【本編発売中】天災少年はやらかしたくありません!スピンオフ Stories

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Side Episode 01 グレンの大冒険

第20話(別れ……そして始まり)

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 翌日の朝、ランスロットと冒険者たちは、この住居を出て行った。アルカードと言う子供と数人の人間ニンゲンが残っているようだが、アルカードは寂しいのか、俺たちに付きっきりだった。
 寝るとき以外は、ほとんど俺たちと一緒にいる。食事も俺たちのいる部屋で摂っていて、その食事の時に木の実や乾燥させた野菜や草を持ってきてくれる。
 そして俺たちが食べている姿を興味深く見たり、俺たちが毛繕いをしていると、横から手を出して撫でたり掻いたりする。手が届かない所を掻いてくれるのは本当に助かる。
 俺たちは夜行動することが多いため、昼は比較的寝る事が多い。何が楽しいのかわからんが、俺たちが不意に目を覚ました時にも、繁々と眺めているのを何度か見かけていた。

 世話をされて数日が経った頃、明り取りの窓から、騒々しい同族の声が耳に入ってくる。

「グレン、この声!」
「あぁ、オサムネたちだ!」
 俺とフランは寝床が置いてある机……人間が作業をするのに便利な家具から飛び降りて、扉……部屋を区切る板の前に行く。

「仲間が来たみたいだよ!」
 俺たちが扉の前に行くと、アルカードの足音が近づいてきて扉が開く。
 人間の言葉はわからないので何と言っているか不明だが、ランスロットが出かける前に、我々の仕草と人間の身振り手振りの説明を伝えあっていたお陰で、何となく主義主張が判るようになっている。

 アルカードが掌を差し出してくる。出たらダメなときは、掌を前に出して壁のようにするが、連れて行ってくれる時は掌を向けて、俺たちを乗りやすくしてくれる。
 俺は掌を踏み台にしてアルカードの肩に乗り、フランは掌の上に乗る。するとアルカードはフランを大事そうに包み込むと、俺が肩から落ちないようにゆっくりと立ち上がり、嬉しそうに走り出す。

「父さん!母さん!」
「お前たち!!」
 外に飛び出したアルカードと俺がほぼ同時に叫ぶ。

「おぉ、アル。戻ったぞ」
「ただいま。アル」
 レイオットとクリスティーナがアルカードに笑いかける。

「グ……グレンのアニキっ!!」
「グレン陛下っ!!無事でよかったっス!」
「フ、フラン様っ!!」
「グレン陛下、無事でよかった・・・チュー」
「おぉぉぉぉぉ!グレン陛下!よくぞご無事で!!」
 オサムネ、コジューロー、号泣するジェームズ、アルゴチュを筆頭に、名だたるシス王国キングダムの重鎮たちが俺たちの姿を見て歓声を上げる。

「ふぅ、ありがとうございました、主様。これで我が王も安心したことでしょう」
「いやいや、お安い御用ですよ」
 ランスロットはシグルスに丁寧に頭を下げると、シグルスが笑みを浮かべ、ランスロットの背中を撫でつける。やはり、俺とフランの為に、無理を言って国民を連れてきてくれたようだ。

 俺はアルカードの肩に仁王立ちになりながら、零れそうになる涙をこらえる。仁王立ちになった俺を見て、皆は何か言葉を掛けてくれることを察知したのか、黙って整列し、俺の言葉を待つ。

「よくぞ!よくぞ、生き残ってくれた、皆!!我は嬉しく思う。そしてこの困難に生き残り、そしてここまで馳せ参じてくれた皆を誇りに思う!!そして我はシス王国キングダムに戻り、皆と共に再建を果たしたい……」
 俺は誇らしく皆を称えるが、そこで言い淀んでしまう。

「はははははっ!我らが無二の偉大なるグレン王よ!!話はランスロットから聞いてたぜ!」
「オサムネ……」
「正直言やぁ、寂しいぜ?だが、王には王の役目がある。世継ぎを残してシス王国キングダムの繁栄を約束するっつー役目がな!」
「そうっスね。あっしらも肩身が狭かったんスよ?陛下に御子が出来ないのに、あっしたちはパカパカ跡継ぎを増やしていたことをっス。それに陛下はみんなの幸せを守るために、常に最前線で戦ってたっス」
「気に食わぬが……フラン王妃を幸せにし、ベルジュ王国の血を絶やさぬためには……」
 オサムネ、コジューロー、ジェームズが言い淀む俺の背中を押す。

「我々も同じ思いです!ですが旅立ちの見送りをさせて頂きたいと、志願して連れてきてもらったんです!!我ら一同、陛下が新天地に向かう事に、一片の異論もありはしません!!」
「お、お前たち……ありがとう」
 続いてこの場にいる全員から、そのような強い意志と同意が返ってきて、俺は皆の想いに頭を下げる。

跳びネズミラニーってなんか凄いね」
「あぁ、人間でもこうはいかない。とんでもない統率力だな……」
 俺たちのやり取りを見ているアルカードとレイオットから言葉が漏れる。

「明日の朝には、グレン陛下は発つそうだ。今晩だけは皆と一緒に居られるという事だから、食べ物を用意してもらった。最後の機会になるかもしれないから、悔いの無いように十分に陛下と懇親を深めてほしい」
 ランスロットが皆にそう締めくくると、その晩は夜通しの宴席となった。この夜の事は、一生涯忘れないだろう。

 次の日の朝、長い間家を空けられない理由があるレイオット、クリスティーナ、アルカードと共に、馬車でこの地を発つことになった。シグルスとゴルドーは密猟者ミツリョウシャ討伐の報告を行う為に、ここで別れるらしい。
 つまりは俺たちとランスロットもここでお別れだ。

「ランスロット。お前には生まれてからずっと……特に国を飛び出してからは散々迷惑をかけたな」
「なんの、迷惑だなんて。凄く充実して楽しい日々でしたよ。グレン様」
「そうか、そんな忠臣のお前と別れるのは心苦しいが……」
「いやいや、これでグレン様のお守から解放されると思えば、羽が生えたように身軽……で、す……」
「……レンスロット。お前……」
「ラ、ランスロット……で、す。グ、グレン様……」
 俺たちはレイオット一家と共に馬車に乗り込み、ランスロットに目を向け、そして万感の思いで礼を述べる。その言葉に、いつも冷静なランスロットが肩を震わせながら答える。そして俺の双眸からも熱い何かが零れ落ちると、下腹部の文様が光る。感情が高ぶると光るようだコレ。

「ご、ご無事を、願って、おります」
「あぁ、お前も、お前も身体には気をつけろよ」
「私からも……ランスロット。いままでグレンをありがとう。貴方がいなかったら、私はグレンと知り合えていなかったと思うし、今日までこうして無事にいられなかったと思うの」
「フラン王妃……もったいないお言葉です。どうか、どうかグレン様と末永く……」
「えぇ、グレンは私が必ず。あとランスロットも幸せにね」
 震えるランスロットにフランも声を掛ける。そして、その頃合いを見計らったかのように、俺たちを乗せた馬車が動き始める。

「グレン様!今まで、今まで本当にありがとうございました!!」
「達者でな!アニキ!!また逢おう!!」
「フラン様っ!!どうか、どうか身体にはご自愛を!!」
「グレン陛下!万歳!!フラン王妃!万歳!!」
 皆から熱い言葉をもらいながら、馬車が遠ざかっていくのだった。



 そして1年が過ぎようとしている頃……

「キュィッ!キュィイッ!!」
 大きな鳴き声と共に、銀灰シルバーアッシュ色と白色を持つ赤子が産声を上げる。

「よくやった!フラン!!」
「父さん!産まれたよ!!」
 新たな生命を祝福する大きな声が、とある田舎の村の冒険者の宿に響く。

「私と、グレンの血をしっかりと引いているわ……」
 出産で物凄く体力を使い衰弱しているフランが、我が子を愛おしく見つめながら呟く。

「あぁ、間違いなく俺とお前の子だ」
「キュィー、キュィー」
 まだ目は開いていないが、”自分は産まれてここにいる”と主張するかのように鳴き声を上げる。本来数匹を身籠り出産するのが、跳びネズミラニーの常だが、数匹を身籠った場合、全て流産という結果になってしまっていた。そして滅多にないのだが、今回は何故か1匹のみ身籠り、そのせいか順調にお腹の中で成長し、こうして産まれてきてくれたのだった。

「俺とお前の血を引いた子供。お互いの名を取ってグランと名付けよう」
「グラン……良い名前ね。将来あなた以上の功績を上げそうな気がするわ」
「そうだな。我が息子には、広い世界を知り、俺より大きなことを成してもらいたいものだな」
「えぇ。そうね」
 俺たち二人はグランを見つめながら、未来に思いを馳せる。

「産まれたか!やったなっ!!」
「産まれたの?良かったぁー」
 レイオットとクリスティーナも、部屋に駆け込んできて祝福してくれる。

 良かった……シュツルムズィーゲン皇国を飛び出して。良かった……フランと知り合えて。良かった……仲間に恵まれシス王国キングダムを建国出来て。良かった……レイオット、クリスティーナ、アルカードと共に過ごせて。

 こうして、世界を変えていくことになる少年アルカードの、無二の親友であり相棒となるグランは、この世に生を受けアルカードと出会ったのだった。
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