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第三章
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しおりを挟むパクパクと口を開け結婚証明証を指さしながら信じられないと言った面持ちでリヒャルトを見たリリー。リヒャルトはニカッと満面の笑みを浮かべている。その笑顔を見たリリーの頭上には沢山の?が浮かび大混乱だ。
・・・待てよこの結婚証明証は偽物なんじゃないか?ドッキリか!
疑問を抱いたリリーは結婚証明証を指差しながらリヒャルトを見た。
「ドッキリ?」
「んなわけないじゃん」
「え?だって証明書にサインしてないよ?」
「昨日したじゃん」
結婚する際には結婚証明書にサインをしなければならない。でもリリーはそんなサインをした覚えがなかった。それなのに彼はしたと言う。
・・・・・・ハッ!まさか昨日目を瞑って名前を書いた時に紙を入れ換えられた・・・?
「さ、詐欺だ!!」
ビシッと指をさして叫ぶリリーの姿が面白いのかリヒャルトはニコニコと笑っているだけだ。
「え、え?わ、私のお腹には赤ちゃんがいるの。お、お腹の子はリヒャルトと血が繋がってないんだよ?」
「関係ないよ。その子はもう俺の子だから大事に育てる。一緒に育てようよ。リリーがママで俺がパパ」
「し、仕事は?こ、ここ、ここから王都までかなり距離があって」
「ハハッ動揺しすぎ。仕事は辞めたから気にしなくていいよ」
「え!?やめ、やめた!?」
騎士団長ジョンの執務室から勢いよく飛び出したリヒャルトだったが、いつリリーを見つけられるか分からなかった。だから殴り書きした辞表をジョンのテーブルに叩きつけて探し始めたという。
「にゃ、にゃんで!?騎士として強くなりたかったんじゃ」
「・・・俺、金稼ぐついでに強くなりたかったんだよね。騎士が都合よかっただけで団長に声掛けられなかったらハンターになるつもりだった。だから騎士に未練はない・・・逃げちゃった大事な猫捕まえるの大変だったけど、もう手に入れたから今満足」
「??!?」
リリーをお姫様抱っこし一緒にソファに座ったリヒャルトは真剣な顔をしてリリーを見つめた。
「俺ずっとリリーが好きだった。これからもずっと好き。離したくないしそばに居てほしい。結婚しよう」
ちゅっと固まるリリーの唇にキスをする。
「もうしちゃったけど」彼女の耳元で囁いたリヒャルトはギュッとリリーの首元に顔を埋めた。
「どんだけ時間が掛かってもリリーの中の特別な男になる。好きにさせる。一生大事にする。だから俺を見て?んで、リリーが良かったらいつか俺と血が繋がった子も産んで欲しい。もちろん今の子もめちゃくちゃ大事にするから」
それは懇願にも近かった。
何も言わないリリーに不安になったリヒャルトは顔を上げ様子を伺うと、リリーは今まで見た事がないくらい顔を真っ赤にし上下の唇を噛み締めていた。
「・・・やっと意識してくれたんだ」
リリーの反応を見たリヒャルトは口角を上げた。
「これからよろしくね。奥さん」
頬にキスをし、抱き締め、温もりを感じる。
やっと手に入れた大事な存在をかみ締めるかのように強く抱き、うるさく鳴る自分の心臓に彼女の耳を当てた。高鳴る心臓の音が耳から聞こえたリリーは更に顔を赤く染め本気なんだと実感する事が出来た。
リヒャルトのプロポーズから暫く時間が経ったがリリーはずっと顔を赤くしたままソファから動かない。熱でも出したのか?リヒャルトが額に手を当て体温を確認するが発熱したわけではないらしい。
「おーいリリー?リリーさん?リリーちゃん?」
そろそろお昼ご飯の準備をしようと思っていたリヒャルトだったが、動かないリリーの様子が気になる。
リリーは額に当たるリヒャルトの手を握り胸元に持っていくと、彼の指先をもじもじと揉みながら恥ずかしそうに見上げてきた。
・・・なにこれ可愛いんだけど。
「リヒャルトは本当に私でいいの?その・・・結婚てずっと一緒にいるってことでしょ?」
「当たり前じゃん。自分でもびっくりするくらい執着心強いみたい。騎士の仕事辞めてずっと探すとかヤバくない?」
アハハと笑うリヒャルトはこうやって恥ずかしそうにするリリーも悪くないなとニヤついた。
「お昼ご飯何がいい?」
「・・・お肉食べたい」
「おけー。肉よく焼きね。作るからちょっと待ってて」
「一緒に作る。サイドメニュー何がいい?」
「無理しないでよ?んーポテトにしよっかなー。体にいい物食べないとだしあとはサラダとか?」
「わかった」
二人でご飯を作って二人で向かい合って食べた。・・・仲良しか?仲良しだな。
ご飯を食べ終えたリリーは眠くなり目を擦る。
「俺洋服とか買いに行くから家でゆっくりしてて?何か買って来て欲しいのある?」
「・・・夫婦についての本が欲しい」
「プハッわかった。行ってきます」
「い、行ってらっしゃい」
唇にキスをしたリヒャルトは笑顔で出かけた。
行ってきます。行ってらっしゃい。
当たり前の言葉なのになんでこんなに照れくさいんだろう。
昼寝をしたリリーは自宅の屋根に上り空を見上げながらリヒャルトを思っていた。
ボーッと長時間流れる雲を見続けながら赤ちゃんがいるお腹を擦る。
どのくらい時間が経ったのか分からないが下が騒がしい。リヒャルトが帰ってきたのだろうか。
「リリー!リリー!?」
あ、やっぱりリヒャルトだ。
何をそんなに騒いでいるんだろうと屋根から顔を出し、開いている玄関を見下ろした。
「リヒャルト」
名前を呼ぶと家から飛び出した彼は屋根に居るリリーを見付けて瞠目している。
「どうしたの?おいで?」
身軽な動きで屋根上に上がったリヒャルトの表情はすごく怒っていた。
居なくなったと思った。
また消えたと思った。
リヒャルトは怒っているというよりも怖くなった。帰宅したら家の中にリリーが居なかった。結婚したのに居なくなるなんて何の意味もない。もう二度と離れないでほしい。家中を移動出来るほどの長い鎖で繋いでしまおうか。そこまで考えてしまう程にリリーを失いたくない気持ちが溢れる。
「リヒャルトあのね、話を聞いてほしい」
「・・・なに?」
ドス黒い感情のままリリーを見たリヒャルト。今すぐ彼女の腕を引っ張って家中に閉じ込めたい気持ちを抑え、真剣な表情をしているリリーを見つめた。
「・・・私は異性の好きがずっと分からないまま生きてきた。今のこの気持ちが特別なのか自分でも分からない・・・でもリヒャルトを大事にしたい気持ちが強くなった。私なりになっちゃうけどこれからは、少しでもそう思ったら言葉にしたいと思う・・・リヒャルト、好き。リヒャルトのこと好き。私を選んでくれてありがとう。本当はひとりで不安だったの。でもリヒャルトがそばに居てくれるって言ってくれて、すごく嬉しかった。好きだよ」
思った事を素直に伝えた。彼が満足するかはわからないけど大丈夫だろうか。
誰かにこんな気持ちをぶつけるのは初めてで、どんな反応をされるか怖くて視線を逸らしてしまう。
「はあ~」と盛大なため息が聞こえビクッと反応し、余計に不安になったリリーは俯いた。やっぱりこんな中途半端な気持ちじゃダメなんだ。どうしよう。
背後に回ったリヒャルトが脚でリリーの体を挟むように座り後ろから抱き締める。思わず顔を上げ振り返ると、すぐ近くにリヒャルトの顔があった。視線が合うと照れ隠しなのか目を逸らされた。
「・・・めっちゃ嬉しい。もう絶対、離さないから」
綺麗な夕焼け空が二人を照らし、見つめ合う同系色のその瞳には熱が篭っていた。
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