもいいとも思ったが子供の頃から働き通しで休みたくなってしまった。これからはハンターライセンスを取得し街にあるギルドで小遣い稼ぎをしながら穏やかに生活をするつもりだ。自分が働きたい時に働けばいい。なんて素敵なライフスタイルだろう。
ハンターライセンスとは言わばハンターと言われるなんでも屋だ。魔獣討伐依頼を受けたり、農作物の収穫を手伝ったりして報酬を得る仕事だ。
この家に似合う家具も揃えよう。
可愛すぎないけど落ち着くようなナチュラルな家具で統一して庭には花も埋めて育てるんだ。
心機一転、新居に引っ越したリリーはこれからの生活に期待を抱いた。
あ、そうだ。ユリウスに手紙を書こう。
まだ家具を揃えていないリリーは床に紙を置くとサッと一筆書いた。
“ いつでも来てね リリー ”
うん。よし。
満足気に手紙をカバンに入れ街に出かけた。
まず先に郵便局に手紙を出した後ギルドに向かった。ギルドに入ると女のハンターは少ない様で男達の視線がリリーに向かれる。ギルドの受付嬢にハンターライセンスの取得を伝えると直ぐに受け取ることが出来た。
ハンターライセンスのカードは身分証代わりにもなる。
現地点でのハンターランクはFランク。
ハンターランクとはFからAに階級を上げることが出来る。Aの次はS→S+→S++→S+++。そして最高ランクが“ギルドマスター”だ。
たしかジャックとジョンもハンターライセンスを取得していて、彼らの階級はギルドマスターだった気がする。
「あちらの掲示板が現在受付中の依頼です。依頼書の隣に紙札がございますのでご希望の依頼を受けたい場合はそちらの紙札を持って受付までお越しください。また、その隣の掲示板がパーティー募集です。他のハンターと協力して依頼を行いたい、又は募集を掛けたい場合はそちらをご利用下さい」
なるほど。
依頼中の掲示板を見ると作物の収穫や魔獣討伐依頼等が掲載されていた。依頼書には推奨ランクも掲載されていて自分に合った依頼を受けることが出来る。
リリーはピタミラビッド三十匹の討伐依頼を受付に申請した。しかし受付嬢は瞠目し両手を広げ拒否をする。
「こちらはCランクの依頼となります!お嬢様にはまだ危険なのでお受けする事は出来ません」
ピタミラビッドとはウサギにツノを生やした小型魔獣だ。何度も狩った事があるし食べたこともある。リリーにとってはFランクの仕事と言ってもいいだろう。
「大丈夫」
「し、しかし・・・!」
「大丈夫」
「・・・か、かしこまりました。途中棄権も可能ですので危険だと察したら早急にお戻り下さい。時間は無制限。ピタミラビッドの角だけ回収して下されば依頼完了です。残りの皮や肉をあちらの売買所で売り買いも可能ですので是非ご利用下さい。それではご健闘をお祈り致します」
ギルドから出て早速依頼をこなしに向かうと思いきやリリーは街中を散策し始めた。
今回の依頼は時間制限がない。
ギルドは二十四時間営業だ。
だからまだ店が運営している間に家具を買いに行く計画だ。
家具屋に着いたリリーはカタログと展示されている実物を見て悩みに悩み抜きナチュラルウッドで統一された家具を購入した。やっぱり木目調が可愛い。ファブリックはまた明日にしよう。
台車を購入し一人でピタミラビッド討伐へ向かった。影で働いていたリリーにとってピタミラビッドの討伐なんて目を瞑ってでも出来る作業だった。あっという間に三十匹倒しツノを確保した。無駄にならないよう皮も剥ぎ取り血抜きをして食用に加工する。ここまでしたら結構時間が掛かってしまった。早く帰ろうとしたがピタミラビッドの肉を求めて中型のイノシシモドキがこちらを睨んでいる。イノシシモドキとはその名の通りイノシシに似た獰猛な魔獣だ。
そういえば掲示板の依頼にイノシシモドキの討伐もあったな。一頭だけで推奨ランクはA・・・狩るか。
弱肉強食の世界が反転したイノシシモドキは狙う側から狙われる側になり狩人の目つきになったリリーに怯え、逃げるが呆気なく昇天してしまった。
ギルドに戻り収穫物を見せると受付嬢や周囲に居たハンター達は驚愕し口を大きく四角く開け目玉が飛び出した。
それもそのはず。今日ハンターライセンスを取得したばかりのぺーぺーがいきなりAランク級の依頼をこなしてしまったのだから。しかもか弱そうに見える女性なのに。
「お、お疲れ様でした!ピタミラビッド三十匹分のツノを確認しました!イノシシモドキも同時依頼達成にしますね!リリーさん期待の新人ですね!ハンターランクをCランクに飛び級させて頂きます!」
おおッ!いきなり飛び級かと動揺する周囲だったがリリーはまだCなのかと残念に思っていた。
「お嬢ちゃんすげえな!今度俺とパーティー組んで依頼受けようぜ!」
「この依頼ぜひ貴女と一緒に受けたいです」
「俺とも頼む!」
様々なハンター達から声を掛けられたリリーはこの日以降、家具やインテリア雑貨を揃えつつ、ある時は単独で、またある時はパーティーを組んでハンターとして生活を続けるようになった。
そんな生活を続け約二ヶ月後。
家具家電インテリア雑貨を揃えたリリーは満足気に自慢の家からギルドに向かって出発をした。今日は単独で魔獣でも狩ろう。そう思いキングスネーク討伐の依頼を受けた。キングスネークとは文字通り蛇なのだが、その姿は大木一本分程の巨体で猛毒を持っている。推奨ランクはSランク。リリーは既にAランクまで階級が上がっていた。
キングスネークの討伐はやはり簡単なものだった。今回の依頼は討伐し毒袋を回収する事。医者の研究として使うらしい。キングスネークの腹を刀で裂くと急激な気持ち悪さがリリーを襲った。
うッと堪えるが堪らず吐いてしまう。
キングスネークの毒にやられたのか?
その割には頭のふらつきや目眩がない。
内臓の見た目や血の臭いが気持ち悪い。
何度もえずきながら毒袋を取り出した。
もしかしたら毒にやられたのかもしれない。念の為に医者に診てもらおう。
ギルドに依頼達成の報告をし終え街中にある医者に診てもらったリリー。毒にやられたかもしれないのに医者のオジサンはニコニコと笑っている。
「おめでとうございます。妊娠してますね」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・え?」
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