聖域で狩られた教師 和彦の場合

リライト 混乱

「白川学年主任、ここで長々と話しているのもまずい。あ、君たち、こちらで、少し打ち合わせがあってね、ちょっと向こうへ行っていなさい」

学園長が低音の穏やかな声で、扉の外、体育倉庫に近付いてきた生徒たちに告げる。

生徒達は思わぬところに現れた学園長の姿に緊張し、体育倉庫前から離れる。

後ろに学年主任の姿があったことも大きかっただろう。

和彦が勃起していることには気付かず、離れていく。

生徒が離れたことを確認し、白川学年主任が口を開く。

「杉山君、君はこれから授業じゃないのかね？」

 白川の低い、ドスの効いた声が響く。

白川は細身の身体に、陰険な目付きと表情が特徴の上品な昔風のイケメンだ。

体育会陸上部出身で、高校時代に記録を叩き出し、名門大学に推薦で進学した過去を持つ。

しかし、己の才能を過信し、トレーニングを怠り、コーチや上級生の忠告を無視した結果、記録は落ち、後輩に追い越された。

焦った白川は、後輩を「根性鍛錬」と称してイビり、強引に敬わせようとしたが、コーチやOBに知られるところとなり、糾弾され、退部を余儀なくされた。

退部により、実業団への道も閉ざされ、教員免許を取得して現代国語の教師となったが、陰湿な性格は変わらず、赴任先で後輩を甚振るパワハラ問題を起こし、職を失いかけたところを学園長に救われ、この学園に赴任してきた。

だから、学園長には頭が上がらない。

まあ、学園長に頭が上がらない理由は他にもあったのだが、、、

「いいですか？ 理不尽なハラスメントを行った時には、即、学園を去っていただきます」

断固たる口調で、幹部教員達の前で申し渡された白川は、表向き大人しくしている。

暴力等のあからさまなハラスメント行為は抑えているが、粘着質な性格は隠せず、ネチネチした叱責に後輩教師や生徒からの支持は得ていない。

表立ってハラスメントを封じられた分、性格の陰湿さが増してしまったのだ。

今、そんな抑圧された目の前に、学園長のお気に入りで生徒から慕われる和彦がいる。

爽やかで人懐っこい態度が、昔から白川の嫉妬を掻き立てるタイプの男だ。

学園長が気に掛けているのも気に入らない。

赴任早々、生徒たちに囲まれ、グラウンドで楽しげに過ごす姿は、白川には見ているだけで耐えがたい。

鬱陶しいガキ、、、

そう憎々しく思っていた。

その和彦が体育倉庫で股間をモッコリさせているみっともない現場を押さえた。

格好の獲物だ。

これならば、どう叱責しようが文句は言われないだろう。

白川の嗜虐癖に火が付き、冷酷な笑みが浮かぶ。

さて、どう料理しようか、、、

そんな考えが伝わってくる。

「学園長が仰ったように、たまには校内巡回をしてみるものですねぇ。私は後輩教師を信用しすぎていたようです。まさか、校内で発情するようなフシダラな教師がいるとは思ってもいなかった」

学園長に媚びつつ、和彦を責める。

「一体、君は、何を、考えているんですか？その股間の、その膨らみは、一体、何ですか？説明して、もらいましょうか、、、」

 一言一言を区切り言う。

その一言一言が和彦の胸を突く。

「申し訳ありません、、、自分でも訳が分からないうちにこんなになってしまいました、、、」

蚊の鳴くような声で答える。　

顔は真っ赤に紅潮し、鍛えられた身体を縮こませ、消え入りそうな姿だ。

羞恥が心を締め付け、精神は崩壊寸前だ。

「まさか、君は、授業中からそんな状態だったのか？ だとしたら、とんだ変態だ。親御さん達にも顔向けが出来ない。まさか、生徒達に発情していたのか？」

白川が続ける。　

「そんなことありません。誓います。生徒達にそんな感情は抱いていません！」

和彦の頬が恥ずかしさにピクピクと引きつる。

必死に堪えた涙が一筋、頬を伝う。

鼻を啜る音が混じる。

「ならば、なぜ、勃起しているのだ？ん？若いとはいえ、場所をわきまえないとは、猿と一緒だ。まさか、君は、これから体育倉庫で自慰行為にでも及ぶつもりだったのかね？ならば、止めん。生徒達が来る前に、さっさと扱きなさい」

和彦の顔が屈辱に震える。

あまりの言葉に怒りも湧くが、勃起姿を押さえられ、言い返せる状況ではない。

和彦は首を振る。

「ん？ここで自慰する気だったんだろ？」

「そ、そんな気はありません、、、校内で自慰なんて、、、出来ません、、、」

「ほぉ、、、では、、、」

さらに和彦を追い込もうとする白川を学園長が止めた。

「まぁ、白川学年主任、落ち着きなさい。杉山先生も若いんだ。生理的現象は致し方ないだろう。まぁ、場所にもよりますがね、、、」

穏やかに言う。

そのフォローの言葉もまた、和彦には心苦しい。

「杉山先生、まもなく６時限目の授業が始まるが、君は確か、二年の授業じゃなかったか？」 

学園長の言葉に、和彦はコクンと頷く。

「自慰行為をしないということは、まさか、君は、この勃起状態で授業をする気だったのか？ 股間を膨らませた状態で、、、呆れたもんだ、、、まさか性教育を実地で始める気ではないだろうな。自分の身体を使って実地の性教育など、穢らわしい」

白川が意地悪く言う。　

「まさか、人前で射精をするのが快感だと言い出すんじゃないだろうな、、、露出狂など、教師としてあるまじきことだぞ。君にはそんな歪んだ性癖があるのか？」

和彦の身体がプルプルと痙攣するように震える。

あまりの言いがかり、、、

だが、なんて答えていいのか分からない。

勃起しているのは事実なのだ。

そして、ほんの数分後に６限目の授業は始まる。　

学園長が口を開く。

「ここで話をしていても仕方がない。場所を移しましょう。６時限目の杉山先生の体育は自習としましょう。たまには自由に過ごさせることも生徒達には良いことでしょう。杉山先生、自習ということでいいですな」

「申し訳ありません…自習でお願いします」

和彦は蚊の鳴くような掠れた小声で答えた。

「自習でいいのかね。せっかくの杉山先生の実地の性教育を邪魔してしまったなら申し訳ない。こうして、折角、勃起させて準備もしているのだから、、、見事な身体だから、他人に見せたくなる露出癖があってもおかしくはないが、生徒の前でいきり立ったモノを出すのは、教育とはいえ感心しないけれどもね」

白川が唇を歪めて言う。

「じ、自分は露出狂ではありません。本当です。露出狂じゃ、、、」

混乱の中で何を言いたいのかも分からないまま謝る。

鳴き声になっている。

「あっ！あぁっ、止めてくださいっ！」 

和彦の口から情けない悲鳴が漏れる。

白川が三度、和彦の股間をギュッと握ったのだ。

体育館から生徒たちの不満げな声が聞こえる。

体育倉庫の外へ出た学園長が生徒たちに自習を告げたのだ。

白川は和彦の股間を握ったまま、揉むように動かす。

う、ウオッ、、、

押さえたのに小さな声が漏れてしまう。

白川が与えた刺激が股間から脳天に駆け上がり、感じてしまったのだ。

「若いだけあってでかくて固いなぁ。これは見せたくもなる」

そう嘲笑する。

「か、勘弁してください、、」

 和彦は白川の腕を掴み、離そうとするが、ジンジンと広がる快感に身体が震える。

昼の「あぶりカルビゲーム」で飲んだ罰ゲームの苦いお茶に、催淫剤が大量に混入されていたことなど、和彦は知る由もない。

「生徒たちには自習を命じて教室に帰しました。もう体育館に生徒はいません。人がいない間に、ひとまず校長室へ行きましょう」

学園長が言い、背後から和彦の腰に手を回して押す。

校長の暖かい掌が背中から脇腹に触れ、ザワッと甘い快感が走る。和彦の混乱はさらに深まる。

そして、学園長の手が腰に回された和彦の背を白川が憎々しげに見る。