聖職より堕ちた教師 純一の場合

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教員室~猛者の目覚め SIDE:浜田

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浜田は激しく音を立て、シャワーブースの扉を閉めた。

教師の彫刻のような身体が、曇りガラスの向こうに肉色のシルエットとして浮かび上がる。

正した姿勢から、モゾモゾと下腹部を襲う苦痛を我慢する体勢に変わる。

菊池が用具室の扉を開き、震えている水島の腕を取り、外に出す。

浜田はどんな時も、どっしりとした落ち着きを崩さない。

磨りガラスの内側で身悶える教師のシルエットも怯えた様子の水島の事も意を介さぬようにロッカー室の出口に向かう。

4人は教員用ロッカールームから外へ出た。

浜田が教員室の応接設備のソファにドカっと座る。

栗山はその前に座り、菊地と水島はその横に立っている。

二人はくつろいでいる。

「ぼ…僕…帰ります…帰りますっ…」

怯えた声で水島が言い、自分を抱えた菊池の腕から身を解こうとした。

「おいっ、ここまで来てそれはないだろう。どうせなら、最後まで見てけよ。お前は今夜のサプライズゲストだ」

浜田が水島に言う。

菊池は後ろから水島の身体を抱えるような体勢になっている。

「そんなに怯えるなよ。驚いたか?憧れの先生の思いもしない姿を見て」

その声は、ボクシングで鍛えられたシャープで刃物のような見た目と裏腹に優しさを帯びていた。

菊池は机の上に投げ出すように置かれた自分の鞄からペットボトルの水を出すと、水島に差し出した。

「飲んで、落ち着けよ」

言われたまま水を飲むサッカー部のエース。

気が動転してるのだろう、顔からはいつもの爽やかさは消え、青ざめている。

その二年生を見ながら、浜田の中にムクムクと黒い煙のようなものが湧いていた。

自分に屈しているはずの教師、そしてその教師が可愛がっているサッカー部の生徒。

その生徒の姿を見ていると、今まで感じたことのない黒い澱が胸の内に溜まっていく嫌な気持ちを味わう。

もちろん、浜田はその2年生に恨みなどなく、いたぶる言われもない。

だが、面白くないのだ。

そのやり場のない気持ちが、年長の教師への八つ当たりのような惨い仕打ちに繋がるのだが。

目の前のサッカー部の二年生を見て脳裏をよぎってくる、菊池、栗山と校舎の屋上から見ていた校庭でのサッカー部の交流試合。

春休み。

やることもないので、溜まり場としている校舎の屋上に3人は居た。

眼下のグラウンドでの親善試合。

競り合い、初めてその対戦相手に勝ったサッカー部員たちは歓喜を隠そうとせず、お互いに抱き合い、そして顧問の教師にも次々抱きついた。

そして教師も、喜びに溢れた顔で、生徒たちと次々抱き合い、頭を撫で、最後に部員達から胴上げをされた。

最初に、顧問教師、来生に飛びついたのが水島だった。

その時、目の前で繰り広げられる陳腐な学園モノのような爽やかぶった光景を白けた目で見ていたが、生徒たちの手で胴上げされ、宙に浮く大柄な爽やかな教師の肢体は印象に残った。

「あの来生って教師、チンチンがメチャクチャでかいんだよ」

校内なのに下着1枚の栗山が言った。

その手は、上半身にシャツを羽織っているものの下はボクサーブリーフのみの菊池の股間に当てられている。

指が優しくまさぐっている。

「あん、あの爽やかぶった嫌味な野郎か」

露骨に不機嫌な口調で菊池が言う。

「青春ぶってマジ、ウザい奴っ」

「去年のプールの授業の時、半端のないデかさで驚いた。スイムウェアを引っ剥がしちゃいたかった。ケツにぶっこんで欲しい」

「てめぇ、体育の授業中になに考えてんだ」

そんな菊池と栗山のやり取りを聞きつつ、浜田はもう校庭のサッカー部の試合からは興味を失い、体育倉庫から勝手に屋上に持ってきたマットに向かい正拳の練習を始めた。

栗山が跪き、腰を付き出した菊池の股間をしゃぶり始めたのにも気を向けない。

もう、今日はすでに栗山の尻に2度も放出していて、欲望は満たしていた。

浜田は、自分の格闘の技を磨く以外の事にはほぼ、興味が湧かなかった。

中学時代から、骨太の体格で、普段は無口で静かだが、キレると手がつけられない性格で、匙を投げた教師からも腫れ物扱いをされていた。

高校入学時には、もうマイペースに好き勝手過ごす癖がついていた。

同級生はガキばかりで、真面目に会話をする気にはならない。

授業も退屈だ。

学校では何も学ぶことはないと冷めた気分で、取り敢えず学校には来るが屋上で過ごす時間の方が多い。

だが、この学園に入学してからしばらくして、彼は思いもかけず大きなことを学ぶ。

それはガタイのいい大人の男を服従させ、奉仕をさせることの喜びだった。

皮肉なことに浜田にそれを教えたのは、彼にとって鬱陶しく退屈な大人の象徴だった教師である。

尊大で偉そうに振る舞うその教師は、体育科だった。

ラグビーをやっていたらしく、頑丈な身体。

盛り上がった筋肉に脂肪が程好く乗った身体。

30を過ぎたばかりの男盛り。

自分でもその腕力を分かっていたのだろう。

竹刀を片手に生活指導を厳しく行っていた。

それは行き過ぎたものだったが、生徒たちはもちろん同僚教師達もその粗暴な教師に、口を出さなかった。

教師という立場で、生活指導を名目に、自らの立場を誇示する矮小な男。

登校時刻には校門の脇に立ち遅刻しそうな、あるいは遅刻した生徒を怒鳴りつける。

制服の乱れは容赦なく摘発する。

そんな教師の目に新入生なのに太々しい浜田が止まらないわけがない。

ネクタイを緩めにし、シャツもはだけた浜田の服装に入学早々から難癖をつけ始めた。

煩がりながらも最初のうちは従っていたが、次第に無視するようになる浜田。

そうすると短気でプライドも高い体育教師もムキになる。

一触即発の状態が何度か訪れた。

微妙な均衡のなかでの緊張が続く。

手に持つ竹刀で、生徒を打てば、社会的な問題になるのは教師も分かっている。

だが生徒もそれを分かっており、教師がいくら竹刀を振り下ろし、地面に叩きつけ威嚇してきても、挑発に乗らず涼しい顔で無視する。

それが教師をさらに怒らせる。

そして、その体育教師は気に入らない生徒をやっつける手段を心得ていた。

授業中にその一環としてやるのだ。

K学園の体育の授業のプログラムに柔道は伝統的に組み込まれていた。

その柔道の授業中、乱取りの最中に気に入らない生徒を締めるのだ。

投げ技…寝技…足払い…生徒がギブアップしても更に続ける。

大抵の生徒はそれで、教師に従うようになる。

「何度も言わせるなっ!制服をきちっと着ろっ!」

「うっせぇな…てめぇも教師のくせに髭面だろっ!」

朝の校門で睨み合う教師と新入生。

「よし、分かった。勝負をしよう」

「勝負?」

その日、突然の教師の言葉に生徒…浜田は虚を突かれた。

「今日の柔道の授業。俺と乱取りをしろ。勝てとは言わん。万が一、俺に技を決めることが出来たら、何でも一つ言うことを聞いてやる。真剣にかかってこい。その代わり、少しも技をかけられなかったら態度を改めろ」

体育教師は絶対の自信を持っていた。

技をかけられる云々の前に、浜田と乱取りを組み、ボコボコにするのが狙いなのだ。

「ああ、解ったよ。真剣勝負だなっ。受けて立つよ」

そして柔道場。

準備体操、数組に分かれての乱取り、やがて授業も中盤を過ぎたころ試技だと言い体育教師は、他の生徒は柔道場の壁沿いに座らせ、浜田を前に呼び出す。

同級生たちの前で浜田を授業の名目で、嬲り、恥をかかせることが目的だったのだ。

向かい合う二人。

真剣な顔で組み合う。

そして、すぐに教師の顔色が変わる。

今までの生徒とは違い容易ならざる相手と悟ったのだ。

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