羊毛を巡る一連の事件について〜ある国の騎士達の物語〜

2-1.王と彼の騎士による調停のはじまり

77. 新たな年と騎士の異動

円卓会議と園遊会が終わり、会議に参加していた国の諸侯達はみな、お土産を片手に自分の領地へ戻っていった。
この国には、新年をホームタウンで迎える風習があるためである。
年越しの夜、この国の首都は新しい年を馬鹿騒ぎして迎える若者や、敬虔な祈りと眠りでいつの間にか年越しの瞬間を逃す者も、全て飲み込んむような深い霧に覆われていた。

宮殿の一角にある執務室では、国一番の魔術師である宰相が、円卓会議前に国の各地で起こった災害対応に頭を悩ませていた。
「円卓会議で執政の席が全て埋められたのは幸いだった。この会議の采配で、少しは人々の心も平穏を取り戻すでしょう。
自らが望んだ地位とはいえ、新任の騎士にとっては少し荷の重い事案かもしれないわね」


年明け早々、円卓の騎士達もまた、それぞれの任地に向かう。
円卓会議で北方探索の任から北方執政の任に席替えした彼も、少ない私物をまとめ、高速列車に乗り込み、ひとり国の北部へ向かう。

北方領の中心にある街は、年明け早々に降った雪に薄っすらと覆われていた。
彼は天からの贈り物で白く白く舗装された街路を歩く。
迎えを寄越すと言われたが、執務を行う居城は駅から近い場所にあるため、彼は申し出を断っていた。
新しい年を迎え、賑やかなクリスマス飾りは既に取り払われている。
仕事始めはまだ先であるため、街には人が戻らず、閑散としていた。

北方執政による管轄地である北方領は、元兵部卿であり現在王と調停中である彼の騎士の出身地でもある。
気位が高い諸侯や民が多く、土地から生み出される利権でも魅力的なものも多いため、執政の地位に就きたがる諸侯も多い。
土地を治めることの困難さから、彼の騎士が北方執政から兵部卿の地位に異動してから任に就くものはなく、彼の騎士と北方辺境伯である友人が分割して治めていた。

今回の騎士の席の異動にて北方探索から北方執政の任へ代わった彼に対する、北方の諸侯からの風当たりは強い。
元兵部卿であった騎士の息子であり、ひと足先に王と彼の騎士の調停地のある北方諸国へ旅立った北部総督の任に就いた騎士からは、このような餞別の言葉を貰った。

「彼らは…一見にこやかだけど、とても頑固だから、話は適当に合わせておけばいいよ。
何かの説得なんて、するだけ無駄だから。
貴方はそれを充分知っているとは思うけれど。

貴方も北方領の出身だから、ね」

北部総督の任についた騎士の言葉を思い出し、彼は深く同意のため息をついた。
目の前に高く聳える居城を見上げながら歩く、彼の足取りは、重い。