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Side Episode 02 友を守るために
第04話(謎の刺客)
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「ここもか……」
期末試験後の試験休みの1日目に俺-ウォルト・シュテルン-は私服で朝から町に繰り出し、カイゼルから渡された資料に記されていた店に来てみたが、入り口の扉には板が打ち付けてあり、完全に閉店してしまっていることを確認する。
目の前の店は、ロイエンガルドが出資している武具屋で、シュツルムガルドの質の良い武具を扱っており、それなりに繁盛していたはずだ。
近くの店から状況を聞こうと思い、周辺を見回すが、俺と目が合った近くの店の従業員はそそくさと目をそらす。その雰囲気からは立ち入ったことを聞くなと言っているように感じる。
俺は溜息を吐くと、次の資料に目をやり、次の店に向かう事にした。
しばらく歩き、目的のヒルデガルド州出身の商人が開いている雑貨屋の近くで立ち止まる。辺りを見てもそれらしい店はなく、もう一度資料を確認すると、道が一本ずれていたことに気付く。どうやら次の目的地は、脇にある薄暗い大人3人は並べないであろう細い路地を通り抜けた先にありそうだ。大通りに戻るのも面倒だった俺は細い路地に足を向けて歩き始める。
「昨日からこそこそと嗅ぎ回っている目障りなネズミがいるって聞いてたが……」
細い路地に入るとすぐに、柄の悪そうなチンピラが抜き身の短剣を手にして脇道から姿を現す。
「学生の坊ちゃんは、大人しく学園で勉強してれば良かったものを……なぁ?」
男がそう言うと、続いて脇道から更に2人の男が姿を現わし、3人で俺の前の路地を塞ぐ。
退路を確認するために警戒したまま後方に目をやると、用意周到なことに、大通りから2人のチンピラが出てきて、退路を塞ぐように位置取る。どうやら5対1になるようだ。
「もう逃げ道はないぜぇ、ウォルト君とやら」
短剣を持つ男が、俺の名を告げる。なるほど、出所は分からないが、俺がここいらを調査しているという情報が漏れていたらしい。
「女だったら楽しめたのになぁ!こんな無骨な男は払い下げだぜぇ……お前らやっちまいな!!」
男がそう叫ぶと、リーダーを除いた前後2人ずつのチンピラが、短剣を抜いて、1歩前に出る。
「チンピラ風情になめられたものだ」
いつも愛用している巨大な両手剣は当然のことながら寮に置いてきているので、身につけているのは護身用の副武器である長剣だけだ。それを腰から抜き放ちざまに、円を描くように水平に薙ぎ払う。
キンッ!
俺の薙ぎ払った剣撃が、一番俺に近かったチンピラの短剣を弾き返す。その鋭い一撃に驚いたのか、チンピラたちは後ろ跳躍で回避する。
俺はそのまま壁を背にしながら、右と左に気を配る。前後からの攻撃に比べたら、左右からの攻撃の方がまだマシだからだ。
「1対5でやろうってか?あの世で後悔するんだな!行け!!」
その掛け声で、構えていた左右2人ずつのチンピラが襲い掛かってきた。
俺は退路になる大通りの方向から入ってきたチンピラに向かって踏み込みつつ、短剣を袈裟切り上げで弾き飛ばしながら、肩から突撃する。その際に、きっちりと肘を急所の鳩尾にお見舞いすることで、1人を戦闘不能にする。
退路を塞いでいたもう1人がその隙に短剣を突き入れてくるが、俺は長剣の柄で短剣を弾く。
そして、内回しで振り上げた足をチンピラの膝目掛けて上から斧を叩き付けるように踵を降り降ろすと、鈍い音と共に膝関節が砕ける。軍隊格闘術の斧刃脚という技だ。
早々に2人を戦闘不能にして退路を確保した俺は、俺の背から襲いかかってくる2人の内1人に対し、逆手に持ち替えた長剣を背中を向けたまま突き刺す。
襲ってきたチンピラの右の肩を長剣が貫き、力の入らなくなった右手から短剣《ダガー》が音を立てて落ちる。
4人目のチンピラは、一気に3人を戦闘不能にした俺を見て飛びかかるのをやめると、距離を取って警戒を強める。
「さてと、あと2人だが、まだやるか?」
最初に挑発したリーダーらしき1人と、脇道から出てきた1人の2人だけになってしまったチンピラたちは、あっけにとられた表情をしている。
簡単に始末できると思っていた学生の俺が、一瞬で大人3人を戦闘不能にしたのだ。驚くのも無理はないだろう。
「お前……何者だ?」
リーダーらしきチンピラが口を開く。
「それに答える理由は見当たらんな。それより、貴様らこそ誰の指示で俺を襲った?」
「そんなの言う訳ないだろうが!」
「ほう?指示で動いたことは認めるんだな」
「あ……」
俺が粉を掛けてみると、頭の悪いチンピラたちはボロを出す。
「う、うるせぇ!とにかくお前は邪魔なんだよ!!」
「邪魔なのはそちらの方だ。取りあえず誰からの指示か……吐いてもらおうか」
俺は動揺しているチンピラたちへ無造作に近付いていくと、2人は逆に、じりじりと後ずさり脇道のある十字路まで後退する。
「ぎゃっ!」
脇道から剣閃が走り、残ったチンピラ1人の首が切り裂かれる。
「やはり、この程度のチンピラ風情では話にならぬな」
フード付きの黒い外套をまとった男が長剣を片手に姿を現わした。
「お、お前っ!」
最後の1人になったチンピラリーダーが目を見開いてフードの男に叫びかけると、フードの男は長剣を一閃させる。
「ぐぇっ!」
その一閃で喉元を切り裂かれたチンピラリーダーは、糸が切れた人形のように崩れ落ちてしまう。
「やはり役に立たんな……」
俺に肩を貫かれ蹲っていたチンピラの首を刎ねながら、抑揚のない声でフードの男が吐き捨てる。
「お前が首謀者か」
容赦なく急所を切りつけ、チンピラとは言え一太刀で殺しているフードの男は、かなりの手練れだ。
「いや、現場指揮者と言ったところだな。とりあえずお前は踏み込みすぎたので、ここいらで死んでもらおう」
フードの男はそう言うと、細い路地にいる俺に斬りかかってきた。
十字路ならともかく、細い路地で長剣は長すぎる。まともに振るうには上下の斬撃か突きくらいしかできない。
フードの男が踏み込みつつ片手で長剣を振り上げたのを見て、俺は頭上で長剣を水平にして斬撃を防ぐ態勢を取る。
「くっ!」
そんな俺の無防備な胴体目掛けて、フードの男の左手から投剣が投擲される。
上段からの振り降ろしはフェイントで、この投剣が本命のようだ。
フェイントに釣られてしまったので、頭上に掲げた長剣では投剣を弾けない。そう判断した俺は、咄嗟に身体を捻って躱そうとしたが、鋭く飛来した投剣に脇腹を切り裂かれてしまう。
「所詮ガキだな。もう終わりだ」
フードの男は口の端を歪めて笑うと、再び左手を懐に入れ、数本の投剣を投げ放つ。俺は長剣で弾き返そうと身構えるが、投剣は俺の横をすり抜けていく。
「ぐっ!」
「ぎゃぁっ!」
投剣は俺ではなく、背後で倒れていた退路を塞ぐように現れたチンピラ2人の、それぞれの胸に突き刺さった。
「掠っただけでも死に至る猛毒だ。自分の運のなさを呪いながら死ぬんだな」
フードの男は長剣を一振りして血糊を払い鞘に収めると、始末を確信したのか、まだ俺が立っているにもかかわらず踵を返して去って行く。
フードの男が言う通り、俺は切り裂かれた脇腹がじわじわと熱く痺れてくる。ヤバイ事になったと膝をついて手を傷口に当てながら、周りの様子を確認する。
首を切られ、喉を割かれ、首を飛ばされたチンピラの死体が3つ。そして胸深くに投剣が突き刺さった2人に目を向けると、白目を剥きつつ口から泡を吹き、痙攣し始めるのが見えた。
「確かに強力な毒のようだな……効いてくれよ。<解毒>」
俺は目を閉じてゆっくりと深呼吸をすると解毒の魔法を発動させる。こういった荒事に面する機会が多いので、毒への耐性を高める訓練はしており、また回復系の魔法も一通り習得している。適性の問題で、強力な効果は見込めないが。
俺の手から放射される光が、毒の熱と痺れを緩和してくれているようだ。しばらく<解毒>掛け直しながら耐えていると、熱と痺れが消えていく。掠っただけで、あまり毒が体内に入っていなかったのも幸いしたのかもしれない。
身体が動くようになった俺は、チンピラたちの服を裂き、フードの男が俺に向かって投擲した投剣を包んで拾う。
そしてチンピラの後始末を頼むために、足早に町の衛兵の元に向かうのだった。
「ここもか……」
期末試験後の試験休みの1日目に俺-ウォルト・シュテルン-は私服で朝から町に繰り出し、カイゼルから渡された資料に記されていた店に来てみたが、入り口の扉には板が打ち付けてあり、完全に閉店してしまっていることを確認する。
目の前の店は、ロイエンガルドが出資している武具屋で、シュツルムガルドの質の良い武具を扱っており、それなりに繁盛していたはずだ。
近くの店から状況を聞こうと思い、周辺を見回すが、俺と目が合った近くの店の従業員はそそくさと目をそらす。その雰囲気からは立ち入ったことを聞くなと言っているように感じる。
俺は溜息を吐くと、次の資料に目をやり、次の店に向かう事にした。
しばらく歩き、目的のヒルデガルド州出身の商人が開いている雑貨屋の近くで立ち止まる。辺りを見てもそれらしい店はなく、もう一度資料を確認すると、道が一本ずれていたことに気付く。どうやら次の目的地は、脇にある薄暗い大人3人は並べないであろう細い路地を通り抜けた先にありそうだ。大通りに戻るのも面倒だった俺は細い路地に足を向けて歩き始める。
「昨日からこそこそと嗅ぎ回っている目障りなネズミがいるって聞いてたが……」
細い路地に入るとすぐに、柄の悪そうなチンピラが抜き身の短剣を手にして脇道から姿を現す。
「学生の坊ちゃんは、大人しく学園で勉強してれば良かったものを……なぁ?」
男がそう言うと、続いて脇道から更に2人の男が姿を現わし、3人で俺の前の路地を塞ぐ。
退路を確認するために警戒したまま後方に目をやると、用意周到なことに、大通りから2人のチンピラが出てきて、退路を塞ぐように位置取る。どうやら5対1になるようだ。
「もう逃げ道はないぜぇ、ウォルト君とやら」
短剣を持つ男が、俺の名を告げる。なるほど、出所は分からないが、俺がここいらを調査しているという情報が漏れていたらしい。
「女だったら楽しめたのになぁ!こんな無骨な男は払い下げだぜぇ……お前らやっちまいな!!」
男がそう叫ぶと、リーダーを除いた前後2人ずつのチンピラが、短剣を抜いて、1歩前に出る。
「チンピラ風情になめられたものだ」
いつも愛用している巨大な両手剣は当然のことながら寮に置いてきているので、身につけているのは護身用の副武器である長剣だけだ。それを腰から抜き放ちざまに、円を描くように水平に薙ぎ払う。
キンッ!
俺の薙ぎ払った剣撃が、一番俺に近かったチンピラの短剣を弾き返す。その鋭い一撃に驚いたのか、チンピラたちは後ろ跳躍で回避する。
俺はそのまま壁を背にしながら、右と左に気を配る。前後からの攻撃に比べたら、左右からの攻撃の方がまだマシだからだ。
「1対5でやろうってか?あの世で後悔するんだな!行け!!」
その掛け声で、構えていた左右2人ずつのチンピラが襲い掛かってきた。
俺は退路になる大通りの方向から入ってきたチンピラに向かって踏み込みつつ、短剣を袈裟切り上げで弾き飛ばしながら、肩から突撃する。その際に、きっちりと肘を急所の鳩尾にお見舞いすることで、1人を戦闘不能にする。
退路を塞いでいたもう1人がその隙に短剣を突き入れてくるが、俺は長剣の柄で短剣を弾く。
そして、内回しで振り上げた足をチンピラの膝目掛けて上から斧を叩き付けるように踵を降り降ろすと、鈍い音と共に膝関節が砕ける。軍隊格闘術の斧刃脚という技だ。
早々に2人を戦闘不能にして退路を確保した俺は、俺の背から襲いかかってくる2人の内1人に対し、逆手に持ち替えた長剣を背中を向けたまま突き刺す。
襲ってきたチンピラの右の肩を長剣が貫き、力の入らなくなった右手から短剣《ダガー》が音を立てて落ちる。
4人目のチンピラは、一気に3人を戦闘不能にした俺を見て飛びかかるのをやめると、距離を取って警戒を強める。
「さてと、あと2人だが、まだやるか?」
最初に挑発したリーダーらしき1人と、脇道から出てきた1人の2人だけになってしまったチンピラたちは、あっけにとられた表情をしている。
簡単に始末できると思っていた学生の俺が、一瞬で大人3人を戦闘不能にしたのだ。驚くのも無理はないだろう。
「お前……何者だ?」
リーダーらしきチンピラが口を開く。
「それに答える理由は見当たらんな。それより、貴様らこそ誰の指示で俺を襲った?」
「そんなの言う訳ないだろうが!」
「ほう?指示で動いたことは認めるんだな」
「あ……」
俺が粉を掛けてみると、頭の悪いチンピラたちはボロを出す。
「う、うるせぇ!とにかくお前は邪魔なんだよ!!」
「邪魔なのはそちらの方だ。取りあえず誰からの指示か……吐いてもらおうか」
俺は動揺しているチンピラたちへ無造作に近付いていくと、2人は逆に、じりじりと後ずさり脇道のある十字路まで後退する。
「ぎゃっ!」
脇道から剣閃が走り、残ったチンピラ1人の首が切り裂かれる。
「やはり、この程度のチンピラ風情では話にならぬな」
フード付きの黒い外套をまとった男が長剣を片手に姿を現わした。
「お、お前っ!」
最後の1人になったチンピラリーダーが目を見開いてフードの男に叫びかけると、フードの男は長剣を一閃させる。
「ぐぇっ!」
その一閃で喉元を切り裂かれたチンピラリーダーは、糸が切れた人形のように崩れ落ちてしまう。
「やはり役に立たんな……」
俺に肩を貫かれ蹲っていたチンピラの首を刎ねながら、抑揚のない声でフードの男が吐き捨てる。
「お前が首謀者か」
容赦なく急所を切りつけ、チンピラとは言え一太刀で殺しているフードの男は、かなりの手練れだ。
「いや、現場指揮者と言ったところだな。とりあえずお前は踏み込みすぎたので、ここいらで死んでもらおう」
フードの男はそう言うと、細い路地にいる俺に斬りかかってきた。
十字路ならともかく、細い路地で長剣は長すぎる。まともに振るうには上下の斬撃か突きくらいしかできない。
フードの男が踏み込みつつ片手で長剣を振り上げたのを見て、俺は頭上で長剣を水平にして斬撃を防ぐ態勢を取る。
「くっ!」
そんな俺の無防備な胴体目掛けて、フードの男の左手から投剣が投擲される。
上段からの振り降ろしはフェイントで、この投剣が本命のようだ。
フェイントに釣られてしまったので、頭上に掲げた長剣では投剣を弾けない。そう判断した俺は、咄嗟に身体を捻って躱そうとしたが、鋭く飛来した投剣に脇腹を切り裂かれてしまう。
「所詮ガキだな。もう終わりだ」
フードの男は口の端を歪めて笑うと、再び左手を懐に入れ、数本の投剣を投げ放つ。俺は長剣で弾き返そうと身構えるが、投剣は俺の横をすり抜けていく。
「ぐっ!」
「ぎゃぁっ!」
投剣は俺ではなく、背後で倒れていた退路を塞ぐように現れたチンピラ2人の、それぞれの胸に突き刺さった。
「掠っただけでも死に至る猛毒だ。自分の運のなさを呪いながら死ぬんだな」
フードの男は長剣を一振りして血糊を払い鞘に収めると、始末を確信したのか、まだ俺が立っているにもかかわらず踵を返して去って行く。
フードの男が言う通り、俺は切り裂かれた脇腹がじわじわと熱く痺れてくる。ヤバイ事になったと膝をついて手を傷口に当てながら、周りの様子を確認する。
首を切られ、喉を割かれ、首を飛ばされたチンピラの死体が3つ。そして胸深くに投剣が突き刺さった2人に目を向けると、白目を剥きつつ口から泡を吹き、痙攣し始めるのが見えた。
「確かに強力な毒のようだな……効いてくれよ。<解毒>」
俺は目を閉じてゆっくりと深呼吸をすると解毒の魔法を発動させる。こういった荒事に面する機会が多いので、毒への耐性を高める訓練はしており、また回復系の魔法も一通り習得している。適性の問題で、強力な効果は見込めないが。
俺の手から放射される光が、毒の熱と痺れを緩和してくれているようだ。しばらく<解毒>掛け直しながら耐えていると、熱と痺れが消えていく。掠っただけで、あまり毒が体内に入っていなかったのも幸いしたのかもしれない。
身体が動くようになった俺は、チンピラたちの服を裂き、フードの男が俺に向かって投擲した投剣を包んで拾う。
そしてチンピラの後始末を頼むために、足早に町の衛兵の元に向かうのだった。
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