上 下
24 / 28
Side Episode 02 友を守るために

第03話(生徒会長)

しおりを挟む
 期末試験が終わると翌日と翌々日は試験休みだ。この間に講師たちは、期末試験の結果および学期内の行動や実績を併せて、生徒達の評価を行う。それに集中しなければならないので、講義は全て中止となる。
 アル君はギリアムの件により、しばらく寮で大人しくしておくようにと通達があり、裏庭や訓練施設で鍛錬を行っている。本当は訓練施設も駄目なんだろうが、寮から近いし、あまり人目にも付かないだろうから、利用することにした。翠嬢も休みとあれば町に出たがるのだが、アル君と一緒に寮に残ってくれるようだ。

 そんな休みにもかかわらず、朝食を終えた私は、町に調査へ向かうウォルトと分かれ、制服を着て1人で校舎に向かう。目的の場所は教室がある建屋の3階にある一室だ。
 そして最奥にある生徒会室とプレートが貼られてある一般の教室より重厚な扉をノックする。

「誰かしら?」
 すると扉の向こうから、澄んだ女子の声が返ってくる。

「統合学科1年のカイゼル・ローランドです。少しお話がありまして参りました」
「カイゼル・ローランド……?まぁいいわ。どうぞ、お入りなさい」
「失礼いたします」
 私が扉を開けると、両側面には本棚が並び、そこにはファイリングされた大量の資料が目に入る。真ん中には大きな長机と6脚の椅子があり、複数人での会議や作業が行えそうだ。一番奥の学園長室にあったような両袖机に座っていたのは淡い群青色コバルトブルーの長い髪の女性で、どうやら特待生らしく、白をベースに桃色の縁取りがされた制服を身につけている。左肩に縫い付けられた校章の意匠を見ると3年生のようだ。

「あぁ、ローランドってことね」
「えぇ、ことです」
 その女性が顔を上げ、瑠璃色ロイヤルブルーの瞳が私の姿を捉えると、少し驚いた顔を見せる。

「それで、家のカイゼル君が、私に何のご用かしら?」
「学園の生徒を束ねる、ナターシャ・フォン・生徒会長に、是非ともお力添えをと思いまして」
「力添え?貴方が私なんかに?いいえ、総合学科1年といえば……」
 ナターシャ生徒会長は少し首を傾げる。

「えぇ、ちょっと厄介なことになってまして。生徒間のトラブルは生徒で収拾するべきとエレン学園長が仰っていたもので」
「そうね。生徒間のいざこざは生徒でに収拾するべきよね」
 ナターシャが長い髪を掻き上げながら意味深な眼差しを向ける。そして資料がぎっしりと詰まった棚の一角を指さす。

「あそこに学園で発生したトラブル。もしくは町中で生徒が起こしたトラブルの報告書があるわ。私達も手一杯で、丁度集計する手が足りていなかったのよね」
「なるほど……喜んでお手伝いさせて頂きますよ。ナターシャ生徒会長」
「えぇ、助かるわ、カイゼル君。明日は終日、明後日だと放課後に開けているから、その時に手伝ってもらえるかしら?」
「承りました。取りあえず総量を計りたいので、ざっと見せてもらってよろしいでしょうか?」
「構わないわ。昼頃に一旦抜けさせて頂くけど」
「では、昼頃までお邪魔させてもらいます」
 作業の手を止めずに対応するナターシャ生徒会長に許可をもらった私は、資料を手に取って流し読みしていく。
 生徒会としては1年分のトラブル集計報告をすることはあっても、過去数年分の資料を集計する必要は無いと思われる。だから、この依頼はあくまで名目化するためのお願いなのだろう。
 そして資料の方は最初の数枚にトラブルの概略、関係している人物、発生原因、対応内容が記されており、その後に調書と付随する資料などが、綺麗にまとめられている。基本的には最初の数枚を見れば概要を把握できそうだ。これなら集計するのにさほど時間を要さないだろう。
 私は時間の許す限り資料を開いては内容を確認する。少なくてもここ5年間分の様式は整っていたので、一定の方法で作業が出来そうだ。

「綺麗にまとめられていますね。これなら、そんなに時間が掛からなそうです」
「前任者たちと今の生徒会メンバーたちの頑張りがあってこそね。ここ数年は家柄ではなく優秀さでメンバーを選出しているから。3等家未満の貴族や平民、2・3等家でも3男とかで家を継げる可能性が低く、努力を厭わないメンバーたちよ」
「なるほど、実家の書類もこのような様式で統一されていれば、効率的に作業が進められるのに」
「あら、私の実家に比べて、貴方のところはそういった作業が洗練されていると聞いていたのだけれども」
「有識者は……ですよ。隅々までは浸透してませんので」
「あら、だったら生徒会メンバーたちだったら勤め先に困らなそうね」
家には、勿体ない人材だと思いますよ」
「えぇ、家には、勿体ない人材かもしれないわね」
 私が資料に感心していると、ナターシャ生徒会長が意味深な笑顔を浮かべながら切り込んでくる。

「では人手が必要そうなのでクラスメイトを数人集めて、明日からお邪魔します」
「そう、成果を期待しているわ」
 私はそう言うと、ナターシャ生徒会長に背を向けて部屋を出る。そして一礼をしてから扉を閉める。

「ふぅ、これで何とか目処が付けられそうだ」
 扉を閉めた後、誰もいない廊下で大きく息を吐き出すと、私は歩き出す。



 昼過ぎに寮に戻ったが、まだウォルトは戻っていないようだ。あのリストの場所を全部回るのなら相当な時間が掛かるだろうから、グレイス寮母の用意してくれた軽食を摂り、あれこれ考えを整理しながら夕方まで待つことにする。

「遅くなった」
 考えをまとめていると、ウォルトが扉を開けて部屋に戻ってくる。

「む、その傷は?」
「あぁ、少々しくじったが……大事はない」
 ウォルトの私服の脇が切り裂かれ、出血の跡があるのに気付いて声を掛けたが、問題ないと回答が返ってくる。顔色も悪くないので大丈夫なのだろう。幼少の頃から私を護衛してくれているウォルトには、このくらいの傷は日常茶飯事だ。武骨なところがあるが、本当に厳しければ、隠さずに報告してくる間柄だ。

「そうか、それでどうだった?」
 私はウォルトからの報告を聞くと、今後の予定を伝える。ウォルトに頼んであったエレン学園長の資料の裏付け調査は、概ね裏が取れたようなので、明日からは一緒に生徒会室で作業を行うことにする。

「数年分の資料から統計を取るなら、俺たち2人では手が足らんぞ」
 私の提案に対してウォルトが危惧を口にする。

「あぁ、その通りなんだ。貴族に詳しいエストリア嬢、読解力と分析力の優れたキーナ嬢、処理能力や発想力に長けたイーリス嬢などに協力を依頼したいと思っているんだけど……翠嬢の抑えがなぁ」
「翠か……確かにアルカードだけでは不安だな。エストリアかイーリスあたりも付けないと暴走が止められない気がする。アルカードとオスロー、エストリアがいれば何とかなるんじゃないか?」
 私の考えにウォルトが適切な役回りを提案する。

「そうだね。では貴族の部分に関しては、私とウォルトで埋めるとして、イーリス嬢とキーナ嬢に協力を依頼するとしようかな」
「うむ……まぁ、そんなところじゃないか?」
 ウォルトと話し合い、イーリス嬢とキーナ嬢に資料分析を依頼することにする。

 夕食後に依頼すると、商人として情報を重要視しているイーリス嬢は、即答で協力を受けてくれ、人見知りが激しいキーナ嬢も、アル君を助けるという内容に首を縦に振ってくれた。

 そうして、生徒会の資料は私とウォルト、イーリス嬢、キーナ嬢で調べて集計することになるのだった。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

【完結】目指すは婚約破棄からの悠々自適生活!

恋愛 / 完結 24h.ポイント:589pt お気に入り:1,849

もふもふが溢れる異世界で幸せ加護持ち生活!

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:1,121pt お気に入り:11,560

処理中です...