羊毛を巡る一連の事件について〜ある国の騎士達の物語〜

さばとらのはは

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1-1.ある東の国での毛糸にまつわる事件

10.国一番の魔術師である宰相の話-2

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国一番の魔術師であり宰相である彼女は訊ねた。

「その手紙の主に起こった事件について説明を。
…何が起こったの?」

探索の騎士である彼は答えた。

「彼女の大切なものが傷つけられたらしい。何者かの手によって」

「大切なものって何かしら?」

「彼女があるお店から購入した毛糸が入った袋と、購入した毛糸のひとつだ」

「毛糸は…彼女以外の誰かから、袋が傷つけられて破かれた時に一緒に傷つけられたのよね。
毛糸が入った袋は誰が傷つけたのかしら」

「販売者と配送業者だ、と彼女は話している」

「彼女が嘘をついている可能性はないの?」

「嘘をつく理由がない。
何故なら、彼女はこの話をいろんな立場の人にしているからだ。
販売者、配送業者、家族、その他大勢の人々…
嘘をつく人間は、そのように沢山の人達と話さない。
話をすることで、嘘が見破られる可能性があるからだ」

「仮に彼女の話が本当だとしましょう。毛糸を傷つけたのは誰かしら?」

「彼女の話からすると、販売者、配送業者どちらもだということだ。
販売者は荷物に傷をつけて送り、配送業者はその事実を隠して彼女に配達した」

「配送業者がわざと傷つけて配送した可能性は?」

「それも可能性としては考えられる。
しかし…彼女は、袋が破れていない部分の毛糸の一部が切り取られているようだ、と私に打ち明けてくれた。
だとしたら、販売者の手によるものだろう」

「それは間違いのない事実なのかしら。
貴方のお話で、その事件のあらましは理解できたわ」

国一番の魔術師であり宰相である彼女は、さらに訊ねた。

「彼女はどうしてこの話をあなたをはじめ、みんなに伝えたのかしら?
毛糸の補償だけなら、販売者に直接伝えるだけでいいのに」

探索の騎士である彼は答えた。

「販売者と配送業者に伝えたが、販売者から補償に関わる連絡が一切なかったからだ。
それで販売者を知る人を探して、この話を打ち明けたのだそうだ」

彼女は続きを、と彼に伝えた。
彼は頷き、さらに話を続ける。

「販売者と配送業者は罪を犯したまま、そこから逃れようとしているらしい。
彼女の手には傷つけられた毛糸だけが残っている。
彼女は彼女が話を聞いた人達からのアドバイスに従い、届けられた毛糸がこれ以上被害が酷くならないよう袋から取り出し、傷つけられたものと無事なものを選別し、乾かしたそうだ。
…袋に穴が空いていたため、毛糸は湿っていたらしい。
二度とこのような悲しい事故を起こさぬよう、彼女は販売者らに警告し、毛糸に対する補償を求めた」

「このようなことは度々起こるのかしら?」

「彼女の国内では、取引での争いが酷くなり、荷物事故が頻繁に起こるようになったが、国を超えた取引でははじめての経験らしい。
しかし…彼女の国の他の者からは、国際取引でも同様の事故が起こっているとの話が上がっている」

「何故、販売者はこのような事故を起こしたのかしら?
理由が分からなければ、止めようがないわ。
人は同じ過ちを繰り返すもの」

「私は驕りが原因だと思う。事故を起こしても罪を問われない人間の驕りが、このような事故を度々引き起こすのだと思う」

「では罪に対して何を求めれば、事故はなくなるの?」

「事故に対して補償を求め、それが許されないことだと思ってもらえばよい」
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