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修学旅行の夜
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修学旅行当日。
朝から学校の前は大型観光バスが並び、生徒たちの期待と興奮でざわついていた。
スーツの内ポケットにしおりを差し込んだ孝太も、集団の中に立っていた。
だが、配車表を見た瞬間、胸が少しだけ沈んだ。
自分は学年主任のバスで、晴真とは別々の車両だったのだ。
おそらく、実習生の孝太の面倒は学年主任である自分が見なければならないという配慮でだろう。
残念だったが、これは私的な旅行ではなく、公務だ。
ワガママは言ってられないと孝太は考える。
体育教官室で晴真との間に生まれたギクシャクした空気、、、
それから儀礼的、実務的な会話のみで今日を迎えてしまった。
バスに乗り込み出発すると、車内はすぐに修学旅行特有の明るい空気に包まれていく。
学年主任は、早々に最前列で居眠りを始め、生徒達は若く気さくな孝太に話しかける。
孝太もノリ良く応じ、車内は盛り上がる。
晴真とのギクシャクした空気からの胸のつかえは、いつの間にか消えている。
初日の行程は観光地巡りの団体行動だった。
有名な寺社を巡り、ガイドの話を聞きながら生徒たちがわいわいと歩く。
晴真は別グループの担当だったため、接点はほとんどなかった。
遠く引率をしている姿が一瞬見えたが、話しかける隙などない。
宿に落ち着いて、生徒達の消灯時間が過ぎたら話す時間もあるさ、、、
孝太は考える。
夜。
一行は山あいの静かな宿に到着した。
見事な竹林に囲まれたその宿は、昼間の賑やかさとは打って変わって、ひっそりとした空気に包まれている。
生徒たちは大部屋で雑魚寝だ。
教師たちは一人一部屋だが、何かあった時のために、部屋の鍵は生徒も教師も掛けないという決まりがある。
夕食と入浴を終えると、生徒たちは早速、部屋でカードゲームを始めたり、夜景を見に窓辺に集まったりと、修学旅行らしい時間を楽しんでいた。
やがて、消灯時間がやってくる。
三十分ごとに教師が順番に部屋を見回る。
最後に廊下を回って生徒の様子を確認するのは晴真となっていた。
その見回りの前後なら、二人で話すことができるだろう。
生徒の部屋の見回りをする時にくっついていっては、うまく話ができない。
ならば、見回りを終え部屋に戻ったところで、偶然を装って廊下に出て、話しかければいい。
孝太は時計を見ながらタイミングを伺う。
我ながらコソコソしていると思うが、孝太は自分の部屋の入り口に耳を当て、廊下の足音に耳を澄ませた。
落ち着いた足取りが近づいてくる。
晴真だろう。
扉を少し開けそっと覗くと、巡回を終えたジャージ姿の大柄で均整の取れた晴真が廊下を進んでくる。
その姿を目にし、孝太の胸は高鳴る。
無防備で自然な姿であっても、やはり晴真先輩は凛々しい。
感情の高ぶりに思わず扉の隙間から身体が離れる。
その瞬間、、、
ガチャッ
扉が閉まり錠の締まる音が響いた。
孝太の心臓が跳ね上がる。
今の音、、、
覗き見が晴真先輩にバレた?
鼓動がバクバクする。
自分の失態に孝太は頭を抱える。
そうだ、あの時、自然に扉を開けて晴真先輩に話しかければよかったんだ。
廊下の方から、扉の閉まる音がした。
晴真先輩が部屋に入ったのだろう。
バカバカ、、、俺のバカッ!
孝太は自分を責める。
だが、天は孝太を見捨てていなかった。
(それほどのことでもないのだが、孝太にはそんな僥倖に思えた)
しばらくの後、カチャッと扉が開き、誰かが廊下に出てくる気配がした。
先程の失敗から孝太は慎重にドアノブを回し、ゆっくりと扉を開ける。
細い隙間から覗く。
後ろ姿の晴真先輩。
部屋に備え付けられていた大浴場用のバスタオルとフェイスタオル、そして館内着の浴衣が入ったメッシュのバックを片手にぶら下げている。
!
大浴場に行くんだっ!
そこでなら、自然に話せるっ!
そういえば、宿の人が、生徒達には便宜上大浴場の利用時間は9時までとしていますが、先生たちがゆっくりと入れるようにその後も解放しておくので、夜でも早朝でもご利用くださいと言っていた。
孝太は慌てて部屋に戻り、乾かしていたタオルをたたみ、床に放り投げていたメッシュのバックを拾い上げる。
孝太は3年生に誘われ、既に入浴を終えていた。
だが、そんなことにかまっていられない。
ギクシャクした空気を払うためなら、、、
大浴場なら自然に一緒に風呂に入り、当然、言葉を交わす流れに持ち込める。
湯船の中でなら、腹を割って話せるだろう。
孝太はメッシュのバックを抱えて部屋を飛び出し、エレベーターの前に行く。
エレベーターは大浴場のある地下一階まで降りて止まった。
やはり、大浴場へ晴真先輩は行ったんだ。
孝太の心ははやる。
晴真先輩と、二人きりで入るのか、、、
ずっと昔から憧れてきた。
整った顔立ちに、均整の取れた長身の身体。
爽やかな竹を割ったようなサッパリした性格。
体育教師として生徒に人気があるのも納得だ。
それ以上に孝太にとって晴真は、「理想の男性」であり、「目標」でもあった。
ドキドキしながら、暖簾をくぐって脱衣場に入る。
脱いだ衣服が入っている籠は一つだけ。
二人きりだ、、、
妙な緊張感に包まれる。
手早く服を脱ぎ、大浴場に入ると、晴真は湯船の中で肩まで湯に浸かっていた。
湯の表面から鍛え抜かれた肩と胸の筋肉が浮かび上がっている。
光沢を帯びた肌に湯気が絡みつき、そのシルエットはまるで彫刻のようだった。
「おお、孝太。おつかれ」
晴真が少し驚いたように目を細め、柔らかく笑った。
あ、いつもの晴真先輩だ、、、
孝太の胸の緊張が少しだけ解ける。
「先輩! おつかれさまです。いや~、修学旅行って授業とはまた違う緊張がありますね、、、楽しかったけど、、、」
孝太は桶でお湯を汲み、身体にササッとかける。
「失礼しますっ!」
そう言いながら湯船に入り、晴真の近くに並ぶ。
チラッと湯船に浸かる晴真の身体を見る。
鍛えられた長身は、ただ大きいだけでなく、完璧なバランスを保っている。
厚い胸板は力強く張り出し、肩の三角筋は丸みを帯びて滑らかに繋がり、血管の浮き上がる腕の筋肉は細やかな繊維が浮き出るほどに引き締まっていた。
腹筋は六つに割れ、腰に向かってV字に絞り込まれるラインは、まるで芸術作品のように洗練されている。
手足の長さが全体を優雅に引き伸ばし、筋肉の厚みが決して野蛮にならず、均整の取れた美しさを生み出していた。
湯船の中でゆったりと構えるその姿は、この世のものとは思えず、まるで神話の神像が湯に浸かっているかのように、孝太には見える。
こんな完璧な身体を間近で見られるなんて、夢のようだ、、、
孝太は思う。
「休み時間がある学校とは違って、修学旅行はずっと気を張っていなきゃいけないからな、、、」
「本当です。神社で生徒と一緒にはしゃいでいたら、学年主任にちゃんと生徒たちみんなを見ろと怒られちゃいました、、、」
ハハッ
晴真が屈託なく笑った。
「あの人は、真面目だからな、、、」
晴真の笑顔は優しく、孝太は胸が熱くなった。
今、二人の間にギクシャクした空気は流れていない。
あの空気は、僕の気にしすぎだったんだろうか、、、
孝太は思う。
憧れの人と、こんなふうに裸で肩を並べる日が来るなんて、、、
俺は幸福だ、、、
「先輩、お背中、流させていただいて良いですか?」
「お?いいのか?」
「もちろんっす」
二人は湯船を上がる。
桶とタオルを持った孝太は、洗い場の椅子に座った晴真の背中を見る。
広く、厚く、よく鍛えられた背中。背筋のラインが美しく浮かび上がっている。
孝太は真剣な表情でタオルを泡立て、その広い背中を丁寧にこすっていった。
肩甲骨のライン、背筋の隆起、腰に向かって引き締まる体のライン。どれも、努力と鍛錬の結晶だった。
タオルが肌に触れるたび、晴真の背中の温もりが孝太の手に伝わり、筋肉の硬さと柔らかさが交互に感じられる。
広大な背中は、まるで大地のように安定感があり、こする指先に微かな弾力が返ってくる。
孝太の心臓は激しく鼓動し、興奮が体中を駆け巡った。あこがれの人の肌に直接触れているという事実が、甘い疼きを生む。
抱きつきたい、もっと密着したい、、、
そんな衝動が湧き上がるのを必死に抑え、孝太は呼吸を整えながら洗い続けた。
「ほんと、すごい筋肉ですね。理想的です」
「はは、褒めすぎだ。俺なんてまだまだだよ」
そう言って、晴真は少しだけ視線を逸らした。
その横顔に、孝太はまた胸が高鳴るのを感じた。
トレーニングの痕跡が、滑らかな肌の所々に残る治りかけの傷や打ち身の跡、、、
そして、洗い場の椅子にドンと降ろされた尻の発達した二つの肉の塊とその隙間、、、
孝太の感情が掻き乱される。
先ほど湧き上がった背後から晴真先輩の身体に抱きつきたいという気持ちが益々強まり、抑えられない。
その肌の全てに頬を這わせたい、、、
そんな衝動を抑えるのが必死だ、、、
ヤベッ、、、
股間が反応し始めた。
こ、こんなところで、、、
晴真先輩に自分が劣情を抱いているのがバレたら、、、
孝太は焦る。
と、その時。
「おう、なんだ。二人で仲良くやってるじゃねぇか、、、俺も仲間に入れてくれよ、、、」
突然、浴場の入口から声が響いた。
低く、よく通る声。孝太と晴真が同時に振り返ると、タオルを片手に素っ裸で立つ黒崎がそこに居た。
格闘家のような堂々とした体躯。
厚い胸板、広い肩、岩のような腹筋。
全身が逞しい筋肉で覆われ、湯気の中に立つその姿は、まるで異世界の戦士のような迫力があった。
孝太の目は、思わずその身体に釘付けになった。
身長175センチと晴真よりは低いはずなのに、存在感は圧倒的だ。
鎧のように厚く重なり合った筋肉は、肩から胸、腹、太ももまで隙なく覆い、まるで戦うために作られた肉体のように見える。
程よく生えた胸毛が、湯気に濡れて光り、腹筋の溝をなぞるように下へ続き、陰毛へと繋がる黒い毛の流れが、野性的な男らしさを強調していた。
晴真の洗練された美しさとは対照的に、黒崎の身体は原始的な力強さと男臭い魅力に満ちていて、孝太の胸に別の種類のざわめきを起こした。
こんなに荒々しくて、でも魅力的な身体、、、
憧れの晴真先輩とは違うけど、なんか、引き込まれる。
高校生とは思えない男臭い身体、、、
孝太は、自身の感情に戸惑う。
「黒崎。お前、もう入浴時間終わってるだろ」
晴真の声がわずかに強張る。
「野暮なこと言うなよ。生徒が教師、教育実習生と親しもうと思って来てるんだぜ、センセイ」
黒崎は堂々と大浴場の中へ入ってくる。
孝太は思わずその身体に目を奪われてしまう。
不思議な威圧感と、自信に満ちた存在感。
毛深い胸と腹に湯気がまとわりつき、その男臭さは晴真とはまったく違う種類の圧だった。
「さっさと身体を洗って、ゆっくり湯につかって話そうぜ、、、」
黒崎はそう言うと、身体も洗わず風呂に入る。
湯の表面が波立つ。
黒崎の言葉に孝太は湯で晴真の背中の泡を洗い流す。
晴真もまだ背中しか洗っていないのに立ち上がり湯に向かう。
生徒の言葉に教師と教育実習生が従っている。
そして、三人は湯船に並ぶ。
黒崎はじっと孝太の身体を見ている。
まるで獲物を値踏みするように。
165センチの身長は黒崎より低いが、器械体操の選手らしい筋肉の塊が、全身を瘤のように覆っている。
肩の筋肉は丸く盛り上がり、胸板は硬く引き締まり、腹筋は細かく割れて体操選手特有のしなやかさと力強さを併せ持っている。
腕や脚の筋繊維は細やかで、瞬発力を感じさせる。
陰毛と腋毛以外は毛が薄く、すべすべの肌が湯気に光り、まるで少年のような清潔感を保ちつつ、男らしい逞しさを秘めている。
なかなかいい体してるじゃねぇか、こいつ、、、
黒崎は舌舐めずりをする。
「懸垂、今度は負けねぇからな」
「はは、あれは紙一重だったからな!」
「俺様を負かすなんて、孝太先輩、なかなかの体力じゃねーか。次の勝負、楽しみにしてる」
孝太と黒崎は懸垂対決の話で盛り上がる。
孝太の顔は明るく、屈託がない。
黒崎も口数は少ないながら、どこか楽しそうだ。
一方、晴真は二人の会話を、心配そうに見ている。
黒崎がこの場にいること、その圧倒的な存在感、孝太が何も知らずに笑顔で黒崎と会話していること、そのすべてが、彼の胸の奥を強く締め付けている。
何を考えているんだ?黒崎、、、
湯気の中、同じ湯船に並ぶ、逞しい、だが、タイプの違った肉体を持つ三人。
和やかな光景。
だが、その水面下には目に見えない緊張と力の流れが存在していた。
そして、孝太だけがそれに気付かない。
朝から学校の前は大型観光バスが並び、生徒たちの期待と興奮でざわついていた。
スーツの内ポケットにしおりを差し込んだ孝太も、集団の中に立っていた。
だが、配車表を見た瞬間、胸が少しだけ沈んだ。
自分は学年主任のバスで、晴真とは別々の車両だったのだ。
おそらく、実習生の孝太の面倒は学年主任である自分が見なければならないという配慮でだろう。
残念だったが、これは私的な旅行ではなく、公務だ。
ワガママは言ってられないと孝太は考える。
体育教官室で晴真との間に生まれたギクシャクした空気、、、
それから儀礼的、実務的な会話のみで今日を迎えてしまった。
バスに乗り込み出発すると、車内はすぐに修学旅行特有の明るい空気に包まれていく。
学年主任は、早々に最前列で居眠りを始め、生徒達は若く気さくな孝太に話しかける。
孝太もノリ良く応じ、車内は盛り上がる。
晴真とのギクシャクした空気からの胸のつかえは、いつの間にか消えている。
初日の行程は観光地巡りの団体行動だった。
有名な寺社を巡り、ガイドの話を聞きながら生徒たちがわいわいと歩く。
晴真は別グループの担当だったため、接点はほとんどなかった。
遠く引率をしている姿が一瞬見えたが、話しかける隙などない。
宿に落ち着いて、生徒達の消灯時間が過ぎたら話す時間もあるさ、、、
孝太は考える。
夜。
一行は山あいの静かな宿に到着した。
見事な竹林に囲まれたその宿は、昼間の賑やかさとは打って変わって、ひっそりとした空気に包まれている。
生徒たちは大部屋で雑魚寝だ。
教師たちは一人一部屋だが、何かあった時のために、部屋の鍵は生徒も教師も掛けないという決まりがある。
夕食と入浴を終えると、生徒たちは早速、部屋でカードゲームを始めたり、夜景を見に窓辺に集まったりと、修学旅行らしい時間を楽しんでいた。
やがて、消灯時間がやってくる。
三十分ごとに教師が順番に部屋を見回る。
最後に廊下を回って生徒の様子を確認するのは晴真となっていた。
その見回りの前後なら、二人で話すことができるだろう。
生徒の部屋の見回りをする時にくっついていっては、うまく話ができない。
ならば、見回りを終え部屋に戻ったところで、偶然を装って廊下に出て、話しかければいい。
孝太は時計を見ながらタイミングを伺う。
我ながらコソコソしていると思うが、孝太は自分の部屋の入り口に耳を当て、廊下の足音に耳を澄ませた。
落ち着いた足取りが近づいてくる。
晴真だろう。
扉を少し開けそっと覗くと、巡回を終えたジャージ姿の大柄で均整の取れた晴真が廊下を進んでくる。
その姿を目にし、孝太の胸は高鳴る。
無防備で自然な姿であっても、やはり晴真先輩は凛々しい。
感情の高ぶりに思わず扉の隙間から身体が離れる。
その瞬間、、、
ガチャッ
扉が閉まり錠の締まる音が響いた。
孝太の心臓が跳ね上がる。
今の音、、、
覗き見が晴真先輩にバレた?
鼓動がバクバクする。
自分の失態に孝太は頭を抱える。
そうだ、あの時、自然に扉を開けて晴真先輩に話しかければよかったんだ。
廊下の方から、扉の閉まる音がした。
晴真先輩が部屋に入ったのだろう。
バカバカ、、、俺のバカッ!
孝太は自分を責める。
だが、天は孝太を見捨てていなかった。
(それほどのことでもないのだが、孝太にはそんな僥倖に思えた)
しばらくの後、カチャッと扉が開き、誰かが廊下に出てくる気配がした。
先程の失敗から孝太は慎重にドアノブを回し、ゆっくりと扉を開ける。
細い隙間から覗く。
後ろ姿の晴真先輩。
部屋に備え付けられていた大浴場用のバスタオルとフェイスタオル、そして館内着の浴衣が入ったメッシュのバックを片手にぶら下げている。
!
大浴場に行くんだっ!
そこでなら、自然に話せるっ!
そういえば、宿の人が、生徒達には便宜上大浴場の利用時間は9時までとしていますが、先生たちがゆっくりと入れるようにその後も解放しておくので、夜でも早朝でもご利用くださいと言っていた。
孝太は慌てて部屋に戻り、乾かしていたタオルをたたみ、床に放り投げていたメッシュのバックを拾い上げる。
孝太は3年生に誘われ、既に入浴を終えていた。
だが、そんなことにかまっていられない。
ギクシャクした空気を払うためなら、、、
大浴場なら自然に一緒に風呂に入り、当然、言葉を交わす流れに持ち込める。
湯船の中でなら、腹を割って話せるだろう。
孝太はメッシュのバックを抱えて部屋を飛び出し、エレベーターの前に行く。
エレベーターは大浴場のある地下一階まで降りて止まった。
やはり、大浴場へ晴真先輩は行ったんだ。
孝太の心ははやる。
晴真先輩と、二人きりで入るのか、、、
ずっと昔から憧れてきた。
整った顔立ちに、均整の取れた長身の身体。
爽やかな竹を割ったようなサッパリした性格。
体育教師として生徒に人気があるのも納得だ。
それ以上に孝太にとって晴真は、「理想の男性」であり、「目標」でもあった。
ドキドキしながら、暖簾をくぐって脱衣場に入る。
脱いだ衣服が入っている籠は一つだけ。
二人きりだ、、、
妙な緊張感に包まれる。
手早く服を脱ぎ、大浴場に入ると、晴真は湯船の中で肩まで湯に浸かっていた。
湯の表面から鍛え抜かれた肩と胸の筋肉が浮かび上がっている。
光沢を帯びた肌に湯気が絡みつき、そのシルエットはまるで彫刻のようだった。
「おお、孝太。おつかれ」
晴真が少し驚いたように目を細め、柔らかく笑った。
あ、いつもの晴真先輩だ、、、
孝太の胸の緊張が少しだけ解ける。
「先輩! おつかれさまです。いや~、修学旅行って授業とはまた違う緊張がありますね、、、楽しかったけど、、、」
孝太は桶でお湯を汲み、身体にササッとかける。
「失礼しますっ!」
そう言いながら湯船に入り、晴真の近くに並ぶ。
チラッと湯船に浸かる晴真の身体を見る。
鍛えられた長身は、ただ大きいだけでなく、完璧なバランスを保っている。
厚い胸板は力強く張り出し、肩の三角筋は丸みを帯びて滑らかに繋がり、血管の浮き上がる腕の筋肉は細やかな繊維が浮き出るほどに引き締まっていた。
腹筋は六つに割れ、腰に向かってV字に絞り込まれるラインは、まるで芸術作品のように洗練されている。
手足の長さが全体を優雅に引き伸ばし、筋肉の厚みが決して野蛮にならず、均整の取れた美しさを生み出していた。
湯船の中でゆったりと構えるその姿は、この世のものとは思えず、まるで神話の神像が湯に浸かっているかのように、孝太には見える。
こんな完璧な身体を間近で見られるなんて、夢のようだ、、、
孝太は思う。
「休み時間がある学校とは違って、修学旅行はずっと気を張っていなきゃいけないからな、、、」
「本当です。神社で生徒と一緒にはしゃいでいたら、学年主任にちゃんと生徒たちみんなを見ろと怒られちゃいました、、、」
ハハッ
晴真が屈託なく笑った。
「あの人は、真面目だからな、、、」
晴真の笑顔は優しく、孝太は胸が熱くなった。
今、二人の間にギクシャクした空気は流れていない。
あの空気は、僕の気にしすぎだったんだろうか、、、
孝太は思う。
憧れの人と、こんなふうに裸で肩を並べる日が来るなんて、、、
俺は幸福だ、、、
「先輩、お背中、流させていただいて良いですか?」
「お?いいのか?」
「もちろんっす」
二人は湯船を上がる。
桶とタオルを持った孝太は、洗い場の椅子に座った晴真の背中を見る。
広く、厚く、よく鍛えられた背中。背筋のラインが美しく浮かび上がっている。
孝太は真剣な表情でタオルを泡立て、その広い背中を丁寧にこすっていった。
肩甲骨のライン、背筋の隆起、腰に向かって引き締まる体のライン。どれも、努力と鍛錬の結晶だった。
タオルが肌に触れるたび、晴真の背中の温もりが孝太の手に伝わり、筋肉の硬さと柔らかさが交互に感じられる。
広大な背中は、まるで大地のように安定感があり、こする指先に微かな弾力が返ってくる。
孝太の心臓は激しく鼓動し、興奮が体中を駆け巡った。あこがれの人の肌に直接触れているという事実が、甘い疼きを生む。
抱きつきたい、もっと密着したい、、、
そんな衝動が湧き上がるのを必死に抑え、孝太は呼吸を整えながら洗い続けた。
「ほんと、すごい筋肉ですね。理想的です」
「はは、褒めすぎだ。俺なんてまだまだだよ」
そう言って、晴真は少しだけ視線を逸らした。
その横顔に、孝太はまた胸が高鳴るのを感じた。
トレーニングの痕跡が、滑らかな肌の所々に残る治りかけの傷や打ち身の跡、、、
そして、洗い場の椅子にドンと降ろされた尻の発達した二つの肉の塊とその隙間、、、
孝太の感情が掻き乱される。
先ほど湧き上がった背後から晴真先輩の身体に抱きつきたいという気持ちが益々強まり、抑えられない。
その肌の全てに頬を這わせたい、、、
そんな衝動を抑えるのが必死だ、、、
ヤベッ、、、
股間が反応し始めた。
こ、こんなところで、、、
晴真先輩に自分が劣情を抱いているのがバレたら、、、
孝太は焦る。
と、その時。
「おう、なんだ。二人で仲良くやってるじゃねぇか、、、俺も仲間に入れてくれよ、、、」
突然、浴場の入口から声が響いた。
低く、よく通る声。孝太と晴真が同時に振り返ると、タオルを片手に素っ裸で立つ黒崎がそこに居た。
格闘家のような堂々とした体躯。
厚い胸板、広い肩、岩のような腹筋。
全身が逞しい筋肉で覆われ、湯気の中に立つその姿は、まるで異世界の戦士のような迫力があった。
孝太の目は、思わずその身体に釘付けになった。
身長175センチと晴真よりは低いはずなのに、存在感は圧倒的だ。
鎧のように厚く重なり合った筋肉は、肩から胸、腹、太ももまで隙なく覆い、まるで戦うために作られた肉体のように見える。
程よく生えた胸毛が、湯気に濡れて光り、腹筋の溝をなぞるように下へ続き、陰毛へと繋がる黒い毛の流れが、野性的な男らしさを強調していた。
晴真の洗練された美しさとは対照的に、黒崎の身体は原始的な力強さと男臭い魅力に満ちていて、孝太の胸に別の種類のざわめきを起こした。
こんなに荒々しくて、でも魅力的な身体、、、
憧れの晴真先輩とは違うけど、なんか、引き込まれる。
高校生とは思えない男臭い身体、、、
孝太は、自身の感情に戸惑う。
「黒崎。お前、もう入浴時間終わってるだろ」
晴真の声がわずかに強張る。
「野暮なこと言うなよ。生徒が教師、教育実習生と親しもうと思って来てるんだぜ、センセイ」
黒崎は堂々と大浴場の中へ入ってくる。
孝太は思わずその身体に目を奪われてしまう。
不思議な威圧感と、自信に満ちた存在感。
毛深い胸と腹に湯気がまとわりつき、その男臭さは晴真とはまったく違う種類の圧だった。
「さっさと身体を洗って、ゆっくり湯につかって話そうぜ、、、」
黒崎はそう言うと、身体も洗わず風呂に入る。
湯の表面が波立つ。
黒崎の言葉に孝太は湯で晴真の背中の泡を洗い流す。
晴真もまだ背中しか洗っていないのに立ち上がり湯に向かう。
生徒の言葉に教師と教育実習生が従っている。
そして、三人は湯船に並ぶ。
黒崎はじっと孝太の身体を見ている。
まるで獲物を値踏みするように。
165センチの身長は黒崎より低いが、器械体操の選手らしい筋肉の塊が、全身を瘤のように覆っている。
肩の筋肉は丸く盛り上がり、胸板は硬く引き締まり、腹筋は細かく割れて体操選手特有のしなやかさと力強さを併せ持っている。
腕や脚の筋繊維は細やかで、瞬発力を感じさせる。
陰毛と腋毛以外は毛が薄く、すべすべの肌が湯気に光り、まるで少年のような清潔感を保ちつつ、男らしい逞しさを秘めている。
なかなかいい体してるじゃねぇか、こいつ、、、
黒崎は舌舐めずりをする。
「懸垂、今度は負けねぇからな」
「はは、あれは紙一重だったからな!」
「俺様を負かすなんて、孝太先輩、なかなかの体力じゃねーか。次の勝負、楽しみにしてる」
孝太と黒崎は懸垂対決の話で盛り上がる。
孝太の顔は明るく、屈託がない。
黒崎も口数は少ないながら、どこか楽しそうだ。
一方、晴真は二人の会話を、心配そうに見ている。
黒崎がこの場にいること、その圧倒的な存在感、孝太が何も知らずに笑顔で黒崎と会話していること、そのすべてが、彼の胸の奥を強く締め付けている。
何を考えているんだ?黒崎、、、
湯気の中、同じ湯船に並ぶ、逞しい、だが、タイプの違った肉体を持つ三人。
和やかな光景。
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篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
寮生活のイジメ【社会人版】
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BL
田舎から出てきた真面目な社会人が先輩社員に性的イジメされそのあと仕返しをする創作BL小説
【この小説は性行為・同性愛・SM・イジメ的要素が含まれます。理解のある方のみこの先にお進みください。】
全四話
毎週日曜日の正午に一話ずつ公開
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
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