実は有能?

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遠江決戦 決着

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翌日

目には痛いほどの夏空が広がっていた。

徳川勢は昨日の戦いで鍾馗隊の強さを思い知った
のか軍を分けるような愚かな真似はせず、全軍で
魚鱗の陣を敷くことで鍾馗隊の勢いを止めようと
していた。

それに対し今川軍は、鶴翼の陣を敷いて相対して
いた。





先に動いたのは、徳川勢であった。

先陣を預かる大久保忠世率いる兵900が飯尾率いる
兵1200に鉄砲を撃ちかけたことで戦いは始まった
のだった。


二刻後(四時間後)


序盤は兵数の多い徳川勢が今川勢を圧倒していた
のだが、時が経つにつれ疲労が溜まったのか少し
ずつだが徳川勢の陣に隙が目立つようになってきた。


氏真はここぞとばかりに鍾馗隊を率いて徳川勢の
隙を突こうとしたのだが、こちらの動きを察知した
のか、徳川の将の一人と思われる男が兵300程を
率いて鍾馗隊の行く手を遮るように待ち構えていた。

旗指物から見るに槍の名手として名高い本多忠真
と思われた。しかし、時間を割く余裕など今川勢
にはなかったので、氏真は即座に戦闘を開始した
のだった。

「かかれ!!」

「おー!!」

氏真率いる鍾馗隊は、本多勢めがけて走り出した。


忠真はそれを見て覚悟を決めたのか

「皆の者、聞け!」

シーーン

「ここで我等が鍾馗隊を止めねば、敵は勢いに
乗って、我等が本隊の側面を突くだろう。それ
だけはなんとしても防がなければならない。敵は
5倍、一人一人が五人ずつを討てば勝てる。よって
一人五殺を義務付ける。義務を果たさずに死んだ
者はあの世でしっかりとしごいてやる!」

ハッハッハッ!

皆、これから何をするのかがわかっているようで
笑いながら悲壮な決意を固めていた。

「皆、本多の意地を見せる時ぞ!!!」

「おー!!!」


「かかれ!!!!」

本多忠真率いる本多勢がこちらに向かってきた。

数が圧倒的に少ない本多勢が向かってきたことに
氏真は違和感を感じていた。

...妙だな。数が少なければ、陣を固く敷いている
方が良いのだが?...

...まさか!...

「皆の者!奴らは死兵ぞ!心してかかれ!」

「おー!」




ワァァァァァア

「氏真何処!!」

「貴様ごとき、我等で十分じゃ!!」

(戦闘中)

「小童どもめ、そのような軟弱な腕でこの忠真
が打ち取れると思うたか!」

(ザシュ)

忠真は槍で一人を葬ると、突きを繰り出してきた
もう一人の攻撃をかわすと同時に、腰に差して
あった刀を抜いて、敵の脇腹をえぐったのだった。

(ぐは...)

(ドサ...)

しかし、時間が経つにつれ確実に本多勢は数を
減らしていった。

...こちらの兵達は奮戦しておるが、やはり数の差
を埋めるまでにはいかぬか...


...うん?...

忠真はふと目の前で刀を振るっている一人の男
に興味を持った。その男は本多勢三人を相手に 
まるで赤子の手をひねるかのように次から次へと
斬っていくのだった。

忠真はその鮮やかな太刀筋にしばし見ほれていた。

すると、その男を取り囲むかのように鍾馗の面を
かぶった兵達が集まってきたのだった。

...もしや、氏真か?...

...そうであるならば、千載一遇の好機!

さらに、この時偶然鍾馗の兵達が氏真の元を離れて
いたのだった。

「そこなる将、名を聞かせい!」

...うん?誰だ?...

(振り返る)

そこには、何度も戦場に出ていたからであろうか
顔にいくつもの傷を持った男がいた。

「我が名は、本多肥後守忠真!」

...何!忠真だと!...

「今川氏真殿でござるな!」

「いかにも。今川治部大輔氏真である。」

「一騎打ちを所望!」

「おう!」




氏真はどうにか間合いを詰めようとしているの
だが槍の名手として名高い忠真は氏真の考えて
いることが手にとってわかるようで一定の距離
を保ち続けていた。


...ちっ!なかなか隙を見せぬな。...

...早く討ち取らねば、我が兵が全滅する。...

忠真の焦りが次第に槍へと伝わっていった。

氏真は、忠真の槍筋がさらに乱れるように刀で
受け流すことを続けた。

...おのれ、これでは遊ばれているようなものだ!...

...一か八かの勝負に賭けてみるしかない!...

(ヤッ!)

忠真は槍を氏真目掛けて投げたのだった。

さすがの氏真も槍を投げられるとは思っていなかった
のか、体制を崩してしまったのである。

その一瞬を忠真は見逃さなかった。

次の瞬間、氏真の体をしっかりと掴み地面へと叩き
つけたのだった。

氏真は一瞬のことで何が起きたのかわからなかった
が、次の瞬間忠真が自分の上に乗っており、忠真が
自分の首に小太刀を突き出そうとしているのを見て
瞬時に自分が置かれている状況を理解したのだった。

氏真は咄嗟に左手で忠真の両腕を抑えると同時に
右手で思いっきり地面の砂を集め、忠真の顔に
投げたのだった。

忠真は砂をかけられるとは思っていなかったのか
後ろの方に倒れ込んでしまった。

...しまった。...

忠真が目に入った砂を払った時に、目に写ったのは
氏真が刀を振りかざす勇ましい姿だった。

...氏真め、能を隠しておったか...

...忠勝、本多家を頼んだぞ!...

(ザシュ)

(がは...)

(ドサ...)


「本多肥後守忠真、今川治部大輔氏真が討ち取ったり!」

「おー!」

これにより、本多勢は士気を削がれ瞬く間に蹂躙
されていったのだった。



家康本陣

「申し上げます!本多忠真様率いる兵300、氏真
自ら率いる鍾馗の兵達によって全滅いたしました。」

「なんと、忠真叔父上が!」

忠勝はあまりの衝撃で、しばし立ち尽くしていた。
 
ザワザワザワザワ

「それで、氏真は今どこにいる!」

家康は、鍾馗の動きが気になるのか、しきりに
伝者に鍾馗のその後の動きを聞いていた。

ドタドタドタドタ

「今度はなんだ!」

「一大事にございます!氏真率いる鍾馗の兵達が
我等の陣の側面を突きました!」

「なんじゃと...」

家康は、あまりに突然のことだったのでその場に
座り込んでしまった。

「それで、どうなっておる?」

家康の代わりに、榊原康政が応答した。

「はっ!側面を突かれたことで、兵達は混乱状態
に陥りましたが、鳥居忠吉様、ならびに松平重吉様
の奮戦により、戦況は一進一退を持ちこたえており
まする。」

「そうか!」

「殿!今すぐ援軍を差し向けるべきです。」

「言われずとも、そのようなことわかりきっておる
わ!!」

バタバタバタバタ

「申し上げまする!!!」

「今度は何じゃ!!!」

「鳥居忠吉様、お討ち死に!!!」

ドタドタドタドタ 

「はー、はー、はー、申し上げまする...」

「松平重吉様、お討ち死に...」






「こうなれば玉砕覚悟で氏真を討ち取ってやる!」

「殿!馬鹿なことは申しますな。」

「じゃが!」

「徳川家を潰すおつもりか!」

シーーーーーン

「俺にどうしろと言うのだ?」

「お逃げください!」

「氏真を前にして、おめおめと尻尾を巻いて逃げよ
と言うのか!!」

「左様にございます。」

「クッ!」

「悩む時間などありませぬ!ご決断を!!」






「わかった!」

「全軍撤退せよ!!!」

「はっ!」(一同)

「殿はいかがいたす。」

「それがしらにお任せあれ。」

名乗りを上げたのは、徳川家譜代の家臣である
米津常春と内藤正成であった。

「死ぬ気か...」

「......」

「すまぬ...」

「何の何の老いぼれどもにふさわしき死に場所に
ござる。」





「さらばじゃ。武運を祈っている。」


ドドドドドドドド(馬蹄の音)
 



「家康、撤退。」

この報を瞬く間に戦場に広まった。

今川勢と戦っていた徳川勢の諸将達は、米津と内藤
率いる殿軍400の奮戦により、なんとか三河まで
戻ることができたが、徳川勢にくっついていた
国人領主達は撤退するのに遅れたので今川勢に
よって蹂躙されたのだった。







「徳川勢大敗」

これは、周辺諸国に衝撃を与えた。

この報を聞いた諸大名は氏真という男が脅威になり
うる存在だということ初めて認識したのだった。



戦死者、負傷者の数
今川家 戦死者 1892名(326名) 
          負傷者 3421名(412名)
( )鍾馗隊の被害


徳川家 戦死者 2374名 負傷者 5127名
討ち死にを遂げた将
松平重吉、米津常春、小栗吉忠、阿部正勝、
長坂信政、鳥居忠吉、内藤正成












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